64 / 247
絶望の檻
19 逃亡者たち 2
しおりを挟む
拷問部屋を出たリースベットを、不安げな顔のアウロラが待ち受けていた。
「ああ、やっぱりここだったのね」
「悪いな。待たせたか」
「……返り血が付いてるわよ」
「ヘマやって見つかっちまってな。……もしかしたら大事になるかも知れねえ」
「大丈夫なの?」
「さてな……いっそ目くらましに、ここの連中みんな逃がすか」
アウロラは違和感を覚えた。これほど平板で抑揚のないリースベットの口調を、アウロラはこれまで聞いたことはない。何があったのか聞くべきか迷っていると、リースベットが話を先に進めた。
「それより仕事だ。どうだ、貴族様は見つかったか?」
「ええと、そう、だからリースベットを待ってたのよ。エーベルゴードって人、左側の一番奥にいるらしいわ」
「よし、とっとと終わらせちまおう。のんびりしてられる訳じゃねえしな。そっちに見張りはいたか?」
「ううん。一人そこの牢屋で縛られてたけど……」
「あたしがやった看守だ。おかげでこいつが手に入った。さあ急ごうや」
人差し指の先で回していた鍵束のリングを掴み、リースベットが走り出した。アウロラもそれに続き、まるで誰かがリースベットの言葉だけを真似ているようだ、と思いながら道案内のため前に出る。
「それ、ここの鍵?」
「ああ。おそらく牢屋から囚人の足枷まで、一通り揃ってるはずだ。時間のかかる錠前破りをしなくても済むぜ」
「……そういえばさっき、人が出ていったみたいだけど?」
「行きがかりで開放してやった。名前はラーションとか言ってたな」
牢獄内はざわつきはじめていた。多くの囚人が、異変に気付きつつあるのだ。リースベットたちはもはや足音などを気にせず、脇目も振らずに目的の牢へと急いだ。
「よう、起きろ、旅行の時間だ」
リースベットはククリナイフの柄尻で鉄格子を二度ノックし、牢屋の粗末なベッドに寝ている男に声をかける。男はゆっくり身を起こし、目をこすりながら二人の来客に顔を向けた。
「あんた、フランシス・エーベルゴードだな?」
「なぜその名を? 君たちは一体……」
「救い主だよ。あんたを故郷に連れ帰ってやる」
「何?! ……誰に雇われた?」
「あいにく依頼主はいねえ。これはあたしらが勝手にやったことだ」
エーベルゴードは右手で長めの髪をかきあげ、鉄格子の向こうにいる二人の女に不審の目を向けていた。降って湧いた都合の良い話を、無邪気に信じられるような性格ではないようだ。二人共が若く、とくにアウロラなどはまだ子供と言ってよい外見である。牢獄という場には不釣り合いな取り合わせだった。
「とりあえずあんたはここを出て、生きたままカッセルに帰ってもらう。これ以上おいしい話はねえだろ?」
「それは……願ってもないことだが……」
「ま、信用できねえのも当然だ。だがこのままそのボロベッドで寝てたら、あんたは遠からず処刑されるかノルドグレーンに送られて拷問されるか、のどっちかだぜ」
「ノルドグレーンが私を?」
「急ぐんでな。詳しい話は、道すがら馬車ん中でうちの副長から聞きな」
「ああ、やっぱりここだったのね」
「悪いな。待たせたか」
「……返り血が付いてるわよ」
「ヘマやって見つかっちまってな。……もしかしたら大事になるかも知れねえ」
「大丈夫なの?」
「さてな……いっそ目くらましに、ここの連中みんな逃がすか」
アウロラは違和感を覚えた。これほど平板で抑揚のないリースベットの口調を、アウロラはこれまで聞いたことはない。何があったのか聞くべきか迷っていると、リースベットが話を先に進めた。
「それより仕事だ。どうだ、貴族様は見つかったか?」
「ええと、そう、だからリースベットを待ってたのよ。エーベルゴードって人、左側の一番奥にいるらしいわ」
「よし、とっとと終わらせちまおう。のんびりしてられる訳じゃねえしな。そっちに見張りはいたか?」
「ううん。一人そこの牢屋で縛られてたけど……」
「あたしがやった看守だ。おかげでこいつが手に入った。さあ急ごうや」
人差し指の先で回していた鍵束のリングを掴み、リースベットが走り出した。アウロラもそれに続き、まるで誰かがリースベットの言葉だけを真似ているようだ、と思いながら道案内のため前に出る。
「それ、ここの鍵?」
「ああ。おそらく牢屋から囚人の足枷まで、一通り揃ってるはずだ。時間のかかる錠前破りをしなくても済むぜ」
「……そういえばさっき、人が出ていったみたいだけど?」
「行きがかりで開放してやった。名前はラーションとか言ってたな」
牢獄内はざわつきはじめていた。多くの囚人が、異変に気付きつつあるのだ。リースベットたちはもはや足音などを気にせず、脇目も振らずに目的の牢へと急いだ。
「よう、起きろ、旅行の時間だ」
リースベットはククリナイフの柄尻で鉄格子を二度ノックし、牢屋の粗末なベッドに寝ている男に声をかける。男はゆっくり身を起こし、目をこすりながら二人の来客に顔を向けた。
「あんた、フランシス・エーベルゴードだな?」
「なぜその名を? 君たちは一体……」
「救い主だよ。あんたを故郷に連れ帰ってやる」
「何?! ……誰に雇われた?」
「あいにく依頼主はいねえ。これはあたしらが勝手にやったことだ」
エーベルゴードは右手で長めの髪をかきあげ、鉄格子の向こうにいる二人の女に不審の目を向けていた。降って湧いた都合の良い話を、無邪気に信じられるような性格ではないようだ。二人共が若く、とくにアウロラなどはまだ子供と言ってよい外見である。牢獄という場には不釣り合いな取り合わせだった。
「とりあえずあんたはここを出て、生きたままカッセルに帰ってもらう。これ以上おいしい話はねえだろ?」
「それは……願ってもないことだが……」
「ま、信用できねえのも当然だ。だがこのままそのボロベッドで寝てたら、あんたは遠からず処刑されるかノルドグレーンに送られて拷問されるか、のどっちかだぜ」
「ノルドグレーンが私を?」
「急ぐんでな。詳しい話は、道すがら馬車ん中でうちの副長から聞きな」
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
【第一部完結】お望み通り、闇堕ち(仮)の悪役令嬢(ラスボス)になってあげましょう!
