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第2章
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ヤーフィス家のおば様から、衝撃的な内容の手紙が届いた。それは私たちをヤーフィス家に引き取るというものだが、おば様は私たちを嫌っていたはずだ。なのに突然手のひらを返すような手紙を送ってきた。
何か裏があるのかもしれないが、私たちにはなす術がない。本来ならどちらに行くか選べるが、ヤーフィス家はアーノルド家よりも権威がある。そのヤーフィス家が引き取るというのだからアーノルド家のおじ様にも止められるはずがない。
私は大人になったらヤーフィス家を継ぐことが決まっているが、シャルロットは違う。ヤーフィス家に行ったら絶対に不幸になる。それは確信出来た。
「残念だがリリア、先程の話は白紙になるね……」
「……そうみたいですね」
おじ様が私の肩に手を置く。そして真剣な目で言った。
「リリア。もし不遇な目に遭ったら、いつでもアーノルド家に戻ってきなさい。ここは変わらず君たちの家だから」
「ありがとうございます、おじ様」
こうして、私たちはお母様の実家であるヤーフィス公爵家へ行くことになった。おば様は神聖魔法を使える私やお母様を恨んでいるはずだ。私たちに何もしてこないわけがない。
私はヤーフィス家へ行く馬車の中でシャルロットを抱きしめる。
「シャルロット、何かあったらすぐお姉様に言いなさい。私が必ず何とかしてみせるから」
「? 分かったわ、お姉様」
ヤーフィス公爵家は同じ北区にありながら、王都には近い。凍えるような雪道を通り、長い時間が過ぎると、馬車が止まった。
「お嬢様、ヤーフィス家に着きましたよ」
馬車から覗くと、そこには立派なお城のような建物があった。ヤーフィス家には小さい頃、数回訪れただけで記憶はあまりない。シャルロットも同様だろう。私たちは馬車を降りると、大きな門を抜けて玄関先へ向かった。
大きな玄関が開けられる。中に入るとそこにはお母様によく似た1人の女性が立っていた。
「リリアーヌ、シャルロット。久しぶりね。覚えているかしら? 私はカレン・ヤーフィス。あなたたちのお母様の姉よ」
「こんにちは、おば様。リリアーヌです。これからお世話になります」
そう言ってお辞儀をし、シャルロットにも挨拶を促すと、彼女も同じように挨拶をした。
「シャルロットです。よろしくお願いいたします」
「堅苦しい挨拶は要らないわ。私たちは家族になるのだから。ほらあなたも挨拶なさい」
おば様がそう言うと後ろから私たちと同い年くらいの青年が姿を現した。
「マルセル・ヤーフィスです。よろしく」
マルセルと名乗った彼と握手をする。マルセルは私たちの従兄弟だ。幼い頃に一緒に遊んだことがある。
「マルセルは私の1人息子。あなたたちの従兄弟よ。年はリリアの1つ上。あなたたちはこれから兄弟になるのだから、仲良くね」
「はい、おば様」
「ヤーフィス公爵家にようこそ。ここは今日からあなたたちの家よ。自由に使ってね」
おば様はそう優しく微笑む。でも、その笑顔にはきっと裏がある。私はシャルロットの手をしっかり握ってお屋敷の中に入った。
お屋敷内を隅々まで案内され、最後に私たちの部屋に辿り着く。シャルロットと私の部屋は隣だった。
「それにしても、広いですね。ヤーフィス家は」
「我が家は今や三大貴族家にも匹敵する権威があるもの。あなたたちもこれからは王都で開かれる社交界には出席してもらうから、そのつもりでね」
おば様はそう言うと笑顔を作った。
その後、私とシャルロットはそれぞれ部屋に入ると、荷物の整理をする。あの時お母様の指から引き取ったアクアマリンの指輪も持ってきていた。
私の指には少し大きい、その指輪。私はお気に入りのネックレスを取ると、そこに掛かっていたハートのチャームを外す。そして、お母様の指輪を代わりにチェーンに通した。
鏡を前に、指輪が掛かったネックレスを付ける。付け終わって鏡に写る自分を見ると、胸元に指輪のアクアマリンが美しく輝いていた。
「お母様……」
胸元の指輪を優しく触る。指輪を身につけていると、お母様を近くに感じられる気がした。
しばらくして、部屋がノックされる。部屋に入ってきたのはおば様だった。
「リリア、少しお話があるの。よかったら私の部屋まで来てくれない?」
そう言うおば様の微笑みが怖く感じた。私は素直に了承すると、おば様についていく。その間に会話は一切なく、長い廊下を抜けてようやくおば様の部屋の前まで辿り着いた。
部屋に入室すると、机を挟んで奥側のソファに腰掛けるように促される。私は大人しくそこに座った。
「それで、お話とは?」
「単刀直入に言うわ」
おば様は目を伏せると、私とおば様の前に紅茶を出すよう使用人に促す。机の上に白いティーカップが2つ置かれた。
「あなたとシャルロットの縁組を行いたいの」
私はその言葉に目を大きく見開く。そして、おば様がなぜ私たちを引き取ったのか一瞬で理解した。おば様の狙いはこれだったのだ。
私たちを誰かと結婚させればおば様は富を得られるし、私が外に嫁げばヤーフィス家を相続出来なくなる。そうすればお金を得て、私を追い出せて一石二鳥だ。
「……私はヤーフィス家の跡取りですよ? お母様から当主の神槍も受け取っています。それに、シャルロットに関してはまだ11歳になったばかりです」
「年齢なんて関係ないわ。それに、あなたは我が家のことなんて考えなくていいのよ? 私たちは神聖魔法を使えないけれど、あなたが外に嫁げば、当主の権限は私たちに移る。あなたも好きに生きれてお互い利益があるじゃない」
私はその言葉に思わず席を立つ。ティーカップがその弾みで音を立てた。
「私は誰が何と言おうと、ヤーフィス家の跡取りです。お母様に任されたからには譲りません」
「……品がないわね、リリアーヌ。突然席を立たないでちょうだい」
おば様はそう言って何事もなかったかのようにティーカップに口を付ける。私は怒りを露わにしたまま着席した。
「でも、自分の立場を分かっているかしら? 今やあなたはヤーフィス家の娘。私がいなければ学校にも通えないわ」
「辞めろと仰せならいつでも辞める覚悟です」
「……それじゃあ、シャルロットは?」
その言葉に体の動きが静止する。私は自分のことしか頭になかった。そうだ、シャルロットは来年からようやく音楽の学校に通う。でも、おば様が認めなければ通うことは出来ない。
おば様は私を丸め込むためにこのような話をしているのだ。
「何も言えないのね。シャルロットは確か、音楽を勉強したいのよね? あなたのわがままで、シャルロットの夢が潰えることになってもいいのかしら?」
私は何も言えず、下を向く。悔しいが、私がここで了承しなければシャルロットの邪魔をしてしまうことになる。そんなこと、私には出来ない。
今は頷くしかない。今は従っても、いずれヤーフィス家跡取りの座を奪い返す時が来るかもしれない。そう精いっぱい考えることしか出来なかった。
私は悔しさを必死に隠して静かに頷く。
「……分かりました。おば様に従います」
私がそう言うとおば様は満足したように口角を上げた。
「あなたは賢い子だと信じてたわ。なら、この話は成立ね。さっそくだけれど、あなたに良い縁談を考えたわ」
私は静かにおば様の話に耳を傾ける。俯いていた顔を上げて、彼女を睨むようにして小さな声で言った。
「どなたですか」
「……第一王子、シーグルド様よ」
何か裏があるのかもしれないが、私たちにはなす術がない。本来ならどちらに行くか選べるが、ヤーフィス家はアーノルド家よりも権威がある。そのヤーフィス家が引き取るというのだからアーノルド家のおじ様にも止められるはずがない。
私は大人になったらヤーフィス家を継ぐことが決まっているが、シャルロットは違う。ヤーフィス家に行ったら絶対に不幸になる。それは確信出来た。
「残念だがリリア、先程の話は白紙になるね……」
「……そうみたいですね」
おじ様が私の肩に手を置く。そして真剣な目で言った。
「リリア。もし不遇な目に遭ったら、いつでもアーノルド家に戻ってきなさい。ここは変わらず君たちの家だから」
「ありがとうございます、おじ様」
こうして、私たちはお母様の実家であるヤーフィス公爵家へ行くことになった。おば様は神聖魔法を使える私やお母様を恨んでいるはずだ。私たちに何もしてこないわけがない。
私はヤーフィス家へ行く馬車の中でシャルロットを抱きしめる。
「シャルロット、何かあったらすぐお姉様に言いなさい。私が必ず何とかしてみせるから」
「? 分かったわ、お姉様」
ヤーフィス公爵家は同じ北区にありながら、王都には近い。凍えるような雪道を通り、長い時間が過ぎると、馬車が止まった。
「お嬢様、ヤーフィス家に着きましたよ」
馬車から覗くと、そこには立派なお城のような建物があった。ヤーフィス家には小さい頃、数回訪れただけで記憶はあまりない。シャルロットも同様だろう。私たちは馬車を降りると、大きな門を抜けて玄関先へ向かった。
大きな玄関が開けられる。中に入るとそこにはお母様によく似た1人の女性が立っていた。
「リリアーヌ、シャルロット。久しぶりね。覚えているかしら? 私はカレン・ヤーフィス。あなたたちのお母様の姉よ」
「こんにちは、おば様。リリアーヌです。これからお世話になります」
そう言ってお辞儀をし、シャルロットにも挨拶を促すと、彼女も同じように挨拶をした。
「シャルロットです。よろしくお願いいたします」
「堅苦しい挨拶は要らないわ。私たちは家族になるのだから。ほらあなたも挨拶なさい」
おば様がそう言うと後ろから私たちと同い年くらいの青年が姿を現した。
「マルセル・ヤーフィスです。よろしく」
マルセルと名乗った彼と握手をする。マルセルは私たちの従兄弟だ。幼い頃に一緒に遊んだことがある。
「マルセルは私の1人息子。あなたたちの従兄弟よ。年はリリアの1つ上。あなたたちはこれから兄弟になるのだから、仲良くね」
「はい、おば様」
「ヤーフィス公爵家にようこそ。ここは今日からあなたたちの家よ。自由に使ってね」
おば様はそう優しく微笑む。でも、その笑顔にはきっと裏がある。私はシャルロットの手をしっかり握ってお屋敷の中に入った。
お屋敷内を隅々まで案内され、最後に私たちの部屋に辿り着く。シャルロットと私の部屋は隣だった。
「それにしても、広いですね。ヤーフィス家は」
「我が家は今や三大貴族家にも匹敵する権威があるもの。あなたたちもこれからは王都で開かれる社交界には出席してもらうから、そのつもりでね」
おば様はそう言うと笑顔を作った。
その後、私とシャルロットはそれぞれ部屋に入ると、荷物の整理をする。あの時お母様の指から引き取ったアクアマリンの指輪も持ってきていた。
私の指には少し大きい、その指輪。私はお気に入りのネックレスを取ると、そこに掛かっていたハートのチャームを外す。そして、お母様の指輪を代わりにチェーンに通した。
鏡を前に、指輪が掛かったネックレスを付ける。付け終わって鏡に写る自分を見ると、胸元に指輪のアクアマリンが美しく輝いていた。
「お母様……」
胸元の指輪を優しく触る。指輪を身につけていると、お母様を近くに感じられる気がした。
しばらくして、部屋がノックされる。部屋に入ってきたのはおば様だった。
「リリア、少しお話があるの。よかったら私の部屋まで来てくれない?」
そう言うおば様の微笑みが怖く感じた。私は素直に了承すると、おば様についていく。その間に会話は一切なく、長い廊下を抜けてようやくおば様の部屋の前まで辿り着いた。
部屋に入室すると、机を挟んで奥側のソファに腰掛けるように促される。私は大人しくそこに座った。
「それで、お話とは?」
「単刀直入に言うわ」
おば様は目を伏せると、私とおば様の前に紅茶を出すよう使用人に促す。机の上に白いティーカップが2つ置かれた。
「あなたとシャルロットの縁組を行いたいの」
私はその言葉に目を大きく見開く。そして、おば様がなぜ私たちを引き取ったのか一瞬で理解した。おば様の狙いはこれだったのだ。
私たちを誰かと結婚させればおば様は富を得られるし、私が外に嫁げばヤーフィス家を相続出来なくなる。そうすればお金を得て、私を追い出せて一石二鳥だ。
「……私はヤーフィス家の跡取りですよ? お母様から当主の神槍も受け取っています。それに、シャルロットに関してはまだ11歳になったばかりです」
「年齢なんて関係ないわ。それに、あなたは我が家のことなんて考えなくていいのよ? 私たちは神聖魔法を使えないけれど、あなたが外に嫁げば、当主の権限は私たちに移る。あなたも好きに生きれてお互い利益があるじゃない」
私はその言葉に思わず席を立つ。ティーカップがその弾みで音を立てた。
「私は誰が何と言おうと、ヤーフィス家の跡取りです。お母様に任されたからには譲りません」
「……品がないわね、リリアーヌ。突然席を立たないでちょうだい」
おば様はそう言って何事もなかったかのようにティーカップに口を付ける。私は怒りを露わにしたまま着席した。
「でも、自分の立場を分かっているかしら? 今やあなたはヤーフィス家の娘。私がいなければ学校にも通えないわ」
「辞めろと仰せならいつでも辞める覚悟です」
「……それじゃあ、シャルロットは?」
その言葉に体の動きが静止する。私は自分のことしか頭になかった。そうだ、シャルロットは来年からようやく音楽の学校に通う。でも、おば様が認めなければ通うことは出来ない。
おば様は私を丸め込むためにこのような話をしているのだ。
「何も言えないのね。シャルロットは確か、音楽を勉強したいのよね? あなたのわがままで、シャルロットの夢が潰えることになってもいいのかしら?」
私は何も言えず、下を向く。悔しいが、私がここで了承しなければシャルロットの邪魔をしてしまうことになる。そんなこと、私には出来ない。
今は頷くしかない。今は従っても、いずれヤーフィス家跡取りの座を奪い返す時が来るかもしれない。そう精いっぱい考えることしか出来なかった。
私は悔しさを必死に隠して静かに頷く。
「……分かりました。おば様に従います」
私がそう言うとおば様は満足したように口角を上げた。
「あなたは賢い子だと信じてたわ。なら、この話は成立ね。さっそくだけれど、あなたに良い縁談を考えたわ」
私は静かにおば様の話に耳を傾ける。俯いていた顔を上げて、彼女を睨むようにして小さな声で言った。
「どなたですか」
「……第一王子、シーグルド様よ」
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