上 下
47 / 80
聖武器

花と十字架の想い 47話

しおりを挟む
パスワードを入力して扉の先に足を踏み入れたシオンたち。

もう、ガーディアンが襲いかかってきてもおかしくは無いはずだった。

けれど、ガーディアンは一切出てこない。それどころか、魔物すらも出てこない。

シオン「…おかしくないか? いや、いなくて全然助かるけど…」

静かすぎる。…と、リナリアの小さい悲鳴が聞こえた。

シュロ「何かあったか?」

リナリア「あ、あそこ……」

リナリアが指差した先を見ると…倒れた魔物やガーディアンの残骸。

アスター「な、なんでこんな!?」

アイリス「シオン、これって…!」

やられ方が普通じゃない。残虐な攻撃をされたとしか思えないほどの姿。

シオン「…ああ、誰かが倒した…そして、そいつらはロクな心の持ち主じゃない…」

考えただけでも背筋が凍った。だが、この時一番寒気がしていたのはシオンだった。

村がジェイドによって滅ぼされた時。無残に殺された村人たち。

その光景が、フラッシュバックされていた。

レオノティス「…オン…シオン!!」

シオン「あっ…!」

レオノティスが声をかけた事でハッと我に帰る。

レオノティス「大丈夫か?」

シオン「あ、ああ。大丈夫だ。行こう!」

一瞬ペンダントを握り締め、みんなの先頭を進んで行った。


真っ直ぐな道をただ歩いて、ようやくたどり着いた最奥と思われる場所。

そこには、先客。男の子と女の子。

フクシア「えっ、子供…? こんなところに!?」

倒れていた魔物達の事があったからだろう。

危ないと思い子供たちにフクシアが近づこうとした。が、それをアスターが引きとめた。

フクシア「アスター?」

アスター「…近づいたらだめだ。いや、近づかなくても…もう遅いかもしれない」

シオン「えっ……」

シオンが再び二人の方へ眼をやると、降ろしていた少女の手が上がっていた。

シオン「…………はっ!? 全員伏せろ!!!」

横をふと見たシオンが気づいた。横から何か飛んでくる。

シオンの一声で全員その場に伏せて避ける。

ブローディア「な、なに!?」

すると、少女と少年が顔を上げて少し近づいてきた。

ツァイ「…初めまして。さすがですね。

私はツァイ。魔王直下の精鋭部隊、死鎌刃魂(ディアブソウル)の者です」

セレスタ「俺はセレスタ。ツァイと同じ、死鎌刃魂に入ってる」

礼儀正しく挨拶をしてきたツァイと、雑に挨拶してきたセレスタ。

二人はどうやら魔族らしい。

シオン「魔族…魔王側!!」

子供といえども油断できない。

さっきの攻撃、倒れていた魔物にガーディアン。相当な手練れだ。シオンは武器を構える。

ツァイ「さっきの攻撃はあいさつ代わりです。

落ち着いてください、シオン…いいえ、プラタナス」

シオン「!?」

プラタナス…というのは、かつて魔王を封じ込めた英雄の名だ。

何故自分がその名前で呼ばれるのか。

セレスタ「ツァイ、何でこいつら待ってたんだ? こいつ等を倒せって命令はくだってない。

聖武器だけ持って帰れば良いものを、こいつ等を待ってたら間違いなく戦闘に…」

ツァイ「挨拶しておきたかっただけよ。

さあ、聖武器持って帰りましょう。さようなら、シオン…」

勝手に話を進めるもんだからスルー仕掛けてしまった。が、

シオン「聖武器…はっ、待て!!」

シオンが大声を上げた。

セレスタ「…ほらな」

ツァイ「無暗に争いたくないの。今は、貴方達を殺せという命令はないんだから」

ブローディア「聖武器、渡すわけないでしょ!」

ブローディアが杖を構えて前に出た。

ツァイ「杖…ああ、貴方とリンクすることになりそうね。

この聖武器は…でも、あなたに触れられるかしら…魔王様の妹さん?」

ブローディアの気持ちが揺らぐ。

そう、魔王をフロックスの体から離れさせなければ、魔王を倒した時、

それはフロックスの死も意味してしまう。

体から離れさせるためには肉体を魔王に渡すべき…

でも、そんな事をしたら世界はどうなってしまうのか…。

完全体の魔王に勝てる者が、いるのかどうか。


アイリス「ブローディア?」

ブローディア「でもっ、とにかくっ、貴方達に渡すわけにはいかないからぁっ!」

ブローディアが詠唱を始める。

それをフォローするためにシオン、リナリア、シスル、アスターは前線に出て斬りかかる。

それをさらっとかわすと

ツァイ「…肉塊になっても…」

セレスタ「知らないけど?」

冷めた口調でツァイとセレスタも武器を構える。

ツァイはチャクラム。セレスタは短銃剣のようだ。

チャクラムも短銃剣も遠方にいるアイリスたちに当たらない保証はない。

シオン「……っ! シスル、頼みがある!」

シスル「…?」

シオン「お前の身軽さは急に飛んできた攻撃に対しても対応できる。

後方でアイリスたちの守りに専念してくれないかっ」

一瞬、明らかに不機嫌な顔をされた。

シスル「なんで俺が…大体俺は守る側じゃない。殺す側だ…」

シオン「頼む!!」

シスル「…っ!」

シオンが叫ぶ。

シスル「…わかった。今回だけだからな」

そう言うとシスルは後方へ素早く移動した。

アイリス「シオン! 援護は任せて!」

アイリスの声に軽く頷いて、すぐに体制を整える。

そうじゃないと、この二人の攻撃にはすぐにやられてしまう。

残虐なやり方…相手が苦しんで死のうが関係ない、という事だ…子供故、恐ろしい。

ブローディア「大海の螺旋渦…! すべて飲み込め! シオンたち、どいて!」

ブローディアの詠唱が終わり、前に立つシオンたちに声をかける。

慌ててシオンとリナリアとアスターは左右によける。

ブローディア「シュトゥルーデル!!」

ブローディアの杖から大きな渦が放たれた。

ツァイ「…ふっ!」

セレスタ「はっ!!」

それに向かって、チャクラムと銃弾がぶつけられた。

不利なのはどう考えても高等魔法を受け止めている側だが、

弾かれてもツァイ達は回避が可能。

だが、万が一魔法の方が弾かれた場合、ブローディアは、かわせない…

まともにチャクラムと銃弾を食らうことになっしまう。

一瞬の気のゆるみが命取りとなってしまう。が、この時のブローディアの心の中は…

ブローディア(…お兄ちゃん…お兄ちゃん…! いやっ、お兄ちゃんが死ぬなんて…!)

思い切りグラついていて、手も震えていた。

レオノティス「ブローディア! 気を確かに持てぇぇ!」

普段からは考えられなかった。

手の震え、今のブローディアの心の揺れ、それに気づいたレオノティスが叫んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話

ルジェ*
ファンタジー
 婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが─── 「は?ふざけんなよ。」  これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。 ********  「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください! *2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!

処理中です...