1 / 31
今更、日常に戻れる気がしない❶
しおりを挟む────雨と地面の濡れた匂いがした。
帰還の【輪】と呼ばれる魔法陣の中で、眠っている方が楽だから、と【快眠】の術を掛けられた私はそこを通って元の世界に【帰された】。
その様はおそらく天空から舞い降りたむにゃむにゃな女の子と似通っていたのではないかと思われるが、飛行石なんぞは持ち合わせておりません。
自力飛行は…今や出来ないとは言いませんけど、眠ったままじゃスゲェ無理。ムリムリ。
魔術士長が地表に到達するまでは不可視にしますね、と言ってたから、多分私は公園に突然現れた不審者ならぬ不審JK。
「君!大丈夫か⁉︎」「誰か!き、救急車を呼んで!」とかの声を…懐かしの日本語を聞きながら、気が遠くなっていく。
ああ、帰って、きたんだ。
空気が違う。
音が違う。
人が違う。
世界が違う。
そして何より…【褒美】と称して残された【スキル】と【術】と【経験】を持ったまま帰されたこの世界に有り得ない力と記憶を備えた【私】が。
『…俺には分かるよ。お前はもうあちらに馴染めない。色々と物足りなくなったら、遠慮なく俺を呼べ。何処に居ようと必ず迎えに来てやる』
遠ざかる意識の中でさえ感じる強烈な違和感の果てに、彼方に残したキラキラと煌めく瞳のアイツの不敵な笑い声が耳元で聞こえる気がした。
「──────西田睦月」
「はい」
出席を取る担任の声に反応して顔を上げると、背中に何か当たった。
…様だ。多分消しゴムカスか何かなんだろうけど、残念、それは私が薄く張った全方位防御に邪魔されて、全て本人に跳ね返っている。
まあ、気持ちは分かるよ。
束ねた髪が太くて硬くて【タワシ】と言ってからかわれていた私。退屈な日常に飽きた君達が一日分リニューアルした楽しいオモチャで遊ぼうとしたら、今までと違ってやる事やる事悉く裏目に出るんだもん。そりゃームキになるよねー。結果、『いだッ!』とかうっかり叫んで先生から注意されておる。
まあ、知ったこっちゃないけど。
私は一日の時を経て召喚時に居た公園に【戻った】。
幸い一日の出来事だったので、行方不明とか警察に届けられてはいなかった。
まあ、うちの家族、あんまり私に興味ないしね。
それより向こうに五年居る間にすっかり馴染んでしまった私が病室で意識取り戻した後、すんなりこちらの住所が思い出せなかった事の方に焦った。
やっべ、むつきさんやっべ!
連絡を受けて駆け込んで来た父も母も、少し会話を交わしただけでなんとなく別人を見る様なよそよそしさを醸し出した。
渋々付き合わされたらしい二つ上の兄、葉月も何かしら違和感を抱いたらしい。
検査結果が良好だった私の退院の手続き等済ませる為に病室を後にした二人を他所に未だ立ち去りもせずそこに佇んでいる。
「お兄…あの人達(父母)と行かなくていいの?」
「……」
「あのさー、いつまでもそこに居られると着替えられないんだ。…そりゃ、あんま好きじゃない妹がこんな面倒起こして帰って来んの、迷惑だろうけどさ。
ウチに帰るくらい我慢してくれない?」
「…ムツ、それどういう意味?」
「…だってお兄も卯月(二つ下の妹)も陰キャの私が嫌いでしょ?なのに兄妹ってだけで接触を持たされて怒ってるから、その仏頂面なんだよね?」
「は?」
「え?だって、普段も殆ど喋んないし、会話を続ける努力もお互いしないじゃん。…まあ、直ぐに部屋に引き篭もってる私にも原因はあるかー。てなワケで不肖の妹はこれからは心機一転、自立に向けてそれなりに…それなりには頑張る次第なので、それまでは我慢してそのザマをニラヲチでもしててよ」
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
織田信長の妹姫お市は、異世界でも姫になる
猫パンダ
恋愛
戦国一の美女と言われた、織田信長の妹姫、お市。歴史通りであれば、浅井長政の元へ嫁ぎ、乱世の渦に巻き込まれていく運命であるはずだったーー。しかし、ある日突然、異世界に召喚されてしまう。同じく召喚されてしまった、女子高生と若返ったらしいオバサン。三人揃って、王子達の花嫁候補だなんて、冗談じゃない!
「君は、まるで白百合のように美しい」
「気色の悪い世辞などいりませぬ!」
お市は、元の世界へ帰ることが出来るのだろうか!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?
四季
恋愛
幼い頃、同居していた祖母から言われたことがあった。
もしも嫌なことがあったなら、電話の下の棚から髪飾りを取り出して持っていって、近所の神社の鳥居を両足でくぐりなさい――。
◆
十七歳になった真琴は、ある日母に理不尽に当たり散らされたことで家出した。
彼女が向かったのは神社。
その鳥居をくぐると――?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる