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ジュニエスの戦い
37 不羈の戦士 2
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ノルドグレーンのハンメルト連隊長は、フリークルンドの猛威に最も晒されながらも、粘り強く戦闘を続けていた。
「D編成!」
遠く後方で鏡に反射された陽光が四度きらめいたのを見て取り、ハンメルトは麾下の全兵力に向け、短い符牒で指示を出した。
「第一大隊は戦線維持しつつ後退!」
「第四大隊、小隊番号の大きい方から左側背に移動し傾斜陣を作れ!」
「我らは第四大隊のさらに後方だ!」
それを受けた下士官たちが、各々が直接指揮する部隊を迅速に移動させてゆく。
「……何だ?」
ハンメルト連隊の第二大隊後方に抜けたフリークルンド隊は、眼前に広がる異様な光景に足を止めた。
後方ではリードホルム軍と、陣形を崩されたノルドグレーン軍が戦いを続けている。
これまで敵陣突破後には、必ず次のノルドグレーン軍の横陣が防壁を構えていた。だが今回は、彼らはずっと遠く距離を置いて守りを固めている。まるで近衛兵を自陣深くに誘い込むように。
そして開かれた、なだらかな上り坂の先には、先日はるか遠くに見たベアトリスの戦闘馬車が、婉然たる姿でそびえていた。
「罠か?」
「おそらくは……」
「昨日の今日ではな」
「ですがあの距離なら、昨日の特殊陣形は展開できません」
ベアトリスの露骨な前進を警戒しつつも、フリークルンドの頭の片隅にはやはり、自分の手で敵指揮官を討って戦争を終わらせる、という功名心がちらついていた。
「一体何を意図して、敵はあのように明け透けな罠を……」
「うむ……だが、策略家のじじいの言いなりを続ける必要もなかろう。俺たちは軍の飼い犬ではない」
「行かれるのですか?」
「ああ。心配するな、深追いはせん。まずは至近の戦闘馬車を叩くぞ!」
「……わかりました。隊長に続け!」
ハセリウスはフリークルンドが血気に逸りすぎていないことに頷き、あとに控える十一名の近衛兵に呼びかけた。
左右から飛来する矢をものともせず、ひとかたまりの飛礫となった近衛兵が、薔薇の生け垣のような戦闘馬車めがけて突進してゆく。
「やはり張りぼてか!」
戦闘馬車に近付いたフリークルンドが、舌打ちとともに言い捨てた。戦闘馬車には守備の弓兵こそ搭乗しているが、その上の座席に立つベアトリスは精巧な人形に過ぎなかった。
フリークルンドが腹いせのように戦闘馬車を強打すると、落雷のような轟音とともに前輪が浮き上がり、車体が傾いてベアトリスの人形が倒れた。
「本物はこちらでしてよ!」
フリークルンドが声のした方角を向くと、そちらには本物のベアトリスの姿があった。
密集陣形をとる多数の守備兵に囲まれ、近衛兵を見下ろしている。その前後には、同じ型の戦闘馬車が複数台、間隔を開けて配置されていた。
「おのれ、この俺を愚弄しおって!」
「D編成!」
遠く後方で鏡に反射された陽光が四度きらめいたのを見て取り、ハンメルトは麾下の全兵力に向け、短い符牒で指示を出した。
「第一大隊は戦線維持しつつ後退!」
「第四大隊、小隊番号の大きい方から左側背に移動し傾斜陣を作れ!」
「我らは第四大隊のさらに後方だ!」
それを受けた下士官たちが、各々が直接指揮する部隊を迅速に移動させてゆく。
「……何だ?」
ハンメルト連隊の第二大隊後方に抜けたフリークルンド隊は、眼前に広がる異様な光景に足を止めた。
後方ではリードホルム軍と、陣形を崩されたノルドグレーン軍が戦いを続けている。
これまで敵陣突破後には、必ず次のノルドグレーン軍の横陣が防壁を構えていた。だが今回は、彼らはずっと遠く距離を置いて守りを固めている。まるで近衛兵を自陣深くに誘い込むように。
そして開かれた、なだらかな上り坂の先には、先日はるか遠くに見たベアトリスの戦闘馬車が、婉然たる姿でそびえていた。
「罠か?」
「おそらくは……」
「昨日の今日ではな」
「ですがあの距離なら、昨日の特殊陣形は展開できません」
ベアトリスの露骨な前進を警戒しつつも、フリークルンドの頭の片隅にはやはり、自分の手で敵指揮官を討って戦争を終わらせる、という功名心がちらついていた。
「一体何を意図して、敵はあのように明け透けな罠を……」
「うむ……だが、策略家のじじいの言いなりを続ける必要もなかろう。俺たちは軍の飼い犬ではない」
「行かれるのですか?」
「ああ。心配するな、深追いはせん。まずは至近の戦闘馬車を叩くぞ!」
「……わかりました。隊長に続け!」
ハセリウスはフリークルンドが血気に逸りすぎていないことに頷き、あとに控える十一名の近衛兵に呼びかけた。
左右から飛来する矢をものともせず、ひとかたまりの飛礫となった近衛兵が、薔薇の生け垣のような戦闘馬車めがけて突進してゆく。
「やはり張りぼてか!」
戦闘馬車に近付いたフリークルンドが、舌打ちとともに言い捨てた。戦闘馬車には守備の弓兵こそ搭乗しているが、その上の座席に立つベアトリスは精巧な人形に過ぎなかった。
フリークルンドが腹いせのように戦闘馬車を強打すると、落雷のような轟音とともに前輪が浮き上がり、車体が傾いてベアトリスの人形が倒れた。
「本物はこちらでしてよ!」
フリークルンドが声のした方角を向くと、そちらには本物のベアトリスの姿があった。
密集陣形をとる多数の守備兵に囲まれ、近衛兵を見下ろしている。その前後には、同じ型の戦闘馬車が複数台、間隔を開けて配置されていた。
「おのれ、この俺を愚弄しおって!」
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