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第4章
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隠し部屋に入ると、仕掛けを使って地下室に入る。光の魔法を灯して暗い地下室に入ると、以前と変わらず机の上にはヤーフィスの書が一冊置いてあった。
私はさっそく1ページ目を開いて、指先を傷つけ血を滴らす。すると、以前と同じように血は吸い込まれるように本の中に消えると、本は勝手にパラパラとページをめくり、次々と文字を印字していった。
文字が全て印字し終わったのを確認すると、私は2ページ目から読み始める。驚くことに、その内容は以前とは違っていた。
私は必死に読み進める。そこに書いてあったのは驚愕の事実だった。
「嘘……」
そこに記述してあることを信じたくはない。この本には意思があるのだろう。でなければこんなことまでは分からない。私は本を読み終えると、ゆっくりページを閉じる。そして、地下室を出た。
ヤーフィスの書には、ある一つの真実が書かれていた。それは私の娘、次女オリヴィアについての記述だ。
ヤーフィスの書は、こう記していた。私の娘、オリヴィアは白き狼神から生まれた半神半人、バルバラの生まれ変わりである、と。
こんなこと、すぐには信じられない。しかし、ヤーフィスの書は恐らく的確に言い当てている。もし本当にそうならば、エハルが蘇ろうとしている今、オリヴィアの存在は非常に危ない。仮にエハルがそれに気づいたら、きっとオリヴィアは殺されてしまうだろう。
私はすぐに宮殿へ戻ると、シーグルドにこの事実を伝えに言った。
シーグルドを私の部屋まで呼び出す。今はエハルはまだ完全には目覚めていないはず。私はシーグルドが部屋まで来ると、誰にも聞かれないように小声でこの話を彼に告げた。彼は私から話を聞くと、驚いた表情で大きく目を見開いた。
「まさか、そんなことが……?」
「ヤーフィスの書に書いてあったから、恐らく本当よ。ねえ、シーグルド。私はあの子を守りたい。どうしたらいいかしら……」
シーグルドは動揺する私の肩を静かに抱き寄せる。そして彼は少し考えてから言った。
「もし本当にオリヴィアがバルバラの生まれ変わりなら、エハル神はきっと気づくだろうな。……行動に移すなら今のうちだ」
「行動って?」
私が彼にそう尋ねると、彼は口を開く。
「オリヴィアを、宮殿から遠ざける」
彼の提案に息を呑む。私も脳裏に一度浮かんだ考えだ。やはり、それしか道はないのだろうか。考えても考えても、それしか答えは浮かばない。しかし、急に彼女を遠ざけたらエハルに怪しまれる危険性がある。私はそのことを彼に言った。
「でも、突然遠ざけたらエハル神に怪しまれるんじゃないかしら。何か良い手立てがあるといいんだけれど」
「……確か、オリヴィアは音楽が一番好きだろ。音楽を学ばせるって体でお前の妹、シャルロットの家に預けるってのはどうだ?」
彼の提案は確かに名案だ。それならば必要以上に怪しまれることはないだろう。
「そうね。それなら、エハル神も気づかないかもしれないわ。シャルロットを巻き込んでしまうことになるけれど、お願いしてみる」
こうして私は、早急にシャルロットにお願いした。事情を全て話すことは出来なかったが、彼女は了承してくれた。
愛する娘を1人、こんなに早く手放さなければならなくなるなんて、思ってもいないことだった。永遠の別れというわけではないが、しばらくは一緒にいることが出来ない。
オリヴィア自身も、なぜ突然自分が宮殿から離れなければならないのか理解出来ないだろう。その心境を考えると母親として心苦しかった。
「オリヴィア、身体を大事にね。お父様とお母様はいつでもあなたのことを思っているわ」
「うん、お母様……。行ってきます」
オリヴィアがそう言うと、彼女を乗せた馬車が動き出す。妹シャルロットの嫁ぎ先は、ここより遥かに安全だ。今はこうするしか術がないが、彼女には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
それから少しして、ついに最も恐れていた事態が訪れた。
