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第1章
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街への道を馬で駆けていく。顔や体に降りかかる氷の粒は特段気にならなかった。それよりも、早く2人が無事かどうか知りたかった。
しばらく駆けたのか、それともすぐだったのかは分からない。街に入る手前の道に、人だかりができている。そこには転倒した馬車が横たわっていた。
胸騒ぎが大きくなる。私はそこで馬を降りると、馬車の方へ駆け寄った。
そこで、気づいた。白い地面が鮮やかな赤色に色付いていることに。その赤を辿ると、人の手が視界に映った。
一歩出て、さらに覗き込む。そこに横たわる2人の人物に息を呑んだ。
「お父様、お母様……?」
私は2人の名前を呼ぶ。間違いであってほしかった。しかし、目の前の現実は私に鋭く刃を突き付けてくる。私はしゃがみ込み、2人の体を揺さぶった。
「お父様、お母様!!」
しかし、2人は私に返事をすることはなかった。私の手には2人のうちどちらのものか分からない血が付く。私の服の膝付近にも赤い染みが付いた。
私の様子を見ていた紳士がしゃがみ込んで私の肩に優しく手を置く。彼は残念そうに私に言った。
「お嬢さん。私は医者だが……残念ながらもう、この方たちに息はない」
「……嘘、だ」
信じられなかった。こんなことでお父様とお母様が死ぬわけがない。お母様に至っては神聖魔法まで使えるのに、馬車の転倒なんかで死ぬはずがない。
涙が溢れ出して止まらない。頭の中が混乱してわけが分からなくなる。もしかしたら、却って冷静だったのかもしれない。それすら分からない中、なぜか2人から目を逸らすことは出来なかった。
冷静にならなければいけない。私は、お母様にあの槍を託されたばかりなのに。それに、お父様とお母様がいなくなれば妹は……。 私がしっかりしなければならないのに。
ただ私は、しばらくその場から動くことは出来なかった。ただ冷たくなったお父様とお母様の手をずっと握っていた。
ふと、お母様の手を握っていて気づく。何か手の中に硬いものがある。手を緩めると、お母様の薬指に指輪が嵌っていた。その指輪の中央には、アクアマリンという宝石が輝いている。これは確か、お母様がお父様から頂いた大切な指輪のはずだ。
私は泣きながらお母様の指に手を添える。そして、その指輪をゆっくりお母様の指から抜き取った。何となく、この指輪を持っていなくてはならない気がした。
それから私はいつの間にか、駆けつけた使用人たちの馬車で家に帰っていた。あまりに突然のことで私はただ茫然としていた。
帰ってから、シャルロットのいる部屋に戻った。まだ何も知らずにいる妹のシャルロットを抱きしめる。強く、離さないようにして言った。
「大丈夫。あなたは私が守るから」
「お姉様……?」
私はもうすぐ14歳になる。妹のシャルロットはもうすぐ11歳。背負うのは私だけで十分だ。
私は決めた。妹の前で泣くのは今日限りにしようと。今日が終われば、私は彼女の前では二度と涙を見せない。彼女が安心出来るように。
その後、葬儀はつつがなく行われた。シャルロットはずっと泣きっぱなしだった。私はその度に彼女の背中をさすった。
「大丈夫よシャルロット。お姉様がついているわ。何も怖くないから、安心して」
そう言って微笑んでみせる。彼女が少しでも安心出来るなら私はそれで良かった。
しかし、両親が死んでからやはり問題になるのは相続のことだった。私はヤーフィス家の跡継ぎになることが決まっているし、シャルロットは若すぎる。アーノルド家には親戚がいるため、彼らの誰か継ぐのが妥当だった。
「おじ様、お久しぶりです」
「リリア、久しぶり。すまないね、こんな難しい話に年端も行かない君も呼んで」
「いえ、問題ありません。私はこの家の長女ですから当然です」
私がそう言うと、親戚一同の話は始まった。まず、妥当にアーノルド子爵家はおじ様が継ぐことになった。遺産はおじ様が継ぐことになる。シャルロットは幼く、継ぐことが出来ないと判断されたためだ。しかし、簡単に決まった相続に対して、私たち2人の存在は少々厄介だ。
私たちは通常、父方のアーノルド家に残るか、それとも母方のヤーフィス家に行くかの選択肢がある。しかし、ヤーフィス家のおば様とは不仲で、私たちを引き取ることには承諾しなかった。となると、選択肢はアーノルド家に残ること一択になる。
「私たちがアーノルド家に残ったら、おじ様はいつかシャルロットが大きくなった時、家督を譲らなければならない可能性がある。かといってヤーフィス家には行けない。そうなると、私たちは非常に面倒な存在になってしまいますね」
「実の姪っ子たちを面倒だなんて思わないさ。君たちはとても良い子だし、元々ここは君たちの家だ。残ることになったら、実の娘のように思うよ」
おじ様はそう優しく微笑んだ。おじ様は昔から優しい方だ。たとえ私がヤーフィス家を継ぐ時になってもシャルロットを任せられる。しかし、シャルロットにはアーノルド家の家督争いに巻き込まれてほしくはない。
「おじ様、一つお願いがあります。もし大人になって相続争いになった時は、シャルロットを守ってほしいのです。あの子は元々この家を継ぐことなどは考えていないので、争いに巻き込みたくはありません」
私がそう言うと、おじ様は深く頷いた。
「分かった。その時はそう配慮するよ」
私はその言葉にほっと肩を撫で下ろす。これでシャルロットは争いに巻き込まれることはないはずだ。
こうして親戚一同の相続会議を終え、一同が帰路に着こうとした時だった。使用人が私宛てに一枚の手紙を持ってきた。手紙の裏面を見ると、ヤーフィス家のおば様からだった。
「リリア、その手紙は?」
「……ヤーフィス家の、おば様からです」
私は使用人からペーパーナイフを受け取り、開封する。そして手紙を読んだ。
手紙の内容に、目を見開く。そこには予想外の内容が書かれていた。
「何て書いてあったんだい?」
「……"私の可愛い姪っ子リリアーヌ、そしてシャルロット。あなたたちのお母様の実姉、カレン・ヤーフィスがあなたたちを引き取ります。"……こんな、どうして突然?」
その内容は、ヤーフィス家のおば様が私たちを引き取るという衝撃的なものだった。
しばらく駆けたのか、それともすぐだったのかは分からない。街に入る手前の道に、人だかりができている。そこには転倒した馬車が横たわっていた。
胸騒ぎが大きくなる。私はそこで馬を降りると、馬車の方へ駆け寄った。
そこで、気づいた。白い地面が鮮やかな赤色に色付いていることに。その赤を辿ると、人の手が視界に映った。
一歩出て、さらに覗き込む。そこに横たわる2人の人物に息を呑んだ。
「お父様、お母様……?」
私は2人の名前を呼ぶ。間違いであってほしかった。しかし、目の前の現実は私に鋭く刃を突き付けてくる。私はしゃがみ込み、2人の体を揺さぶった。
「お父様、お母様!!」
しかし、2人は私に返事をすることはなかった。私の手には2人のうちどちらのものか分からない血が付く。私の服の膝付近にも赤い染みが付いた。
私の様子を見ていた紳士がしゃがみ込んで私の肩に優しく手を置く。彼は残念そうに私に言った。
「お嬢さん。私は医者だが……残念ながらもう、この方たちに息はない」
「……嘘、だ」
信じられなかった。こんなことでお父様とお母様が死ぬわけがない。お母様に至っては神聖魔法まで使えるのに、馬車の転倒なんかで死ぬはずがない。
涙が溢れ出して止まらない。頭の中が混乱してわけが分からなくなる。もしかしたら、却って冷静だったのかもしれない。それすら分からない中、なぜか2人から目を逸らすことは出来なかった。
冷静にならなければいけない。私は、お母様にあの槍を託されたばかりなのに。それに、お父様とお母様がいなくなれば妹は……。 私がしっかりしなければならないのに。
ただ私は、しばらくその場から動くことは出来なかった。ただ冷たくなったお父様とお母様の手をずっと握っていた。
ふと、お母様の手を握っていて気づく。何か手の中に硬いものがある。手を緩めると、お母様の薬指に指輪が嵌っていた。その指輪の中央には、アクアマリンという宝石が輝いている。これは確か、お母様がお父様から頂いた大切な指輪のはずだ。
私は泣きながらお母様の指に手を添える。そして、その指輪をゆっくりお母様の指から抜き取った。何となく、この指輪を持っていなくてはならない気がした。
それから私はいつの間にか、駆けつけた使用人たちの馬車で家に帰っていた。あまりに突然のことで私はただ茫然としていた。
帰ってから、シャルロットのいる部屋に戻った。まだ何も知らずにいる妹のシャルロットを抱きしめる。強く、離さないようにして言った。
「大丈夫。あなたは私が守るから」
「お姉様……?」
私はもうすぐ14歳になる。妹のシャルロットはもうすぐ11歳。背負うのは私だけで十分だ。
私は決めた。妹の前で泣くのは今日限りにしようと。今日が終われば、私は彼女の前では二度と涙を見せない。彼女が安心出来るように。
その後、葬儀はつつがなく行われた。シャルロットはずっと泣きっぱなしだった。私はその度に彼女の背中をさすった。
「大丈夫よシャルロット。お姉様がついているわ。何も怖くないから、安心して」
そう言って微笑んでみせる。彼女が少しでも安心出来るなら私はそれで良かった。
しかし、両親が死んでからやはり問題になるのは相続のことだった。私はヤーフィス家の跡継ぎになることが決まっているし、シャルロットは若すぎる。アーノルド家には親戚がいるため、彼らの誰か継ぐのが妥当だった。
「おじ様、お久しぶりです」
「リリア、久しぶり。すまないね、こんな難しい話に年端も行かない君も呼んで」
「いえ、問題ありません。私はこの家の長女ですから当然です」
私がそう言うと、親戚一同の話は始まった。まず、妥当にアーノルド子爵家はおじ様が継ぐことになった。遺産はおじ様が継ぐことになる。シャルロットは幼く、継ぐことが出来ないと判断されたためだ。しかし、簡単に決まった相続に対して、私たち2人の存在は少々厄介だ。
私たちは通常、父方のアーノルド家に残るか、それとも母方のヤーフィス家に行くかの選択肢がある。しかし、ヤーフィス家のおば様とは不仲で、私たちを引き取ることには承諾しなかった。となると、選択肢はアーノルド家に残ること一択になる。
「私たちがアーノルド家に残ったら、おじ様はいつかシャルロットが大きくなった時、家督を譲らなければならない可能性がある。かといってヤーフィス家には行けない。そうなると、私たちは非常に面倒な存在になってしまいますね」
「実の姪っ子たちを面倒だなんて思わないさ。君たちはとても良い子だし、元々ここは君たちの家だ。残ることになったら、実の娘のように思うよ」
おじ様はそう優しく微笑んだ。おじ様は昔から優しい方だ。たとえ私がヤーフィス家を継ぐ時になってもシャルロットを任せられる。しかし、シャルロットにはアーノルド家の家督争いに巻き込まれてほしくはない。
「おじ様、一つお願いがあります。もし大人になって相続争いになった時は、シャルロットを守ってほしいのです。あの子は元々この家を継ぐことなどは考えていないので、争いに巻き込みたくはありません」
私がそう言うと、おじ様は深く頷いた。
「分かった。その時はそう配慮するよ」
私はその言葉にほっと肩を撫で下ろす。これでシャルロットは争いに巻き込まれることはないはずだ。
こうして親戚一同の相続会議を終え、一同が帰路に着こうとした時だった。使用人が私宛てに一枚の手紙を持ってきた。手紙の裏面を見ると、ヤーフィス家のおば様からだった。
「リリア、その手紙は?」
「……ヤーフィス家の、おば様からです」
私は使用人からペーパーナイフを受け取り、開封する。そして手紙を読んだ。
手紙の内容に、目を見開く。そこには予想外の内容が書かれていた。
「何て書いてあったんだい?」
「……"私の可愛い姪っ子リリアーヌ、そしてシャルロット。あなたたちのお母様の実姉、カレン・ヤーフィスがあなたたちを引き取ります。"……こんな、どうして突然?」
その内容は、ヤーフィス家のおば様が私たちを引き取るという衝撃的なものだった。
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