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第30話 落ち始めるゲイツたち

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「なあシャイザー。なんで『能力強化ポーション』が手に入らないんだよ?」

「あれが無いと戦闘も面倒になるでしょ? 無くても戦えるけど、苦戦するのはごめんだから。で、なんで手に入らないの?」

「…………」

 『能力強化ポーション』を入手することができないシャイザーに詰め寄るゲイツとクィーン。 
 二人の威圧に気圧されるシャイザー。 
 すると彼をフォローするように、ヒューバロンが口を挟む。

「俺も一緒に店に行ったんだけどよ……バカみたいな値段してたぜ、あれ」

「バカみたいな値段って……でもフェイトは毎回あれを俺たちに提供してたじゃないか」

「そうだよな……あんな簡単にポンポン出してるから、安物だとばかり思ってたぜ。だけどまさか、あそこまで高価な物だとは知らなかった……」

「だけどどうやってそのアイテムを用意していたんだろうな?」

「さあ……私も含めて皆あいつの話は適当に聞いてから」

 ゲイツたち今更ながら、フェイトがとんでもないアイテムを用意していたことに気づく。
 まさかあいつが用意してたのがランクⅢのアイテムだったとは……

 フェイトがどうやってアイテムを用意していたのかは知らないが、今更ながら後悔し始める四人。
 しかしゲイツはそんな考えを頭から追い出して、話を続ける。

「た、確かに奴はそこそこ役立つ部分もあったかも知れない……でも高価なアイテムを用意していただけだ。あいつがいなくても、俺たちはできるはずだ。なんたって、Sランクなんだぜ?」

「そうよね……私なら出来て当然よ。最強パーティのクィーンなんだから」

 アイテムが入手できなかったことを切り替え、ゲイツたちは前向きに今後のことを話し出す。

「これまで通り、俺たちの力でモンスターを倒して金を稼ぐ。それでいいよな?」

「ああ、問題ねえ。アイテムが使えないって変化はあるが、モンスター退治は変わらねえ」

「もっと金を稼いで、そしてもっと強くなって、あの女を後悔させてあげようじゃないの」

 クィーンの言葉にゲイツはメリッサのことを思い出す。
 胸が締め付けられる思い。

 メリッサ……君が残ってくれたら言うことはなかった。
 フェイトの能力なんかより、君がいなくなったことの方が堪えるよ。
 あいつのことを気にして、俺のパーティを抜けて……
 でもメリッサ。
 俺はクィーンとは違う。
 俺は君をまた迎え入れるつもりだ。
 君が戻りたいと思うぐらいに俺たちは強くなって、そして君を俺の物としよう。

 ゲイツはメリッサに恋心を抱いていた。
 だからこそフェイトが許せなかった。
 彼女が気にするフェイトのことを。

 全ては元凶は、ゲイツの嫉妬だったのだ。

 ◇◇◇◇◇◇◇

 翌日のこと。
 気持ちを新たにした彼らの胸の内のように、天気は晴れ晴れとしていた。

「ダンジョン跡からまた始まるなんて、因果なものだな」

「はっ! 全くだ」

 彼らは仕事の依頼を受け、モンスター退治に向かっていた。
 向かっている場所はダンジョン跡のある森。
 ダンジョンは消滅してしまったが、あそこで出現していたモンスターが森の中に姿を現すようになっていた。

 以前よりも危険が漂うようになってしまった森の中を、鼻歌交じりで彼らは進む。

「だけどさ、今更オーガ相手なんてかったるいわよね」

「あんなの俺らSランクが相手にするようなモンスターじゃねえよな。もっと金のなる仕事を用意しろってんだ」

「メリッサが抜けたからか……本当、嘗められたものだね、俺たちも」

「メリッサか……確かにつええ奴だったな……」

 ヒューバロンシャイザーは、メリッサにやれらたことを思い出し震え出す。
 ゲイツもあの日のことを思い出し、大量の脂汗をかく。

「あんな女の何が怖いってのよ! 絶対復讐してやる……私を殴ったこと、何がなんでも許してあげないんだから」

 恐怖に震える三人に対して、クィーンはただ一人怒りに震えていた。
 プライドが天よりも高い彼女からすれば、自分に暴力を振るったメリッサのことがどうしても許せなかった。

「メリッサを許すか許さないかはまた今度にして……今は目の前にいるモンスターを倒さないと」

 ゲイツたちの視線の先に姿を現せるオーガ。
 
「へっ。俺らの飯代になってくれや!」

「一瞬で終わらせるわよ」

 ゲイツたちは武器を手に取り、オーガに向かって疾走する。

 仲間のうちで一番動きが速いゲイツ。
 シャイザーは弓を引き、オーガの注意を逸らそうとする。
 放たれる弓。
 それはオーガの皮膚に、深々と刺さる――はずだった。

「!?」

 しかし、オーガの肌に弾かれる矢。

「こいつ……普通のオーガとは違うのか?」

 ゲイツは警戒しつつもオーガに剣を振り下ろす。
 その一撃もオーガに通用せず、片腕で止められてしまう。

「そんな! 俺の攻撃が効かない!?」

「俺に任せとけ!!」

 ヒューバロンがオーガの背後から攻撃。
 しかしそれも一切通用しない。

「ヒューバロンの攻撃まで効かないの!? だったらこれで!」

 クィーンは驚愕しながら風の魔術を放つ。
 刃と化した風がオーガを襲う。
 が、その硬い肌を傷つけることはかなわない。

「おいおい……これ本当にオーガか!? オーガだったら、俺たちの力でも――ぐほぉ!!」

 硬直していたゲイツの顔面に、オーガの拳が横から突き刺さる。
 派手に吹き飛び、意識を失うゲイツ。

「い、意味わかんねえぐらいつええ……撤退だ! 逃げるぞてめえら!」

「わ、分かったわ! 二人とも私をちゃんと守ってよ!」

 ゲイツを抱き抱え、ヒューバロンは全速力で逃げ出した。
 クィーンに守るように言われたが、そんな余裕など彼にはない。
 後ろを振り向くことなく、オーガに追いつかれないように祈るばかりであった。
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