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第24話 ヴァロン

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「セリス!」

「ああ!」

 セリスは【神器】を抜刀し、刀身から沸き上がる炎を操る。
 炎はセリスの意思に従い、姿を自由に変貌させるようだ。
 刀身よりもさらに長い炎の刀身と変え、そして子供に暴力を振るう男たちを薙ぎ払う。

「ぐおっ!」

 四方八方吹き飛ばされる男たち。
 奴らのボスはほうと声を漏らすだけでまだ余裕の表情をしている。

「面白い武器だ……俺のコレクションに欲しいな」

「貴様がどうこうできる武器だと思うな」

 セリスは子供たちを起こさせ、ミューズの後方まで下がるように指示する。
 そして【神器】を男に向け、怒りを露わにし低い声で言う。

「これは【神器・炎天使の剣ミカエルのけん】。貴様に断罪を下す、神の炎と知れ!」

 セリスの感情に呼応するように、赤白い炎が激しく燃え上がる。
 男は【神器】という言葉に反応したのか、そこでようやくこちらを警戒し始めった。

「お前、名前は?」

「名前を聞きたいというのなら、先に貴様が名乗るんだな」

「……ヴァロン」

「そうか」

 セリスはそう短く言うだけで、名前を答えようとはしない。
 そのことに男――ヴァロンは苛立ちを感じたのか、目元をピクリと動かしセリスに向かって言う。

「こっちは名乗ったんだ。お前の名前を聞かせろよ」

「こちらだけ一方的に聞いておいて悪いが、貴様のような悪党に名乗る名前は無い」

「この……ふざけやがって……まあいい。お前が何者であろうともその【神器】を持っていることには価値がある。どうだ。俺に雇われる気は無いか?」

「貴様のようなクズにか? やめてくれ。自分がどんな環境にいようが、気高く生きると決めている。クズに付き合ってクズ以下に成り下がるつもりなど毛頭ない」

「なるほどな……雇われるつもりがないなら、しっかりと調教しないといけねえみたいだな……そのガキたちみたいにな」

「あ、自分から白状したな」

「今更そんなの関係ねえよ。なぜならお前はここで死に、そこの鎧女は俺の奴隷にすることに決定したからな」

「私はどうなるんですか!?」

「お、お前は……後で考える」

 ミューズは自分がどうなるのか気になったのか、あるいは恐怖のあまりそんなことを突発的に聞いてしまったのか……
 とにかく、ヴァロンさえも困惑している様子。
 俺も少し呆れつつも、しかしヴァロンのことをしっかりと見据える。

「お前の考え通りに事が運ぶかな? 言っとくけど、俺たちは弱くないぜ」

「だろうな。だが、俺だって弱くないぞ……いや、俺の部下・・・・たちだってな」

 ヴァロンがパチンと指を鳴らすと――屋敷のあちこちから男たちが姿を現せる。
 
「な、何人いるんでしょうか……?」

「さあ? 暇なら数えておいてくれよ」

「あはは……そんなゆとりはありません」

 現れた男たちの数に驚愕するミューズ。
 ヴァロンもすでに勝ち誇った表情をしており、俺たちを見下すばかり。
 しかし俺とセリスは余裕の態度を取り、そして周囲の敵を見渡す。

「あいつら、弱くはないんだとさ」

「だったら……少し試してやるとするか」

「いいね……じゃあ、やるか!」

 セリスと俺は同時に駆け出す。
 セリスは右に、俺は左に。
 動きは俺の方が速いので、敵に到着するのはこちらが先。

 男たちは手に武器を持っている。 
 こっちを殺す気まんまんだな。
 目が既に血走っている。

「そんな興奮しても俺たちには勝てないぞ」

 俺は【空間収納】から【伸縮剣】を取り出し【複製】する。
 【複製】した【伸縮剣】を振るうと鞭のようにしなり、敵に襲い掛かった。

「なっ!?」

「あの剣、どうなっているんだ!?」

 相手の武器を狙い、【伸縮剣】を振るい続ける。
 殺してもいいんだけど、こいつらはただヴァロンに雇われているだけだろう。
 あるいは脅されているか。
 どちらにしても、命を取る程悪いことをした奴らではなさそうだ。
 まあしかし、悪いことはそれなりにしてはきたのだろうから痛い目には逢ってもらう。

 敵の武器を【伸縮剣】で弾き飛ばすと、片っ端から拳と蹴りを叩き込んで行く。
 次々に倒れていく男たち。
 
 セリスの方を見ろと、彼女も俺と同じ考えなのか、【神器】の側面で敵の頭を殴っていき、その数を減らしていく。

「つ、強い……こいつら、本当に強いぞ!」

「ちょっと待て……あの【神器】使い……黒騎士じゃないのか!?」

「く、黒騎士って……あのSランクの!?」

 俺たちの強さと黒騎士の名に男たちはすでに畏怖し、闘争心がそぎ落とされていく。
 戦い始めたばかりだと言うのに、逃げ腰になっていた。
 これは楽勝だな。
 
 しかし俺は万が一を備えて、周りの男たちを倒していく。
 油断大敵。
 何かあってからでは遅いからだ。

 セリスもセリスとて油断は一切せず、向かってくる敵をなぎ倒していく。
 敵から攻撃は仕掛けられるものの、軽々と避けられるものばかりで苦戦などすることは無かった。

「おい! お前らどうした! 行け! 行かなければどうなるか分かっているんだろう!」

「うっ……」

 ヴァロンの一言に男たちが顔を青くし、こちらに怯えながらも武器を構える。
 ま、やるだけ無駄なんですけどね。
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