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今更、日常に戻れる気がしない❾
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❾
「いや、コレは元々力さえあればやってみたかった事の一つなのよ。ショベルカーもクレーンも入れない、そんなトコ災害現場にはザラにあるでしょ?
テレポートに似た力があれば被災者の生存率もグッと上がるし。後、そういう『私』を欲しがる『国』の追跡、交渉なんかも色々夢想してた。中々の陰キャぶりだよ。そこ変わってないよ」
「…ヒーロー気取りか?」
「そうそう、バッタのライダーやらアメコミヒーローとか、超能力者とかカッコいいじゃん。凄く感謝されたり、何でもっと早く来てくれなかったんだ!とか非難されたり、日本人の株をグンと上げたりしてみたかったんだー」
ケラケラと笑うが目の奥が笑っていない妹に葉月は背筋を凍らせた。
「まあ、受験を控えた兄や家族に迷惑掛からない様にするから大丈夫よう」
「そんな問題じゃ!」
睦月は機嫌が悪かった。
自分でも良く原因が分からないと思い込みたかった。
しかし、本当はよーく分かっていたのだ。
「そんな問題だよ」
言外に迷惑を掛けないなら放っておいてくれ、と言っているのだ。
変わってしまった妹を受け入れられないのなら、い今まで通り放置しろ、と明言したのだ。
自分は変わってしまった。それはもうどうしようもない事実だ。
元々入院に駆けつけてくれた兄だ。心配も勿論あるだろう。だが、心の何処かで簡単に行動の予測のつく元の目立たない性格に戻って欲しいと思っている事が分かってしまった。
分かってしまった。
これを避けたかったから、兄には打ち明けたというのに。
「ムツ‼︎」
「私も部屋に行くわ。今夜は…出ないから安心して」
きつい物言いが兄をも傷付けてしまう。
これが私があれ程帰りたかった【日常】。
テレビの中でアナウンサーが語りかけてくる。『謎の少女は今夜も現れるのでしょうか⁉︎』と。
冒険者が良く利用する居酒屋の片隅で、火酒を前に澄んだ水を張った木の深皿をじっと眺めている男が居た。
「…トレイル。何を熱心に追っているんだ?」
「邪魔をするなよ」
割って入った男は邪険に扱われてもまるで気にせず、同席を決め込み同じく日酒を頼んだ。
「ムツキ様か?」
「……」
「図星か。お前、界を跨いでまで追いかけてんの~?道理でガンガン尋常じゃない魔法力が消費されてる気配がする訳だわ」
「俺の勝手だ」
むくつけき大男が色褪せた金髪をガシガシと搔いて火酒を煽った。
「不安につけ込んで依存させて突き放して。その圧倒的な【絶望】で魔を全て滅ぼした悲劇の勇者様にこれ以上何をさせよう、ってんだ」
「────黙れ、《火蜥蜴》」
「グレンと呼べよな。なあ、もうよせよ。ただでさえ彼女を預かってたアーダルベル城の連中の怒りは尋常じゃないんだぜ?
アイツらもお貴族様ながら、自分達が何の縁も所縁も無い、たった16歳の小娘に何を背負わせたのか分かってた。
だからこそ、大事にしていたんだぞ?」
「だが、だからこそ時間が無くなり俺が外から呼ばれた」
水鏡から魔力固定はそのまま、旧友を一瞥する。
「求められたのは結果だった。俺は後悔はしていない。…ただ、あの瞬間まで一目惚れしていた事に気付かなかったのは我ながら間抜けだったとしか言いようがないな」
「………はあッ⁉︎」
「いや、コレは元々力さえあればやってみたかった事の一つなのよ。ショベルカーもクレーンも入れない、そんなトコ災害現場にはザラにあるでしょ?
テレポートに似た力があれば被災者の生存率もグッと上がるし。後、そういう『私』を欲しがる『国』の追跡、交渉なんかも色々夢想してた。中々の陰キャぶりだよ。そこ変わってないよ」
「…ヒーロー気取りか?」
「そうそう、バッタのライダーやらアメコミヒーローとか、超能力者とかカッコいいじゃん。凄く感謝されたり、何でもっと早く来てくれなかったんだ!とか非難されたり、日本人の株をグンと上げたりしてみたかったんだー」
ケラケラと笑うが目の奥が笑っていない妹に葉月は背筋を凍らせた。
「まあ、受験を控えた兄や家族に迷惑掛からない様にするから大丈夫よう」
「そんな問題じゃ!」
睦月は機嫌が悪かった。
自分でも良く原因が分からないと思い込みたかった。
しかし、本当はよーく分かっていたのだ。
「そんな問題だよ」
言外に迷惑を掛けないなら放っておいてくれ、と言っているのだ。
変わってしまった妹を受け入れられないのなら、い今まで通り放置しろ、と明言したのだ。
自分は変わってしまった。それはもうどうしようもない事実だ。
元々入院に駆けつけてくれた兄だ。心配も勿論あるだろう。だが、心の何処かで簡単に行動の予測のつく元の目立たない性格に戻って欲しいと思っている事が分かってしまった。
分かってしまった。
これを避けたかったから、兄には打ち明けたというのに。
「ムツ‼︎」
「私も部屋に行くわ。今夜は…出ないから安心して」
きつい物言いが兄をも傷付けてしまう。
これが私があれ程帰りたかった【日常】。
テレビの中でアナウンサーが語りかけてくる。『謎の少女は今夜も現れるのでしょうか⁉︎』と。
冒険者が良く利用する居酒屋の片隅で、火酒を前に澄んだ水を張った木の深皿をじっと眺めている男が居た。
「…トレイル。何を熱心に追っているんだ?」
「邪魔をするなよ」
割って入った男は邪険に扱われてもまるで気にせず、同席を決め込み同じく日酒を頼んだ。
「ムツキ様か?」
「……」
「図星か。お前、界を跨いでまで追いかけてんの~?道理でガンガン尋常じゃない魔法力が消費されてる気配がする訳だわ」
「俺の勝手だ」
むくつけき大男が色褪せた金髪をガシガシと搔いて火酒を煽った。
「不安につけ込んで依存させて突き放して。その圧倒的な【絶望】で魔を全て滅ぼした悲劇の勇者様にこれ以上何をさせよう、ってんだ」
「────黙れ、《火蜥蜴》」
「グレンと呼べよな。なあ、もうよせよ。ただでさえ彼女を預かってたアーダルベル城の連中の怒りは尋常じゃないんだぜ?
アイツらもお貴族様ながら、自分達が何の縁も所縁も無い、たった16歳の小娘に何を背負わせたのか分かってた。
だからこそ、大事にしていたんだぞ?」
「だが、だからこそ時間が無くなり俺が外から呼ばれた」
水鏡から魔力固定はそのまま、旧友を一瞥する。
「求められたのは結果だった。俺は後悔はしていない。…ただ、あの瞬間まで一目惚れしていた事に気付かなかったのは我ながら間抜けだったとしか言いようがないな」
「………はあッ⁉︎」
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