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逆賊討伐

17 敗北 2

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 崩落の轟音ごうおんと土煙がおさまり、山賊たちはようやく口を覆っていた手をどけた。
「大丈夫か、アウロラ」
 バックマンが頬を軽く叩いて問いかける。アウロラはうつろな表情でうめいており、まだ意識がはっきりしていないようだ。
 その二人に弓矢部隊の若い男が声をかけた。
「どうやら間一髪だったようですね」
「ふたつの意味でな。頼みのアウロラがこの通りだ。その上あんな奴にここを抜かれたら、間違いなくティーサンリードは総崩れだったぜ」
「あれが、近衛兵の隊長……」
「ああ、まさか今のアウロラと、これほど差があるとはな……」
 バックマンはアウロラの右肩を亜麻あま布で縛りながらつぶやいた。淡黄たんおうしょくの布が見る間に赤く染まる。
 その場に居合わせた者たちは一様に、強い驚愕きょうがく畏怖いふの念にとらわれていた。
 三人の近衛兵と互角以上に渡り合ったアウロラを、隊長のアムレアンはまるで布切れを払いのけるように軽くあしらった。なぜ近衛兵が近隣諸国から警戒され続けていたのかを、身を持って思い知らされたのだ。
 若い男が土砂に埋もれた通路を眺めながら、不安げな顔でバックマンにいた。
「ここ、大丈夫ですかね」
「恐らくな。奴らが剣をつるはしに持ち替えて掘り進んでくるとしても、もう少し時間はかかるだろ」
「近衛兵がそんな真似を?」
「気位の高い連中だ。土木作業を毛嫌いして諦めてくれることを願っとこうや」
 バックマンはそう返答して立ち上がり、付近にいた二人の男に対してアウロラを医療室に運ぶよう指示を出した。
 危機が過ぎ去ってため息をついたバックマンに、背後から弓矢部隊とは別の山賊が駆け寄ってきた。
「副長! 裏口の警報だ。おそらく場所がバレたぞ」
「やれやれ次から次へと……絵に描いたような窮地きゅうちだな」
 ティーサンリードの拠点には、アウロラが守っていた通路以外にも二つの出入り口が存在する。そのうちの西側にある小さな裏口には、侵入者に備えて罠が仕掛けてあった。
 付近の草むらの中に隠してある細いロープは拠点内部まで伸びており、終端には無数の木片、引板ひきいたが吊るされている。そのロープに何者かが足を引っ掛けると、引板が揺れてぶつかり合いカラカラと音を立て、侵入者の接近を知らせるのだ。
「まあ備えはしてあるが……今の戦いを見たあとじゃ少しも安心はできねえな」
「俺たちもそっちに回りますか?」
「そうしてほしいが、違う武器を持っていけよ。あっちは通路が短すぎて弓矢が活かせねえ」
「そりゃ死活問題だ」
「でなきゃ、ちょっと遠いが北口から出て奴らの背後に迂回うかいしてもいい。時間はできるだけ稼ぐ」
 バックマンを援護した弓矢部隊は全員、老弓師ユーホルトに師事している。
 リースベットやアウロラの強さは模倣の対象には成りえないが、ユーホルトの技は学んだ者の力になる種類のものだ。その中でも技量に秀でた者たちが通路を守り、まだ未熟な者たちは扱いの容易なクロスボウを手に師と行動を共にしていた。
「次はオルへスタル側の裏口だ。何としても守り切るぞ!」
 珍しく気勢を上げるバックマンに山賊たちが呼応し、二十人ほどの戦士が新たな戦場へ向かった。
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