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結:先輩と僕とサキュバスのおしまい
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その日は学校で先輩に会わなかった。バイトも無いので早く帰って、生活に必要な買い物を済ませて、気が乗ったので簡単に作れる常備菜をいくつか作って、寂しそうにしていた冷蔵庫に収めた。つまみ食いをして腹が膨らんだので、今日の夕飯はここまでにする。充実した良い一日になったと思う。
「やっぱいいお婿さんになるよ、アユムくん」
よしいい仕事をしたと振り返ると、サキュバスのアサガが台所を見下ろしていた。
「いたのか」
「ずっといるよ。今日は早いんだな」
「うん。バイトがないから」
「そっか。じゃ今夜はずっとアユムくんを独り占めだ」
いつもそうだろ。アサガが来てから毎日、僕はずっと寝不足気味だ。アサガが来た次の日は、初めて昼の授業中に寝た。隣にいた先輩に起こされて、かなり恥ずかしい思いをした。困ったような笑顔は可愛かったけど、そういう問題じゃない。
「洗い物してからね」
「いいじゃねえか放っときゃ」
「明日の自分が困る」
「困らしとけよ」
「明日の自分はすぐ今の自分になるんだ」
給湯器に風呂を沸かしてもらう。その間に洗い物を済ませる。もう夏とも言えない季節なのにこう気温が高いとすぐに風呂が沸くだろう。
「明日も早いの?」
「何が?」
「凄く早く寝るじゃん。日付変わる前って。本当に大学生?」
「早くない。遅いくらいだ。どう頑張っても十一時までに布団に入らないと明日辛い。君がいるから我慢してたんだ。今日は何が何でも十一時までには寝る」
「なんで? たった一時間の睡眠で何が出来る?」
「睡眠が出来る。せっかく先輩と一緒に学校行くのに、睡眠負債で遅刻なんて、冗談じゃないよ」
「へえ」
水を止める。洗い物は終わった。薄いピンク色の目と目が合った。
「やっぱ我慢ならないな。殺すわ、その先輩」
物騒な一言を最後、霧が晴れるように、アサガの姿が掻き消えた。
……どこに行った。順当にいけば先輩のところだ。何とかして知らせないと。でも連絡先を知らない。先輩は今どきの人類には珍しくスマホを持っていない。直接会って話すだけが、先輩とのコミュニケーション方法だ。
よく考えたら、僕は先輩が住んでいる部屋も知らない。僕の一個上の階に住んでいることだけだ。部屋にお呼ばれされたことはないし、知ろうともしなかった。アサガは知っているのか。調べればわかる。サキュバスは他人の空想さえあればどこにでも行く。壁をすり抜けてどこの部屋に先輩が居るか見て回って、先輩に馬乗りになって、あの細い指で首を絞めて殺す。
先輩に殺意を持ったサキュバスが襲い掛かることを知らせる術はない。
パニックで心臓が冷えた。
インターホンが鳴った。時計は既に夜を指して、窓の向こうは暗かった。いつもならもう少しで風呂に入る時間だった。何かが来る予定はないが、一応出てみる。
「はい」
と返事して玄関を開けると、先輩が立っていた。黒色のTシャツに下はスウェットで、お気に入りらしい紺色のクロックスもどきを履いていた。表情以外はいつも通りの先輩だった。
「……ハネダくん? だよね。よかった」
「どうしたんですか、先輩」
白い前髪の間に見える目は充血して、周りには泣き腫らしたような跡があった。
「ごめん、急に来て。今日体調悪くて、夕方からさっきまで寝てたんだけど、悪い夢見ちゃってさ。その、ああ……寂しいから、一人だとダメで。一緒に居てくれないかなって。……ごめん、変なこと言ったな」
そう言って目を擦る。先輩に何が起きているんだ。僕の夢の中のサキュバスは物騒なことを言っていたけど。今の先輩の様子とはあまり結び付かない。
「入ってください」
「ありがとう。おじゃまします」
チェーンはもとから掛けていない。ドアを大きく開けて先輩を招き入れる。
「ご飯は食べましたか」
「うん、それは大丈夫。ありがとう」
裸足のぺたぺたした音が響く。ずず、と後ろで鼻をすする音が聞こえる。
「体調不良って、大丈夫なんですか。出歩いたりして」
「たまにあるんだ。精神的なもので、人にうつるものじゃないから、安心して」
居間に来ると、先輩はベッドに腰掛けた。この部屋にはベッドくらいしか腰を掛けられる場所は無いから、それが自然な流れなのかもしれない。
「最近は、特に酷くてさ」
「それで、たまに学校休んでたんですか」
「うん。出歩いたほうがいいんだけどね、どうしても駄目だった」
先輩は顔を伏せたり上げたり、おきあがりこぼしのようにゆらゆら頭を揺らしていた。体調が悪いから、ずっと寝ていてもまだ眠いのかもしれない。こんなに隙だらけの先輩を見られるなんて、何もしていないのに何だか悪いことをしている気分になった。
「一緒に居ていい?」
「はい。学校に行くまでなら、僕は家にいますから」
こっちを見る目が見開かれた。ピンク色の目が白目まできらきらしていた。
「本当に、朝まで一緒にいていいの?」
「はい。先輩さえよければ」
先輩は枕を膝に乗せて、抱き心地を確かめていた。この部屋に一個しかない枕だ。普段抱き枕を抱いて寝ているのだろうか。先輩に抱かれるなら頭を乗せる枕も本望だろう。
「ありがとう。一人は心細かったんだ」
それからぎゅっと枕を抱きしめた。枕は僕の頭を支えるよりずっといい仕事をしていた。傾げた首から肩に髪が流れて、眠そうに赤らんだ頬が僕を見上げていて、嬉しそうに細めた目、吊り上がった口角が婀娜っぽくて、僕は目を反らした。
夜毎僕のベッドを占拠していたサキュバスを重ねてしまった。
湯沸し器から軽妙な音楽が鳴り、お風呂が沸いたことを知らせた。助かった、と思った。サキュバスが消えて先輩が僕の部屋に来て、そう時間は経っていなかった。
「僕、風呂に入ってくるんで、好きにくつろいでてください」
「うん。待ってる」
先輩は枕に顔をくっつけて、機嫌良さげに笑っていた。昼食をとっているときの先輩の表情によく似ていた。自分の頭の臭いが気になった。人の枕にあんなに顔をくっつけて、嫌な臭いはしないのだろうか。
風呂から出ると、先輩は掛け布団を枕代わりに横になっていた。壁際の端に、こちらに横向きに寝ていた。薄く目が開いていて、僕が部屋に入ると首が動いてこちらを向いたのでおそらく起きている。
「先輩、起きてますか」
「ハネダくん。……やぁっと戻ってきた?」
そんなに長い時間ではなかったと思う。僕が席を外した時間は三十分程度だ。
「先輩、お風呂入りますか?」
「ううん、いい」
先輩は眠そうににゃむにゃむ言っていた。薄い色の唇が芋虫のように動いていて可愛らしい。
「ねー、ハネダくん、手、握って」
手を握り、指を絡めると、うつらうつら舟を漕いでいた先輩の瞼が降りていく。
「へへ、ありがと。おやすみ」
ご臨終みたいだ。生きてちゃんと脈があるけど。ひんやりした手のひらの奥でどくどくと血が流れているのを感じる。
本当に綺麗な顔だ、と思った。ふわふわの睫毛がLED電球に照らされている。先輩のためならすぐに明かりを落とすべきだが、僕は我儘にもまだこの姿を見ていたかった。白い髪に覆われた細い顎の柔らかな線、骨ばった首。Tシャツの下で上下している薄い胸。その下は本当にアサガと同じなのだろうか。何ということだ。下世話なことを考えてしまった。自分が嫌だ。
「やっと寝たか。もだもだ野郎」
声に後ろを振り返ると、サキュバスのアサガがいた。
服を着ていないアサガの姿をベッドで眠っている先輩と比べてみると、やはり瓜二つのように思えた。服の下はわからないまでも、かなり似ているように見える。
「アサガ、何しに来た」
「わかってるだろ。そいつを殺すんだ」
僕の制止は間に合わなかった。足音も無くベッドの上の先輩に馬乗りに、躊躇いなく首に手をかける。指の形に表皮が歪む。中の気道も、血管も潰されていく。このままアサガを止められなければ、じわじわと先輩が死んでいく。
「待て、どうして殺す!」
止めなきゃ。僕の部屋の中で誰も死んでほしくない。面倒ごとはごめんだ。
「理由なんてな。単純に嫉妬だ。読解力無えのか」
「理由があっても殺すのは駄目だ! やめろ!」
「いくら先輩が好きでも部屋に上げるんじゃなかったな。先輩をさんざ殺したがってた俺がいるんだ。じゃあな恋心。俺以外が不甲斐ないなら死んで贖わなゃあなぁ」
「先輩! 起きて! 殺されかけてます!」
