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今更、惚れたとか手遅れな気がする❸
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❸
「え?《二度と》って、何で《繋いだ》事を知ってんだ?」
「…呆れるな。単数に済まない数のS級達を《帰還の儀》の足止めに使わされたというのにお前の動向が気に留められていないとでも思っているのか?」
「うえ…っ、よーく見たら軌道にマーカーが付いてる!ムツキに仕込んだから通った轍に仕掛けたのか?」
「S級達に気を取られ過ぎたな」
ディグノは見るからに重そうな自らの剣を軽く振ると、剣自体が囁く様に歌い始め、紫電を帯び始めた。
「なあ。────確かに俺は初手を間違えた。だがな、それは俺だけの事じゃないだろう?」
「…何?」
「あんたの評判は聞いたよ。《気さくな騎士団長様》は自分に群がる平民と貴族の女をあっという間に同僚や部下に振り分けてしまうとな。周りの男達からはキューピットとか揶揄られながら重宝されているとか。
だから、不思議に思っていた。何故あんたに俺の手口が分かったのか」
気が膨れ上がっているのが分かる筈なのに、沈鬱な雰囲気でバルサロッサは剣を握り締めている。
「言うな」
「言うさ。あんたも俺と同じ穴のムジナだったんだろ?ただ、違うのは先に惚れたのがムツキじゃなかった、ってこった」
「…黙れ」
「アイツの心の支えになってやれ、とでも上から言われたんだろ?じゃあ、何であっさりと俺にその座を明け渡した?
アイツはまるっきり他人のこの世界の人間を見捨てられなかった。見捨てりゃ良かったのによ、赤の他人の事なんて。
《役目を果たさず、帰して貰えなくなっては困る》とか言っていたけどよ。一人二人術士を引き込めば、勇者自身の力でどうにか出来ない訳じゃ無かった。座標なんか、脅して奪えばいいじゃねぇの。バカでアホで可愛くて、手放せなくなんの、仕方なくね?」
最初は中々、己の才を発揮出来ない苛立ちだったものが、負傷兵の伝令に耳をそばだてる様になり、力があるのに人を救えぬ己へのジレンマに取って代わるのに時間はそうかからなかった。
『バルさん、私の勇者の術属性の中で突出しているものはありませんかね?後、スキルの開花状況や能力値とか視認出来る方法とか?』
『ムツキ様、太古の勇者の記録は王立図書館でも半分も残っておらぬのですよ。
故に《雑音》はお気になさらず。貴女様は唯一無二の私共の希望。無理を強いた所で歪みが出ては全てが無に還ると思し召せ。大丈夫、いざとなればこのバルサロッサが御身の前に立ち、露払いを致しましょう。大船に乗った気持ちでおられると良い』
戯けて頭を撫でれば、子供扱いはやめて下さいと言いながら、その手を拒む事は決して無かった。
夜も寝る前の僅かな時間すら、魔力を練る練習をしていた、と侍女が泣きながら報告をしてくる。
誰も。不満なんて言える筈も無かった。
能力が上手く使える様になったとて、それは終わりではない。幾万の将兵の先頭に立ち、社交界にデビューする程の年齢の娘が無理矢理魔物の軍勢と相対しなければならない。
凄まじい恐怖だろう。だが、だが、俺は。俺達には。
貴女様しか、縋る者が無いのだと…。
卑怯にも笑顔の下で叫ぶより術がない。
震える貴女を愛してしまった、などと口が裂けても言えよう筈も無かった。
「え?《二度と》って、何で《繋いだ》事を知ってんだ?」
「…呆れるな。単数に済まない数のS級達を《帰還の儀》の足止めに使わされたというのにお前の動向が気に留められていないとでも思っているのか?」
「うえ…っ、よーく見たら軌道にマーカーが付いてる!ムツキに仕込んだから通った轍に仕掛けたのか?」
「S級達に気を取られ過ぎたな」
ディグノは見るからに重そうな自らの剣を軽く振ると、剣自体が囁く様に歌い始め、紫電を帯び始めた。
「なあ。────確かに俺は初手を間違えた。だがな、それは俺だけの事じゃないだろう?」
「…何?」
「あんたの評判は聞いたよ。《気さくな騎士団長様》は自分に群がる平民と貴族の女をあっという間に同僚や部下に振り分けてしまうとな。周りの男達からはキューピットとか揶揄られながら重宝されているとか。
だから、不思議に思っていた。何故あんたに俺の手口が分かったのか」
気が膨れ上がっているのが分かる筈なのに、沈鬱な雰囲気でバルサロッサは剣を握り締めている。
「言うな」
「言うさ。あんたも俺と同じ穴のムジナだったんだろ?ただ、違うのは先に惚れたのがムツキじゃなかった、ってこった」
「…黙れ」
「アイツの心の支えになってやれ、とでも上から言われたんだろ?じゃあ、何であっさりと俺にその座を明け渡した?
アイツはまるっきり他人のこの世界の人間を見捨てられなかった。見捨てりゃ良かったのによ、赤の他人の事なんて。
《役目を果たさず、帰して貰えなくなっては困る》とか言っていたけどよ。一人二人術士を引き込めば、勇者自身の力でどうにか出来ない訳じゃ無かった。座標なんか、脅して奪えばいいじゃねぇの。バカでアホで可愛くて、手放せなくなんの、仕方なくね?」
最初は中々、己の才を発揮出来ない苛立ちだったものが、負傷兵の伝令に耳をそばだてる様になり、力があるのに人を救えぬ己へのジレンマに取って代わるのに時間はそうかからなかった。
『バルさん、私の勇者の術属性の中で突出しているものはありませんかね?後、スキルの開花状況や能力値とか視認出来る方法とか?』
『ムツキ様、太古の勇者の記録は王立図書館でも半分も残っておらぬのですよ。
故に《雑音》はお気になさらず。貴女様は唯一無二の私共の希望。無理を強いた所で歪みが出ては全てが無に還ると思し召せ。大丈夫、いざとなればこのバルサロッサが御身の前に立ち、露払いを致しましょう。大船に乗った気持ちでおられると良い』
戯けて頭を撫でれば、子供扱いはやめて下さいと言いながら、その手を拒む事は決して無かった。
夜も寝る前の僅かな時間すら、魔力を練る練習をしていた、と侍女が泣きながら報告をしてくる。
誰も。不満なんて言える筈も無かった。
能力が上手く使える様になったとて、それは終わりではない。幾万の将兵の先頭に立ち、社交界にデビューする程の年齢の娘が無理矢理魔物の軍勢と相対しなければならない。
凄まじい恐怖だろう。だが、だが、俺は。俺達には。
貴女様しか、縋る者が無いのだと…。
卑怯にも笑顔の下で叫ぶより術がない。
震える貴女を愛してしまった、などと口が裂けても言えよう筈も無かった。
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