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一月・寒いと炎が欲しくなる
1/15(木) 恵方巻とありがちな下ネタ
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買い物帰り、少し道を変えてコンビニの前を通りがかった。
「巻方恵、中予約受付」
A4の紙に一文字か二文字ずつ、窓ガラスに貼られた文字を読み上げる。恵方巻の予約を広告する張り紙を、このコンビニは明らかに張り間違えていた。
「節分だろ」
そういやそんなもの聞いたな。半年ぐらい前に借りた日本の伝統料理の本で読んだ記憶を掘り起こす。しかし吸血鬼は半年前に読んだ本のことなどほとんど覚えちゃいなかった。
「こういう感じで。鬼は外! って。縁起の悪いものを祓うために豆を撒くんだって」
「一緒に暮らそうって言ったのそっちなのに、俺に豆を蒔くのか?」
「物の例えだよ」
吸血鬼はダル絡みをしたい気分になった。生きて生活をしていれば、誰だって心を許した人間に対しそういう気分になる日が来る。少々大げさな言い方ではあるが、少なくとも吸血鬼はそういう傾向にある生物だった。
「俺も縁起物じゃないのに。家に置いておいていいのか?」
「地球にとって人間は環境に悪い、みたいな話だろ、それは。やめよう。拗ねるなよ」
「拗ねてない」
「君のためにイワシの頭とヒイラギは飾っておかないことにするよ」
「変な宗教だな」
「クリスマスのときだって飾ってたよ」
「イワシってか魚の頭が付くとなぁ……一気におかしくなるんだ。何もかもが」
吸血鬼はスターゲイジーパイを連想していた。魚の顔が星を見上げて刺さっている、奇妙なパイだ。
「他には? そういう奇妙な風習。まだあるんだろ? 二度あることは三度あるって言うし」
「そういう意味じゃないけどな。豆まきの特殊ルールだけど、ワタナベって苗字の人は、豆を撒かなくていいんだって。ずっと昔、平安時代に鬼を退治した人たちの子孫で、今でも鬼は名前を怖れているからって」
「本当に殺しにかかる鬼は苗字なんか構いやしないもんな」
二人は半年ほど前に行われた結婚式のことを思い出していた。あのときの鬼はやけっぱちで、招待客の名前なんて気にしていないように見えた。毛並みも肌も、骨格に到るまで全身くまなくボロボロだったし、切羽詰まって極限まで判断力が削がれていたら殺す相手の名前なんて覚えちゃいられないだろう。自分も同じ状況になったことがあるからよくわかる、と吸血鬼はもういない相手に対しうんうん頷いていた。
「そうだ。恵方巻は何に使う?」
「普通の太巻きだよ。寿司は知ってるよね」
「それは知ってる。なめるな。恵方とはなんだって聞いている」
「恵方って、その年のいい方角を向いて、喋らずに太巻きを食べるんだ」
「へえそうか。チンポか」
「違うよ。なんで君はそう下ネタを言うのに躊躇いがないんだ」
「ちょっとさァ……言わずには居れなかったっていうかァ……」
頬を赤く染めたのは外が寒かったからではない。言ったほうが恥ずかしがっていては世話がない。狩人は呆れていた。恥ずかしがるくらいなら言わないでくれ。
「太巻きって言ったら、あれだろう。あの、よく輪切りになってるやつ。お前のはあれくらいは無かったな。太巻き程はなぁ。ラスプーチンくらいだぞそんなにあるのは」
「まだその話続けるの!? ……咥えられるくらいの太さなら、そんなに太くは無いんじゃない? それこそ……いや……やめよう……」
「お前の息子くらいだってェ!?」
「やめようよこの話は……」
