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第8話 図書館
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どうやら入った店はカフェだったようだ。まあコーヒーはないが。俺はメロンソーダと好物のフルーツサンドを、玲奈はコーラフロートを頼んだ。
「さっきはごめんなさい」
玲奈がペコリと頭を下げる。
「なんでそんなに警察を避けるんだ」
俺はそれが気がかりだった。初めて玲奈に会った時も警察には連れて行くなと懇願していたし、玲奈は警察にはかなりセンシティブみたいだ。
「警察に捕まったらまたあそこに戻らなきゃいけない」
玲奈は萎縮した。
「あそこって?」
玲奈は顔を上げ、顔にまとわりついた長くて綺麗な髪をはらった。その目にはまだ涙が滲む。
「児童養護施設のこと。警察に身元がバレたらまたそこにぶち込まれる」
俺はその時点で、ある程度の事情は把握した。玲奈はおそらく、両親がいなくて施設で育てられ、そこでぞんざいな扱いをされたのだろう。
「あそこから逃げ出したのは2回目なの。もう戻ったら出られない」
そう言う玲奈の声には嗚咽が混じっていた。そして赤みがかった頰に流れる一粒の涙。さっき家を出た時とは違う、本物の涙だ。
俺には想像できない辛い過去があるのだろう。
俺はそんな彼女にかける言葉がなかった。
その時、頼んでいたフルーツサンドがちょうどきた。
「ほら、これでも食って元気だせって」
フルーツサンドの皿を玲奈の方に寄せた。
「なにこれ。フルーツのサンドイッチなんて見たことないよ」
玲奈は涙を拭って無理に笑う。
「いいから一回食ってみろって。ほっぺたが落ちるほどうまいぞ」
玲奈は首を傾げながらサンドイッチの一切れをパクりと一口食べた。
「どうだ、うまいだろ」
「全然。コーラとポテチの方が美味しい」
こいつ、舌が完全に麻痺しやがってる。
「あーそうかい。じゃあお前はそれだけ食ってなよ」
「でも元気出た。ありがとう陸斗」
玲奈は俺に向かって微笑む。なんだよ、可愛い一面もあるじゃないか。
*
俺は喫茶店デートをして浮かれてる場合ではない。
本来の目的はカフェインについての情報収集だ。
昨日の夜にネットでカフェインのことは調べたが、情報が政府によって著しく制限されているらしく、死神が教えてくれたこと以上のものは手に入らなかった。サファの生産地でさえわからない。だから俺は図書館で調べ物をしようと思った。
喫茶店を出て、玲奈と図書館へ向かった。
「りくとー。なんで図書館なんて行くの?」
「カフェインについて調べる」
「カフェインってサファに入ってる超高級品じゃん。私も一回飲んでみたいな」
「お前が毎日飲んでるコーラに含まれてるだろ」
俺は真面目に言ったが、玲奈はそれがあたかも冗談のように笑った。
「そんな高級品が入ってるわけないじゃん。入ってたらいいのにね~」
たしかにカフェインの入手が著しく困難なこの世界ではコーラにカフェインが含まれてるわけがないか。
そんなことを考えてるうちに図書館に着いた。
俺が来た新都中央図書館はこの国で一番大きい図書館だ。ここなら何かしらの情報が手に入るはず。しかし、図書館があまりにも広すぎて、自分の欲しい情報がどこにあるかわからない。俺は近くにあった書物検索機械を使うことにした。
検索ワード:サファ
検索結果:0件
目を疑った。こんな大きい図書館なら一冊ぐらいあってもいいだろう。「カフェイン」で調べてみても結果は同じだった。どうやら政府の情報制限はかなりのもののようだ。帰ろうと思っていたところ、背の高い外国人が目に入った。服装から察するに、司書だ。俺はすぐに駆け寄った。
「すみません。調べ物をしてるんですが全然参考資料がなくて、手伝っていただけますか?」
「どんな本をお探しかな?」
あまりにダンディーな声と、流暢《りゅうちょう》な日本語に驚いた。
「カフェインやサファについてなんですが、見つからなくて」
司書さんは困った顔をして手を顎に当て、考え込み始めた。俺の目を見つめ、少しの間があってからこう言った。
「あんた、ただの好奇心で調べたいわけじゃなさそうだな。じゃあ普段は立ち入り禁止の書庫に特別に入らせてやる。但し、他言無用だ」
ものすごい気迫で司書さんはそう言った。俺は心の中で大きくガッツポーズをし、司書さんについていった。
その書庫は地下にあった。鉄の扉で守られており、司書さんが生体認証とパスワード入力をしてようやく開いた。
中は壮観だった。本の量は地上と同じくらい、いやもっと多いかもしれない。
「ここは国の書物、出版禁止された本、重要な歴史書など、一般の人には見せられないものでいっぱいだ。」
「あの...司書さん」
「クレヴィでいい」
「クレヴィさん。こんなとこ俺が入って大丈夫なんですか」
「大丈夫じゃない。でもまずバレないまら安心しろ。というのもこの地下室はどんな災害が来ても耐えられるような構造になっていて、それのせいで外部との連絡手段は遮断されてる。だから防犯カメラもないし、誰が入ったのかもわからない。今この国で入れる人間は俺ともう一人の司書だけだから、監視カメラなんてそもそも必要ないんだ。だからお前が入っても誰も知るすべは無い」
図書館の司書ということもあり話すスピードが速い。
「ここだ」
俺は埃まみれの棚に案内された。
「この棚全部ですか。意外と多いですね」
サファやカフェインの書物は百冊以上あった。俺はクレヴィさんに渡された白い手袋をはめ、早速作業に取り掛かった。
「さっきはごめんなさい」
玲奈がペコリと頭を下げる。
「なんでそんなに警察を避けるんだ」
俺はそれが気がかりだった。初めて玲奈に会った時も警察には連れて行くなと懇願していたし、玲奈は警察にはかなりセンシティブみたいだ。
「警察に捕まったらまたあそこに戻らなきゃいけない」
玲奈は萎縮した。
「あそこって?」
玲奈は顔を上げ、顔にまとわりついた長くて綺麗な髪をはらった。その目にはまだ涙が滲む。
「児童養護施設のこと。警察に身元がバレたらまたそこにぶち込まれる」
俺はその時点で、ある程度の事情は把握した。玲奈はおそらく、両親がいなくて施設で育てられ、そこでぞんざいな扱いをされたのだろう。
「あそこから逃げ出したのは2回目なの。もう戻ったら出られない」
そう言う玲奈の声には嗚咽が混じっていた。そして赤みがかった頰に流れる一粒の涙。さっき家を出た時とは違う、本物の涙だ。
俺には想像できない辛い過去があるのだろう。
俺はそんな彼女にかける言葉がなかった。
その時、頼んでいたフルーツサンドがちょうどきた。
「ほら、これでも食って元気だせって」
フルーツサンドの皿を玲奈の方に寄せた。
「なにこれ。フルーツのサンドイッチなんて見たことないよ」
玲奈は涙を拭って無理に笑う。
「いいから一回食ってみろって。ほっぺたが落ちるほどうまいぞ」
玲奈は首を傾げながらサンドイッチの一切れをパクりと一口食べた。
「どうだ、うまいだろ」
「全然。コーラとポテチの方が美味しい」
こいつ、舌が完全に麻痺しやがってる。
「あーそうかい。じゃあお前はそれだけ食ってなよ」
「でも元気出た。ありがとう陸斗」
玲奈は俺に向かって微笑む。なんだよ、可愛い一面もあるじゃないか。
*
俺は喫茶店デートをして浮かれてる場合ではない。
本来の目的はカフェインについての情報収集だ。
昨日の夜にネットでカフェインのことは調べたが、情報が政府によって著しく制限されているらしく、死神が教えてくれたこと以上のものは手に入らなかった。サファの生産地でさえわからない。だから俺は図書館で調べ物をしようと思った。
喫茶店を出て、玲奈と図書館へ向かった。
「りくとー。なんで図書館なんて行くの?」
「カフェインについて調べる」
「カフェインってサファに入ってる超高級品じゃん。私も一回飲んでみたいな」
「お前が毎日飲んでるコーラに含まれてるだろ」
俺は真面目に言ったが、玲奈はそれがあたかも冗談のように笑った。
「そんな高級品が入ってるわけないじゃん。入ってたらいいのにね~」
たしかにカフェインの入手が著しく困難なこの世界ではコーラにカフェインが含まれてるわけがないか。
そんなことを考えてるうちに図書館に着いた。
俺が来た新都中央図書館はこの国で一番大きい図書館だ。ここなら何かしらの情報が手に入るはず。しかし、図書館があまりにも広すぎて、自分の欲しい情報がどこにあるかわからない。俺は近くにあった書物検索機械を使うことにした。
検索ワード:サファ
検索結果:0件
目を疑った。こんな大きい図書館なら一冊ぐらいあってもいいだろう。「カフェイン」で調べてみても結果は同じだった。どうやら政府の情報制限はかなりのもののようだ。帰ろうと思っていたところ、背の高い外国人が目に入った。服装から察するに、司書だ。俺はすぐに駆け寄った。
「すみません。調べ物をしてるんですが全然参考資料がなくて、手伝っていただけますか?」
「どんな本をお探しかな?」
あまりにダンディーな声と、流暢《りゅうちょう》な日本語に驚いた。
「カフェインやサファについてなんですが、見つからなくて」
司書さんは困った顔をして手を顎に当て、考え込み始めた。俺の目を見つめ、少しの間があってからこう言った。
「あんた、ただの好奇心で調べたいわけじゃなさそうだな。じゃあ普段は立ち入り禁止の書庫に特別に入らせてやる。但し、他言無用だ」
ものすごい気迫で司書さんはそう言った。俺は心の中で大きくガッツポーズをし、司書さんについていった。
その書庫は地下にあった。鉄の扉で守られており、司書さんが生体認証とパスワード入力をしてようやく開いた。
中は壮観だった。本の量は地上と同じくらい、いやもっと多いかもしれない。
「ここは国の書物、出版禁止された本、重要な歴史書など、一般の人には見せられないものでいっぱいだ。」
「あの...司書さん」
「クレヴィでいい」
「クレヴィさん。こんなとこ俺が入って大丈夫なんですか」
「大丈夫じゃない。でもまずバレないまら安心しろ。というのもこの地下室はどんな災害が来ても耐えられるような構造になっていて、それのせいで外部との連絡手段は遮断されてる。だから防犯カメラもないし、誰が入ったのかもわからない。今この国で入れる人間は俺ともう一人の司書だけだから、監視カメラなんてそもそも必要ないんだ。だからお前が入っても誰も知るすべは無い」
図書館の司書ということもあり話すスピードが速い。
「ここだ」
俺は埃まみれの棚に案内された。
「この棚全部ですか。意外と多いですね」
サファやカフェインの書物は百冊以上あった。俺はクレヴィさんに渡された白い手袋をはめ、早速作業に取り掛かった。
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