死ぬ命

転

大滑落 大活躍は スマートフォン

　　転げ落ちるその様を。もう意識は無いだろうから、彼が見たかもしれない景色を。遺品のスマートフォンに残された動画は収めていた。いつだかそれを見た事がある。その時は「馬鹿なやつ」とか、所謂動画配信者の無茶苦茶な行動に眉を顰める世相に無自覚に迎合した印象を持った気がする。
　富士の軽装登山。外国人や一部の「常識」を持ち合わせない、或は軽んじた者たちの末路として、夕方のテレビニュースで注意喚起やら迷惑行為の指弾やらと、頻りに報じられ、すぐに忘れられた。

　馬鹿らしい。
　
　確かにそうとも思った。実状はそうした人たちに食わせて貰ってるんじゃないか？動画配信サイトの加熱に配信者たち以外の背景的な原因は無いのか？それらはあなたたち「世間様」の責任では無いのか？漠然と、そんな風に思った。

　僕は近所の里山を軽装でほっつきまわり、軽い滑落は日常茶飯事だから、「馬鹿だなあ」と思う反面、無駄な装備が如何に体力を奪うかを知っている。しかし観光資源であるなら遭難者の救護はどんな理由があろうとも義務ではないかとも考える。
自己責任で死んだ人間にまで鞭打つのは下衆極まりない集団心理に堕するみたくて嫌だ。

　おまえらが殺したんだよ。

　それでもやっぱり「馬鹿だなあ」と思った。死んでやるこたなかったよ。死ぬつもりなんて、なかっただろうけど。

　能天気な観光登山者は来るなと言うか、渋々でも受け入れるなら招いた側が助けてやれば良い。もちろん迷惑料はしっかり取って。そういう商売もある、ってよりは、商業とはそういうもんだ。だから僕はそいつを憎む。けれど、とんまな動画配信者はどうだ？金にしろ承認欲求にせよ、彼を駆り立てたのは世間であり、あなただ。太宰が言った様に世間はあなただ。ならば馬鹿だと良く言えた。その無茶な登山をもし彼が成し得たのなら喝采したのだろうか？
　そうではないよ、と言うだろう。ほんとうかい？無知性、無批評にマスを受け入れさも自分の考えみたいに振舞う。餌無しに何も考えられないのだろうか？そんな世間を相手にしか食い扶持稼げないなら皆狂うさ。
結果に対する批判だけ。その失敗の誘導に与してる事実を認めず責任逃れ。「サイコパス」とか、自分はそうではないと差別用語を繰り出す。

　生まれついては皆同じ。

　そんな事も思い出せない流され屋さんの集合体。そいつが「世間」だ。そんな奴らがちゃんと生きない免罪符として繰り出す「それ見た事か」。見てないで、ちゃんと生きろ。少なくともかの動画配信者は、君たちよりちゃんと生きて、死んだ。