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番外編「温かな居場所」

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『八雲さん、こっち!』

「え…?!」

その声の主は、隣の席の七塚 梢だった。

「どう、して――」

呆然とする凪咲の横を、誰かが素早く駆けていく。

「ちょっと!八雲さんに何してんの!」

《ゆ、ゆかぁ。おいら、はらがへったんだよぅ》

振り向くと、恐ろしかった筈の達磨が半べそをかいていた。しかも、その達磨の前には優香がちょこんと立っている。

「ちょっ、百瀬さん!危ない――」

『優香ちゃんは、大丈夫なの』

「え?」

『ほら』

梢が指差す方を見れば、優香が自分のランドセルから給食のパンの残りを取り出していた。

「パンしかないけど、いい?」

《ぱん、すき》

「ほんと?じゃあ、これ一個全部食べていいよ。だから、人間を襲うのはだめね」

《わかった。ゆか、ありがとう》

そう言うと、達磨は嬉しそうな顔でパンを口にして、風の中に溶ける様に消えていった。




三人で、公園のベンチに座る。
最初は三人とも黙っていたが、やがて優香が話を切り出した。

「八雲さん、怖がらせてごめんね。あの子、食いしん坊なの」

「え?」

何の話かと凪咲が小首を傾げていると、優香が平然とした顔で「さっきの達磨」と答えた。

「え…え?!ねえ、百瀬さんもあやかしが見えるの?」

「見えるよ」

「陰陽師なの?」

「陰陽師…って、何?」

今度は優香がきょとんと小首を傾げる。

『陰陽師って、あやかしを退治する人のこと…だよね』

黙って話を聞いていた梢が、おずおずと尋ねる。その梢の言葉に、凪咲は小さく頷いた。

「え?何で、あやかしを退治するの?」

「え?!じゃあ、百瀬さんはどうしてるの?」

「何を?」

「だからっ!あやかしを、だよ!」

思わず語気を荒らげて言うと、優香はけろっとして「遊んだり、話したり?」と答えた。

その答えに、凪咲はますます訳が分からなくなった。

「ねえ、あやかしは悪いものなんだよ。倒さないといけないの」

「悪い事をする事もあるけど、それにはちゃんと理由があるよ。だから、叱ってあげたらいいじゃん?」

「はぁ?!」

何だか頭が痛くなってきた様な気がして、凪咲は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

「ねぇ、百瀬さんって何なの?」

『優香ちゃんのお家の人達は、昔からあやかしに寄り添ってくれてるの』

苛立たしげに問い掛けると、代わりに梢が答えた。

「寄り添う?」

「人間も、あやかしも一緒だよ。困ってたら、助けてあげるの」

「何で」

「ご先祖さまが、そうしてきたから」

凪咲の家も、代々の御先祖が陰陽師として、あやかしを祓ってきていた。
相容れない運命さだめにある二人を見つめながら、梢が安心した様に笑う。




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