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第3章
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つまり、私が以前狼神の森で会った大きな白い狼は、私のご先祖、バルバラを生み出した狼神ということになる。だから、あの狼神は私を助けてくれたのだろうか。
私がそのように考えていると、シーグルドが口を開いた。
「それと、お前にもう一つ言っておかなければならない話がある。」
彼にそう改まって言われる。私は彼を見上げて、言葉の続きを待った。しばらくして、彼は話を続けた。
「世間一般には、エハル神は死去したといわれているとさっき話しただろ。それは、事実とは少し違う。……これは国王になる者にしか教えられない事実だが、
彼は、死んでいない。今なおこの宮殿で眠り続けている」
「え……」
想像もしなかった事実に、冷や汗をかく。エハル神は、死んでいない……? そんなこと、あり得るのだろうか。私は彼にその疑問を投げかける。
「そんなこと、あり得るの? 建国から一体何年経っていると思っているの?」
イサーク王国建国からはもう、400年ほど経っている。普通の人間ならばあり得ない。
「エハル神は、狼神の子。彼は人間の姿をしているが、神であることに変わりはない。俺もこの目で一度見たが、彼は昔と変わらない姿のまま、今も眠り続けている」
「そんな真実が、王族にはあっただなんて……」
続く驚きにそれ以外の言葉は出なかった。400年以上も前の歴史上人物、はたまた建国神が、今も生きているだなんてこの上ない驚きだ。
「……ただ、いつ目覚めるのか、なぜ眠り続けているのかは分からない。だから俺たち王族は、エハル神が目覚めるまで彼を守ることが義務だ」
シーグルドが目を伏せてそう言う。私は何も言うことが出来なかった。彼は一呼吸置くと、私の緊張を解くようにいつもの調子で言った。
「ま、そんなところだ。これが、俺たち王族しか知らない、狼神伝説の本当の話。言えば、エハル神が目覚めない限りは、俺たちはこの国を治めるのが仕事」
謎ばかりが増えていく。エハル神はなぜ眠りについたのだろうか。エハルが死んでいないのなら、なぜ同じ狼神の子であるヤーフィス家の先祖、バルバラはどこにもいないのか。
考える度に、分からなくなる。もしかしたら、ヤーフィス家にも何か情報があるのではないだろうか。私はシーグルドに言った。
「……卒業して一度ヤーフィス家に戻ったら、お屋敷を探してみる。もしかしたら何か手がかりが見つかるかも知れないから」
「分かった。無理はするな」
私はその言葉に頷くと、その日は宮殿を後にした。ヤーフィス家が旧王家と狼神の子、バルバラの子孫ならば、きっと何か手がかりがあるはずだ。私は馬車に乗って学校へ戻ると、その日は夜まで今日聞かされた王族の秘密について考えていた。
それから少し経ち、私は王立魔道学校の卒業式を迎えた。卒業式は滞りなく進んだ。お父様とお母様に卒業した私を見せることは出来なかったが、きっと2人は空から見てくれていると思った。
式が終了して裏庭に出ると、私はもう戻って来ることはない、校舎を見つめる。6年間、さまざまなことを経験した学校。今、私はその学校を出るのだ。
私が思い深く校舎を見つめていると、隣で同じように見ていたアナが言った。
「ついに、卒業ね。もうリリアとはしばらく会えなくなるわね」
「そうね。でも、いつでも会おうと思えば会えるわ。時々遊びましょうね」
「ええ、もちろんよ」
私はアナに「卒業おめでとう」と言うと、彼女も同じ言葉を私に言ってくれた。
私がアナと校舎を出ようとした時、見知った銀髪の少女が目に映る。彼女は紛れもなくパトリシアだった。彼女はこちらに気づいていないようだったが、私は思い切って彼女に話しかけた。
「パトリシア」
私がそう言うと彼女は振り返る。私を見るなりその表情を険しくした。
「よく話しかけられたわね。別にあなたの顔を見に来たわけじゃないわ」
彼女は少し痩せたようだったが、思ったよりも元気そうだった。彼の兄には命を奪われそうにもなったが、私はあえて彼女にこの言葉を贈った。
「6年間ありがとう、パトリシア」
私がそう言ったことに彼女は目を見開く。その後すぐに顔を横に向けた。
「言っておくけれど、私はまだあなたを恨んでいるわ。いつか絶対、あなたを超えてみせる」
私は彼女のその言葉に微笑んだ。
「……元気でね、体には気をつけて」
彼女は私の言葉にそっぽを向けて、門の方へ歩いて行った。彼女らしくて、なぜだか安心した。
その後、私とアナも門を出た。彼女とはそこでお別れをする。私はシーグルドからの護衛、ヨセフが待つ馬車へと乗り込むと、ヤーフィス家へと帰った。
数時間後。ヤーフィス家に着くと、私は着替えてからさっそく家中を歩き回った。ヤーフィス家はとても広い。隅から隅まで見ると、かなり時間がかかりそうだった。
しかし、探してみるしかない。ヤーフィス家の秘密を知りたかった。
私はおば様に怪しまれないように彼女の部屋は通らないようにして家中を隈なく探し回った。部屋を一つ一つ調べて、どこかに秘密がないか探った。
それから2時間ほど費やした時。しばらく歩いて、突き当たりの廊下を進む。そこには奥まで続く長い廊下があった。私はその廊下をゆっくり進む。そういえば、ここには一度も立ち寄ったことがない。私はその廊下を進む。すると、2つの並ぶ部屋が見えた。
私は手前の部屋を開けると、そこは使われていないようで、それ以外の部屋よりも埃っぽかった。私は部屋の隅から隅まで探っていく。その時、どこからか風が吹き出る音がした。私は壁に耳を当て、静かに音を聞く。やはり、どこからか風が抜けている。
私はどこかに何か仕掛けがないか手当たり次第探していると、壁に飾られた絵画に目がつく。何となく絵画を外してみた。するとそこに鎖のようなものが壁から垂れているのを発見した。私はゆっくり鎖を手前に引いてみる。すると、後ろから鍵が開く音とともに本棚が少し手前へ浮いた。
どうやら、本棚が扉をカモフラージュしているようだ。私は本棚をゆっくり動かすと、そこにはもう一つの扉を見つける。ゆっくり扉を開くと、中には地下に続く階段が見える。私は光の魔法を使って小さな光を前にかざすと、ゆっくりその階段を降りて行った。
私がそのように考えていると、シーグルドが口を開いた。
「それと、お前にもう一つ言っておかなければならない話がある。」
彼にそう改まって言われる。私は彼を見上げて、言葉の続きを待った。しばらくして、彼は話を続けた。
「世間一般には、エハル神は死去したといわれているとさっき話しただろ。それは、事実とは少し違う。……これは国王になる者にしか教えられない事実だが、
彼は、死んでいない。今なおこの宮殿で眠り続けている」
「え……」
想像もしなかった事実に、冷や汗をかく。エハル神は、死んでいない……? そんなこと、あり得るのだろうか。私は彼にその疑問を投げかける。
「そんなこと、あり得るの? 建国から一体何年経っていると思っているの?」
イサーク王国建国からはもう、400年ほど経っている。普通の人間ならばあり得ない。
「エハル神は、狼神の子。彼は人間の姿をしているが、神であることに変わりはない。俺もこの目で一度見たが、彼は昔と変わらない姿のまま、今も眠り続けている」
「そんな真実が、王族にはあっただなんて……」
続く驚きにそれ以外の言葉は出なかった。400年以上も前の歴史上人物、はたまた建国神が、今も生きているだなんてこの上ない驚きだ。
「……ただ、いつ目覚めるのか、なぜ眠り続けているのかは分からない。だから俺たち王族は、エハル神が目覚めるまで彼を守ることが義務だ」
シーグルドが目を伏せてそう言う。私は何も言うことが出来なかった。彼は一呼吸置くと、私の緊張を解くようにいつもの調子で言った。
「ま、そんなところだ。これが、俺たち王族しか知らない、狼神伝説の本当の話。言えば、エハル神が目覚めない限りは、俺たちはこの国を治めるのが仕事」
謎ばかりが増えていく。エハル神はなぜ眠りについたのだろうか。エハルが死んでいないのなら、なぜ同じ狼神の子であるヤーフィス家の先祖、バルバラはどこにもいないのか。
考える度に、分からなくなる。もしかしたら、ヤーフィス家にも何か情報があるのではないだろうか。私はシーグルドに言った。
「……卒業して一度ヤーフィス家に戻ったら、お屋敷を探してみる。もしかしたら何か手がかりが見つかるかも知れないから」
「分かった。無理はするな」
私はその言葉に頷くと、その日は宮殿を後にした。ヤーフィス家が旧王家と狼神の子、バルバラの子孫ならば、きっと何か手がかりがあるはずだ。私は馬車に乗って学校へ戻ると、その日は夜まで今日聞かされた王族の秘密について考えていた。
それから少し経ち、私は王立魔道学校の卒業式を迎えた。卒業式は滞りなく進んだ。お父様とお母様に卒業した私を見せることは出来なかったが、きっと2人は空から見てくれていると思った。
式が終了して裏庭に出ると、私はもう戻って来ることはない、校舎を見つめる。6年間、さまざまなことを経験した学校。今、私はその学校を出るのだ。
私が思い深く校舎を見つめていると、隣で同じように見ていたアナが言った。
「ついに、卒業ね。もうリリアとはしばらく会えなくなるわね」
「そうね。でも、いつでも会おうと思えば会えるわ。時々遊びましょうね」
「ええ、もちろんよ」
私はアナに「卒業おめでとう」と言うと、彼女も同じ言葉を私に言ってくれた。
私がアナと校舎を出ようとした時、見知った銀髪の少女が目に映る。彼女は紛れもなくパトリシアだった。彼女はこちらに気づいていないようだったが、私は思い切って彼女に話しかけた。
「パトリシア」
私がそう言うと彼女は振り返る。私を見るなりその表情を険しくした。
「よく話しかけられたわね。別にあなたの顔を見に来たわけじゃないわ」
彼女は少し痩せたようだったが、思ったよりも元気そうだった。彼の兄には命を奪われそうにもなったが、私はあえて彼女にこの言葉を贈った。
「6年間ありがとう、パトリシア」
私がそう言ったことに彼女は目を見開く。その後すぐに顔を横に向けた。
「言っておくけれど、私はまだあなたを恨んでいるわ。いつか絶対、あなたを超えてみせる」
私は彼女のその言葉に微笑んだ。
「……元気でね、体には気をつけて」
彼女は私の言葉にそっぽを向けて、門の方へ歩いて行った。彼女らしくて、なぜだか安心した。
その後、私とアナも門を出た。彼女とはそこでお別れをする。私はシーグルドからの護衛、ヨセフが待つ馬車へと乗り込むと、ヤーフィス家へと帰った。
数時間後。ヤーフィス家に着くと、私は着替えてからさっそく家中を歩き回った。ヤーフィス家はとても広い。隅から隅まで見ると、かなり時間がかかりそうだった。
しかし、探してみるしかない。ヤーフィス家の秘密を知りたかった。
私はおば様に怪しまれないように彼女の部屋は通らないようにして家中を隈なく探し回った。部屋を一つ一つ調べて、どこかに秘密がないか探った。
それから2時間ほど費やした時。しばらく歩いて、突き当たりの廊下を進む。そこには奥まで続く長い廊下があった。私はその廊下をゆっくり進む。そういえば、ここには一度も立ち寄ったことがない。私はその廊下を進む。すると、2つの並ぶ部屋が見えた。
私は手前の部屋を開けると、そこは使われていないようで、それ以外の部屋よりも埃っぽかった。私は部屋の隅から隅まで探っていく。その時、どこからか風が吹き出る音がした。私は壁に耳を当て、静かに音を聞く。やはり、どこからか風が抜けている。
私はどこかに何か仕掛けがないか手当たり次第探していると、壁に飾られた絵画に目がつく。何となく絵画を外してみた。するとそこに鎖のようなものが壁から垂れているのを発見した。私はゆっくり鎖を手前に引いてみる。すると、後ろから鍵が開く音とともに本棚が少し手前へ浮いた。
どうやら、本棚が扉をカモフラージュしているようだ。私は本棚をゆっくり動かすと、そこにはもう一つの扉を見つける。ゆっくり扉を開くと、中には地下に続く階段が見える。私は光の魔法を使って小さな光を前にかざすと、ゆっくりその階段を降りて行った。
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