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落日の序曲
23 閉じられた箱
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「ずいぶん苦戦しているな」
「……扉とは勝手が違うな。なにしろ小せえ」
「まあ時間はある。焦らずやってくれ」
リースベットが棚の鍵と苦闘しているのを見て、フェルディンはまた別の本に向かった。
「そういえば、さっき地下への階段があったろう。本は地下にはねえのか?」
「おそらく食料などの保管庫だろう。地下は湿気がこもるから本の保管には向かないんだ」
「へー、じゃあ情報があんのはここだけか」
「ここだけでも大した量だが……」
フェルディンは机に置いた本から全く視線を上げずに答えた。
ようやく棚の鍵を開けたリースベットは、内部に横になっていた一冊の本を手に取った。フェルディンはなにか興味を惹かれる記述でもあったのか、それには目もくれず書物に没頭している。
リースベットが手に取った本には、リードホルム王家に生まれたリーパーに関する報告がまとめられていた。
ヴィルヘルム三世より五代前の王、ベルンハルド四世は強大な力を持ったリーパーだったが、己の力を嵩にかかって暴虐の限りを尽くしたため、庶出の皇太子ダニエルと近衛兵によって討たれた。
ベルンハルド四世は少年時、ヘルストランド城の北東にある塔で遊んでいたところ、城壁の石の一部が突然弾け飛ぶという不可解な事故によって大怪我を負い、数日生死の境をさまよった。その塔では調度品や扉がひとりでに動く現象がたびたび報告されており、塔は不吉な場所として取り壊された。現場に居合わせた養育係と衛兵は死罪となったという。
それ以後ベルンハルドはリーパーとしての能力に目覚め、敵対する他の皇太子や官僚を次々と殺して国王の座にのし上がった。
だがその力に恐怖した者たちがヘルストランドを逃れ、妾腹として辺境の領主に封ぜられていたダニエルを擁立した。さらに国王に従うはずの近衛兵がダニエル側に付き、協力してベルンハルド四世を王座から引きずり下ろしたのだった。
ベルンハルドの死後しばらくすると、ヘルストランド城北東の塔周辺での怪現象も収まり、その場所は再建されて現在に至る。
――近衛兵ってのも役立つことがあんのか。
リースベットにとっては、それほど面白い話でもない。興味なさげにページをパラパラとめくっていると、本の終わり近くに彼女にとって特別な名前を見つけた。
ヴィルヘルム三世陛下が次子ノア・リードホルム様
五歳の折、雨の日にヘルストランド城中庭で遊んでいたと
ころ、泥の中の尖った石で右手を負傷。数日後に不調を訴え、
侍医の指示により地下の暗室にて治療。約三週間の闘病のの
ち奇跡的に快癒。意識回復後しばらくは記憶の混乱が見られ
たが、リーパーの兆候は確認できず。
その短い報告を、リースベットは震えながら目を通した。
そしてノアに関する報告を最後に、以後のページはすべて白紙だった。リースベット自身に関する記述は一切ない。
彼女がリーパーの兆候を見せたのは四年前だが、どうやらその時点で研究所は機能していなかったようだ。
「……扉とは勝手が違うな。なにしろ小せえ」
「まあ時間はある。焦らずやってくれ」
リースベットが棚の鍵と苦闘しているのを見て、フェルディンはまた別の本に向かった。
「そういえば、さっき地下への階段があったろう。本は地下にはねえのか?」
「おそらく食料などの保管庫だろう。地下は湿気がこもるから本の保管には向かないんだ」
「へー、じゃあ情報があんのはここだけか」
「ここだけでも大した量だが……」
フェルディンは机に置いた本から全く視線を上げずに答えた。
ようやく棚の鍵を開けたリースベットは、内部に横になっていた一冊の本を手に取った。フェルディンはなにか興味を惹かれる記述でもあったのか、それには目もくれず書物に没頭している。
リースベットが手に取った本には、リードホルム王家に生まれたリーパーに関する報告がまとめられていた。
ヴィルヘルム三世より五代前の王、ベルンハルド四世は強大な力を持ったリーパーだったが、己の力を嵩にかかって暴虐の限りを尽くしたため、庶出の皇太子ダニエルと近衛兵によって討たれた。
ベルンハルド四世は少年時、ヘルストランド城の北東にある塔で遊んでいたところ、城壁の石の一部が突然弾け飛ぶという不可解な事故によって大怪我を負い、数日生死の境をさまよった。その塔では調度品や扉がひとりでに動く現象がたびたび報告されており、塔は不吉な場所として取り壊された。現場に居合わせた養育係と衛兵は死罪となったという。
それ以後ベルンハルドはリーパーとしての能力に目覚め、敵対する他の皇太子や官僚を次々と殺して国王の座にのし上がった。
だがその力に恐怖した者たちがヘルストランドを逃れ、妾腹として辺境の領主に封ぜられていたダニエルを擁立した。さらに国王に従うはずの近衛兵がダニエル側に付き、協力してベルンハルド四世を王座から引きずり下ろしたのだった。
ベルンハルドの死後しばらくすると、ヘルストランド城北東の塔周辺での怪現象も収まり、その場所は再建されて現在に至る。
――近衛兵ってのも役立つことがあんのか。
リースベットにとっては、それほど面白い話でもない。興味なさげにページをパラパラとめくっていると、本の終わり近くに彼女にとって特別な名前を見つけた。
ヴィルヘルム三世陛下が次子ノア・リードホルム様
五歳の折、雨の日にヘルストランド城中庭で遊んでいたと
ころ、泥の中の尖った石で右手を負傷。数日後に不調を訴え、
侍医の指示により地下の暗室にて治療。約三週間の闘病のの
ち奇跡的に快癒。意識回復後しばらくは記憶の混乱が見られ
たが、リーパーの兆候は確認できず。
その短い報告を、リースベットは震えながら目を通した。
そしてノアに関する報告を最後に、以後のページはすべて白紙だった。リースベット自身に関する記述は一切ない。
彼女がリーパーの兆候を見せたのは四年前だが、どうやらその時点で研究所は機能していなかったようだ。
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