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逆賊討伐

3 決意と迷想

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 ティーサンリードの拠点に戻ったバックマンは、真っ先にある一室を訪ねた。その黒褐色こくかっしょくの扉の向こうにはアウロラ・シェルヴェンと、彼女が保護している子ども達がいるはずだ。
 バックマンは扉を数度ノックした。
「はい……?」
「アウロラ、今ちょっといいか?」
「え……何? 真剣な顔で、がらにもない」
「だろ。そんだけのことが起きそうなんだ」
 リースベットがこの場にいない今、アウロラは山賊団唯一のリーパーだ。近衛兵と同じ力を持つ彼女の協力を得られるか否かによって、立てられる防衛計画の質が全く変わる。
 バックマンはエンロートから聞いた近衛兵襲来の経緯を説明した。
「リースベットが……」
「いろいろ不確定な点は多い。近衛兵が本当に来るのか、ってところからな。だがアホ面下げたまんま、楽なほうに全員の命を賭ける趣味は俺にはねえ」
「近衛兵、ねえ……」
 アウロラは視線を右上方に向けながらつぶやいた。バックマンとは対象的に暢気のんきな顔で、緊迫した様子はない。
「だからアウロラ、お前の力を貸して欲しい」
「そんなの当たり前でしょ。今リースベットがいないんだからさ」
「悪いな……」
「あ、でも、私はいいんだけど」
「分かってる、あの三人のことだな」
 アウロラは頷き、横目で通路の先を見ている。アニタ、アルフォンス、ミカルの三人は、どうやら室内にはいないらしい。
「とりあえずエステルと一緒に、奥の部屋にいてもらう。だがここがヤバそうだったら、防衛線が破られる前に裏から逃がすしかないな」
「そっか。エステルさんにお願いしとかないとな……」
「頼めるか? あとで俺からも伝えるが、何しろこれから仕事が山ほどある」
「構わないわ。むしろ私が直接言わなきゃ」
 バックマンが危惧きぐしていたほどには、アウロラは動じていなかった。仲間になってから半年ほどの間に、彼女なりに様々な状況を想定していたのだ。
「よし、お前にゃ正面の出入り口を守ってもらおうと思ってる。それまで体を休めててくれ」
「あいつらには個人的に恨みもあるのよ。全員叩きのめしてやるわ」
「頼もしい言葉だ」
 バックマンは手を振ると足早に立ち去った。
 これから彼は、山賊団の成員たちに対し、残って戦うか先に逃げるか、という質問をして回らねばならない。
 全員が一丸となって戦うことをを強制する、などという強権の行使は、バックマンもこの場にいないリースベットも、強く忌み嫌う行動だった。

 ティーサンリードの拠点は、南向きの主要出入り口の他に、西と北にも小さな出入り口を備えている。南口は特別奇襲隊の隊長ブリクストに発見され、すでにリードホルム軍の知るところとなっているが、他二つの存在はまだ知られていない。

 アウロラはかつて一日だけ滞在した、時の黎明館ツー・グリーニンのことを思い返していた。
 酒と薬物に酔い、特権的な地位を笠に着て、彼女にひどい屈辱感を与えた近衛兵たち――あんなていたらくの連中が、ほんとうに強いんだろうか?
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