先輩の脚を蹴飛ばし、先輩の首に絡みついたアサガの手を剥がしにかかった。下手に体を引き剥がせば首に傷が付く。それは嫌だ。幸いアサガの爪は丸く短い。傷は付きづらいだろう。希望的観測にすぎない。
先輩が目を覚ました。剥がしかけていた指が突然消えて、先輩の脚の上に尻もちをつく。
「……すみません。蹴りました」
先輩は起き上がり、首を撫でた。多少跡は付いているが、それだけだ。すぐに治るだろう。
ぱっちり開いたピンク色の目が、興奮したアサガと全く同じ濃いピンク色だった。
「バレちゃった」
どこにも焦点が合っていない目でそう言いながら、先輩は足を身体のほうに引いて、胡坐をかいた。僕は尻をベッドの上に落とした。痛くはない。先輩のほうは痛かったかもしれない。
起きて開口一番、先輩は何を言ったのだろう。理解が及ばなかった。殺されかけたところを見たからだろうか。頭が回っていない。
「……すみません。何がバレたんですか?」
「はぁ、なんだ。わかってなかったのか。ハネダくん、君がここ数日抱いてたあのサキュバスは俺だよ。あの俺そっくりのサキュバス」
は? 意味がわからない。先輩は何を言ってるんだ。
「もう一回言うぞ。浅香幸一はサキュバスだ」
先輩はサキュバスと全く同じ表情になり、僕に近付く。身体を引こうとしてベッドに倒れ、呆然としている僕に構わず言葉を続ける。
「俺ね、ハネダくんが好きなんだ。毎日エッチしたいと思ってるし、家庭も持ちたいと思ってる。あいつになって、漏れちゃったんだ。ごめんね」
ベッドに押し倒したような格好で、先輩はひたすら見つめてくる。長い髪がカーテンのように被さり、LEDの光を透かす。僕の返事を期待しているらしい。でも僕から出たのは戸惑いの呻きだけだった。
「え、ええ、なんで、そんな……」
情けないことこの上ない。呼吸を整える。目を反らす。部屋の端のカラーボックスには教科書やレジュメが並んでいて、学校用のカバンが倒れ掛かっている。ちゃぶ台の上には何もない。何でもいい、口を開いて、何か言わなければならない。必要最低限の言葉をなんとかひねり出す。
「ハネダくん?」
「僕は、本当に、先輩を好きになったんですよ」
「……この面にだろ。サキュバスが公共の場で出来るギリギリの本気で誘惑してたんだ。そうでなければ困る」
先輩はぐい、と僕の顎を捻って真っ直ぐ顔を向き合わせる。綺麗な顔だ。
「俺さ、ハネダくんのことが好きで好きで仕方なくて、自分すら制御できなかったんだ。夢魔としちゃ失格だ」
「だから、自殺しようとしたんですか。俺の部屋で」
「違うよ。あの君が好きなだけの馬鹿なサキュバスだけは生き残る。抜け殻の俺は死ぬ。死体も残らない。俺はサキュバスだから。分かれただけで俺とあのアサガは同じ存在なんだ。名前も同じなのによく気が付かなかったな」
「それは、サキュバスは人の心を読んで、その人の好きなように身体とかを変化させる、って」
「そうだ。君好みの顔だろ」
「先輩の顔は他の人にも同じように見えていたはずです。皆からは白毛先輩って呼ばれてます。知ってましたか」
「そうらしいね」
僕の顔を掴んでいた手を離し、先輩は僕の上から体を起こしてベッドに腰かけた。それから自分の顔を確かめるように、両手で頬に触れた。
「でも君はこの顔が好きになった。見えていたのはみんなと同じ顔だけど。君好みに徐々に変えていった。わからなかったか」
「ずっと美人でした」
「そうだろ。実際変化は殆ど無かった。面食いなんだね、ハネダくん」
「一つ聞かせてください」
ベッドから立とうとする先輩の肘を掴んで止めた。離れてほしくない。先輩と離れたくない。サキュバスに殺されて欲しくない。考えろ。喋り続けろ。何か思い付くまで、時間を稼ぐ方法はそれくらいしかない。
「僕が春の間一緒にご飯食べた先輩と、花を買いに来た先輩は、僕が抱いたサキュバスだったんですか」
「本質的には同じだよ」
「じゃあ僕が先輩を好きになったっておかしくないじゃないですか。半年の間に。単純接触効果です」
「そうだね」
これじゃだめだ。届かない。一歩近付いて先輩をこちらに向かせる。物理的に抑え込めば、本当に嫌がって振りほどくまでは、少しは時間が稼げる。
「僕は先輩が好きです。それだけでした。先輩は僕が好きで、僕をどうしたいんですか?」
「……」
時間を稼いでどうしたかったのだろう。僕は。先輩とちょっとでも長く一緒に居たかったのか? そうだ。その先は? 考えていない。
「ハネダくん。俺のこと抱きたいの?」
「はい。だからサキュバスを抱きました」
自分でも引く程元気な返事だった。たった一瞬で自分が嫌になる。
「それじゃあね、その前に一つ、話しておかなきゃいけないことがあるんだ」
僕の腕を引っ張ってベッドの上に倒れ込み、幼子に諭すように先輩は話し始める。目元は潤んで頬は赤らみ、囁くような声で、とても子供とベッドに居ていい様子ではない。
「俺ね、ハネダくん、真実の愛が欲しかったんだ。誰からでもよかった。俺がハネダくんを好きになったのは特に理由があったわけじゃない。綺麗な目だったからとか、同じアパートに住んでたからだとか、そんな理由だと思う」
先輩の胸は薄かった。肋骨の下にどくどくと静かで強い鼓動を感じた。
「僕だってそうです。それがきっかけで昼ごはん一緒に食べたりして、色々お喋りして、きっとそれからです」
確かに先輩は美人だった。でも人格を知らなければアサガを抱くことも無かったと思う。それ以前に先輩の唇を自慰のネタにすることも。最悪だ。
「真実の愛が欲しかったんだ。ハネダくん。それで君を利用した」
「そんなものありませんよ。些細なきっかけで出来た芽を、大事に育てていくんです。いつかは枯れるでしょうけど、生きてる間は出来るだけ大事にするんです。僕も大事にしますから」
先輩は窓のほうを見ていた。窓は開いておらず、カーテンが閉じている。何の変化も起き得ない。
「先輩はどうして殺されたかったんですか」
「俺が邪魔だったからだ。あのサキュバスはハネダくんが好きなだけで生きていける。俺はあれ以上ハネダくんに踏み込めなかったからさ。ごめん」
僕は先輩の顔を挿むように手をついて、覗き込んだ。艶やかな髪がベッドに広がっていた。先輩はひたすら目を反らしていた。長い前髪が顔や首筋にかかっていた。
「あのサキュバスに殺されるには、君のそばに行く必要があった。悪夢を見たのは本当だ。夢の中で俺はあのサキュバスで、自分を殺すって言ってたんだ。君と夢の中でするセックスは信じられないぐらい気持ち良くって、夢の中じゃなくて、あれが本当に自分だったら、どれだけ良かったかって……」
先輩は膝を僕の股の間に入れた。それから目線だけこちらを向く。バラ色の頬に潤んだ目。本当に繋がれたらこの綺麗な顔がどれだけ乱れるだろう。
「ハネダくん、案外えっちなんだ」
「……先輩だからです」
僕は勃起していた。
「あのサキュバスが僕とセックスしたのは、先輩がサキュバスだからですか。サキュバスだから、僕とセックスしたかったんですか。それとも普通の恋人がやるみたいに、その、したかったんですか」
「……」
「答えてください」
先輩はまた目を反らした。顔はますます赤く、表情は無に近い。
「……どっちも」
「浅香先輩。今しましょう。僕、ほら、丁度勃起してるんで」
「あはは、……正気?」
先輩は笑っていた。笑われても仕方ないことを言った。馬鹿が。浮かれてる。先輩が僕を好きだって言ったんだ、浮かれるに決まってる。
「僕は先輩としたいんです」
「あのサキュバスともしたのに」
「あれは先輩でしょう? 僕が好きだから先輩に化けて……」
「それにしたってだ。その勃起したおちんちんをどうにかしたいだけのくせに。正気じゃないんだよ」
先輩は僕のステテコをずらし、陰茎を手のひらの中で弄んだ。
「せ、せんぱ、い? あっ……」
「んー?」
骨ばった右手の中でじりじりと熱が高められていく。先輩の冷たい左手が腰を撫でている。顔を上げると唇が触れた。舌が侵入し、口と陰茎を中心にして、快感に全身が蕩けていく。
途轍もない手管だった。僕は一分と経たずに先輩の手の中に射精した。身体の間から手を抜き出すときにTシャツが多少汚れたのも気にならなかった。
唇から口を離し、手のひらを汚す精液を長い舌で舐め取る。サルビアのように赤い舌だった。
「どう? まだ俺としたい?」
「……はい」
愚息が勃起しようがしまいが関係ない。ここで先輩を繋ぎとめておかなければ、一生後悔する、と思った。
「ハネダくん。アユムくんって呼んでいい?」
「はい」
「へろへろだな。犬みたいだ。そんなんで本当に俺を抱けるの?」
揶揄いながら体を起こす。僕はずり落ちてベッドの下に座り込む。
どんなに情けなさを晒そうが、先輩の近くに居られる好機を、何とかものにしなければならない。
「抱きます」
「……せいぜい頑張っておちんちん立たせてくれよ」
捕食者の笑顔だ。おちんちんが立たなかったら先輩は僕を抱くつもりだ、と妄想した。それでもいい。先輩の恋人になれるなら。
「先輩じゃなくて、俺のこと、コウイチって呼んで」
「幸一さん」
「いいな。ありがと」
先輩が僕の額に口付ける。犬にするような信愛はない。眉間に舌が触れ、相手を強制的に奮い立たせるような、挑発的な接吻。
「うん。元気」
ものの見事に勃起した。僕は単純だった。サキュバスのなせる業か。わからない。何も。思考能力が落ちている。浅香先輩のことしか考えられない。
「せんぱ、い」
「コウイチ」
「こういちさん」
先輩は立ち上がり、股間に染みが付いたスウェットパンツを床に落とす。アサガと全く同じ肌の色だった。身体の真ん中にある陰茎は血の色でピンクに色づいて、一度も排泄に浸かったことがないと言われてもそうなのかと受け入れられるくらい綺麗だった。
「座ってください」
「いいよ。……何するの?」
僕は先輩の脚を開かせ、陰茎を咥えた。咥えたくなるくらい綺麗だった。でもサキュバスのアサガにされたみたいに、器用にはいかない。
「だめだってアユムくん。俺のおちんちんしゃぶっても何もないって」
「きもちよくないんですか」
「ううん。気持ちいいけど。こっちよりも下、弄ってほしいな」
先輩は喋るために口を離した隙に腰を寝かせた。銜えたまま動いたら噛んでしまうところだった。初めて人の陰茎を咥える人間への対応だ。慣れてるんだ。
「そんなに舐めたいの?」
「……アサガ、サキュバスにされて、気持ち良かったので。先輩の、きれいだったし」
「先輩じゃない」
「……幸一さん」
「ん」
股の間で自重に尻たぶが押し潰されて、薄い肉がみっちり寄せて上げられていた。この谷間に中指を入れて、尻の穴を探した。ふわふわした脂肪が挟んでくる。さらさらした肌の奥にねっとりした蜜壺があり、これは、大変だ。
「玉も舐めるんだね、えっち。ふふっ、ちゃんと気持ちいいよ。もっと下のほう舐めて。裏側のほうも……んっ、いい」
「毛、あまり生えてないんですね」
「巻き込んだら邪魔だろ? 食べたら腹に刺さるし」
そういう合理性は好きだ。それにサキュバスは身体を自由に変えられる。野暮なことを聞いた。
「綺麗です」
「そうそう。汚れも溜まらないし」
玉を咥え口の中で転がし、穴の中で指を動かす。寄せて上げた臀裂に滴るほどの液が泡立ち、指を動かすたびちゅくちゅく鳴っている。
「んっ、ふっ……♡ うあっ、あっ♡ んっ♡」
玉から口を離し、陰茎を口に含む。やわらかく滑らかな肌だ。歯を立てないように、お尻の穴を弄るのも忘れない。蕩けた穴に人差し指を足す。鉄臭いのに、いい匂いがした。
「アユく、んぁっ♡ ねぇ、おちんちん、も、いいからぁ、あっ♡」
「気持ちいいですか」
「いいけど、あんま焦らさないで……んっ、ふぅっ♡」
「焦らしてないです」
頑張っているのに、あまりに下手だから焦らしていると思われている。ちょっと屈辱だ。
「先輩、射精って出来ますか」
「ん、えっ!?♡ できるよ、できるけどさぁ、俺、んぁあっ♡ サキュバスだからさぁ、おちんちんよりもおまんこが好きなんだってぇ♡ ねっ♡ アユムくん、だからおちんちん、あんっ♡ はなっ、ひっ♡ 離せっ♡ 離してってぇ♡ 出しちゃう♡ だめ、おれサキュバスなのに♡ 射精しちゃう♡」
「のひまふ」
後ろの穴に入れた指を重点的に動かす。こちらのほうがずっと反応がいい。口の中に入れた陰茎がビクビクどくどく脈打っている。
「飲む!? アユくん、やめな? サキュバスじゃないのに、んっ♡ だめだって! あんっ♡ だめ、アユくん!♡ あっ♡ ゆび、そこいい♡ いやっ違っ、だめっ♡ あっ♡ アユくん、だめっ、おかしいってぇっ♡ だめ、アユくん! おれ、サキュバスなのに、おちんちんでイっちゃう♡ 変になってるから♡ せーえき出ちゃう、だめ♡ イくっ、イくのやだぁっ♡♡ あぅっ♡♡ あぁっ、ああああぁぁっ♡♡♡」
先輩の乱れた顔は見られなかった。喉の奥で受け止めた精液が気管のほうに伝っていった。すぐに口を離してゲホゲホとせき込む。色気が一気に吹っ飛んだ。
「ほらみろ、アユくんの馬鹿っ!」
確かに馬鹿だ。何の準備も無く水分を喉の奥に入れられたらこうもなる。先輩の可愛らしい罵倒もそれどころではなかった。咳き込みと共に吐き気もしてきた。このまずい液が自分の胃液なのか先輩の精液なのかわからない。飲むのはとても無理だ。抑えていた嘔吐反射がやたら働いている。唾液も出てきて口の中がいっぱいだ。
「……大丈夫?」
「ぅえ、うぅぷ」
「吐きなよ。精液って人間にはまずいんだから」
「ごほっ、おえっ」
トイレに駆けて、洋式便器に唾液と胃液、精液を吐き出す。苦い。美味しくない。これを飲み込むのはどれだけ愛があっても無理だ。
「……先輩、これ本当に美味しいんですか」
「俺がサキュバスだからだよ。だから口離してって」
「顎が疲れました」
「そう、じゃあ二度としない方がいい」
その約束はできない。またしたくなるかもしれない。こんな目に遭ったにも拘らず。失敗を糧に、次はもっとうまくやれる。
「アユムくん、フェラ下手だねぇ」
「すみません」
「初めてなんだろ。最初はそんなもんだよ。でも気持ち良かったよ、俺だってちゃんと射精できたんだから」
時間がかかった。仕舞いにはちょっと吐いた。サキュバスが相手でこんなに色気のない性行為がよく出来たものだ。僕のほうは先輩の下半身に注力しすぎていたこととその後の一連の流れで、陰茎が萎えていた。
「それより続きやろうよ。今度はアユくんのおちんちん食べさせて」
口を濯ぎ、居間に戻る。舌を脱いでいると何をするにしても間抜けに感じる。
今度は僕がベッドに座った。先輩が股の間に座り僕の萎えた陰茎を手で弄る。今度はあまり昂らせようという気は感じず、ただ弄んで観察している。先輩の手が触れているにも拘らず、柔らかいままだ。
「アユくんさぁ、前言ってなかったっけ。言わなかったな。見た目人畜無害っぽいのに、おちんちんは意外とデカいよねぇ」
「……誰と比べたんですか」
「平均と。ネットとかで調べたら出て来るよ。それで、アユくんのだけど、膨張率っての? すごいよねぇ。この大きさから、すっごく大きくなるんだ。先のほうは鰓が張っててごりごりしてくれるし、こことか太くって、みっちり中埋めてくれるし。あの馬鹿は褒めなかったみたいだがな、初めての機会を俺に取っておいてくれてよかったよ。……それでさぁ、起きてるときにさ、サキュバスが見てるものは全部俺も見てるからわかるんだけど、アユくんのおちんちんの感覚を覚えてて、お腹に定規当ててみたりしてさ。実際数値にすると、すっごいんだ。……かっこいいね♡」
「おちんちんにかっこいいって、初めてそんな形容詞付けられました」
ちょっとだけ嘘を吐いた。記憶にある限り、自分の陰茎にはいかなる形容詞も付けられたことはない。萎えた陰茎をぶらぶら手で弄んで、不意に太いと指した陰茎の中程に口付けをした。
それで勃起した。簡単で単純だ。
「ほぉら、かぁっこいい♡」
軽く勃起した陰茎にさらに口付けと頬ずりをされて、完全に立ち上がってしまった。いくら僕が先輩の顔が好きとは言え、こんな下品な仕種で勃起するなんて、自分が嫌になる。
「よしよし、元気になったな♡」
先輩は僕をベッドに押し倒し、Tシャツを脱ぎ捨てる。蟹股になって跨り、立ち上がった陰茎を尻の穴に宛がう。
アサガと初めて相対したときの体勢に似ていた。
「入れるよ」
「はい」
先輩の右手が僕の左手を握っていた。ゆっくり、慎重に腰を落とす。肩がびくびくと震えていた。目が潤んで、開いた口の奥が涎でいっぱいだった。
「ふっ、んっ、はぁっ、ああっ♡♡」
亀頭を呑み込んだところで、腰の動きが一旦止まった。先輩と目が合わない。目の焦点が合っていない。先端が輪っかに引っかかり、きゅうきゅう締め付けてくる。目の前にある先輩の顔はいかにも快楽を感じているという顔で、手を握り返すとびくびくと指が震えていた。
「あっ、はぁっ♡♡ んああっ……♡♡ ……ごめん、先っぽ入れただけで軽くイっちゃった♡ どうしよ、これ全部入れたら俺、壊れちゃうかも♡」
「本当に、弱いんですね、ここ」
「そぉ♡ 弱いの♡ 俺♡ 弱くなっちゃったんだぁ♡ アユくんのこと好きになってからずっと♡ 実際に繋がれること想像してイって♡ 我慢して夢の中でもいっぱいイって♡ 初めておちんちん触ってこんなに気持ち良くって♡♡ 俺っ♡♡ 本っ当に♡♡ んっ、あああっ♡♡」
早く先に進まないともたないと思った。空いたほうの手で先輩の骨盤あたりに触れ、腰を奥へ動かした。
「すみませんっ、大丈夫ですか」
「いいっ♡♡ いいの♡♡ もっと動いて♡♡ 俺が弱いのがいけないから♡♡ アユくんは好きに動いて♡♡ 俺のこと、す、好きっ、好きにして♡♡ んひっ、あぅっ♡♡ ああっ♡♡ ああああっ!♡♡♡」
奥まで入った。先輩が僕の腹に座り込み、痙攣している内腿が僕のわき腹を挟んでいた。垂れた尿道がはくはくと蠢き、ぷしゅっ、と透明な液体を吐き出した。僕の腹は先輩の先走り液で、すっかり湿りきっていた。
「全部、入りましたよ、先輩、じゃない、幸一さん?」
「ちっ、違っ♡♡ 入ってない♡♡ 全部じゃない♡♡ だめっ♡♡ これ以上奥入ったらぁっ♡♡」
「駄目なんですか」
「ダメじゃない! ダメじゃないけど、奥、ぐぽぐぽされるのすきだけどぉ゙っ♡♡ うっ、ああっ♡♡」
先輩がすごい勢いでベッドに突っ伏した。顎と首で僕の肩を挟み、ぐりぐりと首を振っている。
「えっ、どうしたんですか!?」
「だめっ♡♡ やだぁっ♡♡ 気持ち良くって♡♡ お腹♡♡ おかしくなってて♡♡ ぐっちゃぐちゃだから♡♡ こんな顔見られたくない♡♡ 恥ずかしい♡♡ アユくん俺の顔好きって言ってくれたのに♡♡ 幻滅されるのっやだぁっ♡♡」
耳元に先輩の快楽に潤んだ声色が響く。
「先輩はどんな顔でも綺麗ですから、顔を上げて」
「だめぇっ♡♡ もうちょっと……っ♡ 落ち着いて、から……ぁっ♡」
先輩の身体が覆い被さっている。思いのほか重い。胸に小さな固いものが二つ擦り付けられている。身じろぎするたびに小さく艶っぽい声が漏れて、ぬるついた体液でいっぱいの直腸が僕の陰茎を締め付け、精液を搾り取るようにびくびく動いている。
生殺しだ。早く動きたい。先輩の中に射精したい。思考がそれ一つだけになる。
「あぅっ♡♡ ……アユくん、俺、だめだね、俺ばっか気持ち良くって、お腹きゅんきゅんしてて、アユくん、つらいよな♡ おちんちん、もっと気持ち良くなりたいよな♡ ごめんな♡ 俺がおかしいから♡ ずっとイってるから♡ おなか、ずっとしあわせなの♡ 動けないの♡ だからさ、アユくんの♡ 好きに動いていいから♡ ……俺のこと、好きにして♡」
両手を伸ばし、先輩の腰を掴む。薬指と小指が柔らかい肉に沈む。腰が跳ねるように動き、ベッドのスプリングがぎしぎし軋む。先輩が僕の肩に腕を回し、鼻声交じりに快楽に喘ぐ。
「うっ♡ ああ゙っ♡ アユくん♡ アユくん♡♡ ごめんなぁ゙っ♡♡ おれ、サキュバスなのに♡♡ ごほーしできない♡♡ あ゙っ♡♡ アユ゙くっ、アユくん゙っ♡♡ だいすき♡♡ すきぃっ♡♡ アユくん♡♡ すきなのぉ゙っ♡♡ あ゙あっ♡♡ ア゙ユぐっ゙、すきぃっ♡♡ ア゙ユくぅ゙っ、アユくんっ♡♡♡♡」
射精までそう時間はかからなかった。先輩はびくんびくんと腿の内側を痙攣させながら、ぐりぐりと腰にお尻を押し付けてくる。萎えかけた陰茎がきゅうきゅう締め付けられて痛い。僕は手を挙げた。
「すみませんこれ以上はもう一滴も出ません死んじゃいます」
「ふーっ♡ ふーっ♡ ……そうぉ? そっか」
逃げるように腰を引き、愚息はなんとか先輩の中から脱出した。
「最近、睾丸のほうが働きづめだったので、情けない話ですが、正直無理です。ごめんなさい。……手とかなら貸せますので出来ることならそちらで、勘弁してください」
「……俺のせいでね。ふふっ」
先輩はようやく顔を見せてくれた。余程シーツに顔を押し付けていたのだろう、目元が赤くなっていた。どれだけ泣き喚こうが先輩は美しい。今度はちゃんと顔を見て、先輩が満足するまで付き合いたい。
「また次がいつ出来るかはわかりませんが。またしましょう」
「そうだね」
顔から出た水で濡れたシーツを枕に、先輩がベッドに倒れ込む。ふわふわの髪が天使みたいに広がっている。
「先輩、じゃないや幸一さん、恋人がするみたいにセックスしたいって言ってましたけど、僕たち恋人ってことになるんでしょうか」
先輩は大きく目を見開いた。綺麗な濃いピンク色の目だ。
「俺、アユくんの恋人なんだ?」
「そう、なりますね。先……幸一さんさえ良ければ」
「良いに決まってるだろ? そっかぁ、俺、恋人なんだぁ♡ エッチしちゃったもんなぁ、アユくんと、そっかぁ、恋人……」
浸るように目線をベッドのシーツに落とし、先輩は鼻をすすりながら話す。
「俺ね、ずっとさ、俺ばっかりハネダくんのこと好きで、一方的なんじゃないかって、サキュバスがアユくんのとこに出てってからずっと不安で、俺……」
「僕だって先輩が好きです。じゃなきゃあのサキュバスを抱いてませんし、先輩に、こんな、みっともなく縋りません。僕、そんなに器用な性質ではないので、好きな人しか抱けないです。そこまで、割り切れないから」
「あっ、はは。それなら、アユムくん、結構浮気なんだ♡」
「い、いいじゃないですか。結果的にはあのサキュバスと先輩は同じだったんだから……」
「ん、ふふ、ごめんな意地悪言って。俺が俺でよかったんだ。他の奴に取られたら普通に殺してたよ」
「殺し、って、誰をですか」
「相手に決まってるだろ。アユくんなわけないじゃん」
いきなり倫理が違う言葉が、先輩の口から飛び出た。浅香先輩はサキュバス、魔物だ。僕は化け物に魅入られて、好きになってしまった。でもそれでいい。自分が先輩の倫理規制になればいい。一生一緒にいれば、きっと先輩が化け物じみた脅しを実行する機会は訪れない。……ただの軽口なら、それが一番いい。
「先輩、これからは殺さないでくださいね」
「うん。わかってる」
先輩と目が合う。ピンク色の目、先輩の腹の奥の熱が引いて行く。サキュバスのアサガといつも大学で会う先輩の境界が融け合っていくのを感じる。普段の、昼ごはんを一緒に食べてる時とかの先輩の目の色、あの日先輩に渡した花束の中のスイートピーみたいだと思ったけど。今は全然違う色だ。
「先輩の目、百日紅の色に似てます」
「なぁに、それ」
「夏に咲く花です。木の表面がつるつるしてるから、サルスベリ」
「へえ。もう枯れちゃってるかな」
「夏から秋にかけて咲くので、まだ枯れてないと思いますよ。漢字でヒャクニチコウって書くんです。百日――それくらい長い間咲くんです。……枯れてたとしても、来年また見れますよ」
「俺、百日紅の花って、言われないとわかんないよ」
「僕が教えます」
「教えても覚えないからな」
「……」
先輩は嬉しそうに僕を見ていた。毎回言うのは嫌になるかもしれないが、先輩の笑顔を見たらなんでもべらべら喋ってしまうかもしれない。
「先輩」
「実はさ、俺、大学生じゃないんだ。だから先輩でもない」
「えっ」
「もぐりなんだ」
もぐり。つまり先輩は正式な大学生じゃない。どおりで色んな授業で目撃情報があるわけで。なるほど、神話にもなるはずだ。
「だから先輩って呼ばないで。幸一って呼んでよ。学校でも、どこでも。とっさの時にも呼べるように、なぁ?」
「……努力します」
このままでは先輩といくらでも話が出来てしまう。そろそろ眠らないと。本当に眠い。
「しばらくセックスはしたくないです。先輩には申し訳ないんですが」
「そっか」
僕の睾丸は過剰労働を訴えていた。もともとあまり働いていない期間だったものが、このところ一週間くらい連続稼働していた。今日も無理やり奮い立たせたようなものだ。鍛えていない部位にしてはよく頑張っている。これから先輩と付き合うには鍛えたほうがいいのかもしれないけど、……正直なところあまり欲に振り回された自分は見たくない。今日先輩に縋りついたことを恥としても。恋愛は恥を掻き捨てていくものなのだろうか。それなら、がんばらなきゃ。
「すみません、おやすみなさい」
「おやすみ、ハネダくん」
次の日の朝、僕は目覚めても隣に先輩がいることに幸せを覚えた。
起こさないように慎重に跨ぎ、脱ぎ捨てていた寝間着を洗濯機の中に放り投げ、先輩の寝顔を見ながら朝の仕度を整えた。
ふわふわした真珠色の髪がベッドの端から垂れかかっている。バラ色の頬が髪と掛け布団の間から覗く。カーテンを開くと、朝の陽射しに薄っすらと瞼を開く。
