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第1章 覚醒篇 ー6

第4話 学園へ行く朝

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「あああああっ!!」

 晴天の空の朝、俺は勢いよくベッドから起き上がる。

「はぁはぁ……」

 周りを見渡す。自室で間違いない。
 先ほどまで俺は悪夢を見ていた。それは【リーア・ドルハダス】の影響であろう。奴が俺に悪夢を見せていたのだ。
 原作ではニールが長い間悪夢にうなされているというエピソードがあったが、原因は【ヴァナッシュ】であろう。
 その悪夢は今度は俺が代わりに見ているというわけだ。
 しかし楽しいものではないが、ニールがうなされる心配がないことを考えれば、それはそれでよし。
 この件はいずれ解決するつもりだし、それまでは気長に付き合ってやるとしよう。

 ベッドから出た俺は、服を着替える。
 今日は学校がある日だ。今更学校だなんて面倒だな。
 そもそも行かなくても俺を怒る人なんていないし、もうこのままさぼってやろうか。
 顎に手を当て、そんなことを考えていると部屋の扉がノックされる。

「入るわよ」
「姉さん。おはよう」
「おはよう。なんだか顔色が優れないわね。何か嫌なことが……ってあったか」

 部屋に入ってきたのはイナであった。
 すでに学校の制服に着替えており、可憐という言葉がよく似合うお姿。
 血の繋がりが無かったら攻略しているところなのに……なんて考えながらも自分の考えに鼻で笑う。

「あら、絶望が過ぎて頭がおかしくなったのかしら。でもそうだとしても私はあんたを見捨てるようなことはしないから、安心しなさい」
「違うよ。自分のバカな考えに笑っただけさ」
「何、お父様の言っていることを気にしてたわけじゃないの?」
「気にしてないよ。俺が大事なのは兄弟だけ。それ以外のことはどうでもいい」

 俺がそんなことを言うと、イナは腕組をして「ふーん」とだけ言う。
 すると俺が右手の紋章を隠すために手袋をしているのに彼女は気付き、そのことを訪ねてくる。

「どうしたの、その手袋」
「あ、ああ……カッコいいなって思ってさ」
「そう。悪くはないわね。あんまりあなたに似合っていないけれど」

 俺がつけていたのは編み手袋。見た目はあまり良くないが、この城にあった唯一自分のサイズに合う物であった。

「今日からつけるつもり?」
「うん」

 紋章のことがバレると少々面倒なので、少しぐらい格好悪いのは仕方がない。俺は気にする素振りは見せず、彼女の背を押し部屋を出ることに。

「さ、食堂に行こう。おなかがペコペコだよ」
「そんなに急がなくても食事は無くならないわよ。もう、落ち着きのない子ね」

 君が落ち着きすぎなんだよ。とツッコミを入れたくなるが、その言葉をグッと我慢してそのまま背中を押して行く。
 それから食堂で兄弟と顔を合わせて食事を開始する。

「習い事なんて興味も無いし、今日は釣りにでも行こうかな」

 そう言ったのは長男マグヌス。 
 朝食のパンに齧りつき、学校が終わった後の娯楽のことを考えているようだ。

「それなら僕も行こうかな。マグヌス兄さんと釣りに行くのは好きだからね」
「そうかそうか。お兄ちゃんと一緒に行動するのが好きか。だが残念ながら、ニールには勉強が待っているのだろう? またそのうち連れて行ってやるから、勉強を頑張れ。そうしておかないと、親父がうるさいだろうしな」
「兄上だってそうだろう。あまりにもサボるから、父上はいつもカンカンだぞ」

 アングスが父上を怒っている様子の真似をしてそう言うと、マグヌスはケラケラと笑うのみ。

「私はいいんだよ。国を継ぐつもりもないし、いずれ放浪の旅に出るからな」
「国を継がない? そんなこと、お父様がお許しにならないわ」
「親父の許しなんて必要ない。俺の人生は俺のものだ。俺の思うままに、自由気ままに生活するのさ。でも……」

 マグヌスは俺を挟んで向こう側にいるニールの顔を見て悲しそうに笑う。そして申し訳なさそうに一言漏らした。

「自由にできない性格のやつもいるしな……全部ニールに背負わすことになるのは悪く思っている。すまないな」
「いや、僕は何とも思っていないよ。兄さんと一緒さ。僕も僕の人生を生きている。この国を背負って立つこと、別に苦ともなんとも思っていないよ」
「ちょっと待て! 兄上がいなくなれば、順番的に次は俺だろ!」
「アングスは……体を鍛えることしか興味ないからな。国を背負う筋肉はあれど、そんな志は無いだろう?」
「うん。無いな!」

 豪快に笑うアングスとマグヌス。俺とニールも釣られて笑う。イナは呆れてため息をついていた。

「俺は兄さんを支えるよ。そのために強くなるし、絶対に幸せにしてみせる」
「ありがとう、ダンカン。そう言ってくれるだけで僕は嬉しいよ。俺のことを想ってそんなことを言ってくれるのだろうが、でも無理はするな。ダンカンもダンカンの人生を生きればいいのだから」
「だからそれこそが俺の人生なんだよ。兄弟たちの幸せを願い、それの手助けをする。これ以上の俺の生き方はない」

 俺はハッキリとそう断言する。
 すると兄弟は俺の顔を神剣に見据え、口火を切ったように一気に言葉は吐き出した。

「ダンカンの幸せを願っているのは私もだ! ダンカンのためならどんなことだってしてみせよう」
「俺と一緒に体を鍛えるぞ! そうすればダンカンも俺も幸せになるからな!」
「アングス兄さんのは自分だけの幸せだろう? 大丈夫。ダンカンは僕が幸せにする」
「私だってできる限りのことをするわよ。いい人との縁談だって任せておきなさい。大人になるまでに最高の相手を見つけておくから」

 ワイワイ俺の幸せについて話をしてくる4人。
 うるさいし騒がしいし、でも嬉しい。
 ああ、どこまでも最高の兄弟だ。

「さてと、そろそろ学校の始まる時間だな。それでは諸君、頑張って勉学に励むように」
「兄上はどうするつもりだ?」

 時計を見て、俺たちに学校へ行くように促すマグヌス。しかしアングスの言う通り、マグヌスはどうするのか。俺たちからの視線を一気に浴び、だが可笑しそうに笑うのみ。

「私は遅れて行く。まだ眠たいから仮眠を取ってからな。睡眠不足は勉学の妨げになる。皆も早く寝て、しっかりと睡眠をとるように」
「早めに寝るのはマグヌス兄さんもでしょう。何してるんだよ、夜なんかに」
「何って……そんなの内緒に決まっているだろ? 夜は夜で楽しいことがあるものなのさ」

 意味深なマグヌスの笑み。だが兄弟たちは呆れながら学園へと向かうことにした。
 学園は城から馬車で十分ほどの距離の場所にある。
 あっという間に学園に到着し、御者が馬車の扉を開く。
 馬車を出るとイナの表情が変わる。
 子供ながら王女としての威厳を発揮した、凛々しい表情。
 ニールも穏やかながら、いつもより気品に溢れているように見えた。
 流石は王子様に王女様ってところだな。
 でも俺はそんなことをできるはずもなく、いつも通りの顔で学園へと足を踏み入れる。

 学園の校門をくぐると大きな花壇があり、色とりどりの花たちが生徒たちを出迎える。
 その向こう側に校舎があり、多くの生徒たちが校舎へと進んで行く。

「おはようございます、ニール様、イナ様」

 次々に二人はあいさつをされるのだが……誰も俺に挨拶をしない。
 すでに国王からの伝達を耳にしているのだろう。
 ネット社会より伝達速度が速いのではないだろうか。俺はそんな風に考えながら辟易する。

「このっ……」

 イナが怒りの表情を露わにしていた。
 俺のために怒ってくれているのだろう。でもそんなことでイナの株を下げるようなことはしてほしくない。

「俺のために怒ってくれてありがとう、姉さん。姉さんの気持ちはいつも嬉しいよ。でも俺は俺なりにやれるつもりだし、気にしなくていいよ」
「でも……」
 
 するとニールがイナの肩に手を置き、優しい口調で話しかける。

「ダンカンが自分でやると言っている。確かに助けは必要なのだろうけど、ダンカンの気持ちも尊重してあげよう。その代わりにダンカン、何かあったらすぐ僕たちに伝えること。いいね?」
「分かったよ、兄さん」

 俺がそう返事すると、ニールはニッコリと微笑んでくれる。
 イナはブスっとしたまま、腕を組んで俺に言う。

「ふん。何かあってからじゃ遅いんだからね。問題が起きる前に私たちに言いなさい」
「分かってる。ありがとう、姉さん」

 イナは気分が収まらないままなのだろう、機嫌が悪そうな顔で校舎へと進んで行く。
 俺とニールと共にイナに続き、そして学校で起こることを想定しながらため息をつく。
 面倒事は起きるだろうけど問題は、子供相手にどこまでやっていいのか、その一点だよな。
 周囲に感じる悪意の視線をしり目に、俺は苦笑いを浮かべる。
 すると少し離れた場所から、こちらを見下すような子供の視線を三つ感じてしまう。
 まさか、絡んでくるなんてことはないよね。
 なんて思いながら、俺はもう一つため息をついた。
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