花休み

紅花

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苦しくないの?

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「君も天狼さんの曲を聞くんだね」
「ええ。彼女の声、天使の声って言われるくらい綺麗ですから。苦しみも憎しみも幸せも何もかもを含んだ優しい声をしているでしょう?きっと、彼女も大変な人生を送ってきてます」
「声からそんなことが分かるんだね」
「私の主観ですけれどね。それに、漫画家の美崎もみじさんの作品も読みます。彼女の作品はとても綺麗ですけど、闇が隠されてます。でも、その闇の中には芯があって、伝えたいことも一貫していて、暖かい闇ですから」

 自分の好きなものを語る少女はとても楽しそうだった。

「私も同じように抱えてますから」
「抱えてるって闇を?」
「ええ。狂ってしまったか、押し殺してしまったかは内緒です」

 口元に指を当てて、伝えることなく黙ってしまった。

「私にだって黙秘権があります」

 くるりとくるりと、いきなり舞いだした。

「私は、何なのか。なぜ生まれてきたのか。誰しもが考えることで、答えを見つけて終わるか、分からないまま終わるか。まあ、どちらでも美しいのは変わりないですけどね」

 美しければどうでもいいのだと彼女は笑った。

「誰しもが嫌う……忌み嫌うものは美しいのですよ」

 彼女の足元に落ちている赤い花。
 あの花は、きっと彼岸花だろう。
 彼女はそれを拾って、僕に渡すことなく、ただ見せた。

「彼岸花も、黒猫も、カラスも、孤独も、全ては綺麗で美しい。無くなってしまったら困るでしょう?」

 彼女は彼岸花を、彼女自身の黒い髪に挿した。

「うん、きれい」

 ふわっと、彼岸花に触れるか触れないかのところに手をやった。

「こうやって、誰かを飾ることもできるのです。私は大切だと思います」

 そう言って笑う少女は何を抱えて生きているのだろう。
 僕は彼女に何かできるのだろうか。

「君は……苦しくないの?」
「何がでしょう?」

 少女は何も分からないのか、こてんと首をかしげる。

 周りの闇も相まって、本当に何も知らない、何も感じていないかのように見えた。

「過去を抱えて生きていくってすごく辛くて苦しい事だと思う。だから、苦しくないの?」

 僕の言葉を聞いた少女はきょとんとした顔をした。

 まるで、そんなことを言われるとは思わなかったと言わんばかりの顔だ。

「過去は過去。私がすべて背負うもの。辛いことも苦しいこともないですし、そんな風に思ったことはありません。……そもそも、そんな感情さえないですし」

 最後に聞いてはいけないような言葉が付け足される。

 感情がないとはどういうことだろう。
 感情は誰にだってあるはずなのに。

「感情がないって?」
「そのままの意味です。あ、でも少し違うかしら?感情を壊した、の方が正しいのかもしれませんね」
「壊したって……」
「壊しました、私の手で。1つ1つ丁寧に、握り潰しました。邪魔でしかなかったので」

 にこにこと笑いながら彼女は告げる。

「私には必要ないものだったということです。今までも、これからも、ね」

 狂気だ。
 彼女は狂っている。

「どうして……」

 僕は言葉を紡ぐことができなかった。
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