118 / 247
逆賊討伐
22 義兄弟 3
しおりを挟む
「そうか。では断る」
「あらま。なんで?」
「これでも僕は妻子持ちでね。妻に浮気を疑われるような真似は控えたい」
フェルディンはそう言うと長剣を鞘に収め、右手は柄にかけたまま、腰を落とした姿勢で身構えた。
リンドは呆れたように首を横に振ってせせら笑う。
「理解不能だね。リーパーなのに近衛兵にも入らず、挙げ句ひとりの女に縛られる生き方を選ぶなんて!」
三たびリンドが間合いを詰める。だが今度はフェルディンが先に仕掛けた。腰だめの体勢から剣を抜いて薙ぎ払う。しかしリンドは大きく跳躍してフェルディンの背後に着地し、そこから攻勢をかけた。フェルディンは体勢を立て直して応じ、剣舞を高速化したような苛烈な攻防が続く。
変化は不意に訪れた。リンドの薙ぎ払いを上体をそらして避けたフェルディンの右太腿に激痛が走る。フェルディンはとっさに剣を振るって反撃し、リンドはまたも宙返りで飛び退いた。
いつの間にかリンドの左手には、右のレイピアよりも短い左手用短剣が握られていた。
「惜しいねー。ちょっと浅かった」
「そのロングブーツに忍ばせていたのか……」
「さて、その傷と痛みで、今までみたいに動けるかな?!」
リンドは加虐的な笑みを浮かべて攻めかかる。フェルディンは見切りと剣による防御を組み合わせて手数の増えた猛攻に対抗するが、時間とともに戦況は劣勢に転じつつあった。
リンドのマインゴーシュが、フェルディンの腕や肩をたびたび捉えている。レイピアの攻撃は致命傷となりうるため、フェルディンは軽傷で済むマインゴーシュの突きを選択的に受けざるを得なかった。
「なんだかヤバそうだな……」
「クソッ、副隊長でもこれだけの強さか……」
「兄貴が……そんなはずはねえ……」
近衛兵の力と自身の無力に歯噛みするバックマンのそばから、カールソンがよろよろと歩き出した。
「おい、どうするつもりだ」
「兄貴!」
「カールソン、来るな!」
カールソンは血しぶきを上げながら走り出し、リンドとフェルディンの間に割って入った。
「邪魔なんだよウスノロ!」
リンドは両腕を広げたカールソンの右脇部分からマインゴーシュを突き入れた。身体を貫通した剣先が鎧の内側に当たる音がするほど深く突き刺さり、カールソンは苦悶のうめき声を上げる。
だがカールソンが脇を締めて身を縮めると、リンドの表情が変わった。
「こいつ……! 刀身を鎧で挟み込みやがった?!」
鎧の金属板で噛み合わされたマインゴーシュが折れ曲がり、鈎のように引っかかっている。カールソンは左腕を振りかぶった。
「おれはお前みたいな……へらへらした優男が大っ嫌いなんだよ!」
強力ではあっても鈍重な拳はあえなく空を切る。リンドは舌打ちしながらマインゴーシュを手放したが、その判断はわずかに、だが致命的に遅かった。
カールソンを飛び越えてリンドの背後に回ったフェルディンの剣が、リンドの振り向きざまに、眉間から垂直に切り裂いた。
振り下ろされた剣は地面を割き、針葉樹の枯れ葉を舞い上げる。
「だから……顔はやめろって……」
整った優美な顔を鮮血に染めたリンドが、膝からゆっくりと、地面に崩れ落ちた。
「あらま。なんで?」
「これでも僕は妻子持ちでね。妻に浮気を疑われるような真似は控えたい」
フェルディンはそう言うと長剣を鞘に収め、右手は柄にかけたまま、腰を落とした姿勢で身構えた。
リンドは呆れたように首を横に振ってせせら笑う。
「理解不能だね。リーパーなのに近衛兵にも入らず、挙げ句ひとりの女に縛られる生き方を選ぶなんて!」
三たびリンドが間合いを詰める。だが今度はフェルディンが先に仕掛けた。腰だめの体勢から剣を抜いて薙ぎ払う。しかしリンドは大きく跳躍してフェルディンの背後に着地し、そこから攻勢をかけた。フェルディンは体勢を立て直して応じ、剣舞を高速化したような苛烈な攻防が続く。
変化は不意に訪れた。リンドの薙ぎ払いを上体をそらして避けたフェルディンの右太腿に激痛が走る。フェルディンはとっさに剣を振るって反撃し、リンドはまたも宙返りで飛び退いた。
いつの間にかリンドの左手には、右のレイピアよりも短い左手用短剣が握られていた。
「惜しいねー。ちょっと浅かった」
「そのロングブーツに忍ばせていたのか……」
「さて、その傷と痛みで、今までみたいに動けるかな?!」
リンドは加虐的な笑みを浮かべて攻めかかる。フェルディンは見切りと剣による防御を組み合わせて手数の増えた猛攻に対抗するが、時間とともに戦況は劣勢に転じつつあった。
リンドのマインゴーシュが、フェルディンの腕や肩をたびたび捉えている。レイピアの攻撃は致命傷となりうるため、フェルディンは軽傷で済むマインゴーシュの突きを選択的に受けざるを得なかった。
「なんだかヤバそうだな……」
「クソッ、副隊長でもこれだけの強さか……」
「兄貴が……そんなはずはねえ……」
近衛兵の力と自身の無力に歯噛みするバックマンのそばから、カールソンがよろよろと歩き出した。
「おい、どうするつもりだ」
「兄貴!」
「カールソン、来るな!」
カールソンは血しぶきを上げながら走り出し、リンドとフェルディンの間に割って入った。
「邪魔なんだよウスノロ!」
リンドは両腕を広げたカールソンの右脇部分からマインゴーシュを突き入れた。身体を貫通した剣先が鎧の内側に当たる音がするほど深く突き刺さり、カールソンは苦悶のうめき声を上げる。
だがカールソンが脇を締めて身を縮めると、リンドの表情が変わった。
「こいつ……! 刀身を鎧で挟み込みやがった?!」
鎧の金属板で噛み合わされたマインゴーシュが折れ曲がり、鈎のように引っかかっている。カールソンは左腕を振りかぶった。
「おれはお前みたいな……へらへらした優男が大っ嫌いなんだよ!」
強力ではあっても鈍重な拳はあえなく空を切る。リンドは舌打ちしながらマインゴーシュを手放したが、その判断はわずかに、だが致命的に遅かった。
カールソンを飛び越えてリンドの背後に回ったフェルディンの剣が、リンドの振り向きざまに、眉間から垂直に切り裂いた。
振り下ろされた剣は地面を割き、針葉樹の枯れ葉を舞い上げる。
「だから……顔はやめろって……」
整った優美な顔を鮮血に染めたリンドが、膝からゆっくりと、地面に崩れ落ちた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!
山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」
────何言ってんのコイツ?
あれ? 私に言ってるんじゃないの?
ていうか、ここはどこ?
ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ!
推しに会いに行かねばならんのだよ!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる