今更、日常に戻れる気がしない

葉室ゆうか

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非日常を噛みしめる

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そこに、いつから居たのだろう妖艶さを身に纏う女が立っていた。
その髪は柔らかな茶色の色合いで、『翠』の瞳には熱が灯っていた。


「このこうなんてどんだけナメてるんだか。ねえ、?」


睦月はコテンと小首を傾げた。

「お姉さん、ダレ?」

すると、『彼女』は色っぽい仕草で朱の唇に人差し指を乗せる様にして片手で口元を覆う。
蕩ける様な眼差しを一つ寄越して。

「──────多少ナリが変わったくらいで師匠を忘れるなんて」

くるりと天地が入れ替わる。

「薄情な、弟子、よねぇ」

物凄いのドアップに目を見張ると、は有無を言わさず唇を奪われた。

「フングググんググッん───────っ⁉︎」

ラン、と底光りする目は捕食者のそれで。何かを啜る様な音までしだして漸く周りが我に返った。主に『火蜥蜴』が。

「お、おい姐さん…その坊主を放してやってくれないか。アンタみたいな別嬪べっぴんの相手には十年程早いんだよ」

ちゅ、と啜りきるリップ音を立てて、流し目がグレンに突き刺さった。

「…煩いわねーこの子にちょっと来て上げただけなのにさ。ワケ?

その言い草に、大男が思わずよろけた。






「理を曲げよ界渡りッ‼︎─────────全方位防御イージス!」





バン!───────ボンッ‼︎────────バシュッウウウウウウゥ…




地面にそっと置かれていた睦月は余裕をかなぐり捨てて鉄壁の陣を敷く。

土精霊ノームゥ!土塁テッラベース創造クリエイト‼︎」

ごがががあががががああっ!

派手な土埃を上げてC使高度な魔法が次々と展開されていく。
実はコレが他の冒険者と組めない睦月の『理由』なのだと、周囲には知る術も無い。

「虚空を走れ螺旋階段スパイラルステルケースぐええええ─────何故、────────っ⁉︎」

美女はスパン、と強大な魔力の流れを断ち切り、更に通りの遥か先に見える土階段を駆け上がろうとする睦月の足首を片手でしっかりと捕らえていた。

「『如何なる時も頭の隅に冷静な自分を置いておけ』。そう『俺は』教えておいた筈だが?」
「イヤアアアアア、あんた手段選ばなさ過ぎなんじゃああああああ!」


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