えのきたけ

第１０話

　帰りの車中、僕らは無言だった。
　紫明のあの、忌まわしい予言。
　僕らの恋は叶わない。
　いや、僕は信じないぞ。
　絶対変だ。
　ノストラダムスの大予言だってハズレたじゃないか？
　テレビでやってる星がどうこうなんてのも、単なる人生相談だ。
　運命も占いも予言も宗教も陰謀論も、科学ですら僕は信じない。
　目の前の出来事と自分の経験。
　それ以外は全部迷信みたいなもんだ。
　そうやって僕は生きていた。
　もちろん誰が何を信じようと構わない。
　なんでも好きになってりゃ良い。
　けど、自分の事は、自分で決める。
　自分自身がアテになるんだ。
　邪魔すんなボケ！
　あんな世迷い言、単なる人生の敗北者の妄想だ。
　毎夜紫明は酒に酔い、自分に酔ってあそこで妄想パーティーを繰り広げてるんだろう。
　ああ、薄気味悪い店。
　薄気味悪いやつ。
　せっかく良いとこで良いキャンプだったのに、紫明のせいで台無しじゃないか。
　沸々と怒りがこみ上げた。
　きっと松さんだって、わかったふうを装おってはいたけど同じ気持ちだろう。
　ね？松さん…

　やっとわたしいにい　きたーチャンスー
　のーがーさーなーいーわー

　松さんに着信。
「あ、ドリくん！元気？おひさー。……。うん、……。うん。そうかあ。残念だけど、元気でね。うん。それじゃ」
「ドリくん、お父さんとナイジェリア帰って、未開部族の研究の為に潜入して、そこで猛獣と闘って酋長目指してより良い人間の生き方を追っかけるんだって。デカマラを活かして成り上がってやる！って張り切ってたわ。うふ、ドリくんらしい。」
　えええ
　うふ、じゃない。
「松さん、結布ちゃんとこ、直行して！レンタカーは返しといて。ごめんよ、後で埋め合わせするから。今すぐ会いたい、いや、会わなきゃダメなんだ。」
「もしもし、結布ちゃん？２時間後、君んちの近くの松屋で。緊急なんだ。どしても来てくれ。電話でごめんよ、ずっと好きだった。話は会ってから。それじゃ！」
　一方的に切る。
　なんだか結布ちゃんのテンションも低い。
「わかったわ」
　松さんの口元に、何故か笑みを感じた。
　嫌な予感。