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アサコ:花嫁召喚
しおりを挟む王族×女子大生/召喚/結婚/勘違い
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チュンチュンと可愛らしい小鳥の囀ずりに、麻子はゆるりと目を覚ました。
もぞもぞと布団の中で踞るように丸くなり、それからぐーっと両腕をつき出して伸びをする。
その様はまるで猫のよう。
「ふわぁ~」
ぐーっと伸びをしてスッキリした麻子は、ようやく体を起こした。
手で隠しきれないほど大きな欠伸をし、のそりと大きなベッドから這い出る。
するとまるで様子を窺っていたかのような、絶妙なタイミングで、コンコンコンとドアがノックされた。
(来たな……!)
麻子は一瞬睨み付けるようにドアを見、次いで何事もなかったかのようにソファへと足を向けた。
ノックから三拍後、音もなく静かにドアが開かれた。
しかし麻子はちらりとも目を向けず、ふわりとソファに腰を下ろす。
そしてやっぱりドアの方には目を向けず、ぼんやりとカーテンの閉まった窓を見つめた。
入室者の存在の一切をシカトする麻子。
入室者の方も、気にする素振りも見せず、無言でしずしずと窓に向かう。
そして、カーテンを開け、窓を開け、ベッドを整え、ときびきびと手慣れた様子で動き出す。
視界の隅をチョロチョロする入室者に、麻子はソファの端に身を縮こまらせ、足元を見つめてじっと耐える。
(そろそろだ。そろそろ来る……っ)
ぎゅっと麻子がきつく目を閉じたとき、入室者が足音も立てずに、麻子の座るソファの斜め向かいにやって来た。
麻子はそっと息を吐き出し、きつく閉じた瞼を開けた。
そしてゆっくりと、顔を上げる。
(何度見てもこっわ!)
そこには、色褪せた灰色の髪の毛をきつくひとつにまとめ、まるでメイドのような格好をした、三十代位の女性が一人。
髪と同じ色の瞳がつり目をより一層鋭くさせ、麻子を見下ろしている。
内心怯えつつも、麻子は負けじと女性を見つめ返す。
「おはようございます、******」
鋭い目を細め、にこやかに口を開いた女性。
ここ数日、嫌という程耳にした聞き慣れない言語に、麻子は内心顔を歪めた。
とりあえず、何度も耳にしたお陰で最初の単語は朝の挨拶だと理解した麻子は、小さく会釈を返した。
何となく単語の意味を理解できても、それを発音できるかと言われれば、答えはノーだ。
英語ですら小学生の平均レベルの麻子が、何語かも分からない言語を話せるわけがない。
とりあえずで会釈する麻子に、女性はにこにこと話しかけ、おもむろに近寄ってきたかと思えば、そっと麻子の手をとって立ち上がらせた。
そして自然な動作で麻子をエスコートする。
朝の挨拶を合わせた、数少ない単語しか理解できていない麻子は、もちろん何を言われたのか分かっておらず。
しかしここに来てから毎朝同じ様に流れていくその行程に、何となくは理解していた。
(きっと、着替えましょう的なことを言ってるんだろうなぁ。今日はどんなドレスを着せられるんだろう……)
大きなクローゼットを開けて、ドレスを吟味している女性の背中を、ぼんやりと眺めながら麻子は思った。
麻子がこの部屋で寝起きするようになって、多分二週間。
目を開ければこの部屋にいて、どう見てもコスプレをした外人達に囲まれて、知らない言葉で話しかけられて。
恐怖でパニックに陥った麻子はあっさり意識を手放した。
その後熱に魘されたりしたが、元気になって現状を理解するのを諦めたのが、十日前。
そうして今日まで、見知らぬコスプレ外国人に警戒しつつ適当に頷いて、ひたすらこの部屋に引きこもって過ごした。
この十日間、毎日が同じことの繰り返しだ。
だからこのあとも、同じ様にコスプレさせられて、運ばれてきたあまり美味しくない朝食を食べて、ぼんやり外を眺めて、読めない本を見るともなくぱらぱら捲って。
それからまたあまり美味しくない昼食を食べて、のんびりティータイムを強制させられて、やっぱりあまり美味しくない夕食を食べて、お風呂で身体中を擦られて、ぼんやり外を眺めながら眠りに着くんだ。
そう思っていたのに……。
麻子は女性が選んできたドレスに、顔をひきつらせた。
(え、……いつもよりハデじゃない?)
いつもはワンピースに近いようなシンプルなドレスだったため、我慢して着ていたのだが、今目の前にあるのはハデなドレス。
光沢のある淡いピンクの生地がふんだんに使われた、ボリューム満点のそのドレスは、まるでお姫様が着ているドレスみたいで。
(え、ちょ、嘘でしょ?)
目の前のドレスに困惑する麻子に、女性はにこにことそれはそれは楽しそうに話しかけ、問答無用でナイトドレスを脱がしにかかる。
あっという間にお姫様のような格好にされてしまった麻子は、ソファの端で身を縮こまらせながら、今日はいつもと様子が違うということに気がついた。
自分の格好もそうだが、メイドのコスプレをした女性の機嫌がものすごくいい。
(何かいいことあったのかな?)
しかし、いくら自分の機嫌が良いからといって、それに巻き込まれるのは些か納得いかない。
ただでさえ、意味のわからない毎日の強制にうんざりしているのに、気持ちまで共有するように押し付けられるのは、さすがの麻子でも我慢ならなかった。
【未完】
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