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ジュニエスの戦い
44 仮面 4
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数日前、山賊団の拠点にいたリースベット宛に、奇妙な荷物と書簡が届けられた。
二本の短剣と軽装防具一式、リードホルムの国章が描かれた腕章が数十枚、それと顔の上半分を覆う仮面だ。防具は非常に精巧な作りで、冬の戦場に合わせ、防寒のため裏地に毛皮が貼り付けてある。
そして何より、リースベットに誂えたように寸法がぴったりだった。
配達係の男は、リードホルム王家の使いだと名乗っていた。
同封されていた書簡を読みながら、リースベットはしばらくのあいだ肩を震わせていた。
「……よう。また会えるとはな……」
「よく来てくれた……」
「貴様、ノア様に対して何という口の利き方。仮面も取らずに」
「メシュヴィツ、構わん」
リードホルム軍の誰もがかしこまるノアに対して、横柄ともとれる態度のリースベットに、補佐官メシュヴィツが苦言を呈した。
リースベットは面倒くさそうに左手で頭をかいている。
「しかしノア様……貴様、まず名を名乗らんか!」
「名前……あー、えーとアネモネ」
「アネモネだと? 花の名前ではないか」
「うるせえな、それで通ってんだよ」
「彼女は傭兵なんだ。腕は確かだぞ、並の連隊長などでは勝負にならないほどにな」
「なんと……ま、まあこの状況下で、参戦してくれたことには礼を言おう」
「礼を言うって態度じゃねえだろ、そりゃ」
「何を!」
リースベットもメシュヴィツも、互いに態度を改めることなく角突き合わせている。
ノアは軽くため息をついた。
「メシュヴィツ、馬を用意してくれ。私はこの者とともに各部隊を回り、士気高揚を呼びかけてくる。レイグラーフ将軍には、そのように申し伝えておいてくれ」
「ノア様、危険です! 御身に何かあっては」
「言ったろう、腕は確かだと。彼女に護衛を務めてもらう。万が一にも危険はないよ」
「で、では警護の兵を」
「そんな余裕があんのか? それに護衛をぞろぞろ連れて歩いたら、ここに王子様がいますよ、って敵に教えてるようなもんじゃねえか」
「ぬう……確かにそれは……」
二人の言葉に折れたメシュヴィツは、渋々近侍の兵に馬を手配させた。
「メシュヴィツさんよ、心配すんな。何しろあたしは近衛……」
リースベットは慌てて口を濁す。
「ふん、近衛兵と互角だとでも言いたいのか」
「まあ見てなって」
「……ノア様、くれぐれも最前線には出ませぬよう。流れ矢にお気をつけください」
「わかっている」
「メシュヴィツ様、こちらでよろしいですか……?」
下士官の一人が、堂々たる体躯に鎧をまとった装甲騎馬を連れてきた。
リースベットが空を舞うように飛び乗り、壮麗な飾り付きの鞍にまたがる。
リースベットとノアは四年ぶりに、同じ方角を向いて歩み出した。
二本の短剣と軽装防具一式、リードホルムの国章が描かれた腕章が数十枚、それと顔の上半分を覆う仮面だ。防具は非常に精巧な作りで、冬の戦場に合わせ、防寒のため裏地に毛皮が貼り付けてある。
そして何より、リースベットに誂えたように寸法がぴったりだった。
配達係の男は、リードホルム王家の使いだと名乗っていた。
同封されていた書簡を読みながら、リースベットはしばらくのあいだ肩を震わせていた。
「……よう。また会えるとはな……」
「よく来てくれた……」
「貴様、ノア様に対して何という口の利き方。仮面も取らずに」
「メシュヴィツ、構わん」
リードホルム軍の誰もがかしこまるノアに対して、横柄ともとれる態度のリースベットに、補佐官メシュヴィツが苦言を呈した。
リースベットは面倒くさそうに左手で頭をかいている。
「しかしノア様……貴様、まず名を名乗らんか!」
「名前……あー、えーとアネモネ」
「アネモネだと? 花の名前ではないか」
「うるせえな、それで通ってんだよ」
「彼女は傭兵なんだ。腕は確かだぞ、並の連隊長などでは勝負にならないほどにな」
「なんと……ま、まあこの状況下で、参戦してくれたことには礼を言おう」
「礼を言うって態度じゃねえだろ、そりゃ」
「何を!」
リースベットもメシュヴィツも、互いに態度を改めることなく角突き合わせている。
ノアは軽くため息をついた。
「メシュヴィツ、馬を用意してくれ。私はこの者とともに各部隊を回り、士気高揚を呼びかけてくる。レイグラーフ将軍には、そのように申し伝えておいてくれ」
「ノア様、危険です! 御身に何かあっては」
「言ったろう、腕は確かだと。彼女に護衛を務めてもらう。万が一にも危険はないよ」
「で、では警護の兵を」
「そんな余裕があんのか? それに護衛をぞろぞろ連れて歩いたら、ここに王子様がいますよ、って敵に教えてるようなもんじゃねえか」
「ぬう……確かにそれは……」
二人の言葉に折れたメシュヴィツは、渋々近侍の兵に馬を手配させた。
「メシュヴィツさんよ、心配すんな。何しろあたしは近衛……」
リースベットは慌てて口を濁す。
「ふん、近衛兵と互角だとでも言いたいのか」
「まあ見てなって」
「……ノア様、くれぐれも最前線には出ませぬよう。流れ矢にお気をつけください」
「わかっている」
「メシュヴィツ様、こちらでよろしいですか……?」
下士官の一人が、堂々たる体躯に鎧をまとった装甲騎馬を連れてきた。
リースベットが空を舞うように飛び乗り、壮麗な飾り付きの鞍にまたがる。
リースベットとノアは四年ぶりに、同じ方角を向いて歩み出した。
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