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第1章 覚醒篇 ー6

第13話 小屋と風呂作り

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 アングスたちがトレーニングに励む中、俺は小屋と風呂造りに勤しんでいた。
 シアラは当然のように手伝ってくれているのだが、ニールとイナとマグヌスも手伝ってくれている。
 最初は不幸だと感じていた、皆の優しさを知ることができ、さらにはこんな風に作業を楽しめるのはむしろ幸運だったのでは、と俺は考える。

「ダンカン様。次は何をすればよろしいでしょうか?」
「シアラ。俺には敬語を使わなくてもいいよ。確かに王族の人間だけど、父上から見捨てられた存在だから、気を使わなくていい」
「そういうわけにはいきません。雇い主は国王様ですが、私はダンカン様に仕えておりますので」
「そ、そう? ならいいんだけどさ」

 敬語よりも、フランクに話しかけてくれた方が気楽で良かったんだけど……シアラがそう言うならいいか。
 シアラは感情を読みにくい顔をしているが、次の指示を待っているのは理解できた。
 次に何をしてもらおうかな。周囲を見渡しながら、仕事を俺は探す。

「窯を運んでほしいけど、女の子の腕力じゃ無理だしな」

 風呂に使う窯は鉄製だし、流石に重たすぎる。
 あれは後でマグヌスに手伝ってもらって運ぶことにしよう。
 俺はそう思案したのだが――なんとシアラは窯のある方へと足を運ぶ。
 そして何をするのかと彼女を見ていると、シアラは重たそうな窯を軽々と一人で持ち上げてしまった。

「いいっ!?」
「?」

 驚愕する俺。
 それにニールたちも同じように驚き、呆然とする。
 シアラだけはキョトンとして、何をビックリしているのか分からない。そんな表情をしていた。

「どうかいたしましたか?」
「い、いや……凄い力だなって」
「はい。私の【グラーデ】は【怪力】ですから」

 【怪力】か……なるほど。納得がいった。
 【グラーデ】の恩恵とあれば、シアラの凄まじい力に説明がつく。
 俺よりも腕力があるんだろうなと、窯を持つシアラを見ながら冷や汗をかく。

「それでダンカン様。これはどちらにおけばよろしいでしょうか?」
「あ、ああ……ここにお願い」
「かしこまりました」
 
 俺が指定した場所にシアラは窯を置く。
 あまりにも平然としており、まさか重たくないのではと錯覚を覚えるほどだ。
 シアラが置いた窯を、マグヌスは興味本位で持ち上げようとするが――ほとんど動かない。

「いやー、重たいなぁ。こんなの持ち上げれるなんて、シアラは力持ちなんだな」
「恐縮です」
「恐縮というか恐怖だよ……お願いだから私のことを叩かないでおくれよ」

 マグヌスは叩くわけがないだろうというツッコミ待ちなのだろうが、シアラは当然ですと言わんばかりの冷たい視線を向けるだけでそれ以上の反応を示さない。
 少し寂しそうに作業に戻るマグヌス。シアラに悪気はないだろうから気にするなよと、心の中で慰める。

「ちょっとずつだけど形になってきたね。この調子なら、あと数日で完成しそうだ」

 思いのほかマグヌスがこういうことに興味があったらしく、張り切っているのもあるが想定以上に早く新しい食堂はできそうだ。
 風呂は今日中に完成しそうだし、全て順調。
 汗をかき、俺たちは楽しい時間を過ごしていた。

「ねえダンカン。お風呂を作っているらしいけれど……こんなのが風呂になるの?」
「うん。なるよ。この前に本を読んで、これで大丈夫だって書いてた」

 本を読んだというのは嘘だけど、とにかくイナは納得してくれたようだ。
 鉄でできた丸いヘルメットみたいな形のかまど。
 焚火を入れる空洞があり、その上にシアラに置いてもらった窯がある。
 さらに俺はこの窯の底に木の板を置き、内側を厚手の布で覆う。
 それから周囲を木の板で覆い、これで完璧なはず。
 素人知識だから不安はあるが、問題があれば後から対処すればいい。

「何をしてるんだ、これは?」
「そのままじゃ熱すぎて入れないだろ。だから布で覆って、鉄の部分に体が触れないようにしてるんだよ。外から入る時も熱くないように木で覆ったってわけさ」
「なるほど……ダンカンすごいな。こんなことができるなんて、僕は誇らしいよ」

