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第十一話 サンドラの憂鬱Ⅰ
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たった一本で庶民が一年は食べていける高級ワインの栓を抜く。
ついにあの憎たらしいカトレアを打ち負かした、私の勝利を称える美酒だ。
今やこんな高級ワインを毎日好きなだけ開けられる立場に、私はいる。
そう、私は貴族シューペリア家の当主アルファードの婚約者なのだ。
私はある辺境伯の令嬢として生まれ、幼いころから苛烈な教育を受けた。
時には鞭で打たれることもある、厳しい教育だった。
その結果、王国史上最年少、しかも女性初の王国公認会計士試験に合格した。
王国中が喝采に湧いた。新時代を象徴する女性だと崇められた。
私自身も、未来永劫誰にも塗り替えられない、私だけの栄光だと信じて疑わなかった。
カトレア・アップルフィールドという女が現れるまでは。
あの女は私が2度も落第して合格した試験に、たった一度で合格してみせた。
しかも、その時の年齢は私より二つ下。
王国中が大騒ぎになった。
サンドラという名前は、カトレアという才女を引き立てるための付け合せに成り果てたのだ。
当時の私はやり場のない怒りを抱えていた。
それまでは私を褒めそやしていた貴族たちが、掌を返して庶民のカトレアを礼賛し始めたからだ。
怒りのやり場は、賭場に見つけた。
私は賭博にめり込んだのだ。
最初は、会計士としての給料で遊べる分だけ。
しかしある日の賭場で、ある女の挑発に乗って大金を賭けて負けてしまった。
仕方ないだろう。
人のことを指差して「二番目の女」などと謗られたら、冷静ではいられない。
そうして大負けした私は、当月の生活費に困った。
勤め先から前借りする訳にもいかないし、家を頼るのも忍びない。
淑女としての誇りがあったのだ。
私は賭場で出会った男に金を借りた。
男は、賭場で生活費を賭けてしまった者に小額の融資をすることを生業にしているという。
高名な婦人方を多く客に持ち、秘密を厳守することに定評がある、などという口車に載せられたのだ。
借りた金はすぐに無くなった。
賭博に使ってしまったのだ。
賭博に負けた分は賭博で取り返そう、という考えが間違いだった。
私が賭場から意気消沈して出ると、またも同じ男から融資を持ちかけられた。
少し迷ったが、借りた。
後は同じことの繰り返し。
あっという間に私は真っ赤な身になった。
男の取り立ては日を追うごとに激しくなる。
ある日はとうとう職場まで押しかけてきた。
そのせいで職場には居辛くなってしまった。
食費を切り詰めて借金を返す日々。
ワインのない夕食など、想像したこともなかった。
仮にも辺境伯令嬢たる私が、ひと目に付かないようこそこそと黒パンを買って、バターも塗らずに齧っているのだ。
惨めなことこの上ない。
こんなことになったのも全てはカトレアのせいだ。
あの女が私の名誉を傷つけたことが、全ての発端なのだ。
私はカトレアへの復讐を決意した。
ついにあの憎たらしいカトレアを打ち負かした、私の勝利を称える美酒だ。
今やこんな高級ワインを毎日好きなだけ開けられる立場に、私はいる。
そう、私は貴族シューペリア家の当主アルファードの婚約者なのだ。
私はある辺境伯の令嬢として生まれ、幼いころから苛烈な教育を受けた。
時には鞭で打たれることもある、厳しい教育だった。
その結果、王国史上最年少、しかも女性初の王国公認会計士試験に合格した。
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私自身も、未来永劫誰にも塗り替えられない、私だけの栄光だと信じて疑わなかった。
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当時の私はやり場のない怒りを抱えていた。
それまでは私を褒めそやしていた貴族たちが、掌を返して庶民のカトレアを礼賛し始めたからだ。
怒りのやり場は、賭場に見つけた。
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仕方ないだろう。
人のことを指差して「二番目の女」などと謗られたら、冷静ではいられない。
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淑女としての誇りがあったのだ。
私は賭場で出会った男に金を借りた。
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惨めなことこの上ない。
こんなことになったのも全てはカトレアのせいだ。
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