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第六話
しおりを挟むそして、国王陛下に会ってから十年ほど経った今日は学校の卒業の日。
成績がいい人しか行けないと言われる大陸最高峰の学校を今日卒業する。
私は成人して、学校で1番をキープして、将来は安泰だと言われている。
「……計二十五名の卒業を認める!」
学校長の言葉を聞いて私は微笑む。
ようやく、ここまで来た。これで私の願いは叶う。
「諸君、卒業おめでとう!」
きっと私はこの中の誰よりも幸せそうな顔をしていることだろう。
「お父さん、お母さん。私、卒業したよ!」
両親に駆け寄って笑顔で笑う。
卒業生達が、彼らの両親に卒業を報告したり、喜びで泣いている中、私は両親に告げた。
「これで許してくれますか?」
私の言葉に二人は泣きながら頷いた。
「約束、だからな」
「元気でね。幸せにね」
両親に頷いて私は手に持っていた卒業証書を2人に渡す。
産んでくれたこと、育ててくれたことに感謝するために、もう一度深々と礼をしてから私は駆け出した。
最初は両親から反対されて、認めてもらうために無茶な約束をして、努力し続けてようやく許してもらったから。だから、だから。
私は一人用の船に乗り込む。
船は勢い良く天の川から飛び出した。
黒い闇で、でも微かな光が散りばめられた海に向かって。
私はお兄さんに願った。「強くなりたい」と。
お兄さんは私の願いを叶えてくれた。
もう2度と戻ってこないことを確信しながら。
でも、それは違う。私が強くなりたいと思ったのは、あの人の為だから。
見覚えのある海岸が見え、私は船をそこにつける。
軽々と降り立って、私は船を壊した。
もう二度と戻らないから。
2度と戻るつもりはないという決意の現れとともに。
砂浜を音を立てながら進む。
確か、こっちに行けば……
「あ、あった!」
お兄さんと、短い間だったけれども二人で住んでいた洞窟。
お兄さんはこの中にいるだろうか?
期待で胸を膨らませながら洞窟の中をそっと覗いた。
しかし、洞窟の中には誰もいない。
私が首を傾げていると刃物が当てられた。
「それ以上動かないで。僕は殺したいわけじゃあないんだ」
私はその声を聞いて目を大きく開く。
この声は、ずっと、ずっと、
「会いたかった」
私の意味がわからない言葉にお兄さんは怪しそうな声を掛ける。
「どういう「お兄さん、お久しぶりです。昔、お兄さんに助けてもらって、お兄さんのところに来ると宣言しました」
私の言い分を聞いたお兄さんは手から刃物を落とした。
「まさ、か……嘘、だろう?」
私は刃物が外れたのをいいことにくるりと振り向いてお兄さんに抱きつく。
「会いたかったです、お兄さん」
私はそこで一旦お兄さんから離れて笑顔で言った。
「それともこう呼んだほうがいいですか? ミスさん」
私は学校で学んだことから自分の立てた予想を話す。
「神話の失敗作、それがお兄さんですよね」
私の言葉にお兄さんは最後に見たような悲しそうな笑顔で笑って肯定した。
「そうだね。君はそれを知って僕をどうするんだい? 何百年、何千年もの長い間を生きた僕をどうしてくれる?」
私はお兄さんの尋ねに笑顔で答えた。
「何もしません。……お兄さん、私は神様が間違っていると思うんです。失敗したからってこんな場所に閉じ込めるなんておかしいと思うんです」
私はお兄さんの手を取って、指を絡めながら握る。
「私はお兄さんが好きで、笑って欲しいなって思います。……私を受け入れてくれますか?」
私の想いのこもった眼差しにお兄さんは透明な涙を零した。
「……帰れなくなるよ?」
「覚悟はしてきましたから」
「逃げ場はないんだよ?」
「貴方から逃げも隠れもしません」
お兄さんは何としても拒絶して欲しそうに、最後に言った。
「僕は失敗作なんだよ?」
私はお兄さんの言葉にやっぱり笑顔で答える。
「私は救世主ですよ」
世界に輝く1番綺麗な星の子。
私の名をお兄さんはもう、知っている。
「お兄さんの隣でお兄さんを助けにきました。ついでに言うとお嫁さんにしてくれたら嬉しいです」
私の笑顔にお兄さんは泣きながら幸せそうに笑い返してくれた。
ああ、ようやく見えた。お兄さんの何よりも綺麗な笑顔。
「……ありがとう。こんな僕でも一緒にいてくれる?」
お兄さんの質問に私は大きく頷いた。
「勿論です」
お兄さんはその返事を聞いてから手を広げた。
「お帰り、メシア」
お兄さんの瞳に映る私は何よりも素敵な笑顔を浮かべていた。
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