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マジ卍

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 リーフフィアの身体は虎の牙によって貫かれたかと思われた。

 カイトもみんなの目でも、そう見えた。

 しかし、虎の牙で貫かれたのは虎の方だった。

 新たに現れた、白い色の姿をしている同じ虎によって。

 リーフフィアの姿は、その虎の背の上にあった。

「カイト、あと60秒!」

 傷一つないリーフフィアが白い虎の首根っこにしがみつきながらカイトに向かって叫ぶ。

 リーフフィアがこの魔法を使っても、まだまだ練習が足りないのでたった60秒しか保たない。

「っ! 了解!」

 リーフフィアの言葉で一瞬止まったカイトは、全てを理解したのか笑みを浮かべ、弓に矢を番えて絞る。

「60秒じゃなくて10秒で充分だよ」

 そして、引き絞った弓から手を離した。

 カイトの元から放たれた矢は、真っ直ぐに虎の額に刺さった。

 虎が倒れ込み、赤いダメージエフェクトが飛ぶ。

 虎の姿が消えると同時に小虎の姿も消える。

 森も消え、虎が倒れた場所に魔法陣が現れた。

「倒せたみたいだな」

 レイブンがコレーをエスコートしながらリーフフィアとカイトの方へと歩いてくる。

 コレーはスカートを綺麗にさばきながら美しく歩いている。

「ねこま、頑張った」
「疲れたっす」

 ネズもねこまをエスコートしながら魔法陣も元へとやってくる。

 ネズはねこまに歩幅を合わせてきちんとエスコートをしていた。

「お疲れ様、ねこちゃん、リーファちゃん」
「コレー姉様も、おつかれ」
「ねこま、急に主導権渡してごめん」
「問題、なし、だぜ。逆に、助かった」
「なら良かった」

 主にねこまとリーフフィアが会話をしている隣で、男性陣が話を始める。

「これに乗れば二層に行けるんっすか?」
「行けるぜ。二層についたらギルドまで連れてく」
「了解っす」

 ネズとレイブンが話をして、レイブンがこれでいいかとカイトを見る。

「これでいいか?」
「あ、うん」

 カイトの返事が少し遅く、きちんと考えていないような雰囲気に違和感と心配の気持ちが出来るが、まあいいか、と思い直す。

「ところで」

 レイブンは気になったことを、多分元凶だろうと思われる人物に問う。

「何でリーちゃんは新しく出てきた白い虎の背に乗ってたんだ?」
「カッコ良かったでしょう?」

 その問いに、リーフフィアはにっこりと笑って答える。

「ドレスで乗るモノではないと思うぞ」
「ねこまも、乗りたい」

 ねこまが、自身の欲求を口に出すが、レイブンが止める。

「危ないからやめようね」
「兄様、ケチ」
「そもそも俺出せないし」

 ケチと言われようが、レイブンでは虎は出せない。

「私ももう一回は出せないです。小虎ならいけるかもですけど」
「マジ、で?」
「ええ、マジで」

 ねこまの確認に肯定の言葉を返す。

 肯定の言葉を聞いたレイブンがちょっと意見がありそうに、言葉を口にする。

「リーちゃんからマジでって聞くと何か残念感が出るな。聞き返したくなる」
「よく言いますよ。ヤバい、マジで、卍、辺りは」
「そのラインナップに卍が入った理由を知りたい。そして卍聞いてみたい」
「何となく、ですかね。マジ卍です」
「外見と言葉が全く似合わねえ」
「よく言われます」

 レイブンが出した感想は、リーフフィアがラインナップに挙げた言葉を口にした際に、耳にした大体の人に言われる感想と同じだった。

 話をしているとキリがないと思われたのか、レイブンが手を叩いて話を切り上げる。

「取り敢えず、じゃあ、行くか」

 全員を魔法陣の上に乗せ、レイブンも乗ると魔法陣は輝き、彼らの姿は消えていった。
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