「やあ、シーグルド。夢の中にいるのも悪くはないが、ようやく全て整ったのでね。君には協力してもらうよ、我が子孫」
「エハル、神……」
エハルが、完全に目覚めたのだ。彼の身体は400年前のままらしい。綺麗な赤髪をなびかせる彼の見た目は、まるで12歳くらいの少年のようだった。
「とはいっても、別に君から王の座を奪ったりはしない。俺は死んだことになっているし、王の座にも興味はないからね。いないものとして、君を補佐するよ」
「……一体、何をするつもりですか」
シーグルドはエハルに尋ねると、彼は美しい顔を歪ませて告げた。
「一掃さ。我が同胞を傷つけた者たちのね」
それからエハルは、その通りにシーグルドを補佐し、他国に戦争を持ちかけようとした。彼は眠っていた400年で、彼らを殲滅する魔法を作り上げたらしい。私たち夫婦は彼に表面上は従うほかなかった。しかし、私はそんな中で、ヤーフィスの書の存在を思い出していた。
"我が子孫よ。エハルはいずれ蘇る。その時に我が家の屈辱を晴らせ。"
あの文で締め括られていたヤーフィスの書。普通に考えれば、当主である私が実行するべきだ。あの書に宿る、大地の呪いという呪術魔法を使えば、恐らくエハルを倒すことが出来る。しかし、代償として大地の呪いを受けた者は死ぬ。
私にはまだ、覚悟が足りない。愛する者たちと会えなくなる覚悟が。しかし、それと引き換えに大勢の命を守ることは出来る。私は悩んでいた。このことは夫、シーグルドにも伝えていない。1人で抱え込むなといつも言われているのに、相談出来ずにいた。
そんなジレンマの中、ついにその時は来た。
「リリアーヌ・ヤーフィス。さあ、時が来た。ヤーフィスの書を渡してもらおうか」
私がちょうど護衛のヨセフと話をしていた時。エハルが私の部屋に来て、私にヤーフィスの書を渡すように言ってきたのだ。無論、大人しく渡せば私は今の生活を守れる。ただし、大勢の命を犠牲にする。
対して、もし渡さなければその時はきっと、私は殺される。家族も無事では済まないかもしれない。
私は、最後まで悩んでいた。どうすべきか悩んで、決めた。私がヤーフィス家当主として選ぶべきは……。
「ヤーフィスの書は、渡しません」
私はエハルを目の前にそう言い切った。
私はさっそく1ページ目を開いて、指先を傷つけ血を滴らす。すると、以前と同じように血は吸い込まれるように本の中に消えると、本は勝手にパラパラとページをめくり、次々と文字を印字していった。
文字が全て印字し終わったのを確認すると、私は2ページ目から読み始める。驚くことに、その内容は以前とは違っていた。
私は必死に読み進める。そこに書いてあったのは驚愕の事実だった。
「嘘……」
そこに記述してあることを信じたくはない。この本には意思があるのだろう。でなければこんなことまでは分からない。私は本を読み終えると、ゆっくりページを閉じる。そして、地下室を出た。
ヤーフィスの書には、ある一つの真実が書かれていた。それは私の娘、次女オリヴィアについての記述だ。
ヤーフィスの書は、こう記していた。私の娘、オリヴィアは白き狼神から生まれた半神半人、バルバラの生まれ変わりである、と。
こんなこと、すぐには信じられない。しかし、ヤーフィスの書は恐らく的確に言い当てている。もし本当にそうならば、エハルが蘇ろうとしている今、オリヴィアの存在は非常に危ない。仮にエハルがそれに気づいたら、きっとオリヴィアは殺されてしまうだろう。
私はすぐに宮殿へ戻ると、シーグルドにこの事実を伝えに言った。
シーグルドを私の部屋まで呼び出す。今はエハルはまだ完全には目覚めていないはず。私はシーグルドが部屋まで来ると、誰にも聞かれないように小声でこの話を彼に告げた。彼は私から話を聞くと、驚いた表情で大きく目を見開いた。
「まさか、そんなことが……?」
「ヤーフィスの書に書いてあったから、恐らく本当よ。ねえ、シーグルド。私はあの子を守りたい。どうしたらいいかしら……」
シーグルドは動揺する私の肩を静かに抱き寄せる。そして彼は少し考えてから言った。
「もし本当にオリヴィアがバルバラの生まれ変わりなら、エハル神はきっと気づくだろうな。……行動に移すなら今のうちだ」