先輩は起き上がり、猫のように背を屈めて体を伸ばす。顔を上げ、髪の間からこちらを見る。静かなピンク色の目、大理石の彫像のような微笑。
「おはよ」
「おはようございます」
「やっぱいいお婿さんになるよ、アユムくん」
よしいい仕事をしたと振り返ると、サキュバスのアサガが台所を見下ろしていた。
「いたのか」
「ずっといるよ。今日は早いんだな」
「うん。バイトがないから」
「そっか。じゃ今夜はずっとアユムくんを独り占めだ」
いつもそうだろ。アサガが来てから毎日、僕はずっと寝不足気味だ。アサガが来た次の日は、初めて昼の授業中に寝た。隣にいた先輩に起こされて、かなり恥ずかしい思いをした。困ったような笑顔は可愛かったけど、そういう問題じゃない。
「洗い物してからね」
「いいじゃねえか放っときゃ」
「明日の自分が困る」
「困らしとけよ」
「明日の自分はすぐ今の自分になるんだ」
給湯器に風呂を沸かしてもらう。その間に洗い物を済ませる。もう夏とも言えない季節なのにこう気温が高いとすぐに風呂が沸くだろう。
「明日も早いの?」
「何が?」
「凄く早く寝るじゃん。日付変わる前って。本当に大学生?」
「早くない。遅いくらいだ。どう頑張っても十一時までに布団に入らないと明日辛い。君がいるから我慢してたんだ。今日は何が何でも十一時までには寝る」
「なんで? たった一時間の睡眠で何が出来る?」
「睡眠が出来る。せっかく先輩と一緒に学校行くのに、睡眠負債で遅刻なんて、冗談じゃないよ」
「へえ」
水を止める。洗い物は終わった。薄いピンク色の目と目が合った。
「やっぱ我慢ならないな。殺すわ、その先輩」
物騒な一言を最後、霧が晴れるように、アサガの姿が掻き消えた。
……どこに行った。順当にいけば先輩のところだ。何とかして知らせないと。でも連絡先を知らない。先輩は今どきの人類には珍しくスマホを持っていない。直接会って話すだけが、先輩とのコミュニケーション方法だ。
よく考えたら、僕は先輩が住んでいる部屋も知らない。僕の一個上の階に住んでいることだけだ。部屋にお呼ばれされたことはないし、知ろうともしなかった。アサガは知っているのか。調べればわかる。サキュバスは他人の空想さえあればどこにでも行く。壁をすり抜けてどこの部屋に先輩が居るか見て回って、先輩に馬乗りになって、あの細い指で首を絞めて殺す。
先輩に殺意を持ったサキュバスが襲い掛かることを知らせる術はない。
パニックで心臓が冷えた。
インターホンが鳴った。時計は既に夜を指して、窓の向こうは暗かった。いつもならもう少しで風呂に入る時間だった。何かが来る予定はないが、一応出てみる。
「はい」
と返事して玄関を開けると、先輩が立っていた。黒色のTシャツに下はスウェットで、お気に入りらしい紺色のクロックスもどきを履いていた。表情以外はいつも通りの先輩だった。
「……ハネダくん? だよね。よかった」
「どうしたんですか、先輩」
白い前髪の間に見える目は充血して、周りには泣き腫らしたような跡があった。
「ごめん、急に来て。今日体調悪くて、夕方からさっきまで寝てたんだけど、悪い夢見ちゃってさ。その、ああ……寂しいから、一人だとダメで。一緒に居てくれないかなって。……ごめん、変なこと言ったな」
そう言って目を擦る。先輩に何が起きているんだ。僕の夢の中のサキュバスは物騒なことを言っていたけど。今の先輩の様子とはあまり結び付かない。
「入ってください」
「ありがとう。おじゃまします」
チェーンはもとから掛けていない。ドアを大きく開けて先輩を招き入れる。
「ご飯は食べましたか」
「うん、それは大丈夫。ありがとう」
裸足のぺたぺたした音が響く。ずず、と後ろで鼻をすする音が聞こえる。
「体調不良って、大丈夫なんですか。出歩いたりして」
「たまにあるんだ。精神的なもので、人にうつるものじゃないから、安心して」
居間に来ると、先輩はベッドに腰掛けた。この部屋にはベッドくらいしか腰を掛けられる場所は無いから、それが自然な流れなのかもしれない。
「最近は、特に酷くてさ」
「それで、たまに学校休んでたんですか」
「うん。出歩いたほうがいいんだけどね、どうしても駄目だった」
先輩は顔を伏せたり上げたり、おきあがりこぼしのようにゆらゆら頭を揺らしていた。体調が悪いから、ずっと寝ていてもまだ眠いのかもしれない。こんなに隙だらけの先輩を見られるなんて、何もしていないのに何だか悪いことをしている気分になった。
「一緒に居ていい?」
「はい。学校に行くまでなら、僕は家にいますから」
こっちを見る目が見開かれた。ピンク色の目が白目まできらきらしていた。
「本当に、朝まで一緒にいていいの?」
「はい。先輩さえよければ」
先輩は枕を膝に乗せて、抱き心地を確かめていた。この部屋に一個しかない枕だ。普段抱き枕を抱いて寝ているのだろうか。先輩に抱かれるなら頭を乗せる枕も本望だろう。
「ありがとう。一人は心細かったんだ」
それからぎゅっと枕を抱きしめた。枕は僕の頭を支えるよりずっといい仕事をしていた。傾げた首から肩に髪が流れて、眠そうに赤らんだ頬が僕を見上げていて、嬉しそうに細めた目、吊り上がった口角が婀娜っぽくて、僕は目を反らした。
夜毎僕のベッドを占拠していたサキュバスを重ねてしまった。
湯沸し器から軽妙な音楽が鳴り、お風呂が沸いたことを知らせた。助かった、と思った。サキュバスが消えて先輩が僕の部屋に来て、そう時間は経っていなかった。
「僕、風呂に入ってくるんで、好きにくつろいでてください」
「うん。待ってる」
先輩は枕に顔をくっつけて、機嫌良さげに笑っていた。昼食をとっているときの先輩の表情によく似ていた。自分の頭の臭いが気になった。人の枕にあんなに顔をくっつけて、嫌な臭いはしないのだろうか。
風呂から出ると、先輩は掛け布団を枕代わりに横になっていた。壁際の端に、こちらに横向きに寝ていた。薄く目が開いていて、僕が部屋に入ると首が動いてこちらを向いたのでおそらく起きている。
「先輩、起きてますか」
「ハネダくん。……やぁっと戻ってきた?」
そんなに長い時間ではなかったと思う。僕が席を外した時間は三十分程度だ。
「先輩、お風呂入りますか?」
「ううん、いい」
先輩は眠そうににゃむにゃむ言っていた。薄い色の唇が芋虫のように動いていて可愛らしい。
「ねー、ハネダくん、手、握って」
手を握り、指を絡めると、うつらうつら舟を漕いでいた先輩の瞼が降りていく。
「へへ、ありがと。おやすみ」
ご臨終みたいだ。生きてちゃんと脈があるけど。ひんやりした手のひらの奥でどくどくと血が流れているのを感じる。
本当に綺麗な顔だ、と思った。ふわふわの睫毛がLED電球に照らされている。先輩のためならすぐに明かりを落とすべきだが、僕は我儘にもまだこの姿を見ていたかった。白い髪に覆われた細い顎の柔らかな線、骨ばった首。Tシャツの下で上下している薄い胸。その下は本当にアサガと同じなのだろうか。何ということだ。下世話なことを考えてしまった。自分が嫌だ。
「やっと寝たか。もだもだ野郎」
声に後ろを振り返ると、サキュバスのアサガがいた。
服を着ていないアサガの姿をベッドで眠っている先輩と比べてみると、やはり瓜二つのように思えた。服の下はわからないまでも、かなり似ているように見える。
「アサガ、何しに来た」
「わかってるだろ。そいつを殺すんだ」
僕の制止は間に合わなかった。足音も無くベッドの上の先輩に馬乗りに、躊躇いなく首に手をかける。指の形に表皮が歪む。中の気道も、血管も潰されていく。このままアサガを止められなければ、じわじわと先輩が死んでいく。
「待て、どうして殺す!」
止めなきゃ。僕の部屋の中で誰も死んでほしくない。面倒ごとはごめんだ。
「理由なんてな。単純に嫉妬だ。読解力無えのか」
「理由があっても殺すのは駄目だ! やめろ!」
「いくら先輩が好きでも部屋に上げるんじゃなかったな。先輩をさんざ殺したがってた俺がいるんだ。じゃあな恋心。俺以外が不甲斐ないなら死んで贖わなゃあなぁ」
「先輩! 起きて! 殺されかけてます!」
先輩の脚を蹴飛ばし、先輩の首に絡みついたアサガの手を剥がしにかかった。下手に体を引き剥がせば首に傷が付く。それは嫌だ。幸いアサガの爪は丸く短い。傷は付きづらいだろう。希望的観測にすぎない。
先輩が目を覚ました。剥がしかけていた指が突然消えて、先輩の脚の上に尻もちをつく。
「……すみません。蹴りました」
