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大きくなったら…。
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『僕は、大きくなったら大金持ちになって、みんなを幸せにしたいです。』
それが、ゆきお君の夢でした。
ゆきお君は、お父さんとお母さんと三人家族です。兄弟はいませんでした。夫婦共働きで、ゆきお君は小さい頃から家で一人で過ごす事が多くなります。
ゆきお君は、人見知りであまり感情も表には出さない引っ込み思案な性格な為か、友達と呼べる友達も出来ずに、学校でも家でも一人、机に向かう時間が増えていきます。
お陰で勉強は出来ました。
成績は常に学年トップクラス。高校も私立の超進学校。大学も国立の超名門校。ゆきお君は、友情だの恋愛だのの青春ごっこを全く知らない学生時代の代償に、見事にエリートという地位を手に入れます。
就職先も、大手商社に決まりました。社会人として何一つ、劣等感を感じる事もなく成功を修めるはずでした。しかし、ずっと一人ぼっちで育って来たゆきお君にとって、やはりコミュニケーション能力の欠如は、職場ではお荷物と成らざるを得ませんでした。ゆきお君は、半年と持たずに会社を辞めてしまいます。
ゆきお君は、家にそのまま引きこもってしまいました。
両親からの叱責にも反応せず、学生時代と同じように一人孤独に机に向かう日々を過ごすようになります。ゆきお君にとって机に向かって雑念を振り払い、無心で教科書と格闘する事が、何よりも安らぎの時間だったのかもしれません。
そのまま、あっという間に十年以上の月日が流れました。人と触れ合う事を忘れた生活は、もはや人としての生の意義を問うものへと変わっていきます。
『僕には、かつて夢があった。それは大金持ちになって、共働きのお父さんとお母さんを楽させてあげること。でも、どうやら僕には、労働者としての才能と忍耐力が足りなかったみたいです。勉強は出来ても、それを生かせる行動力と精神力が必要でした。僕は、人が怖いんです。お金を生むには、どうしたって他人との交流が無ければならない。僕には、何が必要だったんでしょう。強制的にも小さい時から集団の中に放たれるべきだったんでしょうか。確かに、妄想する事は、ありました。今日は、誰と何をして遊ぼう。春菜ちゃん、やっぱり、かわいいな。でも、僕には、それを現実化出来る勇気ときっかけが見つけられなかった。学歴だけは一丁前でも、あの頃、描いた夢は空高く舞い上がったまま、全然、届かなくなっちゃったよ…。』
ーーー。
『ゆきお、ご飯ここに置いとくからね。』
『お母さん…。ごめんね…。』
ずっと迷惑をかけてきた両親に対する申し訳なさだけは、歳と共に深く心に刻まれていきました。そして、ゆきお君は、四十歳で新たな夢を見つけます。
『僕は、まだ小さかった、あの頃に戻りたい。』
ゆきお君は、高い高いビルの屋上から飛び降りました。
ー完ー
それが、ゆきお君の夢でした。
ゆきお君は、お父さんとお母さんと三人家族です。兄弟はいませんでした。夫婦共働きで、ゆきお君は小さい頃から家で一人で過ごす事が多くなります。
ゆきお君は、人見知りであまり感情も表には出さない引っ込み思案な性格な為か、友達と呼べる友達も出来ずに、学校でも家でも一人、机に向かう時間が増えていきます。
お陰で勉強は出来ました。
成績は常に学年トップクラス。高校も私立の超進学校。大学も国立の超名門校。ゆきお君は、友情だの恋愛だのの青春ごっこを全く知らない学生時代の代償に、見事にエリートという地位を手に入れます。
就職先も、大手商社に決まりました。社会人として何一つ、劣等感を感じる事もなく成功を修めるはずでした。しかし、ずっと一人ぼっちで育って来たゆきお君にとって、やはりコミュニケーション能力の欠如は、職場ではお荷物と成らざるを得ませんでした。ゆきお君は、半年と持たずに会社を辞めてしまいます。
ゆきお君は、家にそのまま引きこもってしまいました。
両親からの叱責にも反応せず、学生時代と同じように一人孤独に机に向かう日々を過ごすようになります。ゆきお君にとって机に向かって雑念を振り払い、無心で教科書と格闘する事が、何よりも安らぎの時間だったのかもしれません。
そのまま、あっという間に十年以上の月日が流れました。人と触れ合う事を忘れた生活は、もはや人としての生の意義を問うものへと変わっていきます。
『僕には、かつて夢があった。それは大金持ちになって、共働きのお父さんとお母さんを楽させてあげること。でも、どうやら僕には、労働者としての才能と忍耐力が足りなかったみたいです。勉強は出来ても、それを生かせる行動力と精神力が必要でした。僕は、人が怖いんです。お金を生むには、どうしたって他人との交流が無ければならない。僕には、何が必要だったんでしょう。強制的にも小さい時から集団の中に放たれるべきだったんでしょうか。確かに、妄想する事は、ありました。今日は、誰と何をして遊ぼう。春菜ちゃん、やっぱり、かわいいな。でも、僕には、それを現実化出来る勇気ときっかけが見つけられなかった。学歴だけは一丁前でも、あの頃、描いた夢は空高く舞い上がったまま、全然、届かなくなっちゃったよ…。』
ーーー。
『ゆきお、ご飯ここに置いとくからね。』
『お母さん…。ごめんね…。』
ずっと迷惑をかけてきた両親に対する申し訳なさだけは、歳と共に深く心に刻まれていきました。そして、ゆきお君は、四十歳で新たな夢を見つけます。
『僕は、まだ小さかった、あの頃に戻りたい。』
ゆきお君は、高い高いビルの屋上から飛び降りました。
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