幽閉塔の彼女と僕

紅花

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その塔にいたのは……

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 塔の内部に入る。勿論、塔に閉じ込められている人たちと同じ場所ではない。

 塔の内部の内部、外壁と内壁の間の、人が1人入れるかどうかという狭い空間だ。
 狭い空間の左右を見ると右側にも左側にも階段がある。
 右か左、どちらを選ぶのかは『右から3回静かにグルグル回ってオオカミいないか確認』の歌詞から警戒しながら右に3回分だけ回りながら上へと登る。

 半周、1回目、1周半、2回目、と回るたびに煉瓦のような扉がある。
 3回目まで登って、それまでと同じような扉の前で僕は止まった。

 それ以上にも階段は続いているが、塔の1番上の部屋に行くための扉は3回分だけ回ったところにある。
 それ以上行っても屋根裏部屋に繋がっているだけだ。
 扉を開ける方法は簡単だ。
『オオカミいないか確認。扉を3回ノックして笑顔でお見舞い参りましょ?最後に星月に祈ったら、ゆっくりお家に帰ってらっしゃい。お土産話し待ってるからね』の歌通りにノックを3回すれば良い。
 扉の前でそっと耳を澄ます。目的の人以外の人間がいないか確かめるためにも耳を澄ますことは大切だった。
「お休みなさいませ」
「お休みなさい。あなたは関係ないのに私のせいでこんな場所に送られて。ごめんなさいね」
「いえ。わたくしこそ謝罪しなければなりません。わたくし共は明日、屋敷に戻ります。お嬢様はここで誰の世話なく暮らすことになります」
 声しか聞こえないからどういう状況かいまいち分からないが、2人の女性の声が聞こえる。
 そのうちの1人の涙ぐんだ声が聞こえる。
「大丈夫よ。きっと竜神様が守ってくださるわ」
「守ってくださるならどうして、お嬢様をこのような目に!」
「竜神様だって全ての願いを叶えることは無理よ。きっと他の方を助けていたのよ」
「それでも、兵士達がお嬢様に無体をはたらくかと思うと、わたくしは悲しいです」
「自分の身くらい守れるわ。大丈夫よ。あなたこそ元気でね。皆に宜しく伝えてね」
「申し訳ございません、お嬢様」
 パタンと扉が閉まる音と同時に僕は誰にも聞こえないように扉を3回ノックした。
 そっと扉が横にスライドして出来た細い隙間から室内へと音を立てずに滑り込む。
「はあ、無実の罪を着せられるなんてね」
「可哀想だね、君は」
 僕が幽閉塔の最上階の部屋で見たのは、窓から外を、空に広がる夜を見ていた美しい女性の後ろ姿だった。
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