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第1章 覚醒篇 ー6

第16話 シアラとレベルアップ1

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 シアラはよく泣き、だがその後は何も無かったように起き上がり俺を直視して口を開く。

「動転して申し訳ございませんでした」
「気にしてないよ。むしろシアラのことが少しわかった気がして嬉しかった」
「そうですか」

 シアラはそれから空を見上げ、そのまま何も言わなくなってしまう。
 俺は彼女と同じように時間を過ごし、皆が寝静まるのを待った。
 なぜかというか――

「当然、レベルアップだよね」

 シアラとのことがあってから二時間ほど。
 子供はすでに寝ている時刻であろう。
 俺は胸を弾ませながら小屋を出て、町の外を目指して歩き出す。

「ダンカン様。どちらに行くのですか?」
「えっ?」
 
 体が石のように固まってしまう。俺はゆっくりと背後を振り向くと、そこには何とシアラがいるではないか。
 いつもの服装ではなく寝間着姿のようで、大変可愛いと思いました。

「シアラ……いや、ちょっと散歩に」
「散歩ですか。なら私も同行いたします」

 こんな時間に散歩なんてあり得ないでしょ!
 冗談が通じないから、言い訳さえもまともに受け取ってしまう。
 散歩という名のレベルアップについて来られたら、少々面倒だぞ。
 どうするかな……
 俺がうんうん唸っている間にシアラは着替えを済ませたらしく、いつもの恰好をしていた。
 いや、散歩なんかしないからね!?

「では参りましょう」
「いえ、参りません。今日はもう寝ましょう」
「ダンカン様。少し前の夜もお出かけのご様子でしたので、専属メイドとしてはダンカン様のご動向を把握しておかねばなりません。ですのでいつも足を運んでいるコースをお教えください。何かあった時、いつでも駆けつけられるようにしておきたいのです」
「真面目だな、シアラは……」

 俺は深い嘆息を吐き出す。
 適当なことを言ってその場しのぎのことをしても、シアラにはいずれバレると思う。
 細心の注意を払ってモンスター狩りに行っていたというのに、それを把握されてしまっているから。
 ここは素直に、モンスターと戦いに行っていることを話しておくか?
 それなら嘘をつく必要もないし、後は口止めをするだけでいいのだから、精神的にも楽だ。
 そもそもバレたところで痛くもかゆくもないのだから。

 俺はシアラに話すことを決断する。
 シアラなら分かってくれるだろう。快く俺を送り出してくれるだろう。
 そう確信を得ながら。

「えっと、実はね」

 ◇◇◇◇◇◇◇

「それでは参りましょうか」
「……なんでこうなった」

 なんとモンスター狩りにシアラも一緒に同行することとなってしまった。
 俺が実力を蓄えるためにしていると話すと「私もそうします」とだけ言って、今に至る。
 いや、シアラが強くなる必要はないでしょ。
 だがシアラの決心は固いらしく、町の外の様子を見ても臆することはない。 
 真っ直ぐ夜を見据えている。そんな印象だ。

「シアラ、怖くはないか?」
「はい。全く。ダンカン様がいますから」
「そう。ならいいけど」

 感情が読みにくいシアラは怖がっているのでは?
 そう考えて聞いてみたが、そんなことは全くないらしい。
 怖くて帰ってくれたら、それはそれで良かったんだけどな。

「先に行っておくけど、危険だぞ」
「危険な場所にダンカン様一人で行かせるわけにはいきません。それに言ったはずです。私も実力を蓄えると」
「貯える必要ある?」
「はい。ダンカン様のお役に立ちたいので。普段のお世話だけではなく、戦いのサポートもできるぐらいは実力がほしいです」

 嬉しいけど、レベルアップにシアラを巻き込むのは少し気が引ける。
 俺はどうにでもなるけど、普通の女の子――それも子供となるとちょっと厳しいんじゃないかな。
 だけどシアラの気持ちは純粋に嬉しかった。
 俺の役に立ちたいなんて言われたのは、初めてのことだから。

