22 / 23
第1章 覚醒篇 ー6
第22話 ワイルドボア1
しおりを挟む
【バンリィ・ドルハ】。
ニールが部屋を出て行った後、そのことばかりを思案していた。
この世界で幻術を使える存在となると、それ以外に思いつかない。
そんな【グラーデ】を持つ者は一人もいなかったし、その可能性が高いと思う。
俺が知らないだけでそういう能力を所持している者がいるのかも知れないが、能力が強力すぎる。
集団に幻覚を見せるほどの力となると、並大抵の【グラーデ】では不可能。
ネームドキャラ以外にそんな能力を与えられるとは思えないし、それなら全てのキャラクターを知っている俺が知らないのはおかしい。
そうなると、【バンリィ・ドルハ】の力を解放した者がいると仮定するのが一番現実的だ。
俺が持つ【魔皇刃ヴァナッシュ】を含み、魔装具は三つある。
【魔皇刃ヴァナッシュ】には【リーア・ドルハダス】の魂が宿っており、 【バンリィ・ドルハ】は魔装具の一つである【魔鎧装ドゥーレン】に宿っているのだ。
【リーア・ドルハダス】に並ぶ闇の女王【バンリィ・ドルハ】……
【魔鎧装ドゥーレン】を手にした者がいる。
ゲーム中では、【ヴァナッシュ】以外の二つは、隠し要素として存在していた代物だ。
【ヴァナッシュ】もクリア後に手に入るだけで、他の二つを入手できる者がいるのは信じがたい。
でも現実に幻術を扱う者がいて、それは【バンリィ・ドルハ】の力に酷似している。
それは誰かが【魔鎧装ドゥーレン】を手に入れたという証拠以外の何者でもない。
俺の予感が正しいのなら……
「……転生者?」
視界がグラリと揺れたような気がした。
俺以外にも転生した者がいる?
それは信じたくない現実で、そんなことあるはずないと俺は頭を振るう。
いや、まさか
でもそうとしか思えない。
だけどそんなことはありえないはずだ。
しかし俺は転生している。
「クソッ……まだ【ドゥーレン】を誰かが手に入れたって確証があるわけじゃない。嫌な予感であってほしいけれど……」
嫌な汗をかきながら、俺は深いため息をつく。
「ダンカン様?」
「シアラ……どうした?」
「いえ、あまり顔色が優れないようですので」
シアラが真顔ながらも、心配そうな雰囲気でこちらの顔を覗き込んでいる。
彼女が近くまで来ていたというのに、気が付かなかった。
「いや、なんてことないよ」
「本当ですか?」
「あー……今日の晩はどこに行こうかなって。それを考えていたんだよ」
「そうですか……どこに行くとしても、私はついて参ります」
「無理はしないって約束してくれるならいいよ」
シアラは「当然です」と一言だけ添え、力強く頷く。
まだ犯人の目ぼしすらついていない。
今は自分のできることに集中しよう。
何があっても対処できるよう、力を蓄えるだけだ。
◇◇◇◇◇◇◇
夕飯を食べ外が暗くなった頃、俺はシアラと共に【テレポート】で洞窟の入り口までやって来ていた。
だが目的地はここじゃない。
さらに北の方角にある場所を目指すため、現在俺が目的地に一番近い位置がここだったというだけの話だ。
「ダンカン様。今日もこの洞窟に?」
「いや違う。俺たちが目指すのはもっと北だ」
「北ですか」
俺は頷き、北を目指して歩き出す。
まだこの辺りに出現するのはゴブリンのみ。
ゴブリンが現れると即座に倒し、経験値を稼ぎながら北上して行く。
草原の中を進んで行くと、途中から変化のある地点があった。
同じ草原ではあるが、花の数が大きく増える。
「この辺りからはモンスターも変わるから気を付けろ」
「はい」
花が増えるのはいいことのように思えるが……この花はモンスターの死骸などの妖気を吸って成長する魔性花。
黒く咲く花はモンスターの強さを示しているような、そんな空気感を覚える。
「あれがワイルドボアだ。猪型のモンスターだな」
「猪……美味しそうですね」
「……否定はできない」
大きな牙を持ち、豚のような外見。
人間の大人よりも大きく、俺たちからすれば巨人でも見ているような気分だ。
ワイルドボアの戦闘力は、全体的にみれば大したことはないが、ゴブリンやスライム(火)に比べると強い。
でも俺とシアラの実力を持ってすれば、倒せない相手じゃないはずだ。
「とりあえず、あいつは真っ直ぐ突っ込んで来る。結構素早いと思うから注意しろよ」
「はい」
俺とシアラは左右に別れ、ワイルドボアを挟む形に位置する。
ワイルドボアはこちらに気づいたようで、俺とシアラのどちらを狙うか顔を左右させていた。
「行くぞ!」
「はい」
俺とシアラは同時に駆け出す。
するとワイルドボアはシアラの方を向き、彼女に向かって走り出そうとしていた。
しかし。
「ふっ!」
見えざる俺の刃がワイルドボアの後ろ足を切り裂く。
だが少し浅かったようで、悲鳴を上げつつシアラに向かって突進を開始した。
「ウボァアアアアアアアアアア!!」
「!」
ワイルドボアが眼前に迫るのを、シアラは冷静に見据えていた。
狩人のような目つき。
どう仕留めるか、それを思案しているようだ。
するとシアラは半歩だけ右に移動し、寸前のところでワイルドボアの突進を回避うする。
そして一撃、右拳を相手の首元に叩き込む。
ドスッ!
ワイルドボアの体がよろける。
俺はすかさず、ワイルドボアの真後ろまで移動し、相手の腹部に刃を突き立てた。
音を立てて崩れるワイルドボア。
俺たちの実力はワイルドボアを上回っていた。
それを確認し、俺は自然と笑みを浮かべる。
しかし。
「ダンカン様」
「ああ、分かってる……」
シアラが警戒する。
周囲に数多くのモンスターの気配。
どうやら俺たちは取り囲まれたようだ。
さて、どうやって切り抜けるかな。
ニールが部屋を出て行った後、そのことばかりを思案していた。
この世界で幻術を使える存在となると、それ以外に思いつかない。
そんな【グラーデ】を持つ者は一人もいなかったし、その可能性が高いと思う。
俺が知らないだけでそういう能力を所持している者がいるのかも知れないが、能力が強力すぎる。
集団に幻覚を見せるほどの力となると、並大抵の【グラーデ】では不可能。
ネームドキャラ以外にそんな能力を与えられるとは思えないし、それなら全てのキャラクターを知っている俺が知らないのはおかしい。
そうなると、【バンリィ・ドルハ】の力を解放した者がいると仮定するのが一番現実的だ。
俺が持つ【魔皇刃ヴァナッシュ】を含み、魔装具は三つある。
【魔皇刃ヴァナッシュ】には【リーア・ドルハダス】の魂が宿っており、 【バンリィ・ドルハ】は魔装具の一つである【魔鎧装ドゥーレン】に宿っているのだ。
【リーア・ドルハダス】に並ぶ闇の女王【バンリィ・ドルハ】……
【魔鎧装ドゥーレン】を手にした者がいる。
ゲーム中では、【ヴァナッシュ】以外の二つは、隠し要素として存在していた代物だ。
【ヴァナッシュ】もクリア後に手に入るだけで、他の二つを入手できる者がいるのは信じがたい。
でも現実に幻術を扱う者がいて、それは【バンリィ・ドルハ】の力に酷似している。
それは誰かが【魔鎧装ドゥーレン】を手に入れたという証拠以外の何者でもない。
俺の予感が正しいのなら……
「……転生者?」
視界がグラリと揺れたような気がした。
俺以外にも転生した者がいる?
