50 / 247
絶望の檻
5 力の源泉 3
しおりを挟む
「ねえリースベット、リーパーの力がそう……時間を動かすものなら、戻したりはできないのかな」
「戻す?」
「そう。まだいろんな事が起きなかった、昔へ」
「さてどうだかな……あたしは説明するために時間って言葉を使ったが、本当にそれが時間に関わるものなのかどうかさえ確かじゃねえ」
「そっか、そうよね……」
「今をときめくソレンスタム教団が、ファンナ教から引っ張り出して主神に仕立て上げたツーダンは時の神だぜ。何か関連があったら面白いな」
「時を戻す……か」
リースベットは無意識に右腕の痣をさすっていた。時間を遡行する夢想が胸をかすめたことは、彼女にも過去に何度かあった。だがそのたび、耽る間もなく現実が押し寄せ、すぐに実用主義的な山賊の首領に立ち戻ったのだ。
「そういやこの前のアホマント、リーパーの研究所があるとか言ってやがったが……」
「あの研究所、何年か前に廃止になったと思ったが」
「てことは、あのアホはエイデシュテットに一杯食わされたのか?」
「かも知れねえし、それでもいいから情報が欲しかったのかもな」
「研究って、どんなことをやってたんだろう」
「リーパーを捕まえて解剖でもしてたか?」
「気味の悪い想像をさせんな」
茶化したドグラスにリースベットが木のスプーンを投げつける。
「リーパーが生まれやすい、ってことになってるリードホルムにある研究所だ。情報はそれなりに溜め込んでるんだろうが……」
「廃止されたってことは、大した成果は出せなかったのかもな」
「あのアホマントのことはともかく……あたしやアウロラの役に立つなら、その情報ってのも価値のあるモンなんだろうがな」
「漁りに行ってみるか?」
「わざわざ盗みに入るほどじゃねえ。他にやることは山ほどあるんだ」
「さしあたって、まずはエーベルゴードの次男坊誘拐か」
アウロラが子どもたちの元へ戻ったあと、食堂に残った年長者たちはまだ会話を続けていた。かまどの火は落とされ、鍋のスープも冷めつつある。
「あいつ、一人で牢に乗り込んだりはしねえか? あの様子じゃ、まだかなり親のことは気にしてる」
リースベットは、アウロラの思いつめたような顔を想起していた。十四歳という年齢に相応の、不安定な危うさを含んだ顔だ。
「そうだな、あの連れ子三人がいる限り、あいつも滅多なことはしないんじゃないか? まるで人質でも取ってるようだが」
「たしかに歯止めにはなってるかもな」
アウロラが助け出したアニタ、アルフォンス、ミカルの三人の子供たちは今すくなくとも、かつてその身を売られたパーシュブラント子爵邸よりは平穏な生活を送れている。
その存在がある限り、身勝手な行動は採らないだろう――バックマンはそう考えていた。そんな性分でなければ、三人を山賊の根城にまで連れてきて世話をするような面倒など避け、自分ひとりで逃げていたはずだ。
「戻す?」
「そう。まだいろんな事が起きなかった、昔へ」
「さてどうだかな……あたしは説明するために時間って言葉を使ったが、本当にそれが時間に関わるものなのかどうかさえ確かじゃねえ」
「そっか、そうよね……」
「今をときめくソレンスタム教団が、ファンナ教から引っ張り出して主神に仕立て上げたツーダンは時の神だぜ。何か関連があったら面白いな」
「時を戻す……か」
リースベットは無意識に右腕の痣をさすっていた。時間を遡行する夢想が胸をかすめたことは、彼女にも過去に何度かあった。だがそのたび、耽る間もなく現実が押し寄せ、すぐに実用主義的な山賊の首領に立ち戻ったのだ。
「そういやこの前のアホマント、リーパーの研究所があるとか言ってやがったが……」
「あの研究所、何年か前に廃止になったと思ったが」
「てことは、あのアホはエイデシュテットに一杯食わされたのか?」
「かも知れねえし、それでもいいから情報が欲しかったのかもな」
「研究って、どんなことをやってたんだろう」
「リーパーを捕まえて解剖でもしてたか?」
「気味の悪い想像をさせんな」
茶化したドグラスにリースベットが木のスプーンを投げつける。
「リーパーが生まれやすい、ってことになってるリードホルムにある研究所だ。情報はそれなりに溜め込んでるんだろうが……」
「廃止されたってことは、大した成果は出せなかったのかもな」
「あのアホマントのことはともかく……あたしやアウロラの役に立つなら、その情報ってのも価値のあるモンなんだろうがな」
「漁りに行ってみるか?」
「わざわざ盗みに入るほどじゃねえ。他にやることは山ほどあるんだ」
「さしあたって、まずはエーベルゴードの次男坊誘拐か」
アウロラが子どもたちの元へ戻ったあと、食堂に残った年長者たちはまだ会話を続けていた。かまどの火は落とされ、鍋のスープも冷めつつある。
「あいつ、一人で牢に乗り込んだりはしねえか? あの様子じゃ、まだかなり親のことは気にしてる」
リースベットは、アウロラの思いつめたような顔を想起していた。十四歳という年齢に相応の、不安定な危うさを含んだ顔だ。
「そうだな、あの連れ子三人がいる限り、あいつも滅多なことはしないんじゃないか? まるで人質でも取ってるようだが」
「たしかに歯止めにはなってるかもな」
アウロラが助け出したアニタ、アルフォンス、ミカルの三人の子供たちは今すくなくとも、かつてその身を売られたパーシュブラント子爵邸よりは平穏な生活を送れている。
その存在がある限り、身勝手な行動は採らないだろう――バックマンはそう考えていた。そんな性分でなければ、三人を山賊の根城にまで連れてきて世話をするような面倒など避け、自分ひとりで逃げていたはずだ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
えぞのあやめ
とりみ ししょう
歴史・時代
(ひとの操を踏みにじり、腹違いとはいえ弟の想い女を盗んだ。)
(この報いはかならず受けよ。受けさせてやる……!)
戦国末期、堺の豪商今井家の妾腹の娘あやめは、蝦夷地貿易で商人として身を立てたいと願い、蝦夷島・松前に渡った。
そこは蝦夷代官蠣崎家の支配下。蠣崎家の銀髪碧眼の「御曹司」との思いもよらぬ出会いが、あやめの運命を翻弄する。
悲恋と暴虐に身も心も傷ついたあやめの復讐。
のち松前慶広となるはずの蠣崎新三郎の運命も、あやめの手によって大きく変わっていく。
それは蝦夷島の歴史をも変えていく・・・
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ
谷島修一
ファンタジー
“英雄”の孫たちが、50年前の真実を追う
建国50周年を迎えるパルラメンスカヤ人民共和国の首都アリーグラード。
パルラメンスカヤ人民共和国の前身国家であったブラミア帝国の“英雄”として語り継がれている【ユルゲン・クリーガー】の孫クララ・クリーガーとその親友イリーナ・ガラバルスコワは50年前の“人民革命”と、その前後に起こった“チューリン事件”、“ソローキン反乱”について調べていた。
書物で伝わるこれらの歴史には矛盾点と謎が多いと感じていたからだ。
そこで、クララとイリーナは当時を知る人物達に話を聞き謎を解明していくことに決めた。まだ首都で存命のユルゲンの弟子であったオレガ・ジベリゴワ。ブラウグルン共和国では同じく弟子であったオットー・クラクスとソフィア・タウゼントシュタインに会い、彼女達の証言を聞いていく。
一方、ユルゲン・クリーガーが生まれ育ったブラウグルン共和国では、彼は“裏切り者”として歴史的評価は悪かった。しかし、ブラウグルン・ツワィトング紙の若き記者ブリュンヒルデ・ヴィルトはその評価に疑問を抱き、クリーガーの再評価をしようと考えて調べていた。
同じ目的を持つクララ、イリーナ、ブリュンヒルデが出会い、三人は協力して多くの証言者や証拠から、いくつもの謎を次々と解明していく。
そして、最後に三人はクリーガーと傭兵部隊で一緒だったヴィット王国のアグネッタ・ヴィクストレームに出会い、彼女の口から驚愕の事実を知る。
-----
文字数 126,353
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
【書籍化進行中】魔法のトランクと異世界暮らし
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化進行中です。
曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。
おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。
それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。
異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。
異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる──
◆◆◆
ほのぼのスローライフなお話です。
のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。
※カクヨムでも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる