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逆賊討伐
31 つかの間の平穏 4
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「わからない。もともとはカッセルで、虐殺まがいの狩りを繰り返していた賞金首だったのだが……」
「よくそんな奴を仲間に引き入れたもんだな」
「更生させられるかと思って……」
リースベットは呆れたように鼻で笑った。
「ま、どこまで行っても裏稼業の人間だ。誰と繋がってても不思議じゃねえ」
「あいつが……」
アウロラはロブネルの残虐な笑みを思い出し、すぐに頭から追い払った。
「例えば裏で手を引いてるのが、エイデシュテットやその配下の奴とかな。最初はアホマントが嵌められたんだと思ったが、こいつを殺して得がある奴なんてたぶん誰もいねえ。じゃあ、標的はあたしだ。あたしを殺したい奴なら、ヘルストランド城を探せばいくらでもいるからな」
フォークに刺した厚切りのフィンカを噛みちぎりながら、あくまで軽い調子でリースベットは言う。バックマンは腕組みをして考え込んでいる。
「けど、閉じ込められたっていうのに、よく戻って来れたよね」
「まあ運が良かった、としか言いようがねえ。地下までは火が回ってこなかったからな。燃えるものがねえ場所でじっと耐えてたんだよ」
「木の床や本が燃え尽きるまで、地下への扉を閉めてそこで待機せざるを得なかったのだ。外への扉がどう頑張っても開かなくてな」
「……誰かが外から鍵を閉めた?」
「鍵ならまだ良かったんだがな……細い留め金くらいなら、最悪無理やりぶち破ることもできる。明らかにそれを見越して、かんぬきにはごつい鉄の棒が引っ掛けられてたよ」
「火の手が収まる前に外に出られていれば、もっと早く戻れたのだが……」
ノルシェー研究所の地下室は階段を含めた全体が石の組積造で、扉を閉めてさえいれば火の手から逃れることができる。焼け落ちてきた本棚や木材が扉を焦がしたが、扉が燃え上がる前に火の勢いは沈まったのだった。
「火事の熱で石の強度が落ちて、壁もところどころ崩れてた。そいつを飛び越えて外に出たところで、刺客が待ってるんじゃねえかとも思ったが……幸いそいつはなかった」
「そしてヘルストランドに戻ってみれば、彼女の手配書が市中に出回っているという有様だった」
「そりゃ慌てて戻ってくるさ」
「手配書?」
「間違いなくアウグスティンの一件だ。おかげであたしはもう、昼間のヘルストランドは歩けねえだろうよ」
「エンロートが言ってたやつか……どうやら僥倖が重なって、俺らは今ここで飯を食ってられるようだな」
バックマンは深刻な顔でつぶやいた。
襲来した近衛兵がアムレアン隊のみであったこと、リースベットの不在をアムレアンが知らず強行突入をためらったこと、エイデシュテットのリースベット謀殺が失敗し、フェルディンとともに帰還し加勢したこと――ティーサンリード山賊団はそれらの状況が重なったおかげで、アムレアン率いる近衛兵を撃退できたのだ。
「そういうことだな。フェルディン、お前の活躍は認めるが……だからって受け取った金は返さねえからな!」
「う、うむ……ロブネルの口車に乗せられた僕にも一定の非はあろう」
「ま、気にすんな。副隊長を倒したんだから差し引きゼロだ。……だが金は仕事の正当な報酬だ。返す理由がねえ」
フェルディンは殊勝にも反省の色を見せているが、リースベットを一時離脱させる契機となった彼の存在すらも、勝利につながった要素のひとつだ。彼とカールソンがいなければ、近衛兵は西口から侵入し恣に殺戮を繰り広げていただろう。
こうして、近衛兵によるリースベット討伐の幕は閉じた。ティーサンリード山賊団はこの勝利により、最強の近衛兵を撃退した集団として諸国にその武名が知れ渡ることとなる。
そしてその名声が、リースベットをさらなる波乱へと導く要因になった。
「よくそんな奴を仲間に引き入れたもんだな」
「更生させられるかと思って……」
リースベットは呆れたように鼻で笑った。
「ま、どこまで行っても裏稼業の人間だ。誰と繋がってても不思議じゃねえ」
「あいつが……」
アウロラはロブネルの残虐な笑みを思い出し、すぐに頭から追い払った。
「例えば裏で手を引いてるのが、エイデシュテットやその配下の奴とかな。最初はアホマントが嵌められたんだと思ったが、こいつを殺して得がある奴なんてたぶん誰もいねえ。じゃあ、標的はあたしだ。あたしを殺したい奴なら、ヘルストランド城を探せばいくらでもいるからな」
フォークに刺した厚切りのフィンカを噛みちぎりながら、あくまで軽い調子でリースベットは言う。バックマンは腕組みをして考え込んでいる。
「けど、閉じ込められたっていうのに、よく戻って来れたよね」
「まあ運が良かった、としか言いようがねえ。地下までは火が回ってこなかったからな。燃えるものがねえ場所でじっと耐えてたんだよ」
「木の床や本が燃え尽きるまで、地下への扉を閉めてそこで待機せざるを得なかったのだ。外への扉がどう頑張っても開かなくてな」
「……誰かが外から鍵を閉めた?」
「鍵ならまだ良かったんだがな……細い留め金くらいなら、最悪無理やりぶち破ることもできる。明らかにそれを見越して、かんぬきにはごつい鉄の棒が引っ掛けられてたよ」
「火の手が収まる前に外に出られていれば、もっと早く戻れたのだが……」
ノルシェー研究所の地下室は階段を含めた全体が石の組積造で、扉を閉めてさえいれば火の手から逃れることができる。焼け落ちてきた本棚や木材が扉を焦がしたが、扉が燃え上がる前に火の勢いは沈まったのだった。
「火事の熱で石の強度が落ちて、壁もところどころ崩れてた。そいつを飛び越えて外に出たところで、刺客が待ってるんじゃねえかとも思ったが……幸いそいつはなかった」
「そしてヘルストランドに戻ってみれば、彼女の手配書が市中に出回っているという有様だった」
「そりゃ慌てて戻ってくるさ」
「手配書?」
「間違いなくアウグスティンの一件だ。おかげであたしはもう、昼間のヘルストランドは歩けねえだろうよ」
「エンロートが言ってたやつか……どうやら僥倖が重なって、俺らは今ここで飯を食ってられるようだな」
バックマンは深刻な顔でつぶやいた。
襲来した近衛兵がアムレアン隊のみであったこと、リースベットの不在をアムレアンが知らず強行突入をためらったこと、エイデシュテットのリースベット謀殺が失敗し、フェルディンとともに帰還し加勢したこと――ティーサンリード山賊団はそれらの状況が重なったおかげで、アムレアン率いる近衛兵を撃退できたのだ。
「そういうことだな。フェルディン、お前の活躍は認めるが……だからって受け取った金は返さねえからな!」
「う、うむ……ロブネルの口車に乗せられた僕にも一定の非はあろう」
「ま、気にすんな。副隊長を倒したんだから差し引きゼロだ。……だが金は仕事の正当な報酬だ。返す理由がねえ」
フェルディンは殊勝にも反省の色を見せているが、リースベットを一時離脱させる契機となった彼の存在すらも、勝利につながった要素のひとつだ。彼とカールソンがいなければ、近衛兵は西口から侵入し恣に殺戮を繰り広げていただろう。
こうして、近衛兵によるリースベット討伐の幕は閉じた。ティーサンリード山賊団はこの勝利により、最強の近衛兵を撃退した集団として諸国にその武名が知れ渡ることとなる。
そしてその名声が、リースベットをさらなる波乱へと導く要因になった。
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