それは信じたくない現実で、そんなことあるはずないと俺は頭を振るう。
いや、まさか
でもそうとしか思えない。
だけどそんなことはありえないはずだ。
しかし俺は転生している。
「クソッ……まだ【ドゥーレン】を誰かが手に入れたって確証があるわけじゃない。嫌な予感であってほしいけれど……」
嫌な汗をかきながら、俺は深いため息をつく。
「ダンカン様?」
「シアラ……どうした?」
「いえ、あまり顔色が優れないようですので」
シアラが真顔ながらも、心配そうな雰囲気でこちらの顔を覗き込んでいる。
彼女が近くまで来ていたというのに、気が付かなかった。
「いや、なんてことないよ」
「本当ですか?」
「あー……今日の晩はどこに行こうかなって。それを考えていたんだよ」
「そうですか……どこに行くとしても、私はついて参ります」
「無理はしないって約束してくれるならいいよ」
シアラは「当然です」と一言だけ添え、力強く頷く。
まだ犯人の目ぼしすらついていない。
今は自分のできることに集中しよう。
何があっても対処できるよう、力を蓄えるだけだ。
◇◇◇◇◇◇◇
夕飯を食べ外が暗くなった頃、俺はシアラと共に【テレポート】で洞窟の入り口までやって来ていた。
だが目的地はここじゃない。
さらに北の方角にある場所を目指すため、現在俺が目的地に一番近い位置がここだったというだけの話だ。
「ダンカン様。今日もこの洞窟に?」
「いや違う。俺たちが目指すのはもっと北だ」
「北ですか」
俺は頷き、北を目指して歩き出す。
まだこの辺りに出現するのはゴブリンのみ。
ゴブリンが現れると即座に倒し、経験値を稼ぎながら北上して行く。
草原の中を進んで行くと、途中から変化のある地点があった。
同じ草原ではあるが、花の数が大きく増える。
「この辺りからはモンスターも変わるから気を付けろ」
「はい」
花が増えるのはいいことのように思えるが……この花はモンスターの死骸などの妖気を吸って成長する魔性花。
黒く咲く花はモンスターの強さを示しているような、そんな空気感を覚える。
「あれがワイルドボアだ。猪型のモンスターだな」
「猪……美味しそうですね」
「……否定はできない」
大きな牙を持ち、豚のような外見。
人間の大人よりも大きく、俺たちからすれば巨人でも見ているような気分だ。
ワイルドボアの戦闘力は、全体的にみれば大したことはないが、ゴブリンやスライム(火)に比べると強い。
でも俺とシアラの実力を持ってすれば、倒せない相手じゃないはずだ。
「とりあえず、あいつは真っ直ぐ突っ込んで来る。結構素早いと思うから注意しろよ」
「はい」
俺とシアラは左右に別れ、ワイルドボアを挟む形に位置する。
ワイルドボアはこちらに気づいたようで、俺とシアラのどちらを狙うか顔を左右させていた。
「行くぞ!」
「はい」
俺とシアラは同時に駆け出す。
するとワイルドボアはシアラの方を向き、彼女に向かって走り出そうとしていた。
しかし。
「ふっ!」
見えざる俺の刃がワイルドボアの後ろ足を切り裂く。
だが少し浅かったようで、悲鳴を上げつつシアラに向かって突進を開始した。
「ウボァアアアアアアアアアア!!」
「!」
ワイルドボアが眼前に迫るのを、シアラは冷静に見据えていた。
狩人のような目つき。
どう仕留めるか、それを思案しているようだ。
するとシアラは半歩だけ右に移動し、寸前のところでワイルドボアの突進を回避うする。
そして一撃、右拳を相手の首元に叩き込む。
ドスッ!
ワイルドボアの体がよろける。
俺はすかさず、ワイルドボアの真後ろまで移動し、相手の腹部に刃を突き立てた。
音を立てて崩れるワイルドボア。
俺たちの実力はワイルドボアを上回っていた。
それを確認し、俺は自然と笑みを浮かべる。
しかし。
「ダンカン様」
「ああ、分かってる……」
シアラが警戒する。
周囲に数多くのモンスターの気配。
どうやら俺たちは取り囲まれたようだ。
さて、どうやって切り抜けるかな。
32
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。


異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる