性欲至上主義

第九発

　僕には確かに性欲はある。しかしそれを好きな相手が喜んで受け入れてくれない限り、それは機能しない。そして今は残念ながらそういう状況は望めない。世の女性たちにとっては僕なんかおととい来やがれだとは思いますが、僕にとっては元妻以外は相手として不足なわけです。そしてその元妻はそんな僕の性欲こそ鬱陶しくて、会いたくない理由になる。たとえどんな状況でも僕は元妻と二人になれば「やろうよ」と言い続けると思います。けれど元妻からすれば、それが「やれる女」として見られている感（実際僕とやりたい女なんていないだろうからその通りなんですが）であったりこれまでの経緯への当てつけであったり、素直に応じられない。なんだかんだ言い訳して断るセックスが、また会いたくない理由になる。僕の事は好きなんだと思います。僕は相手が苦痛だったりするとダメなのでそこは敏感です。だから少なくとも苦痛ではないと思う。
　彼女は否定するけど「僕のせいでこんなに大変なわたしを気遣うのは当たり前で、僕のしたいようになんかさせない、って気持ちが根底にあり、セックスはぶら下げる人参だ。
　彼女は自分の性を売り物にするのは嫌だみたいな事を言うけど、同じことを僕にする権利はあると考えて、いや、無意識に思っている。僕はそれに振り回される。
　あまりにやらせてくれないからいつか僕は彼女に「浮気しても良い？」と聞いた。「何馬鹿な事言ってんの」と一蹴されたけど、その返答にすべてが込められていた。
「あんたにそんな権利はないし、あんたなんか相手にするのはわたしくらい」
　恋を捨てるんだ。　
　性欲に突き動かされるんだ。
　どうでも良い女の身体に欲情してみろ。
　順番が変わるかもしれない。
　やってしまった責任感。
　受け入れてくれる便利さ。
　それらが今を上書きする恋の始まりになるかもしれない。
　取り乱すのはベッドだけ。
　淡々と、あーそーですか。
　僕はそれでも全部をぶつけた。
　都合良い解釈と正当化。
　僕がこう言ってたから、とか。
　終わりだ。
　僕は性欲が強いんだ。たぶん。
　強さは武器だ。数撃ちゃ当たるさ。
　元妻の事は知らない。
　その方が彼女も焦って前に進むだろうし。
　キープされるのはうんざりだ。
　僕が性的に満たされて対等な立場で会った時、彼女はどう思うのか。
　その時悔やむなら悔やめば良い。僕はきっと後戻りはしないから。彼女を不幸にしたと思ってて、それが心残りだった。よく考えたら子供を４人も授けた。彼女はそれを生きがいにして、僕なんか要らない。
　良かった。それで。
　僕は性欲を取り戻すべく、冒険旅行に出かけるんだ。