はないちもんめ

高尾 閑

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1‐1:御浪荘

じゅうさん

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 一通りシステムキッチンのチェックを終えた羽奈は、キッチンの反対側、リビングのドアの横にあるドアを開けた。
 そこは6畳ほどの部屋で、部屋の中央に羽奈が送った段ボールが置いてあり、壁際にはセミダブルのベッドと、猫足のドレッサーとイスが置いてあった。
 クローゼットはウォークインとなっており、パイプハンガーとオープン棚、タンスがあって、たくさんの衣類が収納できそうだ。

「こんなに厚待遇の会社で働けるなんて、わたしは幸せだなぁ」

 羽奈は部屋の床にぺたりと座り込んで、ぽつりと呟いた。
 家具・家電つきの綺麗な家に住めて、家賃や光熱費はタダ。しかもベッドや食器などは新品のものだという。 

 きちんとそれに見合う仕事をしないと。明日から頑張るぞ!

 改めて気合いを入れ直した羽奈は、段ボール2箱という少ない私物の片付けに取りかかった。




 そうして約1時間後。
 片付けと、現時点で足りないと気づいた物のチェックを終えた羽奈は、私服に着替えて玄関にいた。
 肩から下げたカバンには、お財布とスマホが入っており、手には簡略化された地図の書かれた小さな紙。
 これから近くのスーパーに、食品を買いに行くのだ。
 地図によれば、徒歩2分圏内にコンビニが、徒歩5分圏内にスーパーがあるらしい。さらに範囲を広げれば、ショッピングモールがあるらしいのだが、そこは自転車で20分の所にあるらしく、自転車を持っていない羽奈は諦めるしかなかった。

 ドアを開けると外はもう薄暗く、風も冷たくなっていた。

「暗くなる前に帰れるといいけど……」

 羽奈は暗い紫色の空を見上げ、呟いた。
 初めて行くスーパーで、手早く買い物を済ませる自信が全くない。しかしなれない道のりを暗いなか辿るのも危険だろう。
 羽奈はなるべく早く帰るんだと言い聞かせて、家のカギを閉めた。


「……着いた」

 地図を見ながらたどり着いたスーパーは思っていたよりも近く、羽奈は頬を緩めた。
 これならコンビニに頼らなくても大丈夫そうだ。
 羽奈は地図をカバンに仕舞い代わりにスマホを取り出すと、メモ帳のアプリを開いて元気よくスーパーへ入っていった。

 2・3日分の食料と、他に必要な物を買い終えた羽奈がスーパーから出てきたときには、外はすっかり暗くなっていた。
 冬に比べて日没が遅くなったとはいえ、暗くなるのはあっという間だ。
 羽奈は両手の荷物を持ち直すと、早足で家へと向かった。そんな羽奈を、一番星が優しく見守っていた。


 
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