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第1章 覚醒篇 ー6

第11話 剣術授業1

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 城の外に家屋を建てられた俺。
 話はそれだけで終わりではなかった。
 なんと城に入ることさえも、父親から禁止されてしまったのだ。
 そんなに【グラーデ】が大事なのかと考えるが、この世界では【グラーデ】の性能が人生を左右させると言っても過言ではない。
 王家の者が無能だなんて、恥以外のなにものでもないのだろう。
 いや、考えることは分かるけど、非情に腹立たしい。

 昨晩はここで寝泊まりをしたが、ベッドがあるので問題はない。
 だがそれ以外に問題があり、朝っぱらから俺は考えごとをしていた。

「しかし、浴場に行けないのも困ったな……どうするかな」

 流石に風呂に入れないのは肉体的にも精神的にも困ることが多すぎる。
 どうしようかと俺は自室で頭を悩ませていた。
 そこでふと、「五右エ門風呂」なる物を思い出す。
 
 確かあれは、かまどの上に鉄製の窯を設置して、足元に木を置いて鉄に触れない形になっていたはず……作れないこともないか?

 風呂のことを思案していると、部屋をノックされる音が聞こえる。

「どうぞ」
「失礼いたします」

 シアラが朝食を用意して部屋に入って来る。
 今日は緊急事態なので、朝練は休みにしてもらっていた。
 だがゴルムたちは来るはずだから、彼らの朝食も用意されているようだ。

「シアラの分は?」
「私は後からいただきます」
「一緒に食べればいいんじゃない?」
「そんなわけには……」
「好きな者と一緒に食事をすることをは、ここでは許可されている。だから君も食べていいんだぜ」

 声に振り向くシアラ。
 マグヌスが俺の小屋にやって来たようだ。

「しかし、くだらないことばかりするんだな、あのクソ親父殿は。ダンカンはこんなに可愛いというのに、そんなに貴族としての対面が気になるのかね」
「仕方ないよ。父上は貴族主義の人だからね」

 俺がそう返すと、マグヌスは面白そうだと明るい表情をみせる。

「お、難しい言葉を知っているな。そうなんだよ、親父は貴族主義の考えだからな。それは当然なのかも知れないけれど、でももっと大事なこともあると私は思う。お兄ちゃんとしてはダンカンを大事にしてもらいたいものだよ」

 この世界では貴族主義が主流で、上に立つ者が世界を支配し、世を平和に導くという基本的な思想だ。
 父親を筆頭に、貴族たちものこうあるべき。という概念を強く抱いているらしい。
 民主主義で育った俺にとっては違和感しかないのだけれど、これがこの世界の常識なんだ。
 受け入れていかなければいけない部分もある。

「マグヌス兄さんも貴族主義なんでしょ? というか、皆そうなんじゃないの?」
「ああ。基本的にはな。でも人の上に立つから偉いのではない。生活の基盤を支えてくれている庶民の人々のことも大切に扱わなければならない。それが上に立つ人間の責務だろう。それを分かってないんだよ、頑固親父は」

 フッと笑いながらマグヌスは続ける。

「そしてお兄ちゃんははそういう貴族だ庶民だなんて、束縛されたような常識から飛び出して、自由に行きたいのさ。自由はいいぞ。誰とでも肩を組んでいいのだからな。ダンカンがゴルムたちと肩を並べるのと同じだ。上も下も無い。私はそういう世界で生きて行きたいね」
「いいと思う。俺はマグヌス兄さんの考えを尊重するよ」
「ありがとう。ということでシアラ。君もダンカンとは肩を並べて食事をしていいのだよ。それをエルグレイヴ家長男として許可しよう」
「……ありがとうございます」

 マグヌスの許可をもらうが、感情の無い顔、抑揚の無い声でそう返すシアラ。
 嬉しいのかどうかも判断できない。感情の読みにくい子だな。

「ダンカン! ここの暮らしはどうだ?」
「昨日から始まったとことだからね。まだ何とも言えないよ」
「そうか! でもトレーニングをしてれば、細かいことも気にならなくなる」

