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転生と記憶
6 裏切りの棘
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ティーサンリード山賊団が拠点としている地下壕に、鹿革のボールが壁にはずむ軽快な音が響いている。その真新しい石壁は、一月ほど前の襲撃でさんざんに破壊され、先日ようやく修理を終えたばかりのものだった。
「アル、そっちで遊んじゃダメだよ」
「わかってる」
十二歳のアルフォンスは朝の手伝いを終え、リースベットが倉庫から見繕って子供たちに与えたボールで、あり余る時間と体力を蕩尽していた。アウロラの注意にも生返事で応え、ボールの壁当てに熱中している。
同年輩の子供は他にも二人いるが、最年長の少女アニタは料理番のエステルについて料理を教わっていた。最年少のミカルは長老と呼ばれる盲目の老人のもとへ行き、リードホルムに伝わる民話や世界の成り立ちの物語を熱心に聞いている。
不規則に弾むボールに導かれるように、少年は入り口に通じる階段の前までやってきた。
朝日に白む空が望める薄暗がりの階段には、アルフォンスよりも背の低い山賊風の男が、腰を落として佇んでいる。短剣を背負ったその男の顔は、逆光に翳っていてよく見えない。
「……おじさんも山賊の人?」
「ヘヘ……ガキがいんのか。おかしいな、山賊の根城じゃなかったのかな……」
小男の声音に不穏なものを感じたアルフォンスは、アウロラのもとへ戻ろうとボールを拾った。
だが小男に背を向けて走り去ろうとすると、右脚に刺すような痛みを覚えた。彼の太ももの裏には、太い針のような金属の棒が刺さっている。アルフォンスは短い叫び声を上げて倒れ、ボールだけが転げ回って逃げていった。
「最初の獲物は小せえが……まあいいや」
小男は嗄れ声でつぶやき、不気味な笑みを浮かべて懐から四本の長大な針を取り出す。
「姉ちゃん!」
痛みと不安で恐慌状態になったアルフォンスは、泣きながらアウロラの名を呼んだ。それに呼応するように、少年の保護者は間髪入れずに姿を表す。
最初の叫び声に異変を感じ、様子を伺うために入口近くまで来ていたのだ。
「アル! どうしたの!」
「またガキか? どうなってんだ一体」
「あんた……ここの人間じゃないね。何者?!」
アウロラはアルフォンスと小男の間に割って入り、すぐに小ぶりの鎚鉾を構えた。彼女の心情を表すように、赤毛の髪が揺らめく。
「この狩人ロブネル様を知らねえか……カッセルじゃちょっとした有名人なんだがな」
「知らないわよ。どうせ悪いほうに有名なんでしょ」
夜が明けきる前にフェルディンたちのもとを離れたロブネルは、ひとりティーサンリード山賊団へと奇襲をかけたのだ。
常軌を逸した凶行だが、彼は何かの理由を問われるといつも、一言一句おなじ返答をする。――親父がやったように俺もやってるんだ。
「まあ関係ねえ。人でも鹿でも、死ねばみんなただの肉だ」
アウロラはロブネルの思考に嫌悪と怖気を感じ、言葉を飲んだ。
気圧されてわずかに後ずさりしつつも、アルフォンスの状態を伺う。出血量は少なく命の心配はなさそうだが、痛みに歯を食いしばり泣く姿が痛々しい。
「ちょっと待ってな。すぐエステルさんのところに連れて行くからね」
「ヘヘ、とっとと叫んで親でも呼んだらどうだ」
「あんたは私の家族に怪我をさせた。その報いはきっちり受けてもらう」
「ガキがいっちょ前に……」
「うるさいのよ。とっととかかってきたら? 自分より背の大きな人は怖い?」
「ほざくな!」
激昂したロブネルが投げつけた四本の針は、すべて鎚鉾で叩き落とされた。アウロラの技量に驚いたロブネルは、躍りかかろうとしていた足を止めて飛び退く。
もともと勝ち気なところのあるアウロラだったが、リースベットなどに感化されてか、ここ半月ほどで急激に口が悪くなっている。
アウロラは叩き落とした針を拾い上げた。
「これ、料理用の串でしょ。使い方間違えてるっって言われたことない?」
「減らず口を……」
「エステルさんに叱ってもらおうかしら……それとも私に叩きのめされるのがいい?」
懐に右手を入れて様子をうかがうロブネルを、アウロラはしきりに挑発する。
アルフォンスをかばいながら戦っているため、うかつに自分から仕掛けることができないのだ。だが精神的に圧倒されているロブネルは、そのことに気付けないでいる。
一瞬の間をおいて、身をかがめたロブネルはムササビのように跳躍し、低い天井を蹴って軌道を変化させながら飛びかかった。懐からさらに四本の針を投げつけ、左手で背中の短剣を抜いて斬りかかる。その波状攻撃は全てアウロラに向けられていたため、彼女は苦もなく身をかわし、当たりは浅いものの反撃を肩口に叩き込んだ。ロブネルは短くうめいて後方へ跳ぶ。
「このガキ、なんなんだ……? まさかフェルディンの野郎と同じ……」
「そういう戦い方なら、私のほうが上じゃないかしら」
アウロラはそう言いながらかき消えるように移動し、後ずさりするロブネルとの距離を詰めた。彼女が移動したのは、ロブネルからアルフォンスへの射線を遮る位置だ。
アウロラは少しずつ歩を進め、ロブネルを地下壕から押し出すように無言の圧力をかけ続ける。
外部まであと数メートルという位置まで近づくと、出入口の戸が閉じられたように壕内への日が遮られた。
「やっぱりここか」
そのくぐもった声は、出入り口を覆わんばかりの巨大な人影から発せられていた。全身を板金鎧に覆われた巨漢の男だ。
甲冑を着込んだヒグマのような威容が、アウロラたちを見下ろしている。
「カールソンか。……お、遅かったじゃねえか」
「また敵?! こんな時に……!」
「ロブネル、おめえ……」
重装に身を包んだクリスティアン・カールソンが、天井に兜をこすりながら近づいてくる。アウロラはアルフォンスを守るために後退した。
「子供を泣かせちゃダメじゃねえかよ!」
「何を?!」
カールソンはロブネルの襟首を掴み、彼をアカマツの森の彼方へと放り投げた。まるで鹿革のボールのように、人が空の彼方へと飛んでゆく。
遠ざかる小男の悲鳴を、アウロラは呆然と聞いていた。
林道に出ていたリースベットたち三人は、栗毛の馬を偏愛する伝達者、エンロートから期待以上の情報を得て意気揚々と帰還してきた。だが隠れ家としている地下壕に異変が起きていることに気付き、灌木の隙間から様子をうかがう。
入口そばでは二人の剣士らしき男が周囲を警戒し、内部も騒然としていることが遠巻きにも伝わってくる。
「おいおい……ありゃ、まさか」
眉間にしわを寄せ目を細めた老弓師ユーホルトが、愕然としてうめき声を漏らした。
「あいつはミルヴェーデンじゃねえか。年はとってるが間違いねえ」
「知り合いか?」
「ああ。昔いたカッセルの傭兵部隊でな」
ユーホルトは二人の剣士のうち、細身の曲刀を携えた蓬髪の男を注視している。リースベットは腕組みをして目を細め、バックマンは望遠鏡で、それぞれミルヴェーデンの姿を確認した。
「どんな奴だ?」
「一言でいえば、やべえ奴だ」
「昔話をして帰ってもらう、ってのはダメか?」
「まあ無理だな。カッセルの頃も、勝手に一人で斬り合いおっ始めるわ、そうかと思えば唐突に戦いをやめるわ、よく分からねえ野郎だった」
「そりゃ、確かにやべえな」
「一つ言えるのは、無駄に腕が立つことだけだ。昔と変わってなけりゃあ……あいつのことだ、たぶん剣の鍛錬だけは怠ってねえだろう」
「……聞くだけでも最悪だな。で、何でそんな奴がここにいんだ? あたしらそんな悪いこと……」
「まあやってるな。特に最近は、まとめてツケを払わされてんのかって感じだ」
リースベットは腕組みをほどき、諦めたようにため息をついた。
「しゃあねえ、あたしが斬り込む。どのみち一戦交えなきゃならなそうだしな。ユーホルトは先に西口から戻ってくれ。中の様子が気がかりだ」
「お前さんなら遅れはとらんだろうが、奴も並の剣士じゃねえ。……昔の話だが、鞘に入れたままの剣を、攻撃する瞬間に抜く不思議な剣技を見たことがある。用心してくれ」
「それが事前に分かってりゃ上等だ」
去り際に助言を残したユーホルトは、西の崖にある別の出入り口へと向かった。
残ったリースベットとバックマンは、交互に望遠鏡を覗いている。
「さて、奇襲して一気に片付けてえところだが……」
「向こうも充分に警戒してるって様子だな」
「ああ。それに連中には、差し金を持ってる奴のことも聞いておきたい。ここんとこ立て続けの襲撃が、何か変化の兆しなのかどうか……素直に正面から行くか」
「俺はどうする。もう一人を受け持ちゃいいのか?」
「いや、実力が分からねえ以上、うかつに手は出さねえほうがいい。あたしが不利そうだったら適当に援護してくれ」
リースベットは深刻な面持ちで様子を見ていたが、左方向に視点を移すと、その表情は脱力したように崩れた。
「……しかしもう一人の野郎、ありゃ何だ?」
「あんなもん羽織ってる奴なんざ、ベステルオースでやってる三文芝居にだって出てこねえぞ」
「金持ちのバカ息子だって、よっぽど拗らせてねえと、ああはならねえな」
ミルヴェーデンとともに地下壕の出入り口を固めているもう一人の男は、ラルフ・フェルディンだ。マントを羽織り白く染め上げた革手袋を着けた彼のいでたちには、山賊でなくとも奇異の目が向けられる。
「見た目通りただのアホならいいが、アウロラの先例がある。少人数でのこのこやってくる以上、それなりの自信があっての行動だろう」
「最悪リーパーってこともあるか。そいつは確かに俺の手には負えんな」
「ツグミの羽根より軽い山賊の命でも、無駄死にすることはねえ。さあ行くぜ」
リースベットは身を隠していた灌木から飛び出し、住処の出入り口に向けて走り出した。
「アル、そっちで遊んじゃダメだよ」
「わかってる」
十二歳のアルフォンスは朝の手伝いを終え、リースベットが倉庫から見繕って子供たちに与えたボールで、あり余る時間と体力を蕩尽していた。アウロラの注意にも生返事で応え、ボールの壁当てに熱中している。
同年輩の子供は他にも二人いるが、最年長の少女アニタは料理番のエステルについて料理を教わっていた。最年少のミカルは長老と呼ばれる盲目の老人のもとへ行き、リードホルムに伝わる民話や世界の成り立ちの物語を熱心に聞いている。
不規則に弾むボールに導かれるように、少年は入り口に通じる階段の前までやってきた。
朝日に白む空が望める薄暗がりの階段には、アルフォンスよりも背の低い山賊風の男が、腰を落として佇んでいる。短剣を背負ったその男の顔は、逆光に翳っていてよく見えない。
「……おじさんも山賊の人?」
「ヘヘ……ガキがいんのか。おかしいな、山賊の根城じゃなかったのかな……」
小男の声音に不穏なものを感じたアルフォンスは、アウロラのもとへ戻ろうとボールを拾った。
だが小男に背を向けて走り去ろうとすると、右脚に刺すような痛みを覚えた。彼の太ももの裏には、太い針のような金属の棒が刺さっている。アルフォンスは短い叫び声を上げて倒れ、ボールだけが転げ回って逃げていった。
「最初の獲物は小せえが……まあいいや」
小男は嗄れ声でつぶやき、不気味な笑みを浮かべて懐から四本の長大な針を取り出す。
「姉ちゃん!」
痛みと不安で恐慌状態になったアルフォンスは、泣きながらアウロラの名を呼んだ。それに呼応するように、少年の保護者は間髪入れずに姿を表す。