先輩は起き上がり、首を撫でた。多少跡は付いているが、それだけだ。すぐに治るだろう。
ぱっちり開いたピンク色の目が、興奮したアサガと全く同じ濃いピンク色だった。
「バレちゃった」
どこにも焦点が合っていない目でそう言いながら、先輩は足を身体のほうに引いて、胡坐をかいた。僕は尻をベッドの上に落とした。痛くはない。先輩のほうは痛かったかもしれない。
起きて開口一番、先輩は何を言ったのだろう。理解が及ばなかった。殺されかけたところを見たからだろうか。頭が回っていない。
「……すみません。何がバレたんですか?」
「はぁ、なんだ。わかってなかったのか。ハネダくん、君がここ数日抱いてたあのサキュバスは俺だよ。あの俺そっくりのサキュバス」
は? 意味がわからない。先輩は何を言ってるんだ。
「もう一回言うぞ。浅香幸一はサキュバスだ」
先輩はサキュバスと全く同じ表情になり、僕に近付く。身体を引こうとしてベッドに倒れ、呆然としている僕に構わず言葉を続ける。
「俺ね、ハネダくんが好きなんだ。毎日エッチしたいと思ってるし、家庭も持ちたいと思ってる。あいつになって、漏れちゃったんだ。ごめんね」
ベッドに押し倒したような格好で、先輩はひたすら見つめてくる。長い髪がカーテンのように被さり、LEDの光を透かす。僕の返事を期待しているらしい。でも僕から出たのは戸惑いの呻きだけだった。
「え、ええ、なんで、そんな……」
情けないことこの上ない。呼吸を整える。目を反らす。部屋の端のカラーボックスには教科書やレジュメが並んでいて、学校用のカバンが倒れ掛かっている。ちゃぶ台の上には何もない。何でもいい、口を開いて、何か言わなければならない。必要最低限の言葉をなんとかひねり出す。
「ハネダくん?」
「僕は、本当に、先輩を好きになったんですよ」
「……この面にだろ。サキュバスが公共の場で出来るギリギリの本気で誘惑してたんだ。そうでなければ困る」
先輩はぐい、と僕の顎を捻って真っ直ぐ顔を向き合わせる。綺麗な顔だ。
「俺さ、ハネダくんのことが好きで好きで仕方なくて、自分すら制御できなかったんだ。夢魔としちゃ失格だ」
「だから、自殺しようとしたんですか。俺の部屋で」
「違うよ。あの君が好きなだけの馬鹿なサキュバスだけは生き残る。抜け殻の俺は死ぬ。死体も残らない。俺はサキュバスだから。分かれただけで俺とあのアサガは同じ存在なんだ。名前も同じなのによく気が付かなかったな」
「それは、サキュバスは人の心を読んで、その人の好きなように身体とかを変化させる、って」
「そうだ。君好みの顔だろ」
「先輩の顔は他の人にも同じように見えていたはずです。皆からは白毛先輩って呼ばれてます。知ってましたか」
「そうらしいね」
僕の顔を掴んでいた手を離し、先輩は僕の上から体を起こしてベッドに腰かけた。それから自分の顔を確かめるように、両手で頬に触れた。
「でも君はこの顔が好きになった。見えていたのはみんなと同じ顔だけど。君好みに徐々に変えていった。わからなかったか」
「ずっと美人でした」
「そうだろ。実際変化は殆ど無かった。面食いなんだね、ハネダくん」
「一つ聞かせてください」
ベッドから立とうとする先輩の肘を掴んで止めた。離れてほしくない。先輩と離れたくない。サキュバスに殺されて欲しくない。考えろ。喋り続けろ。何か思い付くまで、時間を稼ぐ方法はそれくらいしかない。
「僕が春の間一緒にご飯食べた先輩と、花を買いに来た先輩は、僕が抱いたサキュバスだったんですか」
「本質的には同じだよ」
「じゃあ僕が先輩を好きになったっておかしくないじゃないですか。半年の間に。単純接触効果です」
「そうだね」
これじゃだめだ。届かない。一歩近付いて先輩をこちらに向かせる。物理的に抑え込めば、本当に嫌がって振りほどくまでは、少しは時間が稼げる。
「僕は先輩が好きです。それだけでした。先輩は僕が好きで、僕をどうしたいんですか?」
「……」
時間を稼いでどうしたかったのだろう。僕は。先輩とちょっとでも長く一緒に居たかったのか? そうだ。その先は? 考えていない。
「ハネダくん。俺のこと抱きたいの?」
「はい。だからサキュバスを抱きました」
自分でも引く程元気な返事だった。たった一瞬で自分が嫌になる。
「それじゃあね、その前に一つ、話しておかなきゃいけないことがあるんだ」
僕の腕を引っ張ってベッドの上に倒れ込み、幼子に諭すように先輩は話し始める。目元は潤んで頬は赤らみ、囁くような声で、とても子供とベッドに居ていい様子ではない。
「俺ね、ハネダくん、真実の愛が欲しかったんだ。誰からでもよかった。俺がハネダくんを好きになったのは特に理由があったわけじゃない。綺麗な目だったからとか、同じアパートに住んでたからだとか、そんな理由だと思う」
先輩の胸は薄かった。肋骨の下にどくどくと静かで強い鼓動を感じた。
「僕だってそうです。それがきっかけで昼ごはん一緒に食べたりして、色々お喋りして、きっとそれからです」
確かに先輩は美人だった。でも人格を知らなければアサガを抱くことも無かったと思う。それ以前に先輩の唇を自慰のネタにすることも。最悪だ。
「真実の愛が欲しかったんだ。ハネダくん。それで君を利用した」
「そんなものありませんよ。些細なきっかけで出来た芽を、大事に育てていくんです。いつかは枯れるでしょうけど、生きてる間は出来るだけ大事にするんです。僕も大事にしますから」
先輩は窓のほうを見ていた。窓は開いておらず、カーテンが閉じている。何の変化も起き得ない。
「先輩はどうして殺されたかったんですか」
「俺が邪魔だったからだ。あのサキュバスはハネダくんが好きなだけで生きていける。俺はあれ以上ハネダくんに踏み込めなかったからさ。ごめん」
僕は先輩の顔を挿むように手をついて、覗き込んだ。艶やかな髪がベッドに広がっていた。先輩はひたすら目を反らしていた。長い前髪が顔や首筋にかかっていた。
「あのサキュバスに殺されるには、君のそばに行く必要があった。悪夢を見たのは本当だ。夢の中で俺はあのサキュバスで、自分を殺すって言ってたんだ。君と夢の中でするセックスは信じられないぐらい気持ち良くって、夢の中じゃなくて、あれが本当に自分だったら、どれだけ良かったかって……」
先輩は膝を僕の股の間に入れた。それから目線だけこちらを向く。バラ色の頬に潤んだ目。本当に繋がれたらこの綺麗な顔がどれだけ乱れるだろう。
「ハネダくん、案外えっちなんだ」
「……先輩だからです」
僕は勃起していた。
「あのサキュバスが僕とセックスしたのは、先輩がサキュバスだからですか。サキュバスだから、僕とセックスしたかったんですか。それとも普通の恋人がやるみたいに、その、したかったんですか」
「……」
「答えてください」
先輩はまた目を反らした。顔はますます赤く、表情は無に近い。
「……どっちも」
「浅香先輩。今しましょう。僕、ほら、丁度勃起してるんで」
「あはは、……正気?」
先輩は笑っていた。笑われても仕方ないことを言った。馬鹿が。浮かれてる。先輩が僕を好きだって言ったんだ、浮かれるに決まってる。
「僕は先輩としたいんです」
「あのサキュバスともしたのに」
「あれは先輩でしょう? 僕が好きだから先輩に化けて……」
「それにしたってだ。その勃起したおちんちんをどうにかしたいだけのくせに。正気じゃないんだよ」
先輩は僕のステテコをずらし、陰茎を手のひらの中で弄んだ。
「せ、せんぱ、い? あっ……」
「んー?」
骨ばった右手の中でじりじりと熱が高められていく。先輩の冷たい左手が腰を撫でている。顔を上げると唇が触れた。舌が侵入し、口と陰茎を中心にして、快感に全身が蕩けていく。
途轍もない手管だった。僕は一分と経たずに先輩の手の中に射精した。身体の間から手を抜き出すときにTシャツが多少汚れたのも気にならなかった。
唇から口を離し、手のひらを汚す精液を長い舌で舐め取る。サルビアのように赤い舌だった。
「どう? まだ俺としたい?」
「……はい」
愚息が勃起しようがしまいが関係ない。ここで先輩を繋ぎとめておかなければ、一生後悔する、と思った。
「ハネダくん。アユムくんって呼んでいい?」
「はい」
「へろへろだな。犬みたいだ。そんなんで本当に俺を抱けるの?」
揶揄いながら体を起こす。僕はずり落ちてベッドの下に座り込む。
どんなに情けなさを晒そうが、先輩の近くに居られる好機を、何とかものにしなければならない。
「抱きます」
「……せいぜい頑張っておちんちん立たせてくれよ」
