破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明

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第1章 覚醒篇 ー6

第22話 ワイルドボア1

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 【バンリィ・ドルハ】。
 ニールが部屋を出て行った後、そのことばかりを思案していた。
 この世界で幻術を使える存在となると、それ以外に思いつかない。
 そんな【グラーデ】を持つ者は一人もいなかったし、その可能性が高いと思う。
 俺が知らないだけでそういう能力を所持している者がいるのかも知れないが、能力が強力すぎる。
 集団に幻覚を見せるほどの力となると、並大抵の【グラーデ】では不可能。
 ネームドキャラ以外にそんな能力を与えられるとは思えないし、それなら全てのキャラクターを知っている俺が知らないのはおかしい。
 そうなると、【バンリィ・ドルハ】の力を解放した者がいると仮定するのが一番現実的だ。

 俺が持つ【魔皇刃ヴァナッシュ】を含み、魔装具は三つある。
 【魔皇刃ヴァナッシュ】には【リーア・ドルハダス】の魂が宿っており、 【バンリィ・ドルハ】は魔装具の一つである【魔鎧装ドゥーレン】に宿っているのだ。
 【リーア・ドルハダス】に並ぶ闇の女王【バンリィ・ドルハ】……
 
 【魔鎧装ドゥーレン】を手にした者がいる。
 ゲーム中では、【ヴァナッシュ】以外の二つは、隠し要素として存在していた代物だ。
 【ヴァナッシュ】もクリア後に手に入るだけで、他の二つを入手できる者がいるのは信じがたい。
 でも現実に幻術を扱う者がいて、それは【バンリィ・ドルハ】の力に酷似している。
 それは誰かが【魔鎧装ドゥーレン】を手に入れたという証拠以外の何者でもない。
 俺の予感が正しいのなら……

「……転生者?」

 視界がグラリと揺れたような気がした。
 俺以外にも転生した者がいる?
 それは信じたくない現実で、そんなことあるはずないと俺は頭を振るう。

 いや、まさか
 でもそうとしか思えない。
 だけどそんなことはありえないはずだ。
 しかし俺は転生している。

「クソッ……まだ【ドゥーレン】を誰かが手に入れたって確証があるわけじゃない。嫌な予感であってほしいけれど……」

 嫌な汗をかきながら、俺は深いため息をつく。

「ダンカン様?」
「シアラ……どうした?」
「いえ、あまり顔色が優れないようですので」

 シアラが真顔ながらも、心配そうな雰囲気でこちらの顔を覗き込んでいる。
 彼女が近くまで来ていたというのに、気が付かなかった。

「いや、なんてことないよ」
「本当ですか?」
「あー……今日の晩はどこに行こうかなって。それを考えていたんだよ」
「そうですか……どこに行くとしても、私はついて参ります」
「無理はしないって約束してくれるならいいよ」

 シアラは「当然です」と一言だけ添え、力強く頷く。
 まだ犯人の目ぼしすらついていない。
 今は自分のできることに集中しよう。
 何があっても対処できるよう、力を蓄えるだけだ。

 ◇◇◇◇◇◇◇

 夕飯を食べ外が暗くなった頃、俺はシアラと共に【テレポート】で洞窟の入り口までやって来ていた。
 だが目的地はここじゃない。
 さらに北の方角にある場所を目指すため、現在俺が目的地に一番近い位置がここだったというだけの話だ。

「ダンカン様。今日もこの洞窟に?」
「いや違う。俺たちが目指すのはもっと北だ」
「北ですか」

 俺は頷き、北を目指して歩き出す。
 まだこの辺りに出現するのはゴブリンのみ。
 ゴブリンが現れると即座に倒し、経験値を稼ぎながら北上して行く。
 草原の中を進んで行くと、途中から変化のある地点があった。
 同じ草原ではあるが、花の数が大きく増える。
 
「この辺りからはモンスターも変わるから気を付けろ」
「はい」

 花が増えるのはいいことのように思えるが……この花はモンスターの死骸などの妖気を吸って成長する魔性花。
 黒く咲く花はモンスターの強さを示しているような、そんな空気感を覚える。

「あれがワイルドボアだ。猪型のモンスターだな」
「猪……美味しそうですね」
「……否定はできない」

 大きな牙を持ち、豚のような外見。
 人間の大人よりも大きく、俺たちからすれば巨人でも見ているような気分だ。
 ワイルドボアの戦闘力は、全体的にみれば大したことはないが、ゴブリンやスライム(火)に比べると強い。
 
 でも俺とシアラの実力を持ってすれば、倒せない相手じゃないはずだ。

「とりあえず、あいつは真っ直ぐ突っ込んで来る。結構素早いと思うから注意しろよ」
「はい」

 俺とシアラは左右に別れ、ワイルドボアを挟む形に位置する。
 ワイルドボアはこちらに気づいたようで、俺とシアラのどちらを狙うか顔を左右させていた。

「行くぞ!」
「はい」

 俺とシアラは同時に駆け出す。
 するとワイルドボアはシアラの方を向き、彼女に向かって走り出そうとしていた。
 しかし。

「ふっ!」

 見えざる俺の刃がワイルドボアの後ろ足を切り裂く。
 だが少し浅かったようで、悲鳴を上げつつシアラに向かって突進を開始した。

「ウボァアアアアアアアアアア!!」
「!」

 ワイルドボアが眼前に迫るのを、シアラは冷静に見据えていた。
 狩人のような目つき。
 どう仕留めるか、それを思案しているようだ。
 するとシアラは半歩だけ右に移動し、寸前のところでワイルドボアの突進を回避うする。
 そして一撃、右拳を相手の首元に叩き込む。
 ドスッ!
 ワイルドボアの体がよろける。
 俺はすかさず、ワイルドボアの真後ろまで移動し、相手の腹部に刃を突き立てた。
 音を立てて崩れるワイルドボア。
 俺たちの実力はワイルドボアを上回っていた。
 
 それを確認し、俺は自然と笑みを浮かべる。
 しかし。

「ダンカン様」
「ああ、分かってる……」

 シアラが警戒する。
 周囲に数多くのモンスターの気配。
 どうやら俺たちは取り囲まれたようだ。
 さて、どうやって切り抜けるかな。
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