今更、日常に戻れる気がしない

葉室ゆうか

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今更、惚れたとか手遅れな気がする❺

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定番のイジメ、と言ったら無視とかであるが、元々陰キャの睦月は一日中誰とも話さなくても平気だ。
用のある時と気が向いた時の弄り以外は声を掛けていなかったのでその手は当然使えなかった。

そして部活も入っていない為、上級生に手を回してどうにかする事も難しい。

ならばコソコソと悪口を言い、クスクス笑いで精神的に削ろうとすれば、、むしろ煩い、と周りから非難される有様。

そんなこんなの西の失敗で四人の苛々は頂点に達していた。

「ああ~もう、何だってんのよぉ~」
と、リーダー格の市原光希。

「芽衣子、足、引っ掛けてみるって言ってなかった?」
と、参謀タイプの御手洗みたらい幸子。

「サチ、見てなかったの?西やん、わざわざ立ち止まって、制服のスカート摘み上げながら笑顔でこっちの脚、跨いでたじゃん」
と、《鼻血プー》と陰で呼ばれ始めたリア充らしからぬ天然の養殖、花園芽衣子。

「いちおー、ウチの彼ぴにも頼んでみよか?ワルい先輩達にもカオ利くよ?オシオキ大好きらしいし」
と、彼氏が悪い仲間で幅を利かせている事がステータスの遠藤麻由里が提案する。

「まあ、それもアリだけど~自分らで一発カマさないと収まりつかないわ~」
「ぎゃー光希~好戦的ぃ(笑)やんの?泣くまでやんの?とことんやるとワイドショーのネタになるんじゃない?」
「いやー無いっしょ?あんなん報道されるのって全体のほんの僅かだって!基本は《泣き寝入り》よ~。中々丈夫なんだからニンゲン」
「やめて~あくまでもイジリだから~。カーストの底辺で基本、笑いを取るだけだから~!」

そう、やるのは《弄り》であって、《虐め》では無い。
スクールカーストの立場を徹底するだけだ。
そして、自分達は頂点に位置するのだと信じて疑わなかった。

気が付かない。
睦月が角を曲がった所で笑い転げている。
既に体表には《音質屈折ベルカーブ》を巡らせ、悪意に反応する様に条件付けていたし、半径3mで《周辺探知ウェブソナーを常時展開していた。

それは元勇者だった睦月には造作もない事だった。

「良く定番をカマしてくれるよねー。笑かすぅ。まー予測が付けやすくて助かるけどさー。ンーそろそろ便所水でも来るかなー」

フンフン、と歌いながら背後の気配に目を走らせる。都合良く後ろから彼女らより上位の人気女子が小走りで追い抜いた。
瞬時に『陽炎【示せ蜃気楼スクリーン』と小声で囁き、己の姿を彼女に被せる様に投影した。
同じく姿、澄ました顔で歩いていく。
勿論、トイレに《目》を飛ばす事を忘れたりはしない。

案の定、ホースで個室内へ放水してやらかす四人。けたたましく一頻り笑っていたが、鍵を開けて半ベソかきながら出てきたのが学年アイドル的な扱いを受けている古暮夕子であると時の狼狽した様子が何とも滑稽であった。

「ひゃああん、ナニすんのうミッキーぃいいい」
「え?あ、は?何で⁈ユッコ?」
「『何で?』も何もないよー!やだーイジメられた~水掛けられたービショビショじゃーん」

泣きながら出て行こうとする彼女に慌ててハンカチを差し出すが、元よりソレでどうにかなるレベルでは無い。
ペシン!と小気味良く叩いて跳ね返され、美少女が泣きながら頭から水を被ってトイレから出て行く様を四人は呆然と見送るだけだ。

残るのはひたすら居心地の悪い思いと空気だけ。

元勇者は《目》をトイレの小窓から回収して、それをどうにかしてポラに焼き付けた。
そしてしっかりと封をした。

ポストに投函した時に夕陽がその顔を照らしていた。

実に爽やかな笑顔であった。
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