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「アメリア・ナイトロード、よくも未来の婚約者となるリリス嬢に酷い仕打ちをしてくれたな。公爵令嬢の立場を悪用しての所業、この場でウィルフリードに変わって婚約破棄を言い渡す!」
「きゃー。スチュワート様ステキ☆」
本人でもない馬鹿王子に言いがかりを付けられ、その後に起きたリリス嬢毒殺未遂及び場を荒らしたと全ての責任を押し付けられて、アメリアは殺されてしまう。
全ての元凶はリリスだと語られたアメリアは深い絶望と憤怒に染まり、死の間際で吸血鬼女王として覚醒と同時に、自分の前世の記憶を取り戻す。
架橋鈴音(かけはしすずね)だったアメリアは、この世界が、乙女ゲーム《葬礼の乙女と黄昏の夢》で、自分が悪役令嬢かつラスボスのアメリア・ナイトロードに転生していたこと、もろもろ準備していたことを思い出し、復讐を誓った。
吸血鬼女王として覚醒した知識と力で、ゲームで死亡フラグのあるサブキャラ(非攻略キャラ)、中ボス、ラスボスを仲間にして国盗りを開始!
絵画バカの魔王と、モフモフ好きの死神、食いしん坊の冥府の使者、そしてうじうじ系泣き虫な邪神とそうそうたるメンバーなのだが、ゲームとなんだかキャラが違うし、一癖も二癖もある!? リリス、第二王子エルバートを含むざまあされる側の視点あり、大掛かりな復讐劇が始まる。
精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない
よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。
魔力があっても普通の魔法が使えない俺。
そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ!
因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。
任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。
極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ!
そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。
そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
追放令嬢の叛逆譚〜魔王の力をこの手に〜
ノウミ
ファンタジー
かつて繁栄を誇る国の貴族令嬢、エレナは、母親の嫉妬により屋敷の奥深くに幽閉されていた。異母妹であるソフィアは、母親の寵愛を一身に受け、エレナを蔑む日々が続いていた。父親は戦争の最前線に送られ、家にはほとんど戻らなかったが、エレナを愛していたことをエレナは知らなかった。
ある日、エレナの父親が一時的に帰還し、国を挙げての宴が開かれる。各国の要人が集まる中、エレナは自国の王子リュシアンに見初められる。だが、これを快く思わないソフィアと母親は密かに計画を立て、エレナを陥れようとする。
リュシアンとの婚約が決まった矢先、ソフィアの策略によりエレナは冤罪をかぶせられ、婚約破棄と同時に罪人として国を追われることに。父親は娘の無実を信じ、エレナを助けるために逃亡を図るが、その道中で父親は追っ手に殺され、エレナは死の森へと逃げ込む。
この森はかつて魔王が討伐された場所とされていたが、実際には魔王は封印されていただけだった。魔王の力に触れたエレナは、その力を手に入れることとなる。かつての優しい令嬢は消え、復讐のために国を興す決意をする。
一方、エレナのかつての国は腐敗が進み、隣国への侵略を正当化し、勇者の名のもとに他国から資源を奪い続けていた。魔王の力を手にしたエレナは、その野望に終止符を打つべく、かつて自分を追い詰めた家族と国への復讐のため、新たな国を興し、反旗を翻す。
果たしてエレナは、魔王の力を持つ者として世界を覆すのか、それともかつての優しさを取り戻すことができるのか。
※下記サイトにても同時掲載中です
・小説家になろう
・カクヨム
「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。
亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません!
いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。
突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。
里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。
そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。
三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。
だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。
とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。
いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。
町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。
落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。
そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。
すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。
ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。
姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。
そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった……
これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。
※ざまぁまで時間かかります。
ファンタジー部門ランキング一位
HOTランキング 一位
総合ランキング一位
ありがとうございます!
倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~
乃神レンガ
ファンタジー
謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。
二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。
更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。
それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。
異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。
しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。
国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。
果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。
現在毎日更新中。
※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
あらゆる属性の精霊と契約できない無能だからと追放された精霊術師、実は最高の無の精霊と契約できたので無双します
名無し
ファンタジー
レオンは自分が精霊術師であるにもかかわらず、どんな精霊とも仮契約すらできないことに負い目を感じていた。その代わりとして、所属しているS級パーティーに対して奴隷のように尽くしてきたが、ある日リーダーから無能は雑用係でも必要ないと追放を言い渡されてしまう。
彼は仕事を探すべく訪れたギルドで、冒険者同士の喧嘩を仲裁しようとして暴行されるも、全然痛みがなかったことに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる