今更、日常に戻れる気がしない

葉室ゆうか

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今更、日常に戻れる気がしない❶

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────雨と地面の濡れた匂いがした。




帰還の【輪】と呼ばれる魔法陣の中で、眠っている方が楽だから、と【快眠】の術を掛けられた私はそこを通って元の世界に【帰された】。

その様はおそらく天空から舞い降りたむにゃむにゃな女の子と似通っていたのではないかと思われるが、飛行石なんぞは持ち合わせておりません。
自力飛行は…今や出来ないとは言いませんけど、眠ったままじゃスゲェ無理。ムリムリ。
魔術士長が地表に到達するまでは不可視にしますね、と言ってたから、多分私は公園に突然現れた不審者ならぬ不審JK。

「君!大丈夫か⁉︎」「誰か!き、救急車を呼んで!」とかの声を…懐かしのを聞きながら、気が遠くなっていく。




ああ、帰って、きたんだ。




空気が違う。
音が違う。
人が違う。
世界が違う。


そして何より…【褒美】と称して残された【スキル】と【術】と【経験】を帰されたこの世界に有り得ない力と記憶を備えた【私】が。



『…俺には分かるよ。お前はもう。色々と物足りなくなったら、遠慮なく俺を呼べ。

遠ざかる意識の中でさえ感じる強烈な違和感の果てに、彼方に残したキラキラと煌めく瞳のの不敵な笑い声が耳元で聞こえる気がした。













「──────西田睦月」
「はい」

出席を取る担任の声に反応して顔を上げると、背中に何か当たった。
…様だ。多分消しゴムカスか何かなんだろうけど、残念、それは私が薄く張った全方位防御イージスに邪魔されて、全て本人に跳ね返っている。

まあ、気持ちは分かるよ。
束ねた髪が太くて硬くて【タワシ】と言ってからかわれていた私。退屈な日常に飽きた君達がリニューアルした楽しいオモチャで遊ぼうとしたら、今までと違ってやる事やる事悉く裏目に出るんだもん。そりゃームキになるよねー。結果、『いだッ!』とかうっかり叫んで先生から注意されておる。



まあ、知ったこっちゃないけど。



私はの時を経て召喚時に居た公園に【戻った】。
幸い一日の出来事だったので、行方不明とか警察に届けられてはいなかった。
まあ、うちの家族、あんまり私に興味ないしね。

それより向こうに五年居る間にすっかり馴染んでしまった私が病室で意識取り戻した後、すんなりこちらの住所が思い出せなかった事の方に焦った。

やっべ、むつきさんやっべ!

連絡を受けて駆け込んで来た父も母も、少し会話を交わしただけでなんとなく別人を見る様なよそよそしさを醸し出した。

渋々付き合わされたらしい二つ上の兄、葉月はづきも何かしら違和感を抱いたらしい。
検査結果が良好だった私の退院の手続き等済ませる為に病室を後にした二人を他所に未だ立ち去りもせずそこに佇んでいる。

「お兄…あの人達(父母)と行かなくていいの?」
「……」
「あのさー、いつまでもそこに居られると着替えられないんだ。…そりゃ、あんま好きじゃない妹がこんな面倒起こして帰って来んの、迷惑だろうけどさ。
ウチに帰るくらい我慢してくれない?」
「…ムツ、それどういう意味?」
「…だってお兄も卯月(二つ下の妹)も陰キャの私が嫌いでしょ?なのに兄妹ってだけで接触を持たされて怒ってるから、その仏頂面なんだよね?」
「は?」
「え?だって、普段も殆ど喋んないし、会話を続ける努力もお互いしないじゃん。…まあ、直ぐに部屋に引き篭もってる私にも原因はあるかー。てなワケで不肖の妹はこれからは心機一転、自立に向けてそれなりに…それなりには頑張る次第なので、それまでは我慢してそのザマをニラヲチでもしててよ」


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