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第3章

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 宮殿で暮らし始めてから、2週間。宮殿の広さや使用人の多さに初めは戸惑っていたが、2週間も経ち、次第に慣れてきていた。
 王妃に相応しい美しいドレスは、今でも少し私に馴染まないような気はしているが、このドレスは私の王妃としての覚悟を不思議と強めてくれた。
 今日はついにシーグルドとの婚儀の日。私は純白なドレスに着替え、王妃のティアラを頭に付ける。耳飾りなどは豪華な装飾品を身に付けることになったが、ネックレスはあの日通したお母様の指輪のままにした。待ちに待ったこの日は、私にとって特別な日。大好きな人と結ばれる今日は、きっと私にとっては最高の思い出となる。
 式には、来賓の方々もたくさん訪れることだろう。私はその中で、未だ手紙の返事が届かないエルのことが気になっていた。
 エルは結局、妹シャルロットとの縁談は断り、まだ誰とも縁談を進めていないようだ。私に想いを伝えてくれた彼の言葉は今でも覚えている。しかし、もう過去のことだ。私も彼も、前に進まなくてはいけない。私は最後に白いヴェールを頭の上に被ると、式場に向かった。
 宮殿の長い廊下を歩き、宮殿内の教会へと向かう。しばらくして、教会の入り口に着いた。私が到着すると、たちまち教会内から演奏が流れる。私は合図とともに入場した。
 赤い絨毯が続く道を、ゆっくり歩いて行く。来賓の一同が私を見つめる。私はまっすぐ前を向いて道を進んで行った。尻目に、エルの姿が見える。彼は私たちの式に出席してくれたようだった。
 奥では白いタキシード姿のシーグルドが微笑みながら待つ。私は教会の奥まで進むと、彼の手を取った。式は滞りなく進んでいく。私たちはお互いの誓いを立てて、向き合った。
 シーグルドが私のベールを取る。私はそれに合わせて小さく屈んだ。私たちはお互いに見つめ合うと、初めての口付けを交わした。
 その後、結婚式は無事に終わった。私は式が終わると、再び違うドレスに着替える。そして身につけていた装飾品などを違うものに取り替えていると、部屋が唐突にノックされた。
 ドアノブを回して部屋に入ってきたのはシーグルドだった。私は入ってきた彼に言った。

「あのドレス、どうだった? 一番シンプルなものを選んだの」

 私がそういうと彼は微笑んでいつもの調子で言った。

「さすがはリリアーヌ殿。着こなしは誰よりも上手でしたよ」

「その呼び方はやめてっていつも言っているでしょう」

 私が不満げにそう言うと彼はいつにもなく真剣な声色で告げた。

「お前の姿を見て、俺は一番の幸せ者だって思ったよ」

 私はその言葉に彼の顔を見上げる。彼は私の視線に気づくと笑った。

「なんて、な。まあ本当のことだが」

「どっちよ……」

 私が怪訝な顔で彼を見つめると、彼は面白そうに笑った。私も彼に釣られて微笑んだ。私たちは結婚してもきっとこんな感じだろう。この関係はいつまで経っても変わらないはずだ。それが私には心地良かった。
 それから少しして、私は17歳にして正式にイサーク王国の王妃となり、またヤーフィス公爵家の当主にも兼任でなった。護衛、ヨセフは変わらず私の護衛としてそばにいてくれた。
 王妃となってからは今まで以上に忙しかった。宮殿とヤーフィス家を度々馬車で往復する生活が続いた。ヤーフィス家のおば様に任せることも出来るが、それでは結局当主という立場に意味がなくなってしまう。そんな意地もあって、私はしばらくこの忙しい日々を過ごした。
 そんなある日の夜、シーグルドに部屋に呼ばれ、私は彼の部屋へ訪れた。彼の部屋をノックして、返事が聞こえてから部屋に入る。彼はまだ公務中だった。

「今日はまだ忙しいのでしょう? 何か用?」

 私は彼にそう疑問を投げかける。彼は椅子から立ち上がると言った。

「まあ忙しいが、最近のお前に比べたらそうでもないかもな」

 そういえば、最近は結婚したばかりだというのにお互い忙しくてあまり会えていなかった。早く新しい環境に慣れようと必死だったからかも知れない。彼は俯く私の方へ近寄ると、ワインボトルを片手に微笑んだ。

「いつかの日みたいに、バルコニーでお酒などはどうですか? お嬢さん」

 彼が私に気分転換をさせてくれようとしているのが分かった。私は彼の提案に頷いた。

「ええ、喜んで」

 私たちは別室の広いバルコニーに向かうと、そこに置いてあった白い机を挟んでお互い椅子に座った。季節は次第に暖かくなる時期。柔らかく吹く暖かい風が心地良かった。
 空には、数々の星が揺らめいている。幻想的な世界の中、私はグラスを片手に、注がれたワインを飲む。久しぶりのお酒は、以前シーグルドと一緒に飲んだ甘い果実の味がした。

「このお酒、以前あなたの卒業パーティーで出されていたもの?」

「お、よく気づいたな。俺のお気に入りの一つ。美味いだろ」

「ええ、とっても」

 最近は疲れていて、全くリフレッシュなんて出来ていなかった。私はふと、グラスの中のお酒の泡を見つめる。そんな私に彼が口を開いた。

「最近、働きすぎじゃないか?」

「……そうかしら。自分では、このくらいのことは義務に感じてしまう。早くこの状況に慣れたいと思うの」

 私がグラスを持ちながらそう言うと、彼はまっすぐ私を見つめる。私は彼の視線に気づくと彼に聞いた。

「何?」

「いや、随分お疲れ顔だなと思ってな」

「え、そんな顔に見えるかしら?」

 私は自分の顔を触って確認する。すると、シーグルドは私のその様子を見て突然笑い出した。私は怒り口調で彼に言った。

「何よ、またお決まりの冗談?」

「今回は本当だって! ただ単純に、可愛いと思っただけだよ」

 彼は笑いながらサラッとそのようなことを言う。彼の言葉は私の頬を赤く染めるには十分だった。彼は笑いを堪えるように切り替えると私に言った。

「あんまり1人で抱え込むなよ。俺も手伝うから。俺たちはもう夫婦なんだから、何も相談なしだと純粋に俺が寂しいわけ」

 彼の言葉に私は笑みを浮かべる。彼は私のことを心配してくれているのがよく分かった。

「……ありがとう、シーグルド。これからはちゃんと相談する。あなたも何かあったら私に相談してね」

「どういたしまして、俺もそうするよ。優しい奥さんに巡り会えて幸せだな、俺は」

 いつもの調子で彼はそんなことを言う。私たちはその後、少しお酒を飲んでから結婚式の時のようにキスをした。二度目のキスは、お酒の甘い果実の味がした。
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