捕食者の笑顔だ。おちんちんが立たなかったら先輩は僕を抱くつもりだ、と妄想した。それでもいい。先輩の恋人になれるなら。
「先輩じゃなくて、俺のこと、コウイチって呼んで」
「幸一さん」
「いいな。ありがと」
先輩が僕の額に口付ける。犬にするような信愛はない。眉間に舌が触れ、相手を強制的に奮い立たせるような、挑発的な接吻。
「うん。元気」
ものの見事に勃起した。僕は単純だった。サキュバスのなせる業か。わからない。何も。思考能力が落ちている。浅香先輩のことしか考えられない。
「せんぱ、い」
「コウイチ」
「こういちさん」
先輩は立ち上がり、股間に染みが付いたスウェットパンツを床に落とす。アサガと全く同じ肌の色だった。身体の真ん中にある陰茎は血の色でピンクに色づいて、一度も排泄に浸かったことがないと言われてもそうなのかと受け入れられるくらい綺麗だった。
「座ってください」
「いいよ。……何するの?」
僕は先輩の脚を開かせ、陰茎を咥えた。咥えたくなるくらい綺麗だった。でもサキュバスのアサガにされたみたいに、器用にはいかない。
「だめだってアユムくん。俺のおちんちんしゃぶっても何もないって」
「きもちよくないんですか」
「ううん。気持ちいいけど。こっちよりも下、弄ってほしいな」
先輩は喋るために口を離した隙に腰を寝かせた。銜えたまま動いたら噛んでしまうところだった。初めて人の陰茎を咥える人間への対応だ。慣れてるんだ。
「そんなに舐めたいの?」
「……アサガ、サキュバスにされて、気持ち良かったので。先輩の、きれいだったし」
「先輩じゃない」
「……幸一さん」
「ん」
股の間で自重に尻たぶが押し潰されて、薄い肉がみっちり寄せて上げられていた。この谷間に中指を入れて、尻の穴を探した。ふわふわした脂肪が挟んでくる。さらさらした肌の奥にねっとりした蜜壺があり、これは、大変だ。
「玉も舐めるんだね、えっち。ふふっ、ちゃんと気持ちいいよ。もっと下のほう舐めて。裏側のほうも……んっ、いい」
「毛、あまり生えてないんですね」
「巻き込んだら邪魔だろ? 食べたら腹に刺さるし」
そういう合理性は好きだ。それにサキュバスは身体を自由に変えられる。野暮なことを聞いた。
「綺麗です」
「そうそう。汚れも溜まらないし」
玉を咥え口の中で転がし、穴の中で指を動かす。寄せて上げた臀裂に滴るほどの液が泡立ち、指を動かすたびちゅくちゅく鳴っている。
「んっ、ふっ……♡ うあっ、あっ♡ んっ♡」
玉から口を離し、陰茎を口に含む。やわらかく滑らかな肌だ。歯を立てないように、お尻の穴を弄るのも忘れない。蕩けた穴に人差し指を足す。鉄臭いのに、いい匂いがした。
「アユく、んぁっ♡ ねぇ、おちんちん、も、いいからぁ、あっ♡」
「気持ちいいですか」
「いいけど、あんま焦らさないで……んっ、ふぅっ♡」
「焦らしてないです」
頑張っているのに、あまりに下手だから焦らしていると思われている。ちょっと屈辱だ。
「先輩、射精って出来ますか」
「ん、えっ!?♡ できるよ、できるけどさぁ、俺、んぁあっ♡ サキュバスだからさぁ、おちんちんよりもおまんこが好きなんだってぇ♡ ねっ♡ アユムくん、だからおちんちん、あんっ♡ はなっ、ひっ♡ 離せっ♡ 離してってぇ♡ 出しちゃう♡ だめ、おれサキュバスなのに♡ 射精しちゃう♡」
「のひまふ」
後ろの穴に入れた指を重点的に動かす。こちらのほうがずっと反応がいい。口の中に入れた陰茎がビクビクどくどく脈打っている。
「飲む!? アユくん、やめな? サキュバスじゃないのに、んっ♡ だめだって! あんっ♡ だめ、アユくん!♡ あっ♡ ゆび、そこいい♡ いやっ違っ、だめっ♡ あっ♡ アユくん、だめっ、おかしいってぇっ♡ だめ、アユくん! おれ、サキュバスなのに、おちんちんでイっちゃう♡ 変になってるから♡ せーえき出ちゃう、だめ♡ イくっ、イくのやだぁっ♡♡ あぅっ♡♡ あぁっ、ああああぁぁっ♡♡♡」
先輩の乱れた顔は見られなかった。喉の奥で受け止めた精液が気管のほうに伝っていった。すぐに口を離してゲホゲホとせき込む。色気が一気に吹っ飛んだ。
「ほらみろ、アユくんの馬鹿っ!」
確かに馬鹿だ。何の準備も無く水分を喉の奥に入れられたらこうもなる。先輩の可愛らしい罵倒もそれどころではなかった。咳き込みと共に吐き気もしてきた。このまずい液が自分の胃液なのか先輩の精液なのかわからない。飲むのはとても無理だ。抑えていた嘔吐反射がやたら働いている。唾液も出てきて口の中がいっぱいだ。
「……大丈夫?」
「ぅえ、うぅぷ」
「吐きなよ。精液って人間にはまずいんだから」
「ごほっ、おえっ」
トイレに駆けて、洋式便器に唾液と胃液、精液を吐き出す。苦い。美味しくない。これを飲み込むのはどれだけ愛があっても無理だ。
「……先輩、これ本当に美味しいんですか」
「俺がサキュバスだからだよ。だから口離してって」
「顎が疲れました」
「そう、じゃあ二度としない方がいい」
その約束はできない。またしたくなるかもしれない。こんな目に遭ったにも拘らず。失敗を糧に、次はもっとうまくやれる。
「アユムくん、フェラ下手だねぇ」
「すみません」
「初めてなんだろ。最初はそんなもんだよ。でも気持ち良かったよ、俺だってちゃんと射精できたんだから」
時間がかかった。仕舞いにはちょっと吐いた。サキュバスが相手でこんなに色気のない性行為がよく出来たものだ。僕のほうは先輩の下半身に注力しすぎていたこととその後の一連の流れで、陰茎が萎えていた。
「それより続きやろうよ。今度はアユくんのおちんちん食べさせて」
口を濯ぎ、居間に戻る。舌を脱いでいると何をするにしても間抜けに感じる。
今度は僕がベッドに座った。先輩が股の間に座り僕の萎えた陰茎を手で弄る。今度はあまり昂らせようという気は感じず、ただ弄んで観察している。先輩の手が触れているにも拘らず、柔らかいままだ。
「アユくんさぁ、前言ってなかったっけ。言わなかったな。見た目人畜無害っぽいのに、おちんちんは意外とデカいよねぇ」
「……誰と比べたんですか」
「平均と。ネットとかで調べたら出て来るよ。それで、アユくんのだけど、膨張率っての? すごいよねぇ。この大きさから、すっごく大きくなるんだ。先のほうは鰓が張っててごりごりしてくれるし、こことか太くって、みっちり中埋めてくれるし。あの馬鹿は褒めなかったみたいだがな、初めての機会を俺に取っておいてくれてよかったよ。……それでさぁ、起きてるときにさ、サキュバスが見てるものは全部俺も見てるからわかるんだけど、アユくんのおちんちんの感覚を覚えてて、お腹に定規当ててみたりしてさ。実際数値にすると、すっごいんだ。……かっこいいね♡」
「おちんちんにかっこいいって、初めてそんな形容詞付けられました」
ちょっとだけ嘘を吐いた。記憶にある限り、自分の陰茎にはいかなる形容詞も付けられたことはない。萎えた陰茎をぶらぶら手で弄んで、不意に太いと指した陰茎の中程に口付けをした。
それで勃起した。簡単で単純だ。
「ほぉら、かぁっこいい♡」
軽く勃起した陰茎にさらに口付けと頬ずりをされて、完全に立ち上がってしまった。いくら僕が先輩の顔が好きとは言え、こんな下品な仕種で勃起するなんて、自分が嫌になる。
「よしよし、元気になったな♡」
先輩は僕をベッドに押し倒し、Tシャツを脱ぎ捨てる。蟹股になって跨り、立ち上がった陰茎を尻の穴に宛がう。
アサガと初めて相対したときの体勢に似ていた。
「入れるよ」
「はい」
先輩の右手が僕の左手を握っていた。ゆっくり、慎重に腰を落とす。肩がびくびくと震えていた。目が潤んで、開いた口の奥が涎でいっぱいだった。
「ふっ、んっ、はぁっ、ああっ♡♡」
亀頭を呑み込んだところで、腰の動きが一旦止まった。先輩と目が合わない。目の焦点が合っていない。先端が輪っかに引っかかり、きゅうきゅう締め付けてくる。目の前にある先輩の顔はいかにも快楽を感じているという顔で、手を握り返すとびくびくと指が震えていた。
「あっ、はぁっ♡♡ んああっ……♡♡ ……ごめん、先っぽ入れただけで軽くイっちゃった♡ どうしよ、これ全部入れたら俺、壊れちゃうかも♡」
「本当に、弱いんですね、ここ」
「そぉ♡ 弱いの♡ 俺♡ 弱くなっちゃったんだぁ♡ アユくんのこと好きになってからずっと♡ 実際に繋がれること想像してイって♡ 我慢して夢の中でもいっぱいイって♡ 初めておちんちん触ってこんなに気持ち良くって♡♡ 俺っ♡♡ 本っ当に♡♡ んっ、あああっ♡♡」
