上 下
9 / 31

今更、日常に戻れる気がしない❾

しおりを挟む





「いや、コレは元々力さえあればやってみたかった事の一つなのよ。ショベルカーもクレーンも入れない、そんなトコ災害現場にはザラにあるでしょ?
テレポートに似た力があれば被災者の生存率もグッと上がるし。後、そういう『私』を欲しがる『国』の追跡、交渉なんかも色々夢想してた。中々の陰キャぶりだよ。そこ変わってないよ」
「…ヒーロー気取りか?」
「そうそう、バッタのライダーやらアメコミヒーローとか、超能力者とかカッコいいじゃん。凄く感謝されたり、何でもっと早く来てくれなかったんだ!とか非難されたり、日本人の株をグンと上げたりしてみたかったんだー」

ケラケラと笑うが目の奥が笑っていない妹に葉月は背筋を凍らせた。

「まあ、受験を控えた兄や家族に迷惑掛からない様にするから大丈夫よう」
「そんな問題じゃ!」

睦月は機嫌が悪かった。
自分でも良く原因が分からないと思い込みたかった。
しかし、本当はよーく分かっていたのだ。


「そんな問題だよ」


言外に迷惑を掛けないなら放っておいてくれ、と言っているのだ。
妹を受け入れられないのなら、い放置しろ、と明言したのだ。

自分は。それはもうどうしようもない事実だ。
元々入院に駆けつけてくれた兄だ。心配も勿論あるだろう。だが、心の何処かで簡単に行動の予測のつく元の目立たない性格に戻って欲しいと思っている事が分かってしまった。

分かってしまった。

を避けたかったから、兄には打ち明けたというのに。

「ムツ‼︎」
「私も部屋に行くわ。今夜は…出ないから安心して」

きつい物言いが兄をも傷付けてしまう。
これが私があれ程帰りたかった【日常】。
テレビの中でアナウンサーが語りかけてくる。『謎の少女は今夜も現れるのでしょうか⁉︎』と。










冒険者が良く利用する居酒屋の片隅で、火酒を前に澄んだ水を張った木の深皿をじっと眺めている男が居た。

「…トレイル。何を熱心に追っているんだ?」
「邪魔をするなよ」

割って入った男は邪険に扱われてもまるで気にせず、同席を決め込み同じく日酒を頼んだ。

「ムツキ様か?」
「……」
「図星か。お前、界を跨いでまで追いかけてんの~?道理でガンガン尋常じゃない魔法力が消費されてる気配がする訳だわ」
「俺の勝手だ」

むくつけき大男が色褪せた金髪をガシガシと搔いて火酒を煽った。

「不安につけ込んで依存させて突き放して。その圧倒的な【絶望】で魔を全て滅ぼした悲劇の勇者様にこれ以上何をさせよう、ってんだ」
「────黙れ、《火蜥蜴》」
「グレンと呼べよな。なあ、もうよせよ。ただでさえ彼女を預かってたアーダルベル城の連中の怒りは尋常じゃないんだぜ?
アイツらもお貴族様ながら、自分達が何の縁も所縁も無い、たった16歳の小娘に何を背負わせたのか分かってた。
だからこそ、大事にしていたんだぞ?」
「だが、時間が無くなり俺が外から呼ばれた」

水鏡から魔力固定はそのまま、旧友を一瞥する。

「求められたのは結果だった。俺は後悔はしていない。…ただ、あの瞬間まで一目惚れしていた事に気付かなかったのは我ながら間抜けだったとしか言いようがないな」
「………はあッ⁉︎」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...