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今更、日常に戻れる気がしない❺
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❺
「五…年だと?」
「うん」
氷の城をアッサリと霧散させて、妹は兄に頷く。
「そりゃ、人間も変わるよねー」
帰ろう、と手を引かれるままに葉月は二人で帰路を辿る。
明るい月が重なる影を伸ばしていた。
「そんな、お前、五年も一人で」
「やめてー改めて泣きたくなるわ」
ガチャ、とノブを回しながら、
「所詮─────過ぎた事だから」
玄関に立ち尽くす兄を他所に家に入ると、丁度妹の卯月と目が合った。
「へぇ、お兄ちゃんと出掛けたんだー?陰キャのクセに珍しいね?」
目を見張っての物言いに珍しくそれ以上の嘲りは無かった。純粋に驚きが先に立っているらしい。
穏やかに暮らそうと思うのなら、キャラチェンは独立後の方が良いに決まってる。だが、私にはもうそれだけの気力が無い。
あの異世界での五年は前の自分から色々なモノを削ぎ落としてしまった様だった。
「そりゃ陰キャも偶には外の空気くらい吸うさ。ちょっとはづ兄には話もあったしね」
どもりもせずにすんなり返した事で卯月の驚きが増した様だ。しかしそれは直ぐにドス黒い怒りに擦り変わる。
「ふーん、あたし等には話どころか視線すら合わせない根暗なオネーちゃんが大した進歩じゃん。で?家で出来ない後ろめたい話ってナニよ?」
「矛盾」
「は?」
腕組みして目を吊り上げる可憐な美少女にやれやれと肩を竦める。
「アンタの言う【家で出来ない後ろめたい話】を家の玄関で話せる訳無いでしょうが」
「‼︎」
「家にとっとと上がらせて貰えないかな?後ろにお兄も居るんだけど。アンタ忘れてんじゃね?」
「…あ…」
やっとその存在を思い出したのか、急にこちらを押しのける様にして兄の手を取ると『お帰り、お兄ちゃん!』と言った後はこちらを無視する方針に切り替えたらしい。
あんまり兄妹セットで次女に当たった事の無かった兄はその様に戸惑っている様だった。
『コレか?』
『そーそー』
アイコンタクトで返事をすると、軽く後ろ手を振って二階の自室に上がった。
別にこんなの今更痛くも痒くも無い。
少なくとも卯月には感情を露わにするくらいにはこちらに関心がある分、マシだ。どんなに嫌がっていても血縁という同じカテゴリーにあの子が属している以上、たとえ陥れられたとしても恐らく自分はそんなにダメージを受けないだろう。
Mか。
やめて。いやんバカン。
これじゃある意味、五年前よりヒドイわ。直ぐ呼ばれなくてもディグ来ちゃうわ。
《──────呼んだか?》
何が繋がった感覚がした。
と、同時にベッドに寝転がった筈の身体がある筈のない二本の逞しい腕に拘束されていた。
姿は、無い。
「呼んでない。てか、どうやって【繋いだ】⁉︎精神干渉は勇者スキルで無効化されている筈でしょ⁉︎」
《あるワードで術が蘇るようにお前の全方位が展開する時に貼り付けておいたんだ。直接じゃ無かったから気がつかなかったろ?》
「やめろや!過保護なストーカーか⁉︎ワード、って何なん?」
《『ディグが来ちゃう』》
紛れも無くあの、ドS教官その人であった…。
「五…年だと?」
「うん」
氷の城をアッサリと霧散させて、妹は兄に頷く。
「そりゃ、人間も変わるよねー」
帰ろう、と手を引かれるままに葉月は二人で帰路を辿る。
明るい月が重なる影を伸ばしていた。
「そんな、お前、五年も一人で」
「やめてー改めて泣きたくなるわ」
ガチャ、とノブを回しながら、
「所詮─────過ぎた事だから」
玄関に立ち尽くす兄を他所に家に入ると、丁度妹の卯月と目が合った。
「へぇ、お兄ちゃんと出掛けたんだー?陰キャのクセに珍しいね?」
目を見張っての物言いに珍しくそれ以上の嘲りは無かった。純粋に驚きが先に立っているらしい。
穏やかに暮らそうと思うのなら、キャラチェンは独立後の方が良いに決まってる。だが、私にはもうそれだけの気力が無い。
あの異世界での五年は前の自分から色々なモノを削ぎ落としてしまった様だった。
「そりゃ陰キャも偶には外の空気くらい吸うさ。ちょっとはづ兄には話もあったしね」
どもりもせずにすんなり返した事で卯月の驚きが増した様だ。しかしそれは直ぐにドス黒い怒りに擦り変わる。
「ふーん、あたし等には話どころか視線すら合わせない根暗なオネーちゃんが大した進歩じゃん。で?家で出来ない後ろめたい話ってナニよ?」
「矛盾」
「は?」
腕組みして目を吊り上げる可憐な美少女にやれやれと肩を竦める。
「アンタの言う【家で出来ない後ろめたい話】を家の玄関で話せる訳無いでしょうが」
「‼︎」
「家にとっとと上がらせて貰えないかな?後ろにお兄も居るんだけど。アンタ忘れてんじゃね?」
「…あ…」
やっとその存在を思い出したのか、急にこちらを押しのける様にして兄の手を取ると『お帰り、お兄ちゃん!』と言った後はこちらを無視する方針に切り替えたらしい。
あんまり兄妹セットで次女に当たった事の無かった兄はその様に戸惑っている様だった。
『コレか?』
『そーそー』
アイコンタクトで返事をすると、軽く後ろ手を振って二階の自室に上がった。
別にこんなの今更痛くも痒くも無い。
少なくとも卯月には感情を露わにするくらいにはこちらに関心がある分、マシだ。どんなに嫌がっていても血縁という同じカテゴリーにあの子が属している以上、たとえ陥れられたとしても恐らく自分はそんなにダメージを受けないだろう。
Mか。
やめて。いやんバカン。
これじゃある意味、五年前よりヒドイわ。直ぐ呼ばれなくてもディグ来ちゃうわ。
《──────呼んだか?》
何が繋がった感覚がした。
と、同時にベッドに寝転がった筈の身体がある筈のない二本の逞しい腕に拘束されていた。
姿は、無い。
「呼んでない。てか、どうやって【繋いだ】⁉︎精神干渉は勇者スキルで無効化されている筈でしょ⁉︎」
《あるワードで術が蘇るようにお前の全方位が展開する時に貼り付けておいたんだ。直接じゃ無かったから気がつかなかったろ?》
「やめろや!過保護なストーカーか⁉︎ワード、って何なん?」
《『ディグが来ちゃう』》
紛れも無くあの、ドS教官その人であった…。
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