27 / 31
番外編「温かな居場所」
*
しおりを挟む
『八雲さん、こっち!』
「え…?!」
その声の主は、隣の席の七塚 梢だった。
「どう、して――」
呆然とする凪咲の横を、誰かが素早く駆けていく。
「ちょっと!八雲さんに何してんの!」
《ゆ、ゆかぁ。おいら、はらがへったんだよぅ》
振り向くと、恐ろしかった筈の達磨が半べそをかいていた。しかも、その達磨の前には優香がちょこんと立っている。
「ちょっ、百瀬さん!危ない――」
『優香ちゃんは、大丈夫なの』
「え?」
『ほら』
梢が指差す方を見れば、優香が自分のランドセルから給食のパンの残りを取り出していた。
「パンしかないけど、いい?」
《ぱん、すき》
「ほんと?じゃあ、これ一個全部食べていいよ。だから、人間を襲うのはだめね」
《わかった。ゆか、ありがとう》
そう言うと、達磨は嬉しそうな顔でパンを口にして、風の中に溶ける様に消えていった。
*
三人で、公園のベンチに座る。
最初は三人とも黙っていたが、やがて優香が話を切り出した。
「八雲さん、怖がらせてごめんね。あの子、食いしん坊なの」
「え?」
何の話かと凪咲が小首を傾げていると、優香が平然とした顔で「さっきの達磨」と答えた。
「え…え?!ねえ、百瀬さんもあやかしが見えるの?」
「見えるよ」
「陰陽師なの?」
「陰陽師…って、何?」
今度は優香がきょとんと小首を傾げる。
『陰陽師って、あやかしを退治する人のこと…だよね』
黙って話を聞いていた梢が、おずおずと尋ねる。その梢の言葉に、凪咲は小さく頷いた。
「え?何で、あやかしを退治するの?」
「え?!じゃあ、百瀬さんはどうしてるの?」
「何を?」
「だからっ!あやかしを、だよ!」
思わず語気を荒らげて言うと、優香はけろっとして「遊んだり、話したり?」と答えた。
その答えに、凪咲はますます訳が分からなくなった。
「ねえ、あやかしは悪いものなんだよ。倒さないといけないの」
「悪い事をする事もあるけど、それにはちゃんと理由があるよ。だから、叱ってあげたらいいじゃん?」
「はぁ?!」
何だか頭が痛くなってきた様な気がして、凪咲は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「ねぇ、百瀬さんって何なの?」
『優香ちゃんのお家の人達は、昔からあやかしに寄り添ってくれてるの』
苛立たしげに問い掛けると、代わりに梢が答えた。
「寄り添う?」
「人間も、あやかしも一緒だよ。困ってたら、助けてあげるの」
「何で」
「ご先祖さまが、そうしてきたから」
凪咲の家も、代々の御先祖が陰陽師として、あやかしを祓ってきていた。
相容れない運命にある二人を見つめながら、梢が安心した様に笑う。
「え…?!」
その声の主は、隣の席の七塚 梢だった。
「どう、して――」
呆然とする凪咲の横を、誰かが素早く駆けていく。
「ちょっと!八雲さんに何してんの!」
《ゆ、ゆかぁ。おいら、はらがへったんだよぅ》
振り向くと、恐ろしかった筈の達磨が半べそをかいていた。しかも、その達磨の前には優香がちょこんと立っている。
「ちょっ、百瀬さん!危ない――」
『優香ちゃんは、大丈夫なの』
「え?」
『ほら』
梢が指差す方を見れば、優香が自分のランドセルから給食のパンの残りを取り出していた。
「パンしかないけど、いい?」
《ぱん、すき》
「ほんと?じゃあ、これ一個全部食べていいよ。だから、人間を襲うのはだめね」
《わかった。ゆか、ありがとう》
そう言うと、達磨は嬉しそうな顔でパンを口にして、風の中に溶ける様に消えていった。
*
三人で、公園のベンチに座る。
最初は三人とも黙っていたが、やがて優香が話を切り出した。
「八雲さん、怖がらせてごめんね。あの子、食いしん坊なの」
「え?」
何の話かと凪咲が小首を傾げていると、優香が平然とした顔で「さっきの達磨」と答えた。
「え…え?!ねえ、百瀬さんもあやかしが見えるの?」
「見えるよ」
「陰陽師なの?」
「陰陽師…って、何?」
今度は優香がきょとんと小首を傾げる。
『陰陽師って、あやかしを退治する人のこと…だよね』
