リリアーヌと復讐の王国

Blauregen

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第2章

2-11

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 16歳の春、私は最終学年の6学年に進級した。アナとパトリシアとは結局6年間同じクラスで、一度も離れることはなかった。それ程2人にも魔法の実力があるということだ。
 学校生活が後1年しかないというのは少しだけ寂しくもあったが、私にとっては卒業してからが重要になってくる。私は今のまま公妾でいるわけにはいかない。卒業したら、公妾として宮殿に住まなければならない。そのまま受け入れたら、きっとヤーフィス家の当主には戻れなくなる。
 それにこのままいけば、シーグルドが即位した時はパトリシアが王妃だ。公妾はもちろん、王妃の下の身分。学校を卒業してからもパトリシアの下でこき使われるのはごめんだ。
 私はヤーフィス家の当主の座をおば様から奪い返す手立てを考える。そういえば、当主の座を証明する神槍は、まだ私が持っている。私が学校を卒業すると同時に、おば様に返すことになっていた。それを上手く使えば、当主の座を奪い返すことが出来るかもしれない。
 そもそも、なぜ現当主であるおば様ではなく、外に嫁いだお母様が神槍を持っていたのだろう。神槍はヤーフィス家当主の証のはずだ。ヤーフィス家のことを考えると、謎ばかりが広がった。
 季節は春から夏になり、再び秋がやって来る。時の流れは無情にも早く動いていく。私は結局何の手立ても見つけられていない。このままでは、本当にあの神槍を手放すことになってしまう。お母様との約束を破るわけにはいかないのに。
 私はアナにもこのことについて何度か相談した。

「アナ。どうしたら神槍を返さずにいられるかしら……」

「ごめんなさい。私には何の策も思い浮かばないわ」

 しかし、アナも良い案は思いつかないようだった。
 私がどうするかずっと悩んでいた時、唐突に、ある大きな知らせが学校中を駆け巡った。私が秋が更け、そろそろ冬になる頃だった。

「国王陛下が、亡くなった……?」

「ええ、つい一昨日のことらしいわ」

 私はアナからその話を聞いて驚きの声を上げる。国王陛下は確か初老だったため、年齢的なものか、病かもしれない。
 国王の話と同時に、私は次の国王についての知らせも気になった。シーグルドのご両親はすでに亡くなっているはずだから、現在、王国を直系で継げるのは第一王子のシーグルドか第二王子のシアン様のみ。ということは順当にシーグルドが継ぐのはまず間違いない。そうなると、同じく順当にパトリシアが次期王妃になるはずだ。
 私はアナに確定情報を尋ねた。

「となると、シーグルドはすぐに国王になるの?」

「きっとそうなるわ。あなたも戴冠式には出席することになるはず。こうなると、ますますあなたはヤーフィス家から遠ざかることになってしまう」

 アナの言う通りだ。シーグルドがこんなに早く国王になるならば、私は卒業してからすぐ公妾としての生活を本格的に始めなくてはいけなくなる。
 私はヤーフィス家を継がなくてはならないのに、それでは神槍をおば様に早く返す口実が増えるだけだ。
 アナが考え込む私の顔を見て言った。

「パトリシアはきっと、調子に乗るわね。もし顔を合わせたくなければ、しばらく授業を欠席してもいいと思う」

 アナは心配して私にそう言う。しかし、私は彼女の提案を丁重に断った。

「大丈夫よ。彼女には慣れているから」

 戴冠式まではしばらく期間があった。その間、アナの予想した通りパトリシアは舞い上がっていた。彼女は取り巻きたちに囲まれて今までにないくらい幸せそうだ。
 当然だ。彼女は婚儀が済めば、この国の王妃になるのだから。私はその期間、何となく嫌な気持ちがして、なるべくパトリシアとは会わないようにした。
 それから数日後。長期休暇ではないが、戴冠式のため私は特例でヤーフィス家に一度戻った。私とおば様は戴冠式に出席しなくてはならない。私は初めておば様と同じ馬車に乗ると、宮殿の教会に向かった。
 馬車の中では終始ほとんど無言で、馬車の小気味好い音だけが響いていた。数時間して宮殿の教会に着くと、用意された椅子に座る。そして、戴冠式が始まった。
 シーグルドは堂々とした表情で登場する。その表情は私といる時とは全く異なり、王としての風格が現れていた。戴冠式は滞りなく進んでいく。シーグルドは煌びやかな王冠を頭に乗せられる。ここに、シーグルドが国王として即位した。
 未だに信じられない。彼は今、19歳にしてこの国の王となったのだ。皆が恭しく彼にこうべを垂れる。私も彼らと同じように頭を下げた。
 戴冠式は無事終わり、私は一度ヤーフィス家へと帰宅する。ドレスを着替え荷物を纏めると、数日で再び王都の学校へ戻った。
 彼はもう、一国の王だ。これまでのように当たり障りなく接することは出来なくなるだろう。そのことに少し寂しさを感じながらも、私は変わらず学校生活を続けた。
 そんなある日のこと。休み時間に、突然パトリシアが教室の扉を大きな音を立てて開ける。そしていつもの上品な足取りではなく、大きな靴音を立ててこちらへ向かって歩いてきた。
 私はそのただならぬ音に顔を上げる。彼女はものすごい形相で、私の方へ一直線に向かってきて言い放った。

「一体どういうつもりよ!!」

 私はその言葉の意味を理解出来ず、立ち上がって聞き返した。

「突然何? 話が見えないのだけれど」

 彼女は今までで一番憤慨している。私も彼女を睨み続ける。彼女は口を開いて怒鳴り口調で言った。

「とぼけないで! あなた、一体どういう手を使ったの? こんな人だなんて思っていなかった。いつか私に言ったわね? 殺すって。私だって同じ気持ち。いつかあなたを殺してやるわ」

 彼女の口から物騒な言葉が出る。私は何が起こっているか分からず、ものすごい形相でいる彼女を睨み続けていると、アナが私たちに割って入った。

「一体どうしたというのパトリシア。あなたらしくないわ」

 パトリシアは仲裁に入ったアナを押し退ける。アナは反動でよろけた。

「教えてあげるわアナ。この女はシーグルド様に色目を使って、私から王妃の座を奪い去ったのよ!」

 その言葉に私の思考は停止する。今、彼女は何と言ったのだ。私は信じられず、パトリシアに聞く。

「今、なんて?」

「白々しいわね。あなたがそう仕向けたくせに! ……シーグルド様は私との婚約を破棄し、代わりにあなたを婚約者にすると仰せだわ。やっぱりヤーフィス家は汚れた一族ね。権力のためなら何でもする野良犬よ!」

 そう言って激昂するパトリシアに首を絞められる。私は突然のことに何も出来ずに佇む。アナが咄嗟にパトリシアに眠りの魔法を使い、彼女はしばらくして手を緩め、眠りについた。そして、倒れそうになる彼女をアナが受け止めた。
 私は眠りについたパトリシアを見つめる。何とも言えない感情が私の中を駆け巡る。私はパトリシアを介抱するアナに言った。

「彼と、話をしてくるわ」

 私は彼と話をしなくてはいけない。私は教室を出ると、急ぎ宮殿へと向かった。
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