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1‐1:御浪荘
ご
しおりを挟む塗り替えたばかりだというクリーム色の御浪荘。周りには木や花などの植物がたくさん植えられており、ふんわりと甘い花の香りが漂っている。
中に入ると、ロビーにも観葉植物が置かれていた。しっかりお世話をされているのだろう。緑の葉は瑞々しく、強い生命力を感じる。
「高田さん、ここが管理人室だ。基本的にここで仕事をしてもらうだろうから、過ごしやすいようにいろいろ持ち込んだりいじったりして構わないからね」
入って左手にはガラス窓のついた部屋があり、窓を開ければロビーにいる人とやり取りができるようになっている。
窓の近くにあるドアを開けて中に入りながら、課長が説明をする。
「トイレがそこで、小さいけど流し台はそこね。それからそこにある冷蔵庫も自由に使って。コピー機はそこにあるし、用紙とかの補充品は……ここの棚に揃ってるから。定期的に業者が補充しに来るけど、もし足りなくなったら総務課に電話してくれればいいからね」
それから、と細々とした説明を一通り終えると、部屋のなかで異様な雰囲気を放っていた金庫の前に立った。
「最後にこれね。この金庫の中には、ここに住む社員の資料が入っているんだ。とりあえず、はい。これがカギ」
ぽんと渡された小さなカギを両手で受け取って、羽奈はぱちぱちと瞬きをした。
「えっ。わたしが持ってていいんですか?」
「当たり前だよ。今日から高田さんがここの管理人さんなんだから。もうそのカギの所有者は高田さんだよ」
「た、大切に保管します!」
「ははっ。そんなに肩に力を入れなくても大丈夫だよ。そのカギは絶対になくならないから。それに、万が一なくなっちゃったとしても、そのカギを使えるのは所有者の高田さんだけだから」
「え?」
金庫のカギを渡され、責任の重大さを感じていた羽奈だったが、ニコニコと笑う課長の言葉に首を傾げた。
絶対になくならない? それにカギを使えるのはわたしだけって……。
どう見ても、カギをカギ穴に差し込めば誰でも使うことができそうだ。指紋認証型でも無さそうだし、声紋認証型や虹彩認識型でもない。
カギさえあれば、誰でも開けることのできる金庫にしか見えない。
それなのに、なぜ……。
「あの、それはどういう」
「まぁとりあえず、お家のカギと同じような感覚で大丈夫だから。それよりも、早速そのカギを使って金庫を開けてみてくれるかな?」
「あ、はい」
言葉の真意を問おうとした羽奈は、課長に遮られて口を閉ざした。
相変わらず穏やかな表情で笑っている課長だが、有無を言わせぬその雰囲気に、羽奈の中にあった疑問はすべて消えてしまった。
このカギで金庫を開けなくては、という考えだけが頭を占める。
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