最初の叫び声に異変を感じ、様子を伺うために入口近くまで来ていたのだ。
「アル! どうしたの!」
「またガキか? どうなってんだ一体」
「あんた……ここの人間じゃないね。何者?!」
アウロラはアルフォンスと小男の間に割って入り、すぐに小ぶりの鎚鉾を構えた。彼女の心情を表すように、赤毛の髪が揺らめく。
「この狩人ロブネル様を知らねえか……カッセルじゃちょっとした有名人なんだがな」
「知らないわよ。どうせ悪いほうに有名なんでしょ」
夜が明けきる前にフェルディンたちのもとを離れたロブネルは、ひとりティーサンリード山賊団へと奇襲をかけたのだ。
常軌を逸した凶行だが、彼は何かの理由を問われるといつも、一言一句おなじ返答をする。――親父がやったように俺もやってるんだ。
「まあ関係ねえ。人でも鹿でも、死ねばみんなただの肉だ」
アウロラはロブネルの思考に嫌悪と怖気を感じ、言葉を飲んだ。
気圧されてわずかに後ずさりしつつも、アルフォンスの状態を伺う。出血量は少なく命の心配はなさそうだが、痛みに歯を食いしばり泣く姿が痛々しい。
「ちょっと待ってな。すぐエステルさんのところに連れて行くからね」
「ヘヘ、とっとと叫んで親でも呼んだらどうだ」
「あんたは私の家族に怪我をさせた。その報いはきっちり受けてもらう」
「ガキがいっちょ前に……」
「うるさいのよ。とっととかかってきたら? 自分より背の大きな人は怖い?」
「ほざくな!」
激昂したロブネルが投げつけた四本の針は、すべて鎚鉾で叩き落とされた。アウロラの技量に驚いたロブネルは、躍りかかろうとしていた足を止めて飛び退く。
もともと勝ち気なところのあるアウロラだったが、リースベットなどに感化されてか、ここ半月ほどで急激に口が悪くなっている。
アウロラは叩き落とした針を拾い上げた。
「これ、料理用の串でしょ。使い方間違えてるっって言われたことない?」
「減らず口を……」
「エステルさんに叱ってもらおうかしら……それとも私に叩きのめされるのがいい?」
懐に右手を入れて様子をうかがうロブネルを、アウロラはしきりに挑発する。
アルフォンスをかばいながら戦っているため、うかつに自分から仕掛けることができないのだ。だが精神的に圧倒されているロブネルは、そのことに気付けないでいる。
一瞬の間をおいて、身をかがめたロブネルはムササビのように跳躍し、低い天井を蹴って軌道を変化させながら飛びかかった。懐からさらに四本の針を投げつけ、左手で背中の短剣を抜いて斬りかかる。その波状攻撃は全てアウロラに向けられていたため、彼女は苦もなく身をかわし、当たりは浅いものの反撃を肩口に叩き込んだ。ロブネルは短くうめいて後方へ跳ぶ。
「このガキ、なんなんだ……? まさかフェルディンの野郎と同じ……」
「そういう戦い方なら、私のほうが上じゃないかしら」
アウロラはそう言いながらかき消えるように移動し、後ずさりするロブネルとの距離を詰めた。彼女が移動したのは、ロブネルからアルフォンスへの射線を遮る位置だ。
アウロラは少しずつ歩を進め、ロブネルを地下壕から押し出すように無言の圧力をかけ続ける。
外部まであと数メートルという位置まで近づくと、出入口の戸が閉じられたように壕内への日が遮られた。
「やっぱりここか」
そのくぐもった声は、出入り口を覆わんばかりの巨大な人影から発せられていた。全身を板金鎧に覆われた巨漢の男だ。
甲冑を着込んだヒグマのような威容が、アウロラたちを見下ろしている。
「カールソンか。……お、遅かったじゃねえか」
「また敵?! こんな時に……!」
「ロブネル、おめえ……」
重装に身を包んだクリスティアン・カールソンが、天井に兜をこすりながら近づいてくる。アウロラはアルフォンスを守るために後退した。
「子供を泣かせちゃダメじゃねえかよ!」
「何を?!」
カールソンはロブネルの襟首を掴み、彼をアカマツの森の彼方へと放り投げた。まるで鹿革のボールのように、人が空の彼方へと飛んでゆく。
遠ざかる小男の悲鳴を、アウロラは呆然と聞いていた。
林道に出ていたリースベットたち三人は、栗毛の馬を偏愛する伝達者、エンロートから期待以上の情報を得て意気揚々と帰還してきた。だが隠れ家としている地下壕に異変が起きていることに気付き、灌木の隙間から様子をうかがう。
入口そばでは二人の剣士らしき男が周囲を警戒し、内部も騒然としていることが遠巻きにも伝わってくる。
「おいおい……ありゃ、まさか」
眉間にしわを寄せ目を細めた老弓師ユーホルトが、愕然としてうめき声を漏らした。
「あいつはミルヴェーデンじゃねえか。年はとってるが間違いねえ」
「知り合いか?」
「ああ。昔いたカッセルの傭兵部隊でな」
ユーホルトは二人の剣士のうち、細身の曲刀を携えた蓬髪の男を注視している。リースベットは腕組みをして目を細め、バックマンは望遠鏡で、それぞれミルヴェーデンの姿を確認した。
「どんな奴だ?」
「一言でいえば、やべえ奴だ」
「昔話をして帰ってもらう、ってのはダメか?」
「まあ無理だな。カッセルの頃も、勝手に一人で斬り合いおっ始めるわ、そうかと思えば唐突に戦いをやめるわ、よく分からねえ野郎だった」
「そりゃ、確かにやべえな」
「一つ言えるのは、無駄に腕が立つことだけだ。昔と変わってなけりゃあ……あいつのことだ、たぶん剣の鍛錬だけは怠ってねえだろう」
「……聞くだけでも最悪だな。で、何でそんな奴がここにいんだ? あたしらそんな悪いこと……」
「まあやってるな。特に最近は、まとめてツケを払わされてんのかって感じだ」
リースベットは腕組みをほどき、諦めたようにため息をついた。
「しゃあねえ、あたしが斬り込む。どのみち一戦交えなきゃならなそうだしな。ユーホルトは先に西口から戻ってくれ。中の様子が気がかりだ」
「お前さんなら遅れはとらんだろうが、奴も並の剣士じゃねえ。……昔の話だが、鞘に入れたままの剣を、攻撃する瞬間に抜く不思議な剣技を見たことがある。用心してくれ」
「それが事前に分かってりゃ上等だ」
去り際に助言を残したユーホルトは、西の崖にある別の出入り口へと向かった。
残ったリースベットとバックマンは、交互に望遠鏡を覗いている。
「さて、奇襲して一気に片付けてえところだが……」
「向こうも充分に警戒してるって様子だな」
「ああ。それに連中には、差し金を持ってる奴のことも聞いておきたい。ここんとこ立て続けの襲撃が、何か変化の兆しなのかどうか……素直に正面から行くか」
「俺はどうする。もう一人を受け持ちゃいいのか?」
「いや、実力が分からねえ以上、うかつに手は出さねえほうがいい。あたしが不利そうだったら適当に援護してくれ」
リースベットは深刻な面持ちで様子を見ていたが、左方向に視点を移すと、その表情は脱力したように崩れた。
「……しかしもう一人の野郎、ありゃ何だ?」
「あんなもん羽織ってる奴なんざ、ベステルオースでやってる三文芝居にだって出てこねえぞ」
「金持ちのバカ息子だって、よっぽど拗らせてねえと、ああはならねえな」
ミルヴェーデンとともに地下壕の出入り口を固めているもう一人の男は、ラルフ・フェルディンだ。マントを羽織り白く染め上げた革手袋を着けた彼のいでたちには、山賊でなくとも奇異の目が向けられる。
「見た目通りただのアホならいいが、アウロラの先例がある。少人数でのこのこやってくる以上、それなりの自信があっての行動だろう」
「最悪リーパーってこともあるか。そいつは確かに俺の手には負えんな」
「ツグミの羽根より軽い山賊の命でも、無駄死にすることはねえ。さあ行くぜ」
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