幽閉塔の彼女と僕

紅花

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幽閉塔の彼女

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 女性の容姿は優れていた。
 星や月のように美しい銀色の長い髪。
 身体の線は細く、女神のように美しい。
 さて、この少女はこの国で定められている何かの大罪を犯したのか、それとも無実の罪でこの塔に幽閉されたのか。
 どちらにせよ、この塔の中にいるということは、母さんのように何かしらの理由で王族に目を付けられたということ。
 声をかけられた少女はこちらを振り向いて声を上げた。
「貴方は誰?」
 警戒心と驚きの感情を隠せていない。
「こんばんは、幽閉塔の女神様」
 僕も挨拶をしながら驚いていた。
 まさか、こんな所で見つけるなんて。
「今すぐ去りなさい。でないと兵を呼ぶわよ」
「人間ならいないよ。僕が追い払った」
 正確に言うのであれば、僕の影が、だけれども。
 しかし、僕は、母と同じような訳アリの彼女と仲良くなりたいと思ってしまった。となれば、やることは1つ。
「僕は敵ではないよ。君を害しにきたモノではない。信じられないかもだけどね」
 だから、僕は少女に歩み寄って片膝をついた。そして彼女の手を取る。
「『月華草に誓おう。僕は月華草の瞳を持つ君を害さない』」
 僕の言葉が終わると、僕と彼女がいる場所を囲むように、床に蒼い光の輪ができた。
「えっ?」
「これで契約魔法完了。僕はもう君を害せない。これで信じられたかな?」
「え、ええ。それは信じたけれど、待って、あの蒼い光って」
 僕が魔法を使うと月華草をより蒼くしたかのような光が舞う。
「魔法って言ったら通じるのかな?君達の方ではもう魔法は滅びた?」
「いいえ、少しだけ残っているわ。でもそんな簡単に使うものではなくなっているの。王族の方はまださっきの魔法を使えるみたいだけど」
「そっか、普通の人間はあまり魔法は使えないんだよね」
 記憶の彼方に捨て去っていた、母さんの教えを思い出す。
 魔法は僕らの特権であり、人間如きが使って良いものではなかった。僕の父さんは遥か昔に、ある人間に魔法を授け、その子孫によって殺された。
 父さんを殺したことにより、父さんが人間に授けた魔法を操るための加護は弱まっており、今では王家の人間くらいしか使えなくなっているはずだ。王家の人間の加護もやっぱり弱まっているからあまり高度な魔法は使えない筈だけれど。
 僕は色々と、本来覚えておかなければならない事を久しぶりに思い出す。しかし、疑問が残る。
「どうやって王族は使ってるんだろう?加護自体は弱まってるはずだけれど」
 問題はそこだ。どうして加護が弱まっているのに契約魔法のような少し高度な魔法を使えるのだろうか。
「ねえ、理由を知ってる?」
「え、まあ、少しは」
 知っているのであれば、ぜひ教えて欲しい。
「教えてもらってもいい?」
「駄目。国家機密だもの。魔法がないと他国から攻められるわ」
 少女は僕に教えることを拒んだ。僕はその言葉に驚いた。彼女に拒まれたことではなく、事実を知らないことに。
「え?何で攻められるの?この国は攻められないよ。どの国も絶対に攻めない」
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