 アングスが汗を拭きながら部屋に入って来たのだが、その後ろにはイナが続いて入って来る。
 アングスの言葉に呆れているイナは、肩を竦めてため息を吐いていた。

「トレーニングはいいんだけど、皆ここで食事をするつもり? ちょっと手狭なんじゃ……」
「狭いぐらい問題ない。皆で食事ができないのが問題だ」
「兄さん、おはよう」

 ニールまで俺の小屋に参上し、皆が部屋に入ると窮屈に思えてしまう。
 しかし嬉しいことに、皆はまだ俺と一緒に食事をしてくれるようだ。
 父親はそのことについてどう考えているのだろうと一瞬思案するも、あの人のことはどうでもいいか。と俺は開き直る。

「食事をするにも問題があるよ。狭すぎてちょっと困るでしょ。ってことで、この隣辺りに新しい小屋を建てようと思うんだけど……どうかな?」

 俺がそんな提案をすると、兄弟たちの目が光輝く。

「それは楽しそうだな……僕も手伝うよ」
「うん、俺も手伝おう! 力仕事は俺に任せておけ」
「アングス兄様はそれしか能ないでしょ」
「ははは。皆仲良くてお兄ちゃんは嬉しいぞ。ということで、皆でもう一つ小屋を建てるとするか」

 部屋にゴルムたちが一斉になだれ込んで来て、楽しそうに手を上げる。

「俺たちも手伝う! 皆さんも何でも命令してくださいよ!」

 こうして小屋作りが決定した。あと、風呂も作ることにしよう。
 本日は狭いながらも、小さな部屋での食事が行われ、楽しい時間が過ぎて行った。

 ◇◇◇◇◇◇◇

「本日は剣術の授業だ。皆、木剣は手に持ったかな。説明をした後、皆には簡単な手合わせをしてもらう」

 それは午前の授業の話。
 広場――いわゆる運動場のような場所で同級生たちが集められていた。
 中にはニールの姿もあり、俺はニールの後ろで教師の声を聞いている。

「ダンカン、無理はするなよ」
「分かってるよ。約束する」

 無理はしない。無理したら子供たちに怪我させてしまいそうだし。
 周囲の生徒たちに目を向けてみると……俺を見下す視線ばかり。
 それにゴルムたちも同じように見られている。
 少し怯えるゴルム、ビィー、ウィーニェ。
 彼らは俺のちょっと後ろに位置しているので、皆のもとに向かうことに。

「緊張してる?」
「してない……なんて言えない。今日みたいな日が来るのは分かってたけど、いざ本番になるとどうしてもな」
「俺たち、どんな目に遭わされるんだろう」
「不安……」

 俺はゴルムの肩を叩き、三人に向かって話をする。

「アングス兄さんのトレーニングについて行けそうなやつはいる?」
「え? そんなのいるわけないだろ」
「なら大丈夫だろ。そのトレーニングに必死について行ってるという自信を持つんだ。ゴルム、ビィー、ウィーニェ。三人は強くなる。たとえ現時点で負けたとしても、将来は必ず今見下してくる生徒たちよりも強くなっているはずだ」
「…………」

 俺の言葉は三人の胸に響いたらしく、さっきまでの怯えた表情は綺麗さっぱり消え去っていた。
 さらにビィーとウィーニェの肩を叩き、もうひと声かけておく。

「後は気持ちで勝つだけだ。気持ちで勝てれば負けはしない。三人はそういうレベルにあると俺は信じてる」
「気持ちか……よし! 絶対負けねえ! 何が何でも、勝ってみせる!」
「俺もだ。折角アングス様に訓練をしてもらってるんだ。大して何もしてない連中に負けるかよ!」
「勝ちに行く……」

 俺たちは頷き合い、そして決意する。
 今日はなんとなく、自信がない三人の分岐点になるような、そんな気がしていた。
 俺は三人が手合わせに勝てるように祈るばかり。そして勝てるはずだと信じてる。

「では、名前の順番に二列になれ」

 いよいよ手合わせが始まる。
 自分のことではなく三人のことで、俺は酷く緊張していた。
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