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ジュニエスの戦い
2 同盟破棄 2
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「そもそもリースベットがアムレアンに大人しく討たれておれば、このような事態にはならなかったのだ。王家に仇なす溢れ者めが……」
岩を荒く削り出したような無骨な顔を上げ、フリークルンドが口を開いた。
「陛下……その一件は、アムレアンのみに任せた俺にも責任の一端があろうかと存じます。ご下命いただけば、必ずや逆賊が首をこの手で……」
「いや、今はよい。そなたらにはやらねばならぬことがある」
過去を浮遊していたヴィルヘルムの精神が現在に戻ったようだ。ようやく式次に沿って事が進みだす。
「……そう、そなたらの任命であったな」
「過分のご配慮、痛み入ります」
ヴィルヘルムは近似の者から一枚の羊皮紙を受け取り、咳払いをした。
「ヴォールファート、ステンホルム、エーマン。汝三名は、今日よりフリークルンド隊の配下として王室が近衛兵たる任を全うせよ。前体制下の確執は過去のものとし最善を尽くすべし」
「御意」
この勅令により、近衛兵フリークルンド隊は彼らを加え十六名の小隊となった。この三人は、アムレアンがリースベットに敗北したさまを目の当たりにし、逃げ帰ってきた者たちだ。
ヴィルヘルムは彼らの顔を見てその事実を思い出したのか、ふたたびリースベットに向けた呪詛の言葉を吐いた。
「そもそも、あやつが守護斎姫の任を拒否したところから、ノルドグレーンとの関係がこじれてきたのだ。リースベットめ……」
たったいま読み上げた勅書を、ヴィルヘルムは怒りのあまり握りつぶした。
「陛下、アムレアンの敗北を捨て置いては、このノーラント世界における近衛兵の武名に傷がついたままです。何卒、機が熟し次第、この俺に雪辱を……」
「わかっておる。しかし、そなたらの当面の敵は、ノルドグレーン軍と心得よ」
「は、拳拳服膺いたします。ノルドグレーンの賤民どもに、ターラナ戦争の恐怖をふたたび味あわせてやりましょう」
ノルドグレーンが圧倒的な軍事力を誇りながら、それでもリードホルムの近衛兵を警戒し続けていた理由は、両国の置かれた地理的条件だった。
峻厳なノーラント山脈によって隔てられた両国のあいだには広大な平地が少なく、大軍を展開できる戦場が限られている。そのため、どれほどノルドグレーンの軍事力が増大しても、侵攻にあたって数的有利を活かせる戦場を選べないのだ。
少数の強兵、すなわち近衛兵がいれば地の利を活かして戦局を優位に展開できるリードホルムに対し、ノルドグレーンは侵攻にも戦闘にも補給上の負担は大きい。
過去の戦果からノルドグレーンは近衛兵の存在を強く警戒しており、南部のターラナ平原獲得以後八十年余りのあいだ、リードホルムに侵攻することはなかった。近衛兵が戦時にもたらす損害があまりに未知数で、利にさとい彼らに二の足を踏ませていたのだ。
その認識を覆したのが、リースベットたちティーサンリード山賊団だった。
彼女たちの力がどれほどで、どのような戦術を用いて近衛兵を撃退したかは知られていない。だが、山賊のような小集団でさえ戦いようによっては近衛兵に打ち勝てる、という事実がもたらした、特にノルドグレーン軍関係者への心理的影響は絶大なものだった。
岩を荒く削り出したような無骨な顔を上げ、フリークルンドが口を開いた。
「陛下……その一件は、アムレアンのみに任せた俺にも責任の一端があろうかと存じます。ご下命いただけば、必ずや逆賊が首をこの手で……」
「いや、今はよい。そなたらにはやらねばならぬことがある」
過去を浮遊していたヴィルヘルムの精神が現在に戻ったようだ。ようやく式次に沿って事が進みだす。
「……そう、そなたらの任命であったな」
「過分のご配慮、痛み入ります」
ヴィルヘルムは近似の者から一枚の羊皮紙を受け取り、咳払いをした。
「ヴォールファート、ステンホルム、エーマン。汝三名は、今日よりフリークルンド隊の配下として王室が近衛兵たる任を全うせよ。前体制下の確執は過去のものとし最善を尽くすべし」
「御意」
この勅令により、近衛兵フリークルンド隊は彼らを加え十六名の小隊となった。この三人は、アムレアンがリースベットに敗北したさまを目の当たりにし、逃げ帰ってきた者たちだ。
ヴィルヘルムは彼らの顔を見てその事実を思い出したのか、ふたたびリースベットに向けた呪詛の言葉を吐いた。
「そもそも、あやつが守護斎姫の任を拒否したところから、ノルドグレーンとの関係がこじれてきたのだ。リースベットめ……」
たったいま読み上げた勅書を、ヴィルヘルムは怒りのあまり握りつぶした。
「陛下、アムレアンの敗北を捨て置いては、このノーラント世界における近衛兵の武名に傷がついたままです。何卒、機が熟し次第、この俺に雪辱を……」
「わかっておる。しかし、そなたらの当面の敵は、ノルドグレーン軍と心得よ」
「は、拳拳服膺いたします。ノルドグレーンの賤民どもに、ターラナ戦争の恐怖をふたたび味あわせてやりましょう」
ノルドグレーンが圧倒的な軍事力を誇りながら、それでもリードホルムの近衛兵を警戒し続けていた理由は、両国の置かれた地理的条件だった。
峻厳なノーラント山脈によって隔てられた両国のあいだには広大な平地が少なく、大軍を展開できる戦場が限られている。そのため、どれほどノルドグレーンの軍事力が増大しても、侵攻にあたって数的有利を活かせる戦場を選べないのだ。
少数の強兵、すなわち近衛兵がいれば地の利を活かして戦局を優位に展開できるリードホルムに対し、ノルドグレーンは侵攻にも戦闘にも補給上の負担は大きい。
過去の戦果からノルドグレーンは近衛兵の存在を強く警戒しており、南部のターラナ平原獲得以後八十年余りのあいだ、リードホルムに侵攻することはなかった。近衛兵が戦時にもたらす損害があまりに未知数で、利にさとい彼らに二の足を踏ませていたのだ。
その認識を覆したのが、リースベットたちティーサンリード山賊団だった。
彼女たちの力がどれほどで、どのような戦術を用いて近衛兵を撃退したかは知られていない。だが、山賊のような小集団でさえ戦いようによっては近衛兵に打ち勝てる、という事実がもたらした、特にノルドグレーン軍関係者への心理的影響は絶大なものだった。
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