 ニールに褒められると無性に嬉しくなってしまう。
 人たらしというやつなのか、嫌味もなければ悪意も感じらない。純粋に喜んでしまうのだ。

「よーし。今日はダンカンと一緒に、この風呂を入るとするか。ダンカンもお兄ちゃんとお風呂に入れて嬉しいだろ!」
「いや、一緒に入るのは勘弁なんですけど。二人じゃ狭すぎるでしょ」
「狭いぐらいいいじゃないか! ああ、この風呂は自由を感じる。空の下で入る風呂は格別だろうな」
「大きな風呂の方が自由でしょ。どう考えても」

 城にある浴場はプールみたいに広く、泳ぐこともできるほどだ。
 こんな小さい手作り風呂なんて使う必要もないだろう。
 と俺は思うのだけど、マグヌスは楽しそうに五右エ門風呂を覗き込んでいる。
 これは飽きるまで入る流れなんだろうなと、俺は苦笑いした。

「後はこっちの小屋だけか……でもこうやって物を作るのって楽しいものね」
「私もそう思う。私たちは必要以上に恵まれている。だからこうして無い物を自分の手で作るのはきっと自分たちの宝になると思う。手作りってだけで、大切にできるだろ?」

 マグヌスが愛おしそうに小屋の骨組みを見上げながらそういうと、イナは「そうかもね」と呟いて同じように見上げる。

「ま、木材を切ってもらったり、その素材代を出してもらったりなどで不便はしていないから、そこまで偉そうなことはいえないな」
「それでもいいんじゃない? それこそ僕たちの宝だ。兄弟で同じ物を作って、同じ体験をする。最高の想い出だよ」

 ニールも感慨深そうに骨組みを見上げる。
 そうしていると、どうやらアングスの訓練が終わったらしく、大きな笑い声と共にアングスが登場した。

「やっているな! よし、力仕事なら俺に任せてくれ!」
「残念。アングスに負けず劣らずの怪力がここにいるのだ」
「何っ!? そんな筋肉を持っている者がどこに……」

 マグヌスが言ったことに驚愕し、そして興味津々で周囲を見渡すアングス。
 そしてマグヌスがシアラのことを指差すと、アングスは愉快といったように大笑いする。

「ははは、面白い冗談だ! 兄上のそういうところ、俺は好きだぞ」
「冗談じゃないぞ。本当に怪力だぞ」
「まさか! そんな細腕で怪力など――」

 数本の木材を運び出すシアラ。
 その姿に驚き、口を開いたまま固まってしまうアングス。

「な、冗談ではないだろう」
「な、なんと……なんという腕力! これは負けてはいられないな」

 シアラに対抗するように、木材を一気に運ぶアングス。
 アングスの力も相当な物で、確かにシアラに負けず劣らずといったところだ。

「よし! お前たちもドンドン運べ! これも訓練の一つだ」
「はい……」

 ヘトヘトのゴラムたちが姿を見せると、早速アングスに命令されて動き出す。
 
「特訓の後じゃ辛いだろ。ゆっくりしてていいからな」
「そうか?」
 
 俺がそう言うと、ゴラムとビィーがその場に座り込み、休憩を始める。
 だがウィーニェだけは違った。フラフラではあるが、資材の運び出しを始めてしまったのだ。
 今日は学園でのことがあり、強くなるために必死で動いているのだろう。
 そう考えると、ウィーニェのことを止めることができないし、応援するしかなかった。

「……俺もやる」
「俺も」

 ウィーニェの姿に感化されたのか、ゴラムとビィーも資材運びを開始した。
 これは俺も負けていられないな。
 俺も重い腰を上げ、同じように作業を再開させるのであった。
 
「今日はここまでにするか……暗くなってこれ以上は無理だな」

 マグヌスが作業の終わりを皆に伝える。
 ニールたちも流石に疲れた顔をしており、大量の汗をかいていた。
 子供たちだけでここまでやれたのは凄いと素直に思う。
 【グラーデ】の力あってのものだけど、今更ながらやはりとてつもない力なんだな。

「よし。ということで、今日は早速この風呂を使うとしよう! では風呂を沸かすとしよう」
「それは私がやります」
「そうか、ありがとうシアラ。君も後でダンカンと一緒に入るといい」
「マグヌス兄さん……冗談でもそういうのはやめてよね」

 ニヤニヤと弟の恋路を楽しんでいるような顔をするマグヌス。
 恋路もなにも、シアラとは何も始まってないし、そうなる予定もありませんから。

「はい。かしこまりました」
「へ?」

 冗談だったはずなのに、想定外の答えがシアラの口から飛び出す。
 まさか……本当に入るの?
 相手はまだ子供だけど、胸の高鳴りが止まらない。
 え、入らないよね!?
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