黙って話を聞いていた梢が、おずおずと尋ねる。その梢の言葉に、凪咲は小さく頷いた。
「え?何で、あやかしを退治するの?」
「え?!じゃあ、百瀬さんはどうしてるの?」
「何を?」
「だからっ!あやかしを、だよ!」
思わず語気を荒らげて言うと、優香はけろっとして「遊んだり、話したり?」と答えた。
その答えに、凪咲はますます訳が分からなくなった。
「ねえ、あやかしは悪いものなんだよ。倒さないといけないの」
「悪い事をする事もあるけど、それにはちゃんと理由があるよ。だから、叱ってあげたらいいじゃん?」
「はぁ?!」
何だか頭が痛くなってきた様な気がして、凪咲は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「ねぇ、百瀬さんって何なの?」
『優香ちゃんのお家の人達は、昔からあやかしに寄り添ってくれてるの』
苛立たしげに問い掛けると、代わりに梢が答えた。
「寄り添う?」
「人間も、あやかしも一緒だよ。困ってたら、助けてあげるの」
「何で」
「ご先祖さまが、そうしてきたから」
凪咲の家も、代々の御先祖が陰陽師として、あやかしを祓ってきていた。
相容れない運命にある二人を見つめながら、梢が安心した様に笑う。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
紹嘉後宮百花譚 鬼神と天女の花の庭
響 蒼華
キャラ文芸
始まりの皇帝が四人の天仙の助力を得て開いたとされる、その威光は遍く大陸を照らすと言われる紹嘉帝国。
当代の皇帝は血も涙もない、冷酷非情な『鬼神』と畏怖されていた。
ある時、辺境の小国である瑞の王女が後宮に妃嬪として迎えられた。
しかし、麗しき天女と称される王女に突きつけられたのは、寵愛は期待するなという拒絶の言葉。
人々が騒めく中、王女は心の中でこう思っていた――ああ、よかった、と……。
鬼神と恐れられた皇帝と、天女と讃えられた妃嬪が、花の庭で紡ぐ物語。
小児科医、姪を引き取ることになりました。
sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。
慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
お稲荷様と私のほっこり日常レシピ
夕日(夕日凪)
キャラ文芸
その小さなお稲荷様は私…古橋はるかの家の片隅にある。それは一族繁栄を担ってくれている我が家にとって大事なお稲荷様なのだとか。そのお稲荷様に毎日お供え物をするのが我が家の日課なのだけれど、両親が長期の海外出張に行くことになってしまい、お稲荷様のご飯をしばらく私が担当することに。
そして一人暮らしの一日目。
いつもの通りにお供えをすると「まずい!」という一言とともにケモミミの男性が社から飛び出してきて…。
『私のために料理の腕を上げろ!このバカ娘!』
そんなこんなではじまる、お稲荷様と女子高生のほっこり日常レシピと怪異のお話。
キャラ文芸対象であやかし賞をいただきました!ありがとうございます!
現在アルファポリス様より書籍化進行中です。
10/25に作品引き下げをさせていただきました!
護堂先生と神様のごはん あやかし子狐と三日月オムライス
栗槙ひので
キャラ文芸
中学校教師の護堂夏也は、独り身で亡くなった叔父の古屋敷に住む事になり、食いしん坊の神様と、ちょっと大人びた座敷童子の少年と一緒に山間の田舎町で暮らしている。
神様や妖怪達と暮らす奇妙な日常にも慣れつつあった夏也だが、ある日雑木林の藪の中から呻き声がする事に気が付く。心配して近寄ってみると、小さな子どもが倒れていた。その子には狐の耳と尻尾が生えていて……。
保護した子狐を狙って次々現れるあやかし達。霊感のある警察官やオカルト好きの生徒、はた迷惑な英語教師に近所のお稲荷さんまで、人間も神様もクセ者ばかり。夏也の毎日はやっぱり落ち着かない。
護堂先生と神様のごはんシリーズ
長編3作目
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる