山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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ジュニエスの戦い

68 誇り

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 ジュニエス河谷かこくの戦い四日目の日が落ち、ソルモーサン砦に戻ったリードホルム軍の兵士たちは戦勝に沸いていた。トールヴァルド・マイエルの参戦によって前日までの劣勢をくつがえし、反逆者アルフレド・マリーツも速やかに打倒されたことで、疲労の極にありながらも全体の士気は高い。
 だが、そんな一般兵たちの雰囲気とは裏腹に、指揮官たちの集まるソルモーサン砦の会議室は重苦しい空気が充満していた。
 会議室には総司令レイグラーフを始めとして、ノア、ラインフェルトとマイエル、その副官たち、近衛兵隊長フリークルンドと副隊長ハセリウス、連隊長と大隊長を合わせて二十人ほどが一堂に会している。
 この日の戦いがリードホルム軍の勝利に終わったことに異を唱える者はいない。だが、勝ち切れなかったという悔恨かいこんの情が、室内にいる全員を包み込んでいた。
 明日のための軍議は積極的な発言も少なく、しばしば会議室は気まずい静寂に包まれる。特に、マイエルの参戦という壮大な組曲を演奏しきれなかった、作曲者ウルフ・ラインフェルトの悄然しょうぜんのほどは深い。そのラインフェルトの隣の席で、腕組みをして軍議を傍観ぼうかんしているだけだったマイエルが、呆れたように口を開いた。
「沈んでおるのう、ラインフェルトよ」
「マイエル……すまないな。無理に呼んでおきながら、この有様だ」
「相変わらず余計なものまで背負い込みおって」
「それが性分でな」
「あるだけ心配事を抱え込んで、よくそれだけ髪が残っておるものだ。我なら心労ですべて抜け落ちておるだろうよ」
 周囲を気にせず笑うマイエルに、レイグラーフが咳払いで私語を制した。

 マイエル自身は窮地きゅうちのリードホルム軍を救う活躍ぶりだったが、マリーツの反逆に対応したため、持てる力のすべてをノルドグレーン軍にぶつけることができなかった。
 マイエルが的確にレーフクヴィスト連隊の弱点を突き、その傷口を拡げるようにマリーツが敵陣を崩しにかかる――ラインフェルトの思い描いたとおりに戦況が推移していれば、ノルドグレーン軍の実働兵士数は多くても11000程度まで減少し、マイエルの部隊2000を加えたリードホルム軍は6000以上にまで戦力を回復したはずだった。まだまだ劣勢ではあるが、開戦時よりも戦力差は縮まる。
 そして、マイエルがボルガフィエルからの移動中に先を急ぐあまり、道中で振り落としてきた歩兵部隊が到着すれば、戦力はさらに拮抗する。ノルドグレーンの指揮官ベアトリス・ローセンダールがそれをきらい、戦況の泥沼化を避けるため大幅な戦術の転換を図れば、必ずそこにすきが生まれる――それこそがラインフェルトの狙いでもあったのだ。
 だが現実には、ノルドグレーン軍に戦力の維持を許したばかりか、リードホルム軍は同士討ちで数をすり減らしている。四日目終戦時の両軍の総数は、13000対5000という数字に帰結した。これほどの戦力差があれば、ベアトリスは焦ることなく、リードホルム軍を押し潰すように長期戦の構えで戦うことができる。

「やむを得ん、ここはソルモーサン砦での籠城ろうじょう戦に移行しよう」
 腕組みをして渋面じゅうめんで卓上の地図を見下ろすレイグラーフが、重い口を開いた。
「……レイグラーフ将軍、おそらくこの砦では、ノルドグレーン軍の攻撃を一日持ちこたえることもできないでしょう」
「そして東のキルナ平原で戦うわけか。圧倒的多数のノルドグレーン軍に包囲されながら」
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