彼の話に乗った自分が馬鹿だった。狩人は自分の話のセンスの無さににひどく後悔した。吸血鬼が自分も恥ずかしがっておきながら相手が恥ずかしがるとつけ上がるタイプなのも悪かった。相手が悪かった。下半身に関する世間話では敵いそうもない。
「巻方恵、中予約受付」
A4の紙に一文字か二文字ずつ、窓ガラスに貼られた文字を読み上げる。恵方巻の予約を広告する張り紙を、このコンビニは明らかに張り間違えていた。
「節分だろ」
そういやそんなもの聞いたな。半年ぐらい前に借りた日本の伝統料理の本で読んだ記憶を掘り起こす。しかし吸血鬼は半年前に読んだ本のことなどほとんど覚えちゃいなかった。
「こういう感じで。鬼は外! って。縁起の悪いものを祓うために豆を撒くんだって」
「一緒に暮らそうって言ったのそっちなのに、俺に豆を蒔くのか?」
「物の例えだよ」
吸血鬼はダル絡みをしたい気分になった。生きて生活をしていれば、誰だって心を許した人間に対しそういう気分になる日が来る。少々大げさな言い方ではあるが、少なくとも吸血鬼はそういう傾向にある生物だった。
「俺も縁起物じゃないのに。家に置いておいていいのか?」
「地球にとって人間は環境に悪い、みたいな話だろ、それは。やめよう。拗ねるなよ」
「拗ねてない」
「君のためにイワシの頭とヒイラギは飾っておかないことにするよ」
「変な宗教だな」
「クリスマスのときだって飾ってたよ」
「イワシってか魚の頭が付くとなぁ……一気におかしくなるんだ。何もかもが」
吸血鬼はスターゲイジーパイを連想していた。魚の顔が星を見上げて刺さっている、奇妙なパイだ。
「他には? そういう奇妙な風習。まだあるんだろ? 二度あることは三度あるって言うし」
「そういう意味じゃないけどな。豆まきの特殊ルールだけど、ワタナベって苗字の人は、豆を撒かなくていいんだって。ずっと昔、平安時代に鬼を退治した人たちの子孫で、今でも鬼は名前を怖れているからって」
「本当に殺しにかかる鬼は苗字なんか構いやしないもんな」
二人は半年ほど前に行われた結婚式のことを思い出していた。あのときの鬼はやけっぱちで、招待客の名前なんて気にしていないように見えた。毛並みも肌も、骨格に到るまで全身くまなくボロボロだったし、切羽詰まって極限まで判断力が削がれていたら殺す相手の名前なんて覚えちゃいられないだろう。自分も同じ状況になったことがあるからよくわかる、と吸血鬼はもういない相手に対しうんうん頷いていた。
「そうだ。恵方巻は何に使う?」
「普通の太巻きだよ。寿司は知ってるよね」
「それは知ってる。なめるな。恵方とはなんだって聞いている」
「恵方って、その年のいい方角を向いて、喋らずに太巻きを食べるんだ」
「へえそうか。チンポか」
「違うよ。なんで君はそう下ネタを言うのに躊躇いがないんだ」
「ちょっとさァ……言わずには居れなかったっていうかァ……」
頬を赤く染めたのは外が寒かったからではない。言ったほうが恥ずかしがっていては世話がない。狩人は呆れていた。恥ずかしがるくらいなら言わないでくれ。
「太巻きって言ったら、あれだろう。あの、よく輪切りになってるやつ。お前のはあれくらいは無かったな。太巻き程はなぁ。ラスプーチンくらいだぞそんなにあるのは」
「まだその話続けるの!? ……咥えられるくらいの太さなら、そんなに太くは無いんじゃない? それこそ……いや……やめよう……」
「お前の息子くらいだってェ!?」
「やめようよこの話は……」
彼の話に乗った自分が馬鹿だった。狩人は自分の話のセンスの無さににひどく後悔した。吸血鬼が自分も恥ずかしがっておきながら相手が恥ずかしがるとつけ上がるタイプなのも悪かった。相手が悪かった。下半身に関する世間話では敵いそうもない。
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