花休み

紅花

文字の大きさ
上 下
7 / 9

どうして

しおりを挟む
「さて、あなたはなぜここに来たのでしょう?」

 少女は先ほどのシリアスな雰囲気を一掃するかのように明るい声でわざと話を逸らした。

「なぜってどういうこと?」

 少女が疑問に思ったことの答え、それは僕が一番知りたいことだった。

「この世界に来るには、何かしらの理由が、原因があります。あなたに何かしらの問題が降りかかっていたということです。何か身に覚えがありますか?」
「いや、何もないと思う」
「でしょうね。急に言われても思い出せるものでもないですし、歩いている途中ででも思い出していただけるとありがたいです」

 少女はただそれだけを告げた。
 それから僕を見ることなく、前を見続けていた。

「僕に何があったのか……」

 この異変に巻き込まれた理由が必ずある。
 彼女はそう言った。

「僕は何かを忘れているのか?」

 原因が、理由が僕にあるなら何か思い出すことが、何か感じることがあるはずだ。
 でも、僕はそれを思い出すことができない。
 何を僕は忘れている?
 僕は何に対して見て見ぬふりをしている?

「何を、僕は何をした?」

 思い出せ。
 過去から今まで。
 未来を掴むために。

「何かをしたわけではないのかもしれないですね」
「え?」

 考え込み始めた僕に向かって少女はぽつりと呟いた。

「何かをしたわけではない。何かしらの行動がこちらに引っ張られる要因となった、が正しいのかもしれません」
「どういうこと?」

 僕が理解できなかったからだろうか、少女は分かりやすく、嚙み砕いて教えてくれた。

「例えば、あなたが今日の朝に卵を食べたとしましょう。その卵を産んだ親鶏はこう思うかもしれません。『けっ、私が大切に産んだ卵を食べやがって、この馬の骨共が』と」
「口が悪くないかな、その親鶏」
「大切なものを取られた人は大抵こう思っていると思いますよ」
「そう、なのかな……」

 少女はころころと鈴が鳴るように笑っていた。
 さっき鶏の声をしたときは恐ろしいほどに憎しみに満ちた低い声だったのに。

「そして、卵を食べた輩が地獄に落ちるように祈ったかもしれません。でも、たった一度の祈りではあなたは地獄に落ちないでしょう。ええ、一日のうちで卵を食べている人なんて多すぎるので、例え元の祈りがどれだけ大きくとも、1人1人にかかる祈りなんて微々たるものになる」

 少女は手をわちゃわちゃさせながら、僕に説明してくれる。
 多分、手のわちゃわちゃは僕が分かりやすいようにジェスチャーをしてくれているのだと思われる。
 全く分かんないけど。

「しかし、その祈りは卵の分だけでなく、お肉の分もあるかもしれません。そして、その祈りが毎日積み重なっていたとしましょう。すると、どうなりますか?」

 少女は一本ずつ花を拾っていく。
 そして、束ねて僕の方へ差し出した。

「このように、花束……大きくなります。たった一輪しかなかった花束が、豪華な花束になってしまった。多くの種類の花と、同じ花が何本も束ねられて」

 そうして、少女は最後の花を花束に突き刺した。
 突き刺した途端、少女の手から花は溢れて、地面に落ちていってしまった。

「このように、器から飽和し、落ちていってしまいます。今回は私がわざと手を広げたせいでもありますけどね」

 少女はそう言いながら落ちていく花をじっと見つめている。

「器が壊れるか、溢れてしまったとき、世界は崩壊する。あなたもそうだったのかもしれません。何か、毎日何も考えずに行っていた行動が積み重なり、この世界を開く鍵となった」

 少女はそうして、落ちた花を躊躇うことなく踏んだ。

「この例だったら、なぜ落ちたのか、分からないでしょう?」
「花を……」
「いいんですよ。この花達は悪い花。潰した方がこの世界の、私のためですもの」

 少女は僕の手を取って前へと歩き出す。
 今まで花を踏みつぶすような、そんな残酷な行為を一切しなかった少女。
 後ろを向いて確認した花は、桃色の花々は、無残に踏みつぶされ、花としての形は一切残っていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

angel observer

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
2997年、世界は崩壊し人類は進化した種と、退化した種に二分化している。その世界に辛うじて存在している少女ヒルデ、彼女には、産まれた場所も両親の記憶もない。ただ記憶しているのは、自らが悪魔であることだけだった。しかし、この世界に存在し続けるためには、人間に信仰あるいは恐れられる必要があったのだ。進化した種は、欲という概念を探求という概念に転換して行きまた、退化した種は、理性を捨てただ本能的欲求を満たすためだけに存在していた。そのため、ヒルデの存在理由が徐々に失われつつあった。そんなある日ヒルデは、崩れ去ったコロシアムの真ん中に一つの洋ドアがそびえ立っているのを発見する。ヒルデがそのドアを開けるとそこは2019年の日本のとある事務所であった。そこには、一人の男が昼寝をしていた、彼の名は、若田利彦。寝起き開口一番の言葉は、「天使を観測してくれないか」であった。日本の抱える自然災害は、天使による人類削減のための審判だった。ヒルデは未来を変えるため、人類を救うため、若田利彦と天使を観測することを決意する。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...