「行動って?」
私が彼にそう尋ねると、彼は口を開く。
「オリヴィアを、宮殿から遠ざける」
彼の提案に息を呑む。私も脳裏に一度浮かんだ考えだ。やはり、それしか道はないのだろうか。考えても考えても、それしか答えは浮かばない。しかし、急に彼女を遠ざけたらエハルに怪しまれる危険性がある。私はそのことを彼に言った。
「でも、突然遠ざけたらエハル神に怪しまれるんじゃないかしら。何か良い手立てがあるといいんだけれど」
「……確か、オリヴィアは音楽が一番好きだろ。音楽を学ばせるって体でお前の妹、シャルロットの家に預けるってのはどうだ?」
彼の提案は確かに名案だ。それならば必要以上に怪しまれることはないだろう。
「そうね。それなら、エハル神も気づかないかもしれないわ。シャルロットを巻き込んでしまうことになるけれど、お願いしてみる」
こうして私は、早急にシャルロットにお願いした。事情を全て話すことは出来なかったが、彼女は了承してくれた。
愛する娘を1人、こんなに早く手放さなければならなくなるなんて、思ってもいないことだった。永遠の別れというわけではないが、しばらくは一緒にいることが出来ない。
オリヴィア自身も、なぜ突然自分が宮殿から離れなければならないのか理解出来ないだろう。その心境を考えると母親として心苦しかった。
「オリヴィア、身体を大事にね。お父様とお母様はいつでもあなたのことを思っているわ」
「うん、お母様……。行ってきます」
オリヴィアがそう言うと、彼女を乗せた馬車が動き出す。妹シャルロットの嫁ぎ先は、ここより遥かに安全だ。今はこうするしか術がないが、彼女には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
それから少しして、ついに最も恐れていた事態が訪れた。
「やあ、シーグルド。夢の中にいるのも悪くはないが、ようやく全て整ったのでね。君には協力してもらうよ、我が子孫」
「エハル、神……」
エハルが、完全に目覚めたのだ。彼の身体は400年前のままらしい。綺麗な赤髪をなびかせる彼の見た目は、まるで12歳くらいの少年のようだった。
「とはいっても、別に君から王の座を奪ったりはしない。俺は死んだことになっているし、王の座にも興味はないからね。いないものとして、君を補佐するよ」
「……一体、何をするつもりですか」
シーグルドはエハルに尋ねると、彼は美しい顔を歪ませて告げた。
「一掃さ。我が同胞を傷つけた者たちのね」
それからエハルは、その通りにシーグルドを補佐し、他国に戦争を持ちかけようとした。彼は眠っていた400年で、彼らを殲滅する魔法を作り上げたらしい。私たち夫婦は彼に表面上は従うほかなかった。しかし、私はそんな中で、ヤーフィスの書の存在を思い出していた。
"我が子孫よ。エハルはいずれ蘇る。その時に我が家の屈辱を晴らせ。"
あの文で締め括られていたヤーフィスの書。普通に考えれば、当主である私が実行するべきだ。あの書に宿る、大地の呪いという呪術魔法を使えば、恐らくエハルを倒すことが出来る。しかし、代償として大地の呪いを受けた者は死ぬ。
私にはまだ、覚悟が足りない。愛する者たちと会えなくなる覚悟が。しかし、それと引き換えに大勢の命を守ることは出来る。私は悩んでいた。このことは夫、シーグルドにも伝えていない。1人で抱え込むなといつも言われているのに、相談出来ずにいた。
そんなジレンマの中、ついにその時は来た。
「リリアーヌ・ヤーフィス。さあ、時が来た。ヤーフィスの書を渡してもらおうか」
私がちょうど護衛のヨセフと話をしていた時。エハルが私の部屋に来て、私にヤーフィスの書を渡すように言ってきたのだ。無論、大人しく渡せば私は今の生活を守れる。ただし、大勢の命を犠牲にする。
対して、もし渡さなければその時はきっと、私は殺される。家族も無事では済まないかもしれない。
私は、最後まで悩んでいた。どうすべきか悩んで、決めた。私がヤーフィス家当主として選ぶべきは……。
「ヤーフィスの書は、渡しません」
私はエハルを目の前にそう言い切った。
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