早く先に進まないともたないと思った。空いたほうの手で先輩の骨盤あたりに触れ、腰を奥へ動かした。
「すみませんっ、大丈夫ですか」
「いいっ♡♡ いいの♡♡ もっと動いて♡♡ 俺が弱いのがいけないから♡♡ アユくんは好きに動いて♡♡ 俺のこと、す、好きっ、好きにして♡♡ んひっ、あぅっ♡♡ ああっ♡♡ ああああっ!♡♡♡」
奥まで入った。先輩が僕の腹に座り込み、痙攣している内腿が僕のわき腹を挟んでいた。垂れた尿道がはくはくと蠢き、ぷしゅっ、と透明な液体を吐き出した。僕の腹は先輩の先走り液で、すっかり湿りきっていた。
「全部、入りましたよ、先輩、じゃない、幸一さん?」
「ちっ、違っ♡♡ 入ってない♡♡ 全部じゃない♡♡ だめっ♡♡ これ以上奥入ったらぁっ♡♡」
「駄目なんですか」
「ダメじゃない! ダメじゃないけど、奥、ぐぽぐぽされるのすきだけどぉ゙っ♡♡ うっ、ああっ♡♡」
先輩がすごい勢いでベッドに突っ伏した。顎と首で僕の肩を挟み、ぐりぐりと首を振っている。
「えっ、どうしたんですか!?」
「だめっ♡♡ やだぁっ♡♡ 気持ち良くって♡♡ お腹♡♡ おかしくなってて♡♡ ぐっちゃぐちゃだから♡♡ こんな顔見られたくない♡♡ 恥ずかしい♡♡ アユくん俺の顔好きって言ってくれたのに♡♡ 幻滅されるのっやだぁっ♡♡」
耳元に先輩の快楽に潤んだ声色が響く。
「先輩はどんな顔でも綺麗ですから、顔を上げて」
「だめぇっ♡♡ もうちょっと……っ♡ 落ち着いて、から……ぁっ♡」
先輩の身体が覆い被さっている。思いのほか重い。胸に小さな固いものが二つ擦り付けられている。身じろぎするたびに小さく艶っぽい声が漏れて、ぬるついた体液でいっぱいの直腸が僕の陰茎を締め付け、精液を搾り取るようにびくびく動いている。
生殺しだ。早く動きたい。先輩の中に射精したい。思考がそれ一つだけになる。
「あぅっ♡♡ ……アユくん、俺、だめだね、俺ばっか気持ち良くって、お腹きゅんきゅんしてて、アユくん、つらいよな♡ おちんちん、もっと気持ち良くなりたいよな♡ ごめんな♡ 俺がおかしいから♡ ずっとイってるから♡ おなか、ずっとしあわせなの♡ 動けないの♡ だからさ、アユくんの♡ 好きに動いていいから♡ ……俺のこと、好きにして♡」
両手を伸ばし、先輩の腰を掴む。薬指と小指が柔らかい肉に沈む。腰が跳ねるように動き、ベッドのスプリングがぎしぎし軋む。先輩が僕の肩に腕を回し、鼻声交じりに快楽に喘ぐ。
「うっ♡ ああ゙っ♡ アユくん♡ アユくん♡♡ ごめんなぁ゙っ♡♡ おれ、サキュバスなのに♡♡ ごほーしできない♡♡ あ゙っ♡♡ アユ゙くっ、アユくん゙っ♡♡ だいすき♡♡ すきぃっ♡♡ アユくん♡♡ すきなのぉ゙っ♡♡ あ゙あっ♡♡ ア゙ユぐっ゙、すきぃっ♡♡ ア゙ユくぅ゙っ、アユくんっ♡♡♡♡」
射精までそう時間はかからなかった。先輩はびくんびくんと腿の内側を痙攣させながら、ぐりぐりと腰にお尻を押し付けてくる。萎えかけた陰茎がきゅうきゅう締め付けられて痛い。僕は手を挙げた。
「すみませんこれ以上はもう一滴も出ません死んじゃいます」
「ふーっ♡ ふーっ♡ ……そうぉ? そっか」
逃げるように腰を引き、愚息はなんとか先輩の中から脱出した。
「最近、睾丸のほうが働きづめだったので、情けない話ですが、正直無理です。ごめんなさい。……手とかなら貸せますので出来ることならそちらで、勘弁してください」
「……俺のせいでね。ふふっ」
先輩はようやく顔を見せてくれた。余程シーツに顔を押し付けていたのだろう、目元が赤くなっていた。どれだけ泣き喚こうが先輩は美しい。今度はちゃんと顔を見て、先輩が満足するまで付き合いたい。
「また次がいつ出来るかはわかりませんが。またしましょう」
「そうだね」
顔から出た水で濡れたシーツを枕に、先輩がベッドに倒れ込む。ふわふわの髪が天使みたいに広がっている。
「先輩、じゃないや幸一さん、恋人がするみたいにセックスしたいって言ってましたけど、僕たち恋人ってことになるんでしょうか」
先輩は大きく目を見開いた。綺麗な濃いピンク色の目だ。
「俺、アユくんの恋人なんだ?」
「そう、なりますね。先……幸一さんさえ良ければ」
「良いに決まってるだろ? そっかぁ、俺、恋人なんだぁ♡ エッチしちゃったもんなぁ、アユくんと、そっかぁ、恋人……」
浸るように目線をベッドのシーツに落とし、先輩は鼻をすすりながら話す。
「俺ね、ずっとさ、俺ばっかりハネダくんのこと好きで、一方的なんじゃないかって、サキュバスがアユくんのとこに出てってからずっと不安で、俺……」
「僕だって先輩が好きです。じゃなきゃあのサキュバスを抱いてませんし、先輩に、こんな、みっともなく縋りません。僕、そんなに器用な性質ではないので、好きな人しか抱けないです。そこまで、割り切れないから」
「あっ、はは。それなら、アユムくん、結構浮気なんだ♡」
「い、いいじゃないですか。結果的にはあのサキュバスと先輩は同じだったんだから……」
「ん、ふふ、ごめんな意地悪言って。俺が俺でよかったんだ。他の奴に取られたら普通に殺してたよ」
「殺し、って、誰をですか」
「相手に決まってるだろ。アユくんなわけないじゃん」
いきなり倫理が違う言葉が、先輩の口から飛び出た。浅香先輩はサキュバス、魔物だ。僕は化け物に魅入られて、好きになってしまった。でもそれでいい。自分が先輩の倫理規制になればいい。一生一緒にいれば、きっと先輩が化け物じみた脅しを実行する機会は訪れない。……ただの軽口なら、それが一番いい。
「先輩、これからは殺さないでくださいね」
「うん。わかってる」
先輩と目が合う。ピンク色の目、先輩の腹の奥の熱が引いて行く。サキュバスのアサガといつも大学で会う先輩の境界が融け合っていくのを感じる。普段の、昼ごはんを一緒に食べてる時とかの先輩の目の色、あの日先輩に渡した花束の中のスイートピーみたいだと思ったけど。今は全然違う色だ。
「先輩の目、百日紅の色に似てます」
「なぁに、それ」
「夏に咲く花です。木の表面がつるつるしてるから、サルスベリ」
「へえ。もう枯れちゃってるかな」
「夏から秋にかけて咲くので、まだ枯れてないと思いますよ。漢字でヒャクニチコウって書くんです。百日――それくらい長い間咲くんです。……枯れてたとしても、来年また見れますよ」
「俺、百日紅の花って、言われないとわかんないよ」
「僕が教えます」
「教えても覚えないからな」
「……」
先輩は嬉しそうに僕を見ていた。毎回言うのは嫌になるかもしれないが、先輩の笑顔を見たらなんでもべらべら喋ってしまうかもしれない。
「先輩」
「実はさ、俺、大学生じゃないんだ。だから先輩でもない」
「えっ」
「もぐりなんだ」
もぐり。つまり先輩は正式な大学生じゃない。どおりで色んな授業で目撃情報があるわけで。なるほど、神話にもなるはずだ。
「だから先輩って呼ばないで。幸一って呼んでよ。学校でも、どこでも。とっさの時にも呼べるように、なぁ?」
「……努力します」
このままでは先輩といくらでも話が出来てしまう。そろそろ眠らないと。本当に眠い。
「しばらくセックスはしたくないです。先輩には申し訳ないんですが」
「そっか」
僕の睾丸は過剰労働を訴えていた。もともとあまり働いていない期間だったものが、このところ一週間くらい連続稼働していた。今日も無理やり奮い立たせたようなものだ。鍛えていない部位にしてはよく頑張っている。これから先輩と付き合うには鍛えたほうがいいのかもしれないけど、……正直なところあまり欲に振り回された自分は見たくない。今日先輩に縋りついたことを恥としても。恋愛は恥を掻き捨てていくものなのだろうか。それなら、がんばらなきゃ。
「すみません、おやすみなさい」
「おやすみ、ハネダくん」
次の日の朝、僕は目覚めても隣に先輩がいることに幸せを覚えた。
起こさないように慎重に跨ぎ、脱ぎ捨てていた寝間着を洗濯機の中に放り投げ、先輩の寝顔を見ながら朝の仕度を整えた。
ふわふわした真珠色の髪がベッドの端から垂れかかっている。バラ色の頬が髪と掛け布団の間から覗く。カーテンを開くと、朝の陽射しに薄っすらと瞼を開く。
先輩は起き上がり、猫のように背を屈めて体を伸ばす。顔を上げ、髪の間からこちらを見る。静かなピンク色の目、大理石の彫像のような微笑。
「おはよ」
「おはようございます」
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