「分かったよ。でも危ないと俺が判断したら、シアラは帰るんだ。いいな」
「かしこまりました。ありがとうございます」

 深々とお辞儀をするシアラ。
 俺は気を取り直して、まずはシアラの実力の程を確かめることにした。
 夜の草原ではゴブリンが徘徊しており、俺はそれを親指で指しながらシアラに言う。

「まずはテストだ。あれをどうにかしてくれ」

 すぐ後ろについて、シアラをいつでも守れるようにしておく。
 あれぐらいのモンスターなら危険も少ないし、どうにでもなるだろう。

「かしこりました」

 シアラは疾走する。
 あまり速くないし、ゴルムに比べたら相当遅い。
 だけど一生懸命に走っているようにも思える。
 俺はシアラに並走し、一緒にゴブリンへと近づいて行く。

「ギュオウァアアアア!!」

 ゴブリンが俺たちに気づき、シアラよりも速い動きでこちらに接近する。
 お互いが向かい合っているので距離は一気に縮み、衝突の瞬間はすぐに訪れた。

「えい」
「ゴギャアアアアアアア!!」
「え?」

 一撃。
 軽そうに見えるシアラの一撃は重たかったらしく、顔面に拳を受けたゴブリンが吹き飛んでいく。
 地面を滑走し、次の瞬間にはピクピクと痙攣を起こしていた。

「どうでしょうか?」
「えっと……はい。合格です」

 そう言わざるを得なかった。
 確か能力は【怪力】だったよな……ふとシアラが鉄窯を軽く持ち上げていたことを思い出す。
 あれだけの腕力があれば、ゴブリンぐらいは一撃か。
 無感情に見えるシアラの顔を見てゾッとしてしまう。
 この子を怒らせたら、あの一撃が飛んでくるのか。

「ありがとうございます」
「いえいえ……あー、じゃあもう少しゴブリンを狩ってみようか。こういうのは数をこなした方がいいからな」
「はい。では行って参ります」

 シアラの力があればゴブリン程度は問題無いだろう。
 しかし、これが能力の差か……
 俺は無能でゴルムたちは外れと言われるレベルの【グラーデ】。
 普通は中々強くなれず、諦め、自分を低く見積もって生きていくのだろう。
 ゲーム中のダンカンたちがそうだった。
 力がないからひねくれ、卑怯なことを平気で行う人間になっていたのだ。

 でもシアラは違う。
 恵まれた能力を手に入れ、壁にぶつかることなく順調に成長していくのだうな。
 まぁ戦闘に出ることがなければ、その力は発揮する場面はほとんどないけれど。
 でもどうやってでも能力を生かした生活はできるはずだ。
 シアラの恵まれた能力を垣間見て、俺はどこか羨ましくなっていた。

「でも俺にも力はある。ちょっとズルい力だけどな」

 誰もがうらやみ、そして誰もが忌み嫌うであろう力。
 俺はそれを手にしている。
 
「よし、俺もやるか」

 力を蓄えるために、俺は走り出す。
 シアラとの距離が離れすぎないようにしながら、彼女と同じようにゴブリンを倒していく。

「シアラ、競争だ。どっちがゴブリンを倒せるか!」
「分かりました」

 俺の提案を聞いた瞬間、シアラの目の奧が光ったような気がする。
 それからシアラは全力で走ってゴブリンを狩りに狩って行く。

「よーし。ちょっと試してみるか」

 この間はできなかったこと。
 俺もシアラと同じく、拳でゴブリンを殴りつける。
 その一撃でゴブリンを倒すことができ、確かな成長を感じた。

「できるようになっているな……ちゃんとレベルアップしてるな!」

 あまりの嬉しさに、飛び跳ねてしまいそうになる。
 確実に強くなっていることに感動し、そして新たな意欲が湧く。
 洞窟まで行けなかったことは悔やまれるが、シアラの力と成長を確かめられたから今日はそれで良しとしよう。

「ん……?」

 誰かに見られているような気配がする。
 俺は戦いの手を止め、気配の方に振り返るが……そこには高い町の壁が立ちはだかるのみ。
 気のせいか……?

「動くな」
「!?」

 低く冷たい声に硬直してしまう。
 背後を取られた。配を殺して、こちらの後ろに回ったのか。
 俺は背筋を冷やし、息を飲んで相手の出